少年エルフが前衛で戦いながら支援をするのは間違っているだろうか   作:さすらいの旅人

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前回の話が凄く短かったので、今回はいつも以上に長めに書きました。

それではどうぞ!


少年エルフ、パーティ探索をする

 翌日。

 

 ダンジョン上層の単独(ソロ)探索に飽きて、久々に楽しいパーティ探索が出来るかと思いきや――

 

「言い過ぎでしょ、リリ!? ヴェルフさんは悪いことしようとしてるわけじゃないし……厄介事なんて、誤解だよ!? それにリヴァンは【ファミリア】の事情があって今まで参加出来なかっただけだから!」

 

「――どこが誤解ですか! 『鍛冶アビリティを獲得するまでの間だけ』なんてっ、リリ達は都合よく利用されているだけです。ベル様の友人であるエルフのお方は良いとしても、この誰とも知らない()()()の方は、完璧に臨時のパーティ要員じゃないですか!?」

 

 11階層へ着いて、ここまで不機嫌だったサポーター――リリルカ・アーデが爆発するようにベルを非難していた。

 

 ベルはベルで、リリルカ・アーデの凄まじい指摘の弾幕に蜂の巣状態にされ、全く言い返す事が出来ない様子。その剣幕に仰け反りかえる始末だ。

 

 非難対象にされてないと言っても、とても気まずい空気だな。逆にヴェルフ・クロッゾは非難の的になっているにも拘らず、怒った様子を見せる事無くベル達を見ている。

 

 因みにベルは以前と違って、防具を身に纏っていた。ライトアーマーと言う軽装だが、身に付けているそれぞれの箇所に赤い線が入っている。

 

「どうしてリリに相談もなしに、勝手にパーティの編入を決めたんですか、ベル様!」

 

「だ、ダメだった……?」

 

「駄目ではありませんがっ、こういうことはリリに通してもらわないと困ります! ヘスティア様にもベル様の事を頼まれているのですから!」

 

 何と言うか……リリルカ・アーデはサポーターじゃなく、ベルの世話役(マネージャー)みたいな感じがするな。

 

 それにあの怒りようからして、どうも理由がヴェルフ・クロッゾ云々じゃないような気がする。

 

 まるでベルの世話をしたがっている乙女みたいに……もしかして彼女、ベルの事が――。

 

「何だ、そんなに俺達が邪魔か、チビスケ?」

 

 すると、今までベル達のやり取りを傍観していたヴェルフ・クロッゾが口を挟んだ。

 

 彼に「チビ」と言われた事に、リリルカ・アーデの瞳は一層尖らせる。

 

「チビではありません! リリにはリリルカ・アーデと言う名前があります!」

 

「そうか。じゃあよろしくな、リリスケ」

 

「……もういいですっ、構うだけ無駄ですね!」

 

 腰を折って笑いかけながら小馬鹿な態度を取るヴェルフ・クロッゾに、リリルカ・アーデは諦めるようにそっぽを向いた。

 

 大丈夫か、このパーティ? 今更だけど、やっぱ参加せず単独(ソロ)探索すれば良かったって段々後悔してきたな。

 

「あ~、アーデさん、でしたか? すみません。貴女の心情を考えず、勝手に参加してしまって」

 

「いえいえ。ベル様の御友人である貴方様は全く別ですので、どうかお気になさらず。あとリリの事は『リリルカ』と呼んでください。あと敬語は不要です」

 

「おいリリスケ、俺の時とは態度が全く違わねぇか?」

 

 俺相手には友好的な笑みを見せるリリルカ・アーデ。

 

 このやり取りに少しばかり納得が行かなかったのか、ヴェルフ・クロッゾが突っ込むも、彼女は完全に無視している。

 

「……えーと。今更だけど紹介するよ? 先ずこの人は知っての通り、僕の友人でリヴァン・ウィリディス。【ミアハ・ファミリア】の冒険者だよ」

 

 ベルがリリルカ・アーデ(今後はリリルカ)に俺の本名(フルネーム)を教えた。今更だと思うが、朝方、集合場所に向かった時から、彼女の機嫌が悪かった為に話をするどころじゃなかったのだ。

 

「え? ウィリディス?」

 

 俺のファミリーネームに聞き覚えがあったのか、リリルカはジッと俺を凝視した。

 

「ウィリディスってまさか、【ロキ・ファミリア】の【千の妖精(サウザンド・エルフ)】――レフィーヤ・ウィリディスと同じではありませんか!?」

 

「へぇ、やっぱり姉さんはそれなりに有名なんだな」

 

「姉さん!? やはり貴方はあの方の弟なのですか?」

 

「正確には従弟(いとこ)だよ」

 

 ファミリーネームが同じだから、幼少の頃は姉弟同然の生活をしていた。

 

 レフィ姉さんは今でも俺を実の弟のように接しているが、以前あった宴の出来事があってか、このところ全然音沙汰が無くて会っていない。

 

 既に終わった話となっているが、あの人の事だから未だ後ろめたい気持ちが残って、俺と会うのを躊躇っているんだろう。俺自身は全く気にしていない。あるとすれば、原因を作った狼人(ウェアウルフ)の方だ。

 

「先に言っておくけど、俺はレフィ姉さんみたいな強力な魔法を撃てる魔導士じゃないから、あんまり期待しないでくれ。それに俺は未だに『Lv.1』のままだからな」

 

「はぁ、そうですか……」

 

 俺の台詞を聞いて少し残念そうに言うリリルカ。

 

 まぁ、戦闘で充分に戦えるところを見せて認識を改めさせるつもりだ。 

 

 ベルが俺に対して何か言いたげだったが、今度はヴェルフ・クロッゾの紹介をしようとする。

 

「次にこの人は、ヴェルフ・クロッゾさん。【ヘファイストス・ファミリア】の()()()なんだ」

 

「クロッゾっ?」

 

 ヴェルフ・クロッゾの名を耳にした瞬間、リリルカは弾かれるように彼の方へと視線を向けた。

 

 予想外の反応に、俺は少し驚くように彼女の反応を見ている。

 

「呪われた魔剣鍛冶師の家名? あの凋落した鍛冶貴族の?」

 

 魔剣鍛冶師? 鍛冶貴族? なんかどこかで聞いた事があるような気が……。

 

 俺が何か思い出しそうにしている中、ベルは半ば面食らいながらヴェルフ・クロッゾの方を見ていた。

 

 その途端に彼は一転して罰が悪そうな表情となり、口の形をへの字にしている。

 

「あ、あの……『クロッゾ』って?」

 

「何も知らないんですか、ベル様……?」

 

 ベルの問いにリリルカが何とも言えない顔をしていた。

 

 少々呆れるように嘆息する中、彼女は『クロッゾ』について説明しようとするも――

 

「ああ、どこかで聞いた事があるかと思えば、嘗てラキア王国で繁栄を極めた名門鍛冶一族か。世代を通して数千、数万の魔剣をラキアに献上し、多くの勝利を貢献したあの魔剣鍛冶師『クロッゾ』」

 

「「え?」」

 

 俺の台詞が予想外だったのか、ベルとリリルカが揃って俺の方を見ていた。

 

 幼少時代に村の長老から聞かされたの内容を朧気ながらも思い出す。

 

 ウィーシェの森に住まうエルフは他種族と積極的に交流しているが、中には『クロッゾ』に対する嫌悪感を持っているのが稀にいた。俺とレフィ姉さんはそんな嫌悪感は一切無い。あくまで歴史上の出来事として知っただけだ。

 

「だけど、ある日を境に王家からの信用を失ってしまい、今は完全に没落したと聞いていたが……まさかアンタが、その一族だったとはな」

 

「……やっぱ知ってたか。って事は、お前も俺を恨んでいるエルフの一人か?」

 

「え、恨んでいるって……?」

 

 俺とヴェルフ・クロッゾのやり取りに、ベルが思わず口にするも気に留めなかった。

 

「いや、全く。心底如何でもいい。当事者でもないのに昔の事を引き摺って、未だ目の敵にして被害者面しているバカな同胞(エルフ)達に呆れているぐらいだ」

 

「そ、そうか……」

 

 本心で言ってると分かったのか、毒気が抜けたような表情をするヴェルフ・クロッゾ。

 

 幼少時代の俺だったら何かしらの事を思っていたかもしれない。けど、オラクル船団で後見人となってくれたカスラに色々な教育を施された事により、もう心底如何でもよくなった。

 

 今の俺に恨みがあるとすれば、クーナさんを都合の良い玩具みたく利用した虚空機関(ヴォイド)の総長――ルーサーとか、人の人生を大きく狂わせた全宇宙の敵――ダーカーぐらいだ。尤も、ルーサーは既に死亡しているので会う機会は永遠に訪れないが。

 

 オラクル船団に長く居た事により、考え方は殆ど向こう寄りになっている。だからこの世界に起きた過去の話を持ち出されても、今更何とも思わない。それだけオラクル船団の生活が充実していたと言う証拠と言う事になるな。

 

 その後は何の問題無く自己紹介を済ませた。呼び方に関しても、互いに名前(以降はヴェルフ)で呼ぶ事になっている。

 

「ベル様、リヴァン様って他のエルフと違って少し変わってません?」

 

「そうかな? 僕は親しみがあって良いエルフだと思うよ」

 

 何気に失礼な事を問うリリルカに、ベルが擁護するように言い返した。

 

「おい、それはどう言う意味――ん?」

 

 リリルカを問い詰めようとする寸前、俺達の耳にビキリ、と言う音が響く。

 

 音の正体なんてもう分かっている。普段ダンジョン探索をしている冒険者からすれば、既に聞き慣れているやつだ。

 

 そしてダンジョンから、モンスターが産まれる。

 

「う、わっ……!」

 

「……でけえな」

 

「『オーク』、ですね」

 

「それに加えて『インプ』に『ハード・アーマード』、か」

 

 それぞれ思った反応する俺達の視線の先で、ダンジョンの壁が罅割れて破れる。

 

 既に11階層に来ている俺からすれば、もう見慣れた光景だった。オークの産まれるところなんて何度も見ている。

 

 しかし、壁の罅割れる音はまだ続く。周囲から同じ音がいくつも鳴り響き、四方八方、ルームの壁から一斉にモンスター達が突き破って来た。

 

 聞くところによると10階層以降から、同エリア上での瞬間的なモンスター大量発生がよく確認されているそうだ。この現象を『怪物の宴(モンスター・パーティ)』と言う。並みの下級冒険者からすれば最悪の展開である。

 

 しかし、既に上層の食糧庫(パントリー)を全て回った俺からすれば、大した数じゃなかった。あそこへ行ったら、今いる数の倍を軽く超えている。

 

 俺一人だけでも問題無く対処出来るが、今回はベル達のパーティに参加しているので控えめにやるつもりでいる。

 

 メインウェポンじゃない銃剣(ガンスラッシュ)でやろうかと考えたが、万が一の事を考えて短杖(ウォンド)にした。見た目はいつも通りエールスターライトだが、中身の武器はいつもと違う。今はランクが一つ下の短杖(ウォンド)――『ハクセンジョウVer2』だ。

 

 普段使ってるのと比べて攻撃力はかなり低いが、上層のモンスター程度にはこれでも充分やれる。加えて、『ハクセンジョウVer2』にはあるテクニックが施されているので、いざと言う時の事を考えて使う事にした。

 

「数は多いですが、そこまで悲観する事はないでしょう。ここは広いですし、いざとなれば10階層に引き返せます」

 

 落ち着いた様子でバックパックを担ぎ直しているリリルカ。

 

 サポーターとは言え、中々肝が据わっているな。それだけ経験を積んでいる、と言う事か。

 

 リリルカの言葉に、モンスターの出現に緊張していたベルは緊張を少し和らいでいる様子だ。

 

「それで、役割はどうする?」

 

「なら、オークは俺に任せろ」

 

「えっ、いいんですか?」

 

 俺の問いにヴェルフが自分から申し出た事で、ベルは驚くように問う。

 

「寧ろ大歓迎だろ? 動きはトロイし、的はでかい。俺の腕でも楽勝に当てられる」

 

 確かに彼の言う通りだった。

 

 オークはパワーがあっても、スピードに関しては余りにも遅い。大刀を装備しているヴェルフでも充分に避けられる。

 

 それにあそこまで言い切ったって事は、恐らく『Lv.1』の上位にしていると見ていいだろう。

 

「ベル様はお一人で好きなように動いて下さい。このお二方はリリが微力ながら援護をしましょう。正直に言えば、時折こちらも気にかけてくれると助かりますが」

 

「お? 何だ、リヴァンはともかく、俺の事が気に食わないんじゃなかったのか、リリスケ?」

 

「嫌っているに決まっています。ただリリはベル様のお邪魔になりたくないだけです」

 

 リリルカはヴェルフに向かって満面に微笑んでいた。

 

「折角の提案に水を差すようで悪いが、俺はベルの援護に回らせてもらう。リリルカは彼の援護をメインでやってくれ」

 

「え? ですが、それではベル様が……」

 

「大丈夫だよ、リリ。僕としても、リヴァンがいてくれると心強いから」

 

「むぅ……分かりました」

 

 抗議しようとするリリルカだが、問題無いと言い切るベルに押し黙った。

 

 それでも納得出来ないと言わんばかりの表情をしている。本当であればベルの援護をしたいと思っているに違いない。

 

 彼女の心情に敢えて気付かないフリをしながら、俺はベルに告げようとする。

 

「ベル、援護に回ると言ったが、可能な限りお前一人で戦ってくれ。俺としては、『Lv.2』にランクアップしたお前がどれだけ強くなったのかを見てみたい」

 

「分かった。僕としても、リヴァンの援護がなくても戦えるところを見せたいと思ってたから」

 

「へぇ」

 

 初めてベルが俺と二人で探索した時、ゴブリンやコボルドの群れを倒すのに相当梃子摺っていたと言うのに、今はこんな頼もしい台詞が来るとはな。少し見ない間に随分と頼もしくなったもんだ。

 

 だったら見せて貰おうか。ベルの戦いをじっくりと。

 

「そろそろ行こうぜ。インプあたりが群れ出す前にな」

 

「言われるまでもありません。ベル様? リヴァン様がいるとは言え、わかっているとは思いますが……」

 

「うん、大丈夫。油断だけはしない」

 

「結構だ。それじゃ行け、ベル」

 

 それぞれの武器を携えて準備を整える。

 

 俺の台詞にベルはその場で一度屈伸し、そして一気に駆け出した。

 

 

 

 

 

 

「凄いじゃないか。以前と違って別人みたいな強さだったぞ。しかもまさか、いつの間に魔法まで覚えていたとはな」

 

「いや、僕も自分自身の強さに戸惑っていると言うか……」

 

 大群だったモンスターとの戦闘を終えた俺達は今、小休止を取っている。

 

 ベルが戦闘開始した数秒後、インプの首を刎ねたと思いきや、すぐに他のインプやオークを一撃で斬り伏せていた。あたかも稲妻のように敵の間を縫っていくように。

 

 余りの速さに目が点になってしまう程だった。そんな俺の状態に気にすることなく、ベルは斬撃だけでなく、今までやらなかった鋭い回し蹴りも繰り出していた。それをモロに直撃したインプは、とんでもない速度で彼方に吹き飛び、何度か地面を擦過し、そのまま草原の上でぐったりと力を失って絶命した。

 

 鉄鼠(アルマジロ)型のモンスター、『ハード・アーマード』相手でも苦も無く倒していた。上層で最硬の防御力を誇ると言うのに、その甲羅ごと胴体をバッサリと両断。更にもう一体の方は【ファイアボルト】と言う炎雷の攻撃魔法を放ち、体を丸めて突進したハード・アーマードに直撃して炸裂後、身体全体を丸焦げ状態にさせて倒す。

 

 これが本当にベルなのかと疑いたくなるほどの強さだった。援護役の俺は、もう完全に出る幕無しでやる事が無い状態だったよ。

 

 とは言え、俺は本当に何もしていなかった訳じゃない。ヴェルフが三体のシルバーバックに囲まれていたから、そこを俺が急遽援護に回る事にした。俺が不意を突くように一体目を通常攻撃で瞬殺した直後、チャンスと見たヴェルフが大刀の上段で二体目を撃破。三体目は俺が倒そうかと思ってたが、いつの間にか駆け付けたベルがあっと言う間に倒していた。

 

「確かにベルの強さと速さには驚かされたが、俺からすればリヴァンの方も充分に凄いと思うぜ」

 

 すると、一緒に休憩しているヴェルフがそう言ってきた。

 

 因みにリリルカは魔石の回収作業にせっせと務めている。主に戦っていたのはベルとヴェルフなので、俺も手伝おうとしたんだが断られた。こればっかりはサポーターである自分の仕事だからと。

 

「不意を突いたとはいえ、大して力まずシルバーバックの身体を紙みたいに斬り伏せたじゃねぇか。リヴァンの持っている剣は、相当な業物だろ?」

 

「……まぁ、それなりにな」

 

 短杖(ウォンド)形態となっているエールスターライトの見た目は片手剣だが、他にも両剣(ダブルセイバー)飛翔剣(デュアルブレード)の形態もある。中身の武器じたいは外見と全く違うが。

 

 もしも武器迷彩を解除すれば、ハクセンジョウVer2の本当の形状が見れる。独特の装飾が目立つ巨大な斧状と思わせる短杖(ウォンド)が。絶対に驚くベル達の顔が容易に想像出来る。

 

 リリルカを除く男三人でパーティについて話している中、何組かのパーティがちらほらと見える。

 

 この11階層にあるルームは階層間を繋ぐ位置関係の為に人通りは多い。俺が単独(ソロ)探索していた時によく見かけた。

 

 他のパーティの存在に気付いたリリルカは、さっきと打って変わるように俊敏な動きで俺達が倒したモンスターを一か所に纏めている。自分達の取り分なのだから横取りは許さない、みたいな感じだ。

 

 彼女が作業を終えたら昼飯にしようとベルが提案したので、俺とヴェルフは反対する事無く同意する。

 

(それにしても……あのパーティは本当に俺以上の実力者なんだろうか……)

 

 ここで一つ如何でもいい事を考えてしまう。他のパーティを見て、いつも思っている事なんだが、この世界にいる冒険者達の強さの基準がいまいち分からない。以前敵として戦った冒険者は、【フレイヤ・ファミリア】の猫人(キャットピープル)――アレン・フローメルだけだ。尤も、本格的に戦う前に終わってしまったから、アイツの強さは全く分からないが。

 

 俺がアークスで活動してた頃は、実戦経験豊富なクーナさんやアイカさんに比べれば多少戦闘力は劣る。けど、エトワールクラスになった事で、二人の足手纏いにならない程の力を身に付けた。

 

 だけど、それはあくまでオラクル側に限っての話だ。この世界の冒険者の強さは果たして、今の俺でも充分に通用するだろうか。『Lv.1』の下級冒険者は問題無く倒せるとしても、『Lv.2』以上となれば話は別となる。

 

 仮にもしベルと敵対して戦う事になったとしても、間違いなく勝てる自信はある。いくら『Lv.2』にランクアップして相当強くなったと言っても、まだまだ遠く及ばない。俺がメインウェポンのどれかを使って本気を出せば、ベルは間違いなく一撃で倒れるだろう。仮にベルの攻撃を受けても、エトワールスキルの他、ステルス化している防具一式や特殊能力、武器の潜在能力やS級を含めた防御系の特殊能力で殆ど緩和されるので。

 

 しかし、それはあくまでベルの強さや戦闘スタイルを理解しての事だ。他の冒険者達の戦い方までは分からない。故に未だ強さの基準が理解出来ない。

 

 モンスターの相手だけじゃなく、他の冒険者と手合わせする機会があれば良いんだが。

 

(いずれレフィ姉さんに会って、手合わせしてもらうよう頼んでみるか。あの人は『Lv.3』の筈だから、『Lv.1』の俺以上に強いのは確かだ。あわよくば【剣姫】と手合わせ出来れば良いんだが)

 

 確かミィシャさんから聞いた際、【ロキ・ファミリア】は遠征に行ってるんだったな。俺達がいるダンジョンの更に下――深層域の59階層に向かってるって。

 

 今は遠征の真っ最中だから、レフィ姉さん達が戻ってくるにしても暫く掛かるだろう。

 

 すると、深く考え込んでいる最中、突然鐘の音らしきものが聞こえた。思わず振り向くと、音の発生元はベルの右手だ。今は白い光が収束している。

 

 それには当然俺だけでなく、ヴェルフや当の本人であるベルも気付いている。

 

「おいベル、それは一体何だ?」

 

「いや、僕もヴェルフと同じく、何が何だか分からなくて……」

 

 俺の問いにベルはフルフルと首を横に振りながら答える。

 

 何か状態異常になっているのではないかと思い、短杖(ウォンド)から長杖(ロッド)――ストームシェードに持ち替えようとする。その武器には状態異常を治療するアンティが搭載されているので。

 

 その直前――

 

『『―――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』』

 

 耳を聾するほどの、凄まじい猛り声が轟いた。

 

「「「っ!?」」」

 

 俺達は揃って顔を振り上げる。だが俺達だけじゃない。このルームにいる冒険者達全員が驚愕の眼差しを差し向けた。

 

 その先には長い尻尾に鋭利な爪、無数の牙。体長は四(メドル)以上ある小竜が、四足で地を這っている。

 

「『インファント・ドラゴン』……!?」

 

「しかも二体……!?」

 

 名前も知らない冒険者二人の声が響く。

 

 確かあの子竜モンスター――『インファント・ドラゴン』は11、12階層に出現する絶対数の少ない希少種(レアモンスター)だったな。一体だけでも滅多にお目に掛かれないと言うのに、まさか二体現れるとは。

 

 上層は『迷宮の孤王(モンスターレックス)』と呼ばれる存在はいないが、あのモンスターが事実上の階層主となっている。

 

『『―――――――ッッッ!!』』

 

 インファント・ドラゴン二体が揃って動き、近くにいた同胞(エルフ)とドワーフの冒険者をその長い尾で殴り飛ばした。その瞬間、周囲一帯から上がる悲鳴が重なり合った。

 

 二体出現するのが完全に予想外なのか、多くの冒険者達は一斉に撤退しようとする。一体だけなら全員で挑んでいただろうが。

 

「リリスケェッ、逃げろっ!?」

 

 遥か先に、魔石を回収しようとルームの奥にいたリリルカに一体の子竜が突き進んでいる事にヴェルフが叫ぶ。

 

 しかし、彼女は動けないのか立ち尽くしているだけだ。確実に轢き殺されると思った俺が短杖(ウォンド)のエトワール用フォトンアーツ――ルミナスフレアで仕留めようとする。

 

 だが――

 

「【ファイアボルト】!!」

 

 ベルが叫んだ瞬間に終わった。

 

 視界を埋め尽くす光輝が弾け伴い、巨獣の咆哮のような激音が鳴り響いたかと思いきや、緋色の炎雷が一体のインファント・ドラゴンに直撃した。

 

『……ガッ、ァ』

 

 餌食となった一体のインファント・ドラゴンは、掠れた声を残し倒れ伏した。

 

 しかし、まだ完全に終わっていない。何故なら――

 

『ゴアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 二体目のインファント・ドラゴンがまだ残っているから。

 

 仲間を殺したのがベルだと分かったのか、別の小竜が此方へ狙いを定めて突進しようとする。

 

 ヴェルフは不意を突かれたように、リリルカと同じく立ち尽くしており、ベルはさっきの魔法による反動で動けないようだ。

 

 動けない二人とは別に、既に予測していた俺は左手を前に出して短杖(ウォンド)の武器アクション――チャージプロテクトを展開していた。勿論、自分だけ防御する意味で張ったんじゃない。

 

 全てのギアを使い切った俺はバリアを展開中のまま突進しながら跳躍し――

 

「プロテクトリリース!!」

 

 バリアを解除したと同時に、球状の強力な衝撃波を六発叩き込んだ。

 

 突進してくるインファント・ドラゴンはそれに全て直撃し、身体がバラバラになって吹き飛んだ。言うまでもなく絶命している。

 

 ハクセンジョウVer2で使ったから威力はメインと違って低い筈だが、やはり上層モンスターでも充分にやれるようだ。いや、それでも寧ろオーバーキルか。

 

「ふぅっ、危なかったぁ。二人とも、大丈夫か……って、どうした? 揃って呆けた顔になってるぞ」

 

「「………………」」

 

 俺が地面に着地して安否を確認するも、ベルとヴェルフは揃って口を大きく開けたまま呆然としていた。

 

 二人だけでなく、ここにいる冒険者達も一斉に俺へ視線を向けて動きを止めている。

 

「い、い、今の魔法は一体何なのですかリヴァン様ぁぁぁあああああああ!!??」

 

 すると、奥にいる筈のリリルカの叫び声が聞こえた。

 

 いや、さっきのアレは魔法じゃなくてエトワールスキルの一つで、そこまで驚くほどの代物じゃないんだが……。




アークスのリヴァンからすれば普通に決め技を使った程度です。

しかしオラリオの冒険者からすれば、凄まじい威力がある超短文詠唱の魔法でしょうね。

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