今回はるりちゃんの視点で物語が進んでいきます。
私宮本るりは自分でも珍しくソワソワしていた。
行方不明になってしまった千棘ちゃんの居場所を掴み、いつものメンバーと共に
小咲や千棘ちゃん、そして一条くんたちの思い出の場所である天狗高原に来たわけだが、
そこに漂う恋愛の空気に当てられてしまったのか。
舞子くんと一緒に行動していた時に彼に対しての想いを伝えてしまった。
つまり「告白」してしまったのだ。
ったく、自分自身この気持ちには最近気づいたばかりだって言うのに…
ちらりと横を歩く舞子くんの方を見ると、彼も彼で普段見せないような、
落ち着かない様子をしていた。
さっきは確かに初めて彼の意表をつけたのが面白かったわけだが。
「何よ、これじゃ調子出ないじゃない」
ぼそっと呟いてみる。
「あはは、確かに俺たちらしくないよね。」
私の呟きに反応して、舞子くんが苦笑いをする。
「まあ、こうなってしまったのは私のせいなわけだし。」
「それは素直に謝るわ。ごめんなさいね。」
「おやおや〜〜??これが世に言う惚れた弱みってやつで…」
「ぐはあ!」
「だまれ。」
ここぞとばかりににやついた顔でふざけたことを言う舞子くんのことを殴り倒す。
うん。やっぱりこっちの方が私たちらしい。
すっかり元の調子を取り戻したらしい私を見て、
舞子くんも安心したように笑った。
わかってる。
彼のこういうふざけているようで周りに気を遣っているところに
惹かれてしまったんだ。
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天駒高原のふもとまで戻ってくると、つぐみちゃんと白いスーツを着た外国人の
男性が待っていた。
つぐみちゃんによれば、彼は千棘ちゃんの家の偉い方で、クロードさんというらしい。
つまりギャングの幹部というわけで、
見た目と相まってなかなか怖いが友人だし悪いようにはされないだろう。
「宮本様はお嬢のことを見ませんでしたか?」
「一条楽と小野寺様も探しにいっているはずなのですが連絡がつかなくて…」
「ごめんなさい。私たちもまだ会ってないわ。」
「そうですか…。うう、お嬢…!心配です。」
つぐみちゃんはいつでも千棘ちゃんのことを想っている。
私が小咲のことを想うのと同じように。
「おじょうーーーーー!一体どこなのですか!!」
「まさか一条楽が何か!?おのれあのガキ許せん!!」
「ク、クロード様!先ほども言ったように一条楽はお嬢を陥れるような
ことはしません!」
「とりあえず今は落ち着いてください。」
「誠士郎…!う、うむ…」
…どうやらこの人も千棘ちゃんのことが大好きらしい。
千棘ちゃんの家の人はみんなこうなのだろうか。
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とりあえずその場にいるメンバーでこの先の行動を考えていると、
丘の上から誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。
想定外のことだった。
千棘ちゃんが、1人で。
「お嬢!?」
つぐみちゃんとクロードさんが一斉に駆け寄る。
それに続いて私と舞子くんもそちらに向かった。
「お嬢!心配しましたよ!」
「こんなに泣き腫らした顔をなされて…。一体何が!?」
「答えてください!お嬢!」
主にクロードさんが千棘ちゃんに詰め寄る。
つぐみちゃんは後ろで心配そうな顔をしていた。
「クロードにつぐみ、それにるりちゃんに舞子くんも。」
「心配かけてごめんなさい!!」
そう言うと千棘ちゃんは勢いよく頭を下げた。
私は突然のことに呆気にとられる。
「おおお嬢!?頭を上げてください!」
クロードさんはとにかく慌てていた。
少しして頭を上げた千棘ちゃんが口を開く。
「あのね、これから言うことはみんな落ち着いて聞いてほしいんだ。」
そう言うと千棘ちゃんは少し呼吸を整えて、苦笑いしながら続けた。
「私、楽にフラれちゃった。」
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千棘ちゃんからの衝撃の告白があった後はとにかく大変だった。
もちろん私が驚いたっていうのもあるけれど。
何が大変だったかといえば、あのクロードさんだ。
とにかくすぐに一条くんを殺しにいってしまいそうな勢いだったが、
つぐみちゃんの説得や、何より千棘ちゃん自身の制止によって一条くんが
この場で生を終えてしまうような心配はなくなった。
「私は確かに楽にフラれたんだけど、でもあいつは真剣に私の気持ちに向き合ってくれた。」
「だからいいの。」
「しかし…。やつはお嬢のことを悲しませて…。」
クロードさんはまだ納得がいってないみたいだ。
「あいつね、私があの街にやってくる前からずっと好きだった子がいるの。」
「けどビーハイブがやってきて、私とニセモノの恋人関係を続けなきゃいけなくなって。」
「正直迷惑な話だと思う。私だってあいつのこと最初は大嫌いだった。」
「でもしばらくたって、あいつの優しいとことか頼りになるところもたくさん
見えてきて、気づいたら好きになってたの。」
「けど楽はその間もずっとその子のことを想ってた。」
「フラれたのはすごく悲しかったし、いっぱい泣いちゃった。」
「でも。」
「あいつも私のことを大切な存在だって思うようになっててくれてて、
それを伝えてくれた。」
「だからもういいの。」
この千棘ちゃんの言葉を聞いて、野暮なことを言う人は誰もいなくなった。
つぐみちゃんは胸に手を当ててずっと泣いている。
クロードさんは気持ちをどこにぶつければいいかわからなくなった様子だった。
舞子くんは親友である一条くんの選択に思いを馳せているようだ。
そして私はというと。
千棘ちゃんから目を離さずにはいられなかった。
この時の千棘ちゃんからは悲しさだけじゃない何かを感じて、とても美しく思えた。
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つぐみちゃんからお嬢とゆっくり話したい。という提案があり、クロードさんもそれについていった。そして私はまた舞子くんと2人になった。
「そっかー、楽は小野寺のことをね。」
「あら、あなたまだいたの。」
「ヒドイ!」
少し冷ややかな言葉を投げかけてみる。
「私も少し驚いたわ。小咲のことは応援していたけれど、
正直一条くんは千棘ちゃんを選ぶんじゃないかって考えもあったから。」
「キグウだね〜、実は俺も。」
「あなたと同じ考えなんて虫唾が走るわね。」
「だからヒドイよ!?」
「…冗談はさておき。
私少しわからなくなってたの。」
「何がだい?」
冗談だったのね…と呟いて舞子くんが聞き返してくる。
「私はずっと小咲を応援してた。
今だって一条くんが小咲を選んでくれて本当に嬉しいわ。」
「なのに…」
「なのに?」
「これでよかったのかって考えてしまうのよ。
千棘ちゃんのことも好きになってしまっていたから。」
私は今の心情を舞子くんに伝えてみた。
「なるほどね〜、るりちゃんってかなり真面目だよね。
かたいというかなんというか。」
私は舞子くんの顔の前に拳を突き出す。
彼はまあまあと言いながらまた話し始めた。
「俺は小野寺みたいにずっと1人を想い続けてきた恋も、桐崎さんみたいに途中から気持ちが変化した恋も、
どちらも同じように美しいものだと思ってる。」
「でも同じ人を好きになるってことは、
どちらかが悲しい思いをしなきゃいけないってことなんだ。」
「今日小野寺と桐崎さん、二つの想いがこの場所でぶつかり合った。
そして誰かが傷つくことになっても、楽は真剣に向き合った。」
「その結末がどうなろうと、誰にも何も言う資格はないよ。」
かっこつけすぎよ。
私は心の中でそう呟き、舞子くんの方を見る。
「確かにそうね。」
「ありがとう。話聞いてくれて。」
「あはは、今日はなんだかるりちゃんが素直すぎて怖くなってきたかも、なんて…」
「あら。だったらあなたにはいつも厳しくいった方がいいのかしらね…?」
「めめ、めっそうもございません!」
「ったく、いつもいつも一言多いのよ。」
私の殺気に気づいたのかすぐさま態度を改める舞子くん。
本当に、一言多い男だ。
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それからしばらくして、いつまでも戻ってこない小咲たちを心配した私と舞子くんは、
まだ話しているであろう千棘ちゃんたちを残して2人を探しに出発した。
途中でなぜかここにきていた万里花ちゃんと出会い、聞いたところによれば
小咲は千棘ちゃんと一条くんに追いつくために丘の上へ向ったらしい。
でも戻ってきてないということは、途中で何かあったのだろうか。心配だ。
不安を感じ、万里花ちゃんが小咲と会ったという屋敷の辺りまで急ぎ足で向かう。
「おーーい、らくーー!おのでらーー!」
舞子くんがどこかにいるであろう2人に向かって呼びかける。
だが返事はない。
少しの間そんな状況が続いた。
「あの2人、大丈夫かな。るりちゃん。」
「大丈夫だと想いたいけれど、少し心配ね。」
「万里花ちゃんによればこのあたりで会ったみたいだし、
もっとよく探しましょう。」
しかし、不安はすぐに消えていった。
なぜなら2人でこちらに向かって歩いてくる一条くんと小咲を見つけたから。
こちらに気づくと手を振ってきたので、私も振り返した。
2人ともどこか晴れやかな、嬉しそうな顔をしている。
あの様子を見たら2人がどうなったかはすぐにわかった。
「おめでとう。小咲。」
駆け寄ってきた親友の耳元で、小声で祝福をした。
すぐに真っ赤になる小咲。そういうところは変わらないみたいだ。
「さて、と。あなたたち心配かけてくれたわね。」
祝いたい気持ちはおおいにあるが、まずはお説教だ。
「ごめんなさい!」
まず小咲が謝った。
「私が1人でいて、一条くんは私のことを探してくれてたの。」
「だから私が悪いんだ。」
「いや!俺も携帯の電源切れちまって連絡しなかったしさ、
だからすまん。」
続いて一条くんも頭を下げた。まったくこの2人は。
「まあまあ、2人が無事に見つかったことだしみんなのところへ戻ろっか。」
舞子くんがフォローを入れる。
「そうね。聞きたいことは山ほどあるけど、まずは戻りましょう。」
こうして一条くんと小咲を見つけた私たちは、千棘ちゃんたちがいるふもとへと
戻ることにした。
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「小咲ちゃん!」
私たちが戻ると、千棘ちゃんがまず声をあげた。
よく考えたらこの状況ってすっごく気まずいんじゃないだろうか。
なんだか冷や汗が出てくる。
「千棘ちゃん!」
だけどそんな私の考えをよそに、小咲と千棘ちゃんはお互いに側へ寄ると抱き合った。
まるで何年かぶりの再会を果たした時のように。
そんな2人の様子を見て、一条くんも少し驚いているみたいだった。
きっと私と同じことを考えていたんだろう。
「千棘ちゃん、私、会いたかったよ…!」
「私も…!」
抱き合う2人の身体は、よく見れば震えている。さすがに不安もあったんだろう。
でも、この2人を見ていたら不思議と安心した。
当然時間は必要だろう。今はまだぎこちない。でもいつか一切の溝がなくなって、
また元どおりの関係に戻ることができる。そう確信させる何かがあったから。
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「一条楽。」
違う場所では、つぐみちゃんが一条くんに話しかけていた。
どうやらクロードさんはいないらしい。よかった。
「つぐみ、オレ…。」
「いいんだ!みなまで言うな。」
何かを言いかける一条くんをつぐみちゃんが止める。
「お嬢から話は聞いた。貴様もいろいろ悩んだ結果だったんだろう。」
「貴様が真剣に応えてくれたから、お嬢も納得している。」
「むしろ礼を言うよ。ありがとう一条楽。」
「ありがとう、か。」
「まさかそんなこと言ってもらえるなんて思わなかったな。」
一条くんが空を見上げながらそう返事をした。
「ふん、本来であればお嬢を悲しませたやつを許したくはないが…」
「私の知っている一条楽は、
なんの理由もなくお嬢を悲しませたりするような輩ではないからな。」
「貴様は貴様自身の幸せを選んだ。それだけのことだろう。」
「つぐみ…。ありがとう。」
一条くんがお礼を言う。
つぐみちゃんはだいぶ変わった。
出会った当初であれば、こんなことになれば一条くんは生きていないだろう。
つぐみちゃんが変わったのも、全部とは言わないが一条くんの力が大きいのかもしれない。
そう考えるとすごい男だなとつくづく思う。鈍感クズ野郎だが。
「るりちゃん。」
考え事をしていたら不意に後ろから声をかけられた。
「小咲ちゃんと楽のこと見つけてきてくれてありがとね。」
先ほどまで小咲と何やら話していたはずの千棘ちゃんだった。
横には小咲も一緒にいる。
「いいのよ。それよりもあなたタフなのね。驚いたわ。」
素直な感想を言ってしまった。ちょっと無神経だったかもしれない。
案の定、小咲は私の発言にあわあわとしている。
「そりゃ、私だって傷ついてるわよ。」
「でも小咲ちゃんも私の大切な友達で、私を探しにきてくれた。」
「それが嬉しい気持ちもあるもん。」
「そう。小咲もさぞも喜ぶでしょうね。ねえ小咲」
「もう、るりちゃん。」
「でもその通りかな、私もそう思ってもらえることが嬉しい。」
「私にとっても千棘ちゃんは、昔からずっと大切な友達だから。」
「小咲ちゃん…」
小咲の言葉が嬉しいのか、千棘ちゃんはまた小咲に抱きついてる。
なんだかこの2人が付き合ってるみたいだ。
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みんなで再会を喜んでいると、段々と空が白んできた。
どうやらもうすぐ朝のようだ。長かった1日がいよいよ終わる。
私たちは千棘ちゃんの家の自家用機で凡矢理へと帰ることになった。
万里花ちゃんは私たちの様子を見届けると、お付きの人と一緒にアメリカへ戻ると言って
旅立ってしまった。
帰りの道中、私は考え事をしていた。
舞子くんが言ったように、
確かに同じ人を好きになると言うことは誰かが傷つくことなのかもしれない。
でも、それは同時に前に進むために必要なことでもあると思う。
いつかきっと、その傷は癒える時がくるだろう。
それに、これまでの全部がなかったことになるわけじゃない。
たくさんの思い出があれば大丈夫。
目の前で仲良さそうに並んで眠る千棘ちゃんと小咲を見て、私はそう思った。
今日あの場所で何人もの想いがぶつかった。
そのことを私は一生忘れられないだろう。
Fin
今回も最後まで読んでいただきありがとうございます!
前回小咲と楽が結ばれた時、彼らの友人たちはどんな想いでいたのかを想像して書いてみました。
個人的には、もし楽が誰と付き合ったとしてもみんなの友情は壊れて欲しくないのでその願望がたくさん出てしまったかもしれません(笑
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