もし楽と小咲が結ばれたら。   作:okapi

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前回の更新から少し時間がたってしまいましたが、第二章へ突入になります!
今回は前編と後編の構成になります。

前編は小咲と楽が約束の相手だとわかって結ばれてから5年後、大人になって天駒高原にもう一度やってきた楽と小咲のお話です。



第二章「コンヤク」ー前編ー

よく晴れた日の朝。

私は今日、思い出の場所である天駒高原に来ていた。

季節は夏真っ盛りだが、標高が高いということもあって涼しい風が流れている。

 

 

ここにくるのはこれで3回目。

 

1度目は幼い頃、たくさんのかけがえのない友達ができた。そして忘れられない約束もした。

2度目はもう5年前になる。ここで多くの想いがぶつかって、結果的に私は長い間想い続けた人と結ばれることができた。

 

 

 

そして今日、私の隣にはその人がいる。

彼、一条楽くんと幼い頃交わした約束を果たしにきた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あれからもう5年になるんだね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

丘の頂上にある大きな岩に2人で腰掛けて、思い出話をする。

隣に座る楽くんは空を見上げている。きっとあの時のことを振り返っているんだろう。

 

 

 

「あの夜は本当に、いろんなことがあったよなあ。」

 

 

「うん。幼い頃にここで出会ったみんなが集まって、

10年以上前の約束も思い出も、全部が繋がった。」

「なんだかドラマみたいな話だよね。」

 

私もあの時のことを振り返る。うまく言葉にはできないけれど、

楽くんの言うように本当にいろんなことがあった。

 

 

「ああ。俺たちのこともあるけど、まさか集のやつと宮本もあんなことがあるなんてな。」

 

 

「るりちゃんたちのことは後で知らされてすっごく驚いたよ…」

「今も仲良くやってるみたいだね。」

自分たちの知らないところでも意外な2人の間で恋が芽生えていた。

今は2人ともそれぞれの仕事をしながら一緒に生活しているらしい。

 

 

 

 

「他のみんなも、元気にしてるって。たまに連絡とるんだ。」

千棘ちゃんはファッションデザイナーになって、つぐみちゃんと一緒に世界中を飛び回っている。今じゃすっかり世界的な有名人だ。

 

万里花ちゃんはこれまでの花嫁修行の経験を生かして、いくつもの習い事事業をプロデュースしているらしい。なかなか独創的な内容で人気なんだとか。

 

 

 

 

「すげえやつらばっかりだったよな。俺たちも頑張らねえと。」

 

 

「負けてられないね。」

そうだ。私たちもみんなに負けないくらい頑張らないと。

 

私は高校を卒業してから専門学校に入り、今では妹の春と一緒に実家の和菓子屋を切り盛りしている。これでも料理の腕は上達していて、それは周りの人も認めてくれていた。

 

楽くんはというと、この春から念願の公務員として働いている。

結局実家は継がなかったみたいだけど、渋々二代目を継いだ竜さんと協力して凡矢理の治安を守っていく道を選んだ。たまに和菓子「おのでら」のメニュー開発を手伝ったりもしてくれている。

 

 

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「小咲、そろそろ。」

しばらく思い出の空気に浸ってから、楽くんが切り出す。

 

「うん、そうだね。」

 

 

 

私たちは持ってきた鞄からペンダントと鍵を取り出した。

5年前のあの夜、私たちは約束の相手だとわかり結ばれたけれど、

2人で話し合ってこのペンダントの鍵はまだ開けないことに決めた。

大きくなったら結婚しよう。そういう約束だったから。

 

 

 

「ザクシャインラブ」

 

 

 

私たちはお互いに見つめあって約束の言葉を口にした。

 

鍵を楽くんが持つペンダントに差し込む。

かちりと鍵がはまる感触がありペンダントの蓋が開くと、中から手作りの指輪と

それからお互いの名前が書かれた小さい紙が出てきた。

 

 

「わ〜、可愛い指輪だね。」

 

「はは、なんだか恥ずかしいな。」

 

 

幼い頃に作った指輪なんて確かに少し照れくさいけれど、当時から変わらない気持ちを

改めて確認できたような気がしてすごく嬉しい。自然と顔が緩んでしまう。

楽くんも口元を綻ばせている。私たちきっと同じ気持ちだよね。

 

 

 

「こっちも見てみるか。」

楽くんがそう言って小さい紙を取り出す。

折り畳まれたその紙を開くと、どうやらそれは手紙のようだった。

まず一つ目は楽くんからの手紙。

 

 

「大きくなった小咲へ、か。」

「…これ俺が読むのか?」

 

「そうだねえ、せっかくだし…」

 

 

「わかった。じゃあ読むぞ。」

私たちはお互いに小さい頃書いた手紙を読み合うことになった。

 

 

 

「改めて、大きくなった小咲へ。」

「お元気ですか。僕は多分元気です。」

 

「ふふ、可愛い。」

 

「おい、恥ずかしいからやめてくれって。」

子どもらしい書き出しに、私は思わず反応してしまう。

 

 

「あー、続き読むからな。」

 

 

「大きくなって結婚したら、いっぱい好きな動物を飼おうな。」

「指輪も本物のものを買ってあげます。」

 

 

「結婚したら小咲の料理を毎日食べたいです。」

「って、これは大丈夫なのか。小さい頃の俺。」

 

「ちょっと、楽くんひどいよ??」

さっきのお返しと言わんばかりに今度は楽くんがつっこみを入れる。

 

「はは、わりーわりー。今は上手くなったもんな。」

 

「ちゃんと勉強したもん。楽くんほど上手じゃないかもしれないけど。」

少し意地悪な楽くんに私はふくれた顔をしてそう答える。

 

 

「今は心から毎日食べたいと思ってるよ。」

「っと、俺からの手紙はこれで終わりみたいだ。」

 

「我ながら可愛い手紙だったなこれは。」

 

「ほんとに、可愛かった。」

「けど嬉しかったよ。」

 

「はは、小咲がそう言ってくれるなら昔の俺も喜ぶだろうな。」

「もちろん今の俺も。」

 

「なあ、早く小咲の手紙も読んでくれ。」

 

 

早く自分の番をを終わらせたいのか、楽くんに急かされる。

次は私からの手紙を読む番だ。

 

「う、うん。じゃあ読みます。」

自然と改まった口調になる。自分が読む方になるとやっぱり緊張するな。

 

 

「えっと、大きくなった楽くんへ。」

「大人になった楽くんはきっととっても背が高くなってるんだろうね。」

 

「早く大きくなって会いたいです。会ってたくさんお話がしたいです。」

「きっとまた会えると信じています。」

 

「なんか小咲は子供の頃から大人びてんな。」

 

「そ、そうかな。」

 

「ああ。余裕があるっていうかさ。」

 

楽くんとの会話をよそに私は動揺していた。その後に書かれている内容が原因だ。

 

 

 

「小咲?」

 

「え?」

 

「続き、読んでくれ。」

少しの間かたまってしまっていたようだった。

楽くんに呼ばれて我にかえった私は、一度深呼吸をして続きを読み始める。

 

 

 

「とっても時間がたってると思うけど、

私はずっと楽くんのことが好きだと思います。」

 

「楽くんは、いまも私のことを好きですか?」

「す、好きでいてくれたら嬉しいな。」

恥ずかしくて顔が熱い。

 

 

楽くんはどう思っているだろう。

そう思っておそるおそる彼の方を見ると、楽くんと目が合った。

 

 

 

「ああ。好きだよ。」

楽くんは微笑んでそう言った。

そして隣に座る私の手に自分の手を重ねる。

 

私は突然のことに心拍数が一気に上がった。

 

「小さい頃も、学生の時も、そして今もずっと好きだ。」

「それに、小咲といるといつも幸せなんだ。」

 

 

「だから小咲、俺と結婚して欲しい。」

 

不意打ちのようなプロポーズに、心臓はもう爆発寸前だ。

急に男の子らしくするのはずるいよ…

 

 

「本当に、私でいいんだよね…?」

わかってる。こんなことを言うのは野暮だ。

今日はそのつもりでここにきたんだから。

 

 

「ああ。小咲がいいんだ。」

でも、彼のこの一言を聞きたかった自分がいた。

 

「小咲の方こそ、俺なんかでいいのかよ…?」

楽くんもそう聞き返す。

 

 

少ししたら胸のドキドキもおさまってきた。

「なんかじゃないよ。」

 

「私も、楽くんがいいです。」

 

 

 

お互いの意思を確認した私たちは、今のやりとりを照れくさく思ったように笑い合った。

 

 

 

 

「後悔すんなよ。」

 

「するわけない。」

私は真剣に、楽くんの目を見てそう答える。

 

 

 

「小咲。」

不意に私の背中に楽くんの手がまわり、2人の顔が近づいてゆく。

 

「あ…」

私はこれから起こることを予感して、ゆっくりと目を閉じた。

 

 

 

 

数秒の後、お互いの唇が触れ合う。

 

不思議とさっきまでの恥ずかしい気持ちはなくなっていた。

今はただ、この温もりをずっと感じていたい。そう思った。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます!

今回のこの話は私自身ずっと見てみたいと思っていた場面だったので、
書きながらドキドキしてしまいました(笑

上手く表現できているかはわかりませんが、今回一つの形としてこの場面を描くことができてよかったです。

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