女子。
女子、女子女子。
女子女子女子女子。
周りが全員女子だ。
男は俺だけだし何より視線が痛い。
どうしてこんなことになったんだ……。
俺は高校一年生の織斑一夏。
中学三年生の時、愛越学園とIS学園の受験会場をうっかり間違えた俺は、そこにおいたあったISにほんの出来心で触れてしまい、ISを起動させてしまった。
そのことを知られた俺は世界初の男性IS適性者として保護されてここ、IS学園に通うことになってしまった。
男が自分一人だけという状況で、同じクラスに居た幼馴染の”篠ノ之箒”を見かけるも、シカトされて「……らくん」しまった。
ついさっき、副担任の”山田麻耶”先生が入ってきて「…り斑くん」HRが始まることに「織斑くん!」
「は、はい!」
「その、大声出してごめんなさい。あ、あのね?自己紹介で「あ」から始まって今「お」で織斑くんの番なの。それで……」
「あ、謝らないでください!ちゃんと自己紹介するので……!」
山田先生が涙目になりながら説明してきた。
某小さな名探偵の冒頭を真似して現実逃避していたらいつの間にか自己紹介が俺の番まで回ってきていたようだ。
初めの自己紹介で印象が決まるからな、しっかりやらなきゃな。
席を立つ。
「お、織斑一夏です」
視線が突き刺さる。
え、それだけ?という顔をしている。
ヤバい。
ここで何か言わなきゃ暗いやつという印象が残ってしまう…!
でも何を言えばいいんだ。
ヤバい、ヤバい…!テンパって何も出てこない。
だからといってこのままではダメだ。
こうなったら…!
「い、以上です!」
せめて元気よく、だ。
これで最悪、暗いやつにはならないですむ…!
とりあえず安心していると、
スパンッ!
脳天に衝撃。
振り向くとそこに居たのは、
「げ、宇宙一の戦闘民族!」
スパンッ!
2度目の衝撃。
「誰がサ〇ヤ人だ、馬鹿者」
千冬姉が居た。
なんで千冬姉がここにいるんだ?
職業不詳で月1、2回くらいしか家に帰ってこなかった姉。
追求しなかったのは俺なんだけども。
「あ、織斑先生。会議はもう終えられたんですか?」
「山田君、すまなかったな。クラスへの挨拶を押し付けてしまって」
「いえ!副担任ですから!このくらいは平気です!」
さっきまで人の頭叩いていた人は何処へやら、穏やかな千冬姉。
山田先生もさっきまでの困り顔から一転、すごくいい笑顔になっているし。
まさか教師をやっていたなんて知らなかった……。
追求しなかったのは俺なんだけども(2回目)
「諸君、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛えぬくことだ。逆らっても構わないが、私の言うことは聞け。いいな?」
なんて爆弾発言をするんだ。
とても教師のセリフとは思えない傲慢さ。
さぞかし怯えた空気に満ちるのだろうと思った瞬間、
「「「キャーーーーーーーー!」」」
突然、襲い来る音の衝撃波。
思わず耳を塞ぐが、全く意味を成さずに鼓膜を突き破ってくる。
モンスターを狩るゲームに出てくる轟く竜みたいだ。
「本物よ!本物の千冬様よ!」
「ずっと好きでした!」
「お姉さまに憧れてこの学園にきたんです!北九州から!」
怯えるどころか大歓喜。
随分と人気な俺の姉。
確かに、IS学園の生徒ならIS操縦者の頂点を目の前にして、興奮しないはずが無いか。
しかしお姉さまってどうなんだ?女子校なら普通なんだろうか?
「私、お姉さまのためなら死んでもいいです!」
前・言・撤・回
俺の姉に命を捧げようとする異常な人がここにいます!
他にも所々ヤバい発言をする生徒が何人かいる……。
「…はぁ、まったく。毎年毎年、よくもまぁこれだけの馬鹿者共が集まるものだ。ある意味感心させられるが何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」
「キャーーー!もっと!もっと叱って!罵ってぇぇ!」
「でも時々優しくして!」
「そしてつけあがらないよう躾して~!」
もうやだこのクラス。
まともな人が何処にも見当たらない。
山田先生もなんか恍惚の表情を浮かべているし……。
「…で?挨拶もまともに出来んのかお前は」
「いや、千冬姉。俺は―――」
スパンッ!
これで本日3度目。
近いうちに俺は馬鹿になってしまうのではないだろうか。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
人の頭をバンバンバンバン叩くとはなんて教師だ。
もうこれ以上叩かれるのはごめんなのでそう思うだけに留めて置き、そのまま席に突っ伏す。
バシュ
「……いくら肉親とはいえ、人の頭をそう簡単に叩くものではないでしょう?先ほどの自己紹介といい、とても教師とは思えないですね」
聞こえてきた男の声に顔を上げる。
先生……だろうか?でも俺以外に男が居たなんて知らなかったな。
どこかで見た気がするんだけどな……。
「これで何年もやってきたんだ。今更言われたところでな……」
「まぁこれ以上は何も言いませんよ。なにせ新入りなものですから」
そう言って教卓の隣に立つ。
……思い出した!
たしか入学式の時に紹介があった気がする。
「既に入学式で自己紹介は済んでいるが改めて、」
「私は”シーク・ウェリタス”。呼び方は最低限の礼儀を欠かさなければ好きに呼ぶといい。今期から追加されたカリキュラムである哲学の授業で教鞭を振るうことになった。そして、このクラスの副担任でもある。専門は哲学だが、物理や数学等、所謂理数の分野に関しても見識が広い。遠慮なく訊いてくれて構わない。」
「次の時間から早速授業が始まる。準備を怠るなよ」
そう言って教室を出て行く。
2人も後に続いて出てくる。
「それにしても」
山田君が話を切り出す。
「副担任が2人だなんて、すごいことになりましたよね」
「理由はご存知でしょう?」
「そうですけど。なんていうか、なんとなく違和感があって……」
「まぁ私も山田君と同感だな。いくら理由があるとはいえ、こうして隣に男がいるというのは何とも言えない違和感がある」
「それは仕方ないでしょう。壊れた時計の針が動き出した故の弊害というわけです」
……しかし、やはり気になるな。
「……ずっと気になっていたんだが」
「どうかしましたか?織斑教諭」
「なに、シーク殿は偶に妙な言い回しをするものだと思ってな」
「あーたしかに。私も思っていました!なんでなんですか?」
「何故と言われても困りますね、これは癖のようなものですから。敢えて言うならそうですね……。物事の捉え方が違うからでしょう」
「捉え方の違い、ですか?」
「……そうですね、絶対音感は知っていますよね?」
「絶対音感ってあれですよね?聞こえてくる音がレの音とかファの音とか分かるって言うやつですよね?」
「それです、その感覚だと思っていただければ」
「んー、なんとなくわかったんですけど……」
「まぁ、結局は個人の感覚ですから。無理に理解する必要はないですよ」
なるほどな。
自分にしかわからない感覚を言葉にするからあのような妙な言い回しになるのか。
「授業の時などはどうするのだ?さっきのような言い回しだと上手く伝わらないのではないか?」
「あー、たしかにそうですね。どうするんですか?」
「問題ないですよ。あくまでも私の主観について話す時だけですから。文章を読んで聞かせる時に態々別の言葉に置き換えて話す必要はないでしょう?」
「それなら大丈夫そうだな」
「それよりも私の事よりクラスの事を心配すべきでしょう。何せ今年は彼がいますから」
「織斑くんですね。先輩の弟さんなんですよね?」
「あぁ。だがここではあくまでも教師と生徒にすぎん、贔屓はしないとも」
「そうは言っても人間、そう容易く割り切れるものではないですよ」
確かに私の唯一の家族であるのだから心配ではあるがそれとこれとは話が別だ。
第一、身内だからと言って特別扱いをするようでは他の職員や生徒に示しがつかないし教師失格だ。
「……と、新入りの私が言うのも変な話ですね。忘れてください」
「そんなことはない。そもそも私がここの教師になる前から講師として色んな大学に呼ばれていたそうじゃないか」
「そういえばそんな話してましたね。じゃあ先輩になりますね」
「私の場合は個人でしたし、組織に所属するのとでは勝手が違いますから。やはり貴女方のほうが先輩ですよ」
丁寧且つ穏やか、それでいて強い何かを感じさせる不思議な男だ。
そんな事を思いつつ他愛も無い話をしながら歩く。
zzzzさん、誤字報告ありがとうございます