お前のような哲学者が居るか   作:神撃のカツウォヌス

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第7話

「――――――というわけで、ISの基本的な運用には国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用は刑法によって厳しく罰せられます。例えば無許可でISを起動したりした場合ですね。そして――――――」

 

 山田教諭がすらすらと教科書を解読していく。

 最初の授業はISの運用方法等の初歩的な部分だ。

 しかし専門知識なだけあって聞きなれない言葉も多いので、ISと関わりのない一般人にとっては難しい話だが、それでも単語からある程度の意味は察することができるし事前に予習していれば全くついて行けないというわけでもない。

 それに加えて山田教諭の説明は要点がまとめられており、非常に理解しやすくなっている。

 にも関わらず挙動不審にしている者が1名居るようだが……。

 

「えーっと…織斑くん大丈夫ですか?分からない所があれば言ってくださいね。なにせ先生ですから!」

 

 その言葉に意を決した織斑が言う。

 

「せ、先生!」

「はい!」

「ほとんど全部わかりません!」

「え……せ、全部ですか?」

 

 山田教諭の顔が引き攣る。

 

「え、えっと……織斑くん以外でわからないって人はいませんか?いれば正直に言ってください」

 

 無論、誰も居ない。居るはずがない。

 IS学園に居る時点でこの程度のことはわかっていて当然だ。

 

「…織斑。入学前に送られた参考書は読んだか?」

 

 織斑教諭が問いかける。

 

「あの分厚いやつですよね。古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 ズバンッ!

 

「必読と書いてあっただろうが馬鹿者」

 

 衝撃のカミングアウト。

 さすがの織斑教諭も呆れているようだ。

 かくいう私も多少の驚きを隠せざるをえない。

 古い物と新しい物を間違えるとはどういう了見だ?

 そもそも捨てる時は本当に捨てていいのか確認するものだろう。

 

「あとで再発行してやる。一週間で覚えろ、いいな」

「い、いや、一週間であの厚さはちょっと…」

「やれと言っている」

 

 睨む。

 当たり前だ、自分の不手際にも関わらずそれは無理だというのは道理が通らない。

 

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力において過去の兵器を遥かに凌いでいる。そういったモノを深く知らずに扱えば必ず事故が起きる。そうならないための基礎知識と訓練だ。理解が出来なくとも覚えろ、そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 助けを求めるかのようにこちらへ視線を向ける。

 同じ男性の私なら何とかしてくれるのではと思っているのだろう。

 だが、現実()はそう甘くない。

 

「織斑。自分は望んでここにいるわけじゃない、そう思っているのだろう?そんなもの関係ない。前提として、お前の今座っている椅子は本来別の誰かが座るはずだったものだ。その誰かを退けて空けられた椅子でありそこに座りながら自分には一切の責任は無い、と言い張るのはただの傲慢だ」

 

 そう。

 定員は決まっている。

 つまり織斑一夏はその限られた枠を一つ潰したことになる、本人に一切の悪気が無くとも。

 もし彼が居なかったら、そう思っている者が必ず何処かに居る。

 

「もしお前が居なかったら。そう思う者に対して、お前は「何もかもわからないけど自分は一切悪くありません」そう言って開き直るのか?」

 

 そこまで言ったところで、織斑はバツの悪そうな顔をする。

 ……少々言いすぎただろうか?

 今日まで説教染みた事はしたことが無かったからな、生憎とどこまで言えばいいのかの加減が分からん。

 

「……だが、あの参考書を一週間で覚えろというのは流石に無理がある」

「おい?」

「最低限覚えておくべき箇所を教えてやる。手を貸すのはこれが最初で最後だ、二度は無い」

「は、はい…!」

「……失礼だがシーク殿。今までISに関わったことは無かったのでは?」

「ここへ来る前に座学ならば教えられる程度には仕上げて来た」

「教師をやることが決まってからひと月も無かったはずだが……」

「10日あれば十分足りる」

 

 個人差はあれど効率よく覚えるコツがあり、それに加えて私は理解力がずば抜けて高い。

 0から覚えるにもそれほど時間・手間はかからない。

 

「いくらなんでも……いや、それが出来るからここに居るのだったな」

「私の事はいいです。それよりも早く授業を再開しましょう、山田教諭」

「……は!?そうですね……では、続きを始めますね。これらの規定が定められた場所がアラスカだったことから通称”アラスカ条約”と言われ――――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

 先ほどは運用規定、そしてこの時間では武装に関する講義。

 武装は実技にも直結し扱いには更に慎重にならなければならないので、織斑教諭が教壇に立っている。

 ……重要なのはわかるが、山田教諭までノートを手にとっているのは如何なものか。おそらく憧れの存在が教える、というのが理由の大半だろうが。

 

「あぁ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

 入学してすぐクラス対抗戦というのは少々早すぎる気もするが、

 

「クラス代表はそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席…まぁ、ようするにクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の段階でたいした実力差は無いが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間は変更は無いからそのつもりでな」

 

 なるほど、呼んで字の如くだな。

 クラス対抗戦をする意義も分かるが、こういうのはクラス総出でやるものだろうし第一、代表候補生が対抗戦に出場しては意味が無いだろうに。

 ……他の行事にも色々と穴がありそうだな。

 

「なお、自薦他薦は問わない…無論、推薦されたものに拒否権は無いからな」

 

 ……いったい彼女は何を言っているのだろうか。

 大方、「推薦されるということは期待されているということでその期待を裏切るのは許さない」と言う考えなのだろうがそうではないだろう。

 期待を背負うと押し付けられるのとでは意味が違う。その事を理解していないのか。

 第一、一年間変更できず重要な役割になるのだから、まだ実力も何も知らない今の段階で推薦は不適切であるしそんな事をしたら、

 

「はい!織斑君を推薦します!」

「私もそれがいいと思います!」

 

 織斑に票が入るのは自明だ。

 世界でただ1人の男性操縦者、それが同じクラスに居るのだから見世物としては格好の的だ。

 教師も教師だが生徒も生徒だ。さきの説明を聞いていただろうに……。

 

「では候補者は織斑一夏……他にはいないか?」

「お、俺!?」

「邪魔だ織斑、席に着け。居ないのなら織斑に決まるが」

 

 それに、()()()()()()()()このクラスには面倒な奴がいることはわかっている。

 代表候補生である彼女が、面白半分で男性操縦者(織斑一夏)に票が集まるこの状況をだまって見過ごすなんてことはない。

 

「待ってください!納得いきませんわ!」

 

 セシリア・オルコットが異を唱える。

 当たり前だ、国の代表候補生として何時間も訓練してきたプライドの高い彼女にとってポッと出の素人がクラス代表というのは到底許容できない。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

 わからなくは無い。

 クラスの代表として委員的な仕事はともかくとして、戦闘云々をこなせなどしない。

 だが、彼女の場合は「弱い男が自分を差し置いて代表など言語道断だ!」という意味だが。

 

「実力からいけばわたくしがクラス代表になるのは必然!それを物珍しいという理由で極東の猿にされては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!」

 

 世界中から入学しにくるとは言え、生徒及び職員の9割が日本人だ。

 こんな事を口にすれば自分が孤立することを理解していないのか彼女は。いくら感情的になっているとしても周りが見えて無さ過ぎる。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ!」

 

 強さに自身があるのは結構だが、あくまでも代表”候補生”だろうに。その肩書きは自分と同等以上のレベルの存在が居ることの証左である。

 これまでの発言に何人かが嫌悪感を示しているし、織斑教諭までもが険しい顔をしているのが見えていないようだ。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で―――」

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」

 

 耐え切れなくなった織斑が口を挟む。

 あれだけの罵詈雑言の嵐だ、黙っていられなくなるのはわかる。

 だが、今この場においては悪手である。

 

「あっ、あっ、あなたねぇ!わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

 案の定、オルコットは怒髪天。

 よくもまぁ自分の発言をあそこまで棚に上げられるものだな。

 

「決闘ですわ!」

「いいぜ、やってやるよ」

 

 あっさりと了承する織斑。

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い…いえ、奴隷にしますわよ」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

 

 決闘の内容も聞かずによく堂々としていられるな。

 

「そう?まぁ何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわ!」

 

 素人を相手にして実力を示すも何もないだろう。

 

「ハンデはどのくらいつける」

「あら、早速お願いかしら?」

「いや、俺がどのくらいハンデをつけれたらいいのかなぁって」

 

 彼は素人にも関わらずハンデを、それも代表候補生相手につけてやるだと?

 これまでの言動は別として、IS操縦においてはクラスで一というのは紛れもない事実。

 と、織斑の発言を聞いた周りから爆笑がおこる。

 

「織斑君、それ本当に言っているの?」

「男が女より強かったのって大昔の話だよ?男と女で戦争になったら三日ももたないよ」

 

 ……彼女達が本気で言っているのがわかる。

 

「…愚かな」

 

  あまりの愚かさに思わずそう溢す。

 

「何か言いたげですな、シーク殿」

 

 耳ざとく聞いていた織斑教諭。

 クラスの視線が向けられる。

 

「何も、ただ単純に愚かだと思っただけですよ。ISがあるから強いと、そこで思考を止めていることに対して」

 

 私の発言に不満や嫌悪感を示すもの、織斑と同じ前時代的な考えの持ち主だと嘲りの表情を浮かべる者。

 何も理解できていないのなら、ここで一度現実を教えてやろう。

 

「そもそもの前提として男女間の戦争云々の話はISありきの話だ。そして今この場にISは無い。つまりだ」

 

 パァン!

 

「もしも今の音が銃声だったら、ここにいる誰かは死んでいたぞ」

 

 手を叩いて音を鳴らす。

 ここで何人かは私の言いたいことを察する。

 事実、私が本気だったら少なくともこの教室は消し飛んでいる。

 

「それだけじゃない。予め爆弾を用意するもよし。親しい者を人質にとるのもよしだ」

「そ、そんなの詭弁ですわ!第一、戦争が始まればそんな暇などありませんわ!」

 

 彼女の言葉に何人かが頷く。

 ここまで愚かだと一周まわってオモシロイ。

 

「戦争は戦う前から始まるんだ。まさか、明確な戦争開始の合図があると思っているわけではないよな?」

 

 ここまで言って漸く理解したようで、クラスは重い空気に包まれる。

 

「更に付け加えるならば、たとえISが相手だろうと勝ち筋はある」

 

 私の言葉に驚く一同。

 まさか山田教諭と織斑教諭まで驚いているとはな。

 

「ISに勝てないと言われているのは、偏にその防御性能と機動力にある。そこらの銃火器では防御を貫けず、火力を求めれば取り回しが悪くなり避けられる。これは逆に、圧倒的な火力を確実に当てられれば撃破できるということだ」

「で、ですが!それができないからISが最強と言われているのではありませんか!」

「つい先ほど言っただろう?爆弾や人質だ」

 

 どうやら織斑教諭は理解したようだ。

 流石ブリュンヒルデ、とは言わない。むしろこの程度が分からぬほうが可笑しい。

 

「ISの開発・整備には男性も多く携わっている。否、そういう現場仕事は男性が圧倒的に多い。何故なら女性は権利を手に入れやすく管理職に就くからだ。故に、ISの開発段階、整備中に強力な爆破装置を仕込んでおけばいい。人質をとればたとえ軍人であろうと大半が動けなくなる」

 

 もう異を唱える者は誰一人としていない。

 ここでトドメといこうか。

 

「極論、世界中無差別に核を落とせばいい。大気・海洋汚染を起こせば人類は衰退する。もしお前達のイメージする戦争がどちらかが全滅することを前提としているのならばたとえ戦争に勝とうと人類は滅亡の一手を辿るだけだ」

 

 もう誰一人として女性が勝つとは言わない。言える筈がない。

 だがこの話は全体に向けてであり、事の原因にはまだ何も言っていない。

 

「話を戻すが織斑」

「は、はい」

「あぁは言ったが、世間の常識ではやはりお前の発言は非常識と言える。自分に正直なのはかまわないが時には周りに合わせることも重要だ。覚えておけ」

「はい……」

 

 さて次は、

 

「オルコット」

「な、なんですの」

「多くは言わない。お前はイギリスの代表候補生だ。それを踏まえたうえで今一度、自身の発言を振り返ってみろ」

 

 しばらく考えるオルコット。

 すると、次第に顔が青ざめていく。

 

「そうだ。この場では代表候補生の言葉はそのまま国の言葉でもある。もしさきの発言が記録に残されていたら外交問題に発展するだろう」

 

 ここまでにしておこう。

 それにしても喋り過ぎたな、私らしくもない。

 これでは感情も棄てる事も視野に入れる必要がある。

 

「とまぁ、大方言いたいことは言いました。続きをどうぞ、織斑教諭」

「あぁ、すまなかったな。今聴いた通り、この場においては男か女かは関係ないしお前達の強さなど私とっては意味はない。織斑とオルコットは一週間後の月曜。放課後に第三アリーナで戦ってもらう。ハンデは無しだ、いいな?」

 

 どうやら決闘はするようだ。

 正直、辞退できない点やそもそも決闘はさせるななど、まだ言いたいことはあるがいつまでも引っ張るのはよくないだろう。

 

 その後、織斑に専用機が与えられる話がされたり、その織斑が専用機について知らなかったりと、ひと悶着があったがまぁ些事だろう。

 

 

 

 

 

 

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