お前のような哲学者が居るか   作:神撃のカツウォヌス

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第8話

 

 あれから一週間が経ち、今はこの学校の初の哲学の授業をする二年生の教室へ向かっている。

 この哲学の授業は週一で二年生のみ、一年と三年生はやらないとのことだ。

 一年生はISに関する知識や実技、そして主要五科目で手一杯になるのでなし。

 三年生は卒業後の進路に向けてだったり、企業からのスカウト等があるのでなし。今年度の三年生は一度も私の授業を受けないことになるがしかたない。

 

 それと、先日のクラス代表の話の事が既に広まっているらしく、様々な視線を感じる。

 恐れを含んだ視線。

 興味や関心を含んだ視線。

 そして嫌悪と怒りを含んだ視線。

 それ以外にもこちらを()()()()()()様子の視線も感じる。

 別に害があるわけではない。表面上は真面目に挨拶もするので気にしないが、小蠅が耳元を飛んでいる程度の鬱陶しさがある。

 

 そんな事を考えているうちに目的の教室についたようだ。

 

「おはよう」

 

 おはようございます。

 元気に挨拶するものもいれば控えめにするものもいる。

 完全に無視をきめているものもいるが別に構わない。

 

 始業のチャイムが鳴る。

 

「さて、授業を始める」

 

 面倒臭そうな表情を浮かべる者が幾人かいる。大して興味の無いことを学ぶのは誰だって嫌だろう。

 だからこそ、私はこう言って始める。

 

「まず最初に言っておく。正直に言って、哲学などなくても生きていく分には何も困らない」

 

 私のいきなりの発言に同意を示しつつ少なからず驚いている。

 初授業でいきなり「やらなくてもいい」など言われては動揺するに決まっている。

 

「と言うわけで特にテストがあったり課題等もない。授業中に騒がしくしなければ寝ても構わないし他教科の課題をやっていても一切咎めない」

 

 更に動揺する生徒達。

 いくら必要ないからって、そんな声がちらほら聞こえる。

 だが、

 

「しかしこれだけは言っておこう。哲学はそれ単体では殆ど意味が無いが、他の分野と併せる事で真価を発揮する。今日の授業でそれを証明してみせよう」

 

 こういて始まる授業。

 最初は古代ギリシャからだ。

 さて、じっくりといこうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――哲学はしばしば宗教や神学と同列に語られることが多く時代が変れば哲学者の思想も変わり、それは同時に当時の常識や情勢を表す。特に中世ヨーロッパあたりは覚えることが多く苦手としている者も多いが、焦点を哲学に絞ればおおよその時代背景が分かる」

 

 ここまで、飽きないように少ない情報量で最大限の理解が出来るように授業を進めた。

 そのおかげか、皆一様に興味を持ってくれたようだ。私としても興味を示してくれるのは嬉しい限りだ。

 

「っと、今日はここまでだな。次回からは授業内容は半分に分ける。前半は哲学、後半は所謂自由な時間だ。他教科のわからない所を聞かれれば教えるしテスト勉強も見てやる。哲学者の本領を発揮してみせよう」

 

 この言葉を皮切りに皆浮かれる。

 それもそうだ。授業時間の半分とはいえ、他のことができるのは時間が無駄になりにくいということである。

 特に英語や数学は一度置いて行かれたら追いつくのはなかなか難しいので、こうして時間が取れるというのは嬉しいのだろう。

 

 ここでチャイムが鳴る。

 

「始まりと同様に終わりの挨拶もしなくていいぞ。昼休みだが次の授業に遅れるなよ?」

 

 はーい!

 最初は無視していた生徒も今では打って変わって元気に返事を返す。

 この調子なら他のクラスも問題なくできそうだな。

 

 職員室へ向かい歩きだすが、

 

「先生♪」

 

 声をかけられ立ち止まる。

 薄い水色の髪に赤い瞳。

 片手に扇子を持ち、人をからかうような笑みを浮かべる少女。

 

「更識か。何か用でも?」

 

 更識楯無。

 IS学園の生徒会長、つまり学園一の実力を持つ生徒。

 そしてロシアの国家代表。

 自由国籍を取っているので日本人でありながら他国の代表になれるのだ。

 と、ここまでは調べれば誰でもわかる。

 

「いえ、生徒会長として改めて御挨拶をと思いまして♪」

「随分と礼儀正しい。流石は全生徒の模範となるだけはある」

「いえいえ、そんなことありません♪」

 

 広げた扇子には”謙虚”と書かれている。

 先ほどの文字は”礼儀”だったが気にしなくともいいか、些細な手品だろう。

 

「私これから生徒会室に行くんです。先生は職員室に行くのでしょう?同じ方向ですし少しお話しませんか?」

 

 ”提案”。

 まぁ断る理由もないので承諾する。

 

「構わないぞ。と言っても3分程度だが」

「十分です♪ありがとうございます♪」

 

 次は”感謝”。

 どうでもいいが、いちいち扇子を使うのは癖なのか?

 

「どうです?まだそれほど経っていませんがこの学校には慣れましたか?」

「それなりにな。視線が鬱陶しい事を除けばだが」

「まぁ男の人が珍しいのでしょうがないでしょう。かくいう私もちょっと興味がありますし♪」

「それは織斑のことか?」

「えぇまぁ。何せ世界初の男性操縦者ですし。そういえば!」

「うん?」

「今日の放課後は一組のクラス代表を決める試合があるのでしょう?織斑君とオルコットさんの対決だとか」

「あぁそうだ。素人と代表候補生の対決など本来は止めるべきなのだがな」

「決まってしまったのですから仕方ありません。それで、先生はどちらが勝つと思いますか?」

 

 殆どの人間がこの質問を無意味だと思うだろう。

 方や偶々ISを起動できただけの知識も何も無い素人。

 方や国の代表になるべく何百時間もISに乗り続けた代表候補生。

 前提の時点で既に勝敗が決まっているのだ、態々勝敗を予想する必要はない。

 

「織斑は確実に負ける」

「やっぱりそう思「だが、」?」

 

 どうあがいたって織斑は負ける。

 いくら専用機が与えられようと素人が勝てるわけが無い。

 だが、

 

「ただ負ける訳ではない。そしてクラス代表は織斑になる」

 

 負ける事は確定事項だが、惨敗はしない。

 

「負けるのにクラス代表ですか?理由を伺っても?」

「彼はそういう因果の下に生きている。それが理由だ」

「?」

 

 この数日間、()()()()()()彼を見て分かったことだ。

 世界中の男性の中で彼だけがISを動かせる理由も。これから巻き起こる波瀾の日々も。

 全て彼が中心となる、なっている。

 この世界が物語ならば。

 彼が、織斑一夏が物語の主人公なのだろう。

 故に、今日の試合は必ず何かが起こる。

 

「よくわかりませんが、織斑君が負けると思っているわけですね」

「……まさか賭けでもするつもりではないだろうな?」

「そんなことする気はありませんしさせる気もありません。ただのちょっとした好奇心です♪」

「それならいいが……っと、ここまでのようだな」

「そうですね。話に付き合ってくださりありがとうございました♪それでは♪」

「あぁ。午後の授業に遅れないようにな」

 

 流石は対暗部用暗部更識家の当主だ。

 授業中や今の世間話の中で、私の視線やしぐさから怪しさや不可解さが無いか観察していたようだが。

 残念ながら相手が悪かったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特に怪しい様子は無かったわねぇ。時々妙な言い回しになるくらいかしらねぇ」

 

 生徒会室に戻り、これまで集めた情報を整理するが特に不可解な点も怪しい事も無かった。

 

「世界初の男性操縦者の入学と同時にここの教師になったのは何か裏があると思ったんだけど……」

 

 唯一の男子生徒の精神的負担を和らげるためと言う理由はあるが、それをそのまま鵜呑みにするわけにはいかなかった。

 生徒会長としてこの学校のみんなを守る義務があるし、更識家としても黙っているわけにはいかなかった。

 

「ですが驚くほど何もありませんね。来歴も特に怪しい点はありませんし……」

 

 私の親友の”布仏虚”がコーヒーを淹れながら話す。

 

「そうなのよねぇ……まぁ何も無ければそれでいいんだけど。そういえば部屋に仕掛けていたのはどうなの?」

「それが……何度も仕掛けたのですがその度に壊されてしました。監視にも気付いていたようですし」

「ウソ!?どっちかならまだしも両方だなんて…」

「はい。少なくともただの教師ではないようです」

 

 人間、全く痕跡を残さずに行動を起こすのは不可能だ。

 それでも、細心の注意を払って極力気付かれないようにしていたのだ。

 

「むぅ。しょうがないから別の手段にしましょ」

「別の手段と言いますと?」

「……」

「……お嬢様?」

「……そ、それはこれから考えるのよ!」

 

 そんなすぐに思いつくわけないでしょ!

 まったく、虚はせっかちなんだから。

 

 

 

 

 

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