お前のような哲学者が居るか   作:神撃のカツウォヌス

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第9話

 

 放課後、第三アリーナ。

 

 遅い。

 いったいどれだけ待たせれば気がすむのかしら。

 このセシリア・オルコットを侮辱するつもりですの?まったく、これだから男は。

 

 いい加減待ちくたびれたころ、ノロノロとフラフラと覚束無い様子で現れる対戦相手。

 

「あら、あまりにも遅いので逃げたのではと思っていましたのよ?」

「あんな事言っといて逃げるはず無いだろ」

「そう。まぁなんにせよ逃げなかったことは褒めて差し上げますわ」

 

 態々負けるために来たのは滑稽でもありますが。

 

「織斑一夏。あなたに最後のチャンスをあげますわ」

「チャンス?」

「わたくしへの数々の無礼を謝罪するというならば手心を加えてあげてますわよ?」

 

 素人を相手に甚振って愉悦を感じるような落ちぶれた人間ではないので、こうして譲歩して差し上げるのもエリートとしての義務。

 あぁ、なんて器が大きいのでしょうわたくしは。

 

「今更そんなことできるかよ。俺は勝つぜ」

「まぁ!せっかくの慈悲を無碍にするだけでなくわたくしに勝つですって。思いあがりもここまでくれば笑えてきますわ」

 

 ほんとうにここまで滑稽だと哀れみすら感じますわね。

 

「双方、準備はいいな?」

 

 アリーナに織斑先生の声が響く。

 

「えぇ、いつでもよろしくてよ」

「こっちも準備OKだ」

「では、試合開始!」

 

 さぁ!

 

「踊りなさい!この”ブルー・ティアーズ”の奏でる輪舞曲(ワルツ)で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったわね」

 

 たった今、セシリア・オルコットと織斑一夏の試合が始まった。

 

「お嬢様はどちらが勝つと思いますか?」

 

 隣で一緒に試合を観ている虚ちゃんがきいてくる。

 

「そりゃあセシリアちゃんが勝つでしょうね。虚ちゃんは?」

「私も同じです。いくらなんでも素人が代表候補生に勝つのは無理でしょう」

 

 もっとも。この試合を観ている殆どの人間が同じ予想をする。

 織斑君が勝つと信じているのは幼馴染の篠ノ之箒くらいだろう。

 それも勝ってほしいという願望のようなものだ。

 

「でもシーク先生の言うにはただじゃ負けないらしいんだけど」

「一矢報いる、そういう意味でしょうか?」

「さぁ?多分そうだと思うけど…」

 

 件の先生はこの試合を観ていないようだし。

 相変わらず新しい情報は入ってこないし、全くの謎だわ……。

 

「今の所目立った変化は無いわね」

「はい。辛うじて避けている感じですね」

「このままだとジリ貧ね。いくら織斑先生の弟といえど流石に素人では無理なようね」

 

 どれだけ才能を秘めていようと、全くの経験0ではその才能を発揮できずに終わる。

 ましてや相手は代表候補生、瞬殺されないだけでも十分かしら。

 そろそろ終わりかしら。

 そう思っていると。

 

「…直撃しましたね」

「えぇ、やっぱり素人では……?」

「?お嬢様どうしました?」

「……ブザーが鳴らないわね」

「たしかに変ですね」

「……まさか!?」

 

 煙が晴れる。そこににはさっきまでと違う姿のISが。

 

第一次移行(ファーストシフト)!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奴め。機体に助けられたな」

 

 千冬さんが言う。

 さっきまでとは姿が変わっている私の幼馴染。

 

「ギリギリで第一次移行が間に合ったみたいですね」

 

 第一次移行(ファーストシフト)

 初期段階のISが操縦者に合わせて最適な機体へと進化するISの自己進化機能の最初の現象。

 

 ついさっき届いたばかりで初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)が済んだばかりの機体でなんとか逃げ回ってばかりだったが、今では最初の覚束無さは無くなり自在に動いている。

 しかしそれだけではなかった。

 

「あれは……単一仕様能力(ワンオフアビリティ)!?」

 

 普通は第二次移行(セカンドシフト)してから発現する、その機体固有の能力。

 それを発現させるなんて……流石は一夏だ。

 

「いいぞ一夏!」

「すごいですね!もしかしたら!」

 

 思わず熱くなる私と山田先生。

 もしかしたらこの勢いに乗って勝てるかもしれない。

 

「ふん、まだまだだ。使い方がなっていない」

「?それはどういう…」

 

 ビー!

 

 突如、試合終了のブザーが鳴る。

 モニターを見ると一夏のSE(シールドエネルギー)が無くなっていた。

 おかしい。

 いくらミサイルの直撃を受けたからって第一次移行で満タンになったSEが0になるなんて。

 

「零落白夜は自身のSEを消費するからこその攻撃力、いわば諸刃の剣。SEの残量を考えず振り回せば瞬く間に0になる」

 

 千冬さんががピットに戻ってくる一夏にも聞こえるように説明してくれた。

 上手く扱えなければ自滅するなんてとても経験のない素人が使えるものではない。

 

「とにかく、試合はオルコットの勝ちだ。まぁクラス代表がどうなるかはわからんがな」

 

 最後の終わり方が納得いかなかったようで少々消化不良のようだ。

 こ、ここは優しく励ましてやろう。

 

「お、織斑くんお疲れ様です!」

「情けない奴だ、鍛錬を怠るからこうなるのだ」

「全くその通りだ。それでよくもまぁあんな啖呵を切れたものだ」

 

 ……しまった。

 照れくさくてついキツイ言葉を言ってしまった。

 

「うっ…ちょっとは慰めの言葉とか無いのかよ箒、千冬姉」

 

 ……あれ?千冬さんの出席簿アタックが無い。

 もしかして一夏の「千冬姉は俺が守る(意訳)」が嬉しかったのだろうか?

 

「情けなく自滅した身で文句を言うな」

 

 ますます落ち込む一夏。

 これは部屋へ戻ったら少しは労ってやろう。

 

 

 

 

 

 結局、恥ずかしくて出来なかった。無念…!

 

 

 

 

 

 

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