「というわけでして」
「なるほど」
龍仁は役所で公園使用の手続きを行っていた。
その横にはクリーブランド(溝口作の衣装着用)が座っている。
担当者は龍仁達が作った計画表をじっくりと眺める。
そしてそれを読み終えると、ニコッと笑った。
「そういうことなら大丈夫だよ。すぐに手続きをしてしまおう。他の予約が入るとせっかくのスケジュールが崩れちゃうからね」
それを聞いて龍仁とクリーブランドは顔を見合わせて笑った。
そして、担当者と一緒に手続きを済ませていく。
「それにしても……」
担当者はクリーブランドをチラッと見る。
「今年の神子さんは何というか、方向性がいつもと違うね」
「いつもと違う?」
「あぁ、いつも神子に選ばれるのはお淑やかで大人しそうな美人って子が多いからね。君みたいに活発そうな感じの可愛い子は珍しいよ」
「そ、そうですか?」
可愛いと言われるのはやはり嬉しいのか、クリーブランドは頬を緩ませる。
「今年の星帰り祭はまた違った楽しみ方ができそうで楽しみだよ」
「そうなってくれると嬉しいですね」
そんな会話をしながら、いつの間にか手続きも終わっていた。
担当者は誤字や抜けがないかどうかをチェックしていく。そして「大丈夫だ」と告げた。
2人はホッと息を吐いて、担当者にお礼を言ってその場を後にした。
「これで第一段階は終わりかー」
「次は宣伝だけど……そっちはヨルク達に任せてるから大丈夫かな」
「そうだな。とりあえず学校に帰るか。確か、青葉の取材が入ってるだろ」
「うっ、そうだった……な、何を言えばいいのかな」
「青葉の質問にそのまま答えればいいと思うぞ。さすがのアイツもこういう時に変な質問はしないだろうしさ。変に取り繕って答えようとする方が、変な答えになったりするしさ」
「そういうもんかな……」
「そういうもんだ。んじゃ、予定通り商店街経由で帰るか」
「本当にそのルートで帰るのか……」
「宣伝なんだから当然。それに、クリーブのその可愛い格好を見せない方が勿体ないだろ」
「うぅ……」
赤い顔をしたクリーブランドの手を引きながら、龍仁は商店街へと向かった。
この町の商店街は、今日も買い物客で賑わいを見せていた。
距離はあるとはいえ、ショッピングモールが町のど真ん中に出来ても尚活気が衰えないのは、近くに住宅街があるのと、昔ながらの街並みに心惹かれる人が多いからだろうか。
龍仁とクリーブランドはこの商店街を通りながら学校を目指していた。
「お、龍仁にクリーブランドちゃんか。どうした、デートか?」
見知った肉屋のおじさんがからかうように声をかけてくる。
「デッ、デート!?」
「違うよ、おじさん。今年の神子にクリーブが選ばれてさ。それで準備のために役場に行ってたんだよ」
「なんだ、違うのか。残念だな」
「というか、驚かないんだ?クリーブが神子に選ばれたって」
「クリーブランドちゃんぐらい可愛かったら神子に選ばれても不思議じゃないだろ?それに、朝からミサさんがずっと自慢してたからな。商店街のみんなは知ってるよ」
「ママってば……」
「それにしても……」
肉屋のおじさんはクリーブランドの姿をじっと眺める。
「クリーブランドちゃん……中々にエロい格好してるな」
「え、エロ!?」
まさかそんな感想を貰うとは思わず、クリーブランドは上ずった声を上げる。
肉屋のおじさんは大真面目な顔で淡々と語る。
「いや、これはエロいとしか言いようがないぞ。確かに肌の露出は少ない。だけど、体のラインがハッキリ見えるから裸同然、いや、肌が見えないからこそ胸やお尻が際立って見える。全体的に色も黒いから、申し訳程度に開いた胸元も布地や肌の白さで十分に目立つ……ふむ、これをデザイン、作成した人は天才に違いない」
そう言われると途端に自分の格好が恥ずかしくなったのか、クリーブランドは自分の体を両腕で隠そうとする。が、そのポーズが逆に周囲からの視線を集める結果になった。
「龍仁も、こんなクリーブランドと一緒にいてムラムラしたりするんじゃないか?」
「そこで俺に振らないでくれ、おじさん」
そう言う龍仁の肩をおじさんはガシッと掴む。
「いやいや、龍仁も男の子ならこういったのには正直になった方がいいぞ」
「だから、俺は……」
「ほらほら、どうなんだ?」
龍仁は困ったようにクリーブランドを見る。当のクリーブランドは、涙目になりながらも何かを期待するかのように龍仁を見ていた。
「さぁさぁ!」
「……あんた、何やってんだい?」
おじさんの背後から冷たい声が聞こえてくる。
おじさんが恐る恐る振り返ると、そこには彼の奥さん――肉屋のボスが立っていた。
「何か騒がしいと思ったら、龍仁君とクリーブランドちゃんを困らせてたのかい?」
「い、いや、困らせるつもりはなくてですね、ちょっと世間話を……」
「世間話ね……」
「はい、世間話で――ごふっ」
おじさんの頭におばさんの拳骨が落ちる。「ごすっ」という鈍い音が周囲に響く。
おじさんはそのまま地面に崩れ落ちてしまった。
「ったく、このスケベは……ごめんね、クリーブランドちゃん、龍仁君」
そう言っておばさんはにこやかに笑い、気を失ったおじさんを抱え上げた。
「あ、いえ……大丈夫です」
「ちょっと待っててね。まずこのスケベを奥に置いてきてっと……」
おばさんはそのまま店の奥へと消えていく。
そしてしばらくすると、2つの袋を持って外へと出てきた。
「はい、ウチのバカが迷惑かけたお詫びだよ。ちょっと冷めちゃってるけどね」
袋を開けると、中にはこの肉屋名物の唐揚げが入っていた。
2人とも昔から食べてきた物で、この味が大好きだった。
「わぁ、ありがとうございます!」
「いいんだよ。それと……」
おばさんはクリーブランドの肩をポンと叩いた。
「あのスケベじゃないけど……その格好、凄く可愛いと思うわよ。だから胸を張って、ね?おばさんも全力で応援するから」
おばさんはそう言って龍仁の方をチラッと見る。その「応援」に祭以外のことも含まれていることにクリーブランドは気付き、顔を真っ赤にする。その様子を見て、おばさんは「若いね!」と大笑いするのだった。
「だけど、投票の時は公平に行くわよ。これでもおばちゃん、見る目は厳しいからね?」
「……望むところ!」
それを聞いて、おばさんはまた嬉しそうに大笑いした。
それから2人は貰った唐揚げを食べながら商店街を歩いた。
肉屋のおじさんの言っていた通り、クリーブランドの母親が自慢して回っていたようで、「がんばれよ!」といった声援をあちこちから貰った。2人はその声援に応えながら、バスケの体験会の告知も忘れずにしながら歩く。
2人とも小さい頃から馴染んできた商店街である。その分見知った顔もたくさんある。そんな人達から応援されて、クリーブランドも少しだけ自信が湧いてきた。
そうしている間に、気付けば学園へと帰り着いていた。
教室へ帰る途中も、クリーブランドへの注目は集まる。毎年、華やかな女の子風の衣装で決めることが多い神子の中で、クリーブランドの衣装は異彩を放つものであった。また、それがビシッと似合うものだから、みんなが注目するのも無理はなかった。
「あ、帰ってきた」
「おかえり、2人とも」
クラスに戻ると、クラスメイト達が2人を出迎えた。
ちょうどクラス内でも話し合いの最中だったようだ。
学校内でのアピールや本番でのアピールをどうするか。それについてのことが黒板いっぱいに書かれていた。クラスメイト達の本気度合いが見て取れる。
「どうだった?」
「公園の方は使用許可取れた。商店街での評判も上々。これならすぐにでも広まるだろ」
「よしっ」
商店街はこの町の情報が行き交う場所でもある。そこでアピールできれば、すぐに町中に広まってくれる。情報発信の場としては最適な場所だ。だが、そこを使えるのは龍仁達のクラスだけではない。他のクラスでも似たような戦略を取っているところはあった。だからこそ、勝負はここからだとも言える。
「で、本番まで学校内ではどうするんだ?」
「そこが悩みどころなんだ。まず、クリーブランドがこの格好で過ごすのは決定事項」
「うぅ……やっぱり?」
「そりゃそうだよ。アピール用の服なんだから」
星帰り祭の期間内であれば、神子と守り人の服装は学園内でも自由となっている。このため、この時期にはアピール用の衣装でずっと過ごす神子が多い。もちろん、クリーブランドもクラスの方針(満場一致)でアピール用の服装で過ごすことが決定した。
「で、でもこの服……ピッチリしてて落ち着かない……」
「だってそういう風に作ったんだもん」
そう言われてしまうとこれ以上何も言えない。
「大丈夫。クリーブランドさんだけにそんなことさせたりしないから」
「え?」
クラスメイトの視線が今度は龍仁に集まる。
龍仁は何か嫌な予感を覚えて思わず後ずさる。
「……龍仁、星帰り祭のアピール期間のルールは覚えているか?」
「え、えーっと、どのルール?」
にこやかに尋ねてくるノーマンと、その横にいるオイゲン。
何故か、2人の穏やかな笑みが、龍仁には死神の笑みに見えてきた。
「服装に関するルールだよ」
「あ、あぁ。神子は服装自由なんだよな」
「そう。服装は自由なんだよ。神子も、守り人も」
「守り人」を強調して言うノーマン。
そして彼の後ろでは、獲物を捕らえる構えをする女子一行が。
もう一歩後ずさる龍仁。すると、背中に何やら柔らかいものが当たる。
振り返ると、そこにはおどおどしたシリアスの姿があった。
「えっと、シリアスさん?」
「申し訳ありません、ご主人様。陛下のご命令ですので」
そう言うとシリアスは龍仁を羽交い締めにする。相変わらずの凶悪な胸部の柔らかさに龍仁は一瞬だけ思考が停止するが、目をギラギラさせる溝口達女子一同を見て抵抗する。
「ちょっ、離して、シリアスさん!なんか身の危険を感じるから!」
「陛下からは、何が何でもご主人様を捕まえろという命を受けていますので」
「今回の私達にできそうな協力ってこれぐらいしかないもの。というわけで龍仁、大人しくみんなのオモチャになりなさい」
「オモチャ!?オモチャって言ったな、エリー!」
「じゃ、シリアスさん。桐原君を更衣室に連行しちゃって」
「女子更衣室でいいのですか?」
「うん、いいよ」
「良くねえよ!」
龍仁は必死に抵抗するものの、シリアスの力には敵わず、抵抗空しく連行されて行くのだった。ちなみに、女子更衣室には幸い誰もいなかった。
「さて、龍仁。気分はどうだ?」
「良くはない」
連行された龍仁は15分ほどしてから戻ってきた。
戻ってきた龍仁の服装は、クリーブランドの服装から装飾品を削ってもっとシンプルにしたような、そんな服装だった。
「あれ?着心地悪い?」
「いや、着心地は凄く良いんだよ」
「だよね。これでも自信作だし」
クリーブランドの物と違って、龍仁の方は体のサイズに若干余裕があった。作った溝口曰く、「敢えてサイズを少し大きめに作っている」とのこと。その上使っている素材も良いのか、着心地自体はかなり良い。ちなみに、何故溝口が龍仁の体のサイズを知っていたかというと、以前海に行った時にサイズを覚えた、だそうである。それを聞いて龍仁は素直に「凄い」と思ってしまった。
「じゃあ何が良くないんだ?」
「ノーマン、お前はいきなり女子更衣室に連れ込まれた挙句に、無理矢理脱がされそうになって良い気分になるか?」
「俺は憧れる!」
「ヨルク、お前は黙ってようか」
無理矢理脱がされて着替えさせられるのだけは何とか阻止し、龍仁は男子としての尊厳は何とか守った形になった。
「まぁ、いいじゃないか。で、服の方はどうだ?」
「……正直、もっとヤバいのを着させられる覚悟をしてたから、安心はしてる」
「そこは大丈夫だろ。もっとみんなを信用しろよな」
「黒板に書いてる文字と、他にも用意されてた選択肢がなければもっと信用したかもな」
黒板に書かれた「龍仁女装案」の文字。そして、実際に更衣室で女装の選択肢を突きつけられたことで、「いつかヤバい暴走をするんじゃないか」という龍仁の不信感が強まった。
「それはともかく……龍仁、クリーブランドと並んでみなよ」
「分かった」
龍仁はクリーブランドの横に立つ。
「うん、良い感じ良い感じ」
クラスメイト達は満足したように頷いた。
龍仁の方の服装が地味な分、派手な装飾が付いているクリーブランドの方が際立って見える。かといって並んでいて不自然というワケでもない。これなら、一緒に行動するだけでもかなりポイントを稼げそうである。
守り人である龍仁も使って票を集める。それが、このクラスで決まった作戦である。
「……で、期間中はこの格好でクリーブと一緒に歩き回ればいいんだな?」
「そういうこと。素直に受け入れてくれて助かるよ」
「クリーブが頑張ってるんだ。俺が一人ワガママ言うわけにもいかんだろ」
「龍仁……」
「ちなみに、発案者はエリザベスさん」
「エリーが?」
「だって、せっかくなら龍仁の晴れ姿?も見たいんだもの」
エリザベスが顔を赤くしながらそう言った。
せめてこういう形でいいから龍仁と関わりたい。そういう想いが伝わってくる。
「それに、龍仁は以前エリザベスさんので特集も組まれて知名度もそこそこあるから、そういった点でも上手く利用できると思うんだよな」
「なるほど……」
「まぁ、人によってはエリザベスさんとクリーブランドで2股してるようにも見えるかな」
「やっぱやめていいか?」
「ヨルクが馬鹿なこと言ったのは私が謝るから、クラスのためにもお願いするわ、龍仁」
ヒッパーはヨルクの頭を机に押し付けてそう言った。
「うーん、でもやっぱり女装してもらった方がインパクトが……」
「それだけは絶対やらねえからな」
「ちぇー、絶対似合うのに」
「嬉しくねえよ」
そんなやり取りをしている横で、クリーブランドは顔を赤くしていた。
「……デザインはちょっと違うけど、やっぱりお揃いで嬉しい?」
「ひぅっ!?」
オイゲンに耳元でボソッと呟かれ、クリーブランドは変な声を上げてしまった。
「どうした、クリーブ」
「な、何でもないぞ!オイゲンが急に変なことをするから!」
「あら、変なことって何かしら?」
オイゲンはクスクスと楽しそうに笑っている。この顔の前では何を言っても勝てる気がしなかったので、クリーブランドは悔しそうにしながらも大人しくする。
「……それで、どうなのかしら?」
「……言わなきゃ、ダメか?」
「言わなくてもいいわよ。その顔を見れば分かるから」
オイゲンの言う通り、クリーブランドは緩む頬を抑えるのに必死のようであった。
服装がどういうものかはともかく、これまでで龍仁とクリーブランドは「お揃い」というものをしたことがなかった。カップルでもないので当然と言えば当然なのだが、それに憧れていなかったと言えば嘘になる。それがこういう形で叶ったのだ。彼女自身、嬉しい反面どうしていいのか分からなかった。
「クリーブ、大丈夫か?顔が真っ赤だぞ」
「ふぇっ!?だ、大丈夫だ!」
「そうか?風邪とかなら無理はするなよ」
「う、うん……」
「……あぁ、もう!やっぱり我慢できない!」
溝口がガタッと立ち上がる。
「桐原君!やっぱり女装も試そう!せっかく作ったのに試さないなんてもったいなさ過ぎるよ!むしろこっちの方が気合入れて作ってるんだから!」
「断固拒否する」
「だがそれを拒否する」
いつもはストッパーであるはずの溝口がかなり暴走していた。
彼女が合図をすると、先ほど龍仁を連行したメンバーも立ち上がる。
「……クリーブ、お披露目を兼ねて一緒に歩き回るか!」
「あっ」
「あっ、逃げた!」
龍仁はクリーブランドの手を掴むと、逃げるように教室から飛び出した。
「まさか溝口さんがあそこまで暴走するとは……」
龍仁は追手が来ていないことを確認して息を吐く。
イベントの雰囲気の恐ろしさを肌で感じるのだった。
「あ、あの……龍仁」
「ん?」
「その、手……」
クリーブランドに言われて、手を繋ぎっぱなしであることに気付いた。
「あ、悪い」
そう言って龍仁はクリーブランドの手を離す。
離される時、クリーブランドは思わず「あっ」と声を上げてしまった。
「……言わなきゃよかったかな」
「何か言ったか?」
「な、何でもない!」
クリーブランドは頭をブンブンと振った。
「とりあえず、今教室に帰るのは危険すぎるから、アピールも兼ねてちょっと歩こうぜ」
「い、いいのかな。みんな色々考えてくれてるのに、私達が教室にいなくても……」
「大丈夫だろ。アイツらなら好き勝手考え……いや、俺達がいないと余計なことを決めそうで逆に危険か?」
龍仁は何やらブツブツと考え込む。
だが、考えても仕方ないと結論付けた。
「まぁ、青葉の取材の時間までに帰れば大丈夫だろ。とりあえず、他のクラスがどんな感じか見てみようぜ。他のクラスの神子も気になるしな」
「そうだな。それじゃ、行こうか」
そう言って2人は並んで歩くのだった。
「ん?アレって長良とヘレナさんか?」
「あ、本当だ」
2人が歩いていると、長良とヘレナが話しているところに出くわした。
2人とも楽しそうに話しているので、ただの世間話のようだ。
「おーい、長良、ヘレナさん」
「ん?あ、龍仁君」
「クリーブランドも」
長良とヘレナも2人に気付き、駆け寄ってくる。
「どうしたの、2人でお出かけ?」
「お出かけというか、逃げてきたというか……」
「逃げてきた?」
龍仁は教室で起きたことを2人に話す。
「あはは、龍仁君のクラスも気合入ってるんだね」
「気合入りすぎて暴走するのは勘弁なんだけどな……」
「でも、龍仁君の女の子姿もちょっと見たかったなぁ」
「長良までやめてくれ……」
「えへへ、冗談だよ。2人とも、その格好凄く似合ってるよ」
「うん、私もそう思うよ」
「ありがとう。長良とヘレナさんも可愛いと思うぞ」
長良とヘレナもそれぞれのクラスの神子に選ばれたのか、いつもの制服とは違う格好をしている。
長良はピンクを基調とした和服姿。少々派手な衣装ではあるが、それを違和感なく着こなしているのは、長良の華やかな笑顔の為せる業であろうか。
一方のヘレナは、簡素な服にエプロンという一見地味な服装。なのだが、それをヘレナが来ていると不思議と目を引く魅力がある。安心感を感じると言ってもいい。少なくとも、派手な長良が隣にいても全く見劣りすることがない。
2人とも、さすがは神子に選ばれただけのことはある存在感だ。
「えへへ、ありがとう」
「ふふっ、お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞なんかじゃないって。なぁ、クリーブ」
「あぁ。私も可愛いと思う」
「ありがとう」
「それで、2人はどうしたんだ?」
「私はアピールがてらにちょっとお散歩」
「私も似たような感じね。そしたら長良さんがいたから、一緒に話してたの」
「そっか」
「それにしても……守り人の衣装も自由っていうのは盲点だったかなぁ」
「うん、やり方次第ではかなりポイントアップになりそうだし」
2人は龍仁をジッと見ながらそう言った。
守り人の服装自由というルールこそあるものの、今までの星帰り祭では守り人まで着飾るという作戦に出たクラスはほとんどなかった。神子が主役なので当然といえば当然なのだが、だからこそいい着眼点だったと言える。
「っと、人が集まってきたな」
いつの間にやら、4人の周囲には人だかりができていた。
存在感の凄まじい神子が3人も集まっているのだ。注目されないわけがない。
「ホントだ。身動き取れなくなる前に移動した方がいいかもね」
「それじゃ、また」
「うん。えへへ、康大にどんな服着てもらおうかなぁ」
そう言って長良とヘレナは足早にその場を後にした。
「さて、俺達もそろそろ戻ろうぜ。青葉の取材が始まっちまう」
「だ、だな」
2人も駆け足でその場を後にした。
人混みに揉まれてはぐれないよう、自然と2人で手を繋いでいたのだが、それに気付いたのは教室に帰り着いてからだったという。
この日から、「守り人でもアピールをする」という作戦は学園中に広まり、翌日から多くのクラスがその作戦を採用し、作戦を練り直すこととなる。
「んじゃ、これで取材は終わりだよ」
空き教室。そこに龍仁、クリーブランド、青葉、グリッドレイの姿があった。
15分ほどの取材も終わり、4人はふぅと息を吐く。
「意外と普通のことしか聞かれないんだな」
龍仁は思わずそう言った。
質問内容は「今回の意気込み」や「アピールポイント」など、無難なものが多く、踏み込んだ内容の質問はほとんどなかった。
「個人的にって話なら聞きたいことはたくさんあるけど、質問内容は統一しなきゃ不公平になっちゃうからね。そこはしっかりと守らないとね。それに、あんまり踏み込んだ質問しちゃうと、変なトラブルの元にもなりかねないし。本音を言うなら、もっと根掘り葉掘り聞きたいんだけどね」
いつもは調子に乗って余計なことをすることも多い青葉だが、そういったところはしっかりしている。だから、龍仁達も安心して取材を受けることができる。
「それと、やっぱり龍仁かなぁ」
「俺?」
「うん、守り人まで着飾るってのは予想外だったからね。写真に入れられないのが残念だよ」
「もう他の神子さんの写真も結構撮ってるからねー。そっちは守り人さんを入れてないから、龍仁君を入れるのは不公平だしね」
「んー、いい絵になるだけに惜しい」
「ね、個人的に写真撮っていいかな」
「いいんじゃないか?クリーブは?」
「私も構わないぞ」
「よしっ。それじゃ、並んで並んで」
龍仁とクリーブランドは言われた通りに並んで立つ。
そしてグリッドレイがカメラを構え、数枚写真を撮った。
「……ん、良い感じ」
「ちょっと見せてくれないか?実はまだ自分がどんな感じなのかじっくり見てなくてさ」
「いいよ、ほら」
そう言ってグリッドレイはカメラのモニターを龍仁達に見せる。
そこには、バッチリと決めた龍仁とクリーブランドの姿があった。
「へぇ、こんな感じなのか」
「どう、龍仁君。自分でもカッコいいって思うんじゃない?」
「そこで『そうだな。俺ってカッコいいな』なんて言ったらナルシストになるだろ」
「うん。私も若干引くかも」
「じゃあ聞くな」
「……」
「どうしたの?クリーブランドさん」
「え?あ、いや……い、意外と女の子らしい格好だったな、って思って……」
最初見せられた時は男物にしか見えなかったクリーブランドの衣装。だが、こうやって見てみると、体のラインを際立たせるデザインになっており、意外と女の子らしさも強調されている。装飾以外のデザインは隣に立つ龍仁の服装とあまり変わらないのに、不思議なものであった。
「かっこかわいいってやつかな。実際、クリーブランドさんにはぴったりな衣装だよね」
「うん。私も一目見て正直ドキッとしたもん」
「本番になったら男女問わず告白ラッシュ来るんじゃない?クリーブランドさんに」
「せめて男女は問うてほしいんだけどなぁ……」
クリーブランドは複雑そうな表情をする。
男子からはともかく、女子からモテることが多いのは自覚がある。クリーブランドにはそれが複雑な気分であった。
「っと、そろそろ次の取材の時間だね」
「そっか。それじゃ、俺達はそろそろ出ないとな」
「今日はありがとうね」
「こちらこそ」
「がんばってねー」
青葉とグリッドレイは、教室から出る龍仁とクリーブランドを見送った。
2人以外誰もいなくなった教室内。
青葉はこそっとグリッドレイに声をかけた。
「……グリッドレイちゃん」
「分かってるよ。ちゃんと龍仁君だけの写真も撮ってるから」
「……ありがとう」
教室内では人知れずそんなやり取りが行われるのであった。
龍仁とクリーブランドが教室へ戻る途中のことだった。
「お、ジャン」
「ん?龍仁か」
たまたま2人はジャン・バールと出くわした。
「どうしたんだ、2人とも。散歩か?」
「いや、さっきまで青葉の取材受けてた。ジャンは?」
「オレは今からその取材だ」
「そっか。それにしても……」
2人はジャン・バールの姿をジッと見る。
「……すっごい格好だな」
「うん」
ジャン・バールの服装は、一言で言えば「海賊」である。
遥か昔の物語に出てきそうな、海賊の親玉のような服装と帽子。これがまたジャン・バールにはピッタリと似合っている。それに加えて、ギリギリまで短くしたミニスカートに大きく開いた胸元など、しっかり女性らしさも強調させている。
「な、なんだよ。変だって言いたいのかよ」
「いや、何というか、すごくいいと思うぞ。ジャンらしさも出てるし、ちゃんと可愛いし」
「……口説いてんのか?」
「ちげーよ」
「ま、世辞だったとしても嬉しいよ。ありがとよ」
そう言いながらも、ジャン・バールは少しだけ嬉しそうに笑った。
案外、この服装が気に入っているようだ。
「そういうお前らはお揃いの服なんだな」
「デザインはちょっと違うけどな」
「ふーん……確かに、守り人も服装は自由だったもんな」
ジャン・バールは2人の姿をまじまじと見て、ニヤッと笑う。そしてクリーブランドの方を見た。
「良かったな、クリーブランド。お揃いで」
お揃い、を強調するジャン・バールに、クリーブランドは顔を赤くする。
「お、お揃いって……」
「違うのか?」
「……」
「クリーブランドは相変わらずだな。分かりやすいというか」
「俺もそう思う」
「お前はもっと分かってやれ」
何故か怒られた龍仁は、意味が分からずに首を傾げた。
「っと、そろそろ取材始まるんじゃないか?」
「そうだった。それじゃ、またな」
「あぁ」
ジャン・バールは2人に手を振って早足で去っていった。
「んー、やっぱりジャンは強敵になりそうだよなぁ」
「でも、ここまで来たからには私も負けるつもりはないぞ」
「うん、その意気だ、クリーブ」
2人は改めて教室を目指して歩き始めた。
放課後。
クラスメイト達は相変わらず作戦会議に熱中している。
星帰り祭までのこの期間の準備で勝敗のほとんどが決まると言っていいのだ。最後まで彼らも必死に作戦を練りに練ることだろう。当のクリーブランドが部活で今いないため踏み込んだ内容の話し合いはできなかったが、それでも自分達にできることを探していた。
その様子を、龍仁は自分の席から呑気に眺めていた。
「いいのか、龍仁」
「何がだ、摩耶」
摩耶も呑気に本を読みながら龍仁に話しかける。
「お前、一応当事者だろ。その当事者が話し合いに参加しなくても」
「さっきちょっと参加したんだけど、当事者のはずなのにアウェーだった」
踏み込んだ議論こそしないものの、話し合い自体は当事者であるクリーブランドと龍仁を置いていく勢いで行われた。それこそ、龍仁が意思表示をする隙すら無いほどだ。
というわけで、何か同意を求められたらそれに応えればいいか、といった気持ちで、自分の席でのんびりと過ごすことに決めたのだった。
「そっか。そういえば、クリーブランドはあの服装で部活に行ったのか?」
「いや、さすがに部活は部活できっちりしたいからってユニフォームに着替えてたはずだ」
「それもそうか。にしても……」
摩耶は龍仁の姿をまじまじと見つめる。
「……龍仁、コスプレとか興味あるか?」
「コスプレ?」
「あぁ、龍仁ならそういうの良いんじゃないかなと思って」
「いや、興味とかは別に……」
「実は夏休みにレイヤーが集まる集会みたいなのがあるんだ。知ってるレイヤーさんも参加するから僕も挑戦してみようかなって思ってるんだが、一人だと心細くて」
摩耶は期待するような目で龍仁をじーっと見る。
こんな目で見られて拒否できる男がこの世に何人いるだろうか。
「……分かった、考えとく」
「ありがとう、龍仁!」
摩耶は嬉しそうに龍仁の手を取る。よほど嬉しかったようだ。
「え、何?2人ともコスプレするって?」
にゅっと椎名がどこからともなく生えてくる。
「話し合いは良いのか、椎名さん、溝口さん」
「うん、一段落したからね。で、コスプレするみたいな話を聞いたけど」
「まだ考え中だけどな」
「ふぅん、もしもやる時は私に言ってね。全力で協力するよ」
「いいのか、溝口さん」
「うん、そういう服作りってやっぱり楽しいからね」
「ありがとう。その時はお願いするよ」
「任せて!……その代わり」
溝口と椎名はぐるりと龍仁の方に首を回す。
「……桐原君、分かってるよね?」
「な、何をだ?」
「無償でやってあげるから、代わりに、ね?」
2人が何を言おうとしているのか理解して、龍仁は思わずたじろぐ。
「……摩耶、やっぱりコスプレは」
そう言おうとした龍仁だったが、すぐに口を閉じた。
摩耶は既に集会に参加する楽しみでウキウキしている。そんな彼女に今更「やっぱやめよう」と言えるだけの度胸を龍仁は持っていなかった。
「じゃあ、楽しみにしてるからね?」
「うん、心置きなく着せ替え人形になっちゃってね」
「……」
龍仁にはもう諦める以外の選択肢が残されていなかった。
仕方なく龍仁は2人と約束を交わし、後日溝口の作品を着ることとなった。
「お、いい感じだぞ。その調子!……っと、でもちょっと甘いな」
休日。クリーブランドは中央の公園にあるバスケットコートで子供達や同年代の人とバスケをやっていた。この日はクリーブランドの宣伝も兼ねたバスケの体験会の最終日。これまでの体験会の評判や商店街での宣伝効果や、去年ニュースにもなったクリーブランドの実績もあり、集まった希望者や見物客は想定よりも多かった。クラスメイト達が集まった人達を何とか上手く回していた。
クリーブランドは手を抜きすぎず、かといって本気になりすぎずのちょうどいい力加減で体験希望者の相手をしていた。彼女が本気になってしまえば、普通のバスケプレイヤーでも相手にならないだろう。だからこそ力加減が大事なのだが、その辺りの調整をしっかりできているのは、彼女の実力が為せる業か。
「よっと!ほら、そこだ!――うん、いいぞ!ナイス」
参加者にもボールが回るように気を配り、ゴールのアシストも欠かさない。
自分が活躍するだけでなく、ちゃんとみんなが楽しめるように他の人達も活躍させる。
彼女の見せ場とその気配りのおかげで、数回あった体験会はいずれも大盛況であった。
「……そろそろ時間だな」
龍仁は時計を確認する。もう少しで終了の時間になる。
そして――
ピィイイイイイイイイイイ!
「時間になりましたので、参加者の皆様はコート中央にお集まりください」
龍仁のアナウンスで、参加者とクリーブランドはコートの中央に集まる。
クリーブランドは少しだけ息を整えると、参加者に向かって言葉をかける。
「今日で体験会も終わりになるけど、楽しかったか?」
参加者達は眩しいぐらいの笑みで頷く。それだけで、彼らの満足度が分かるようだった。
それを見てクリーブランドも嬉しそうに笑う。
「うん、私も楽しかったよ。これで終わるのが名残惜しいぐらいだ……」
彼女のことだから、本音なのだろう。
少ない回数だったが、それでも新しい顔見知りができたり、色んな人から感謝の声をかけてもらえたり。彼女にとっても充実したイベントになっていた。
「お姉ちゃん、また一緒に遊んでくれる?」
参加者の一人の子供がそう言った。
それを皮切りに、他の子供達も「また遊びたい」と声を上げ始める。
その言葉を聞いたクリーブランドは、少しだけポカンとした後に目頭を押さえ、そして参加者達に負けないぐらいの眩しい笑顔を見せた。
「そうだな。また一緒に遊ぼうな」
そして、最後の体験会が終了し、解散となった。
解散した後もクリーブランドの周りには子供達が集まり、その子供達の親達もクリーブランドにお礼を言っていく。そして、一人、また一人と彼女に手を振ってその場を去っていく。最後にはコートの中には、クリーブランドと龍仁だけが残されていた。
「……」
これまでのことを思い出しているのか、クリーブランドはコートをジッと見つめていた。
龍仁はそんな彼女を黙って見つめていた。
「……龍仁、楽しかったな」
クリーブランドはポツリとそう言った。
「そっか、楽しかったか」
龍仁はそれだけ言った。それ以上の言葉は無粋だと思った。
「……私、神子に選ばれて良かったかも」
「そっか」
最初は勢いだけで承諾した神子という役。
だが、今では心からやって良かったと思えるようになった。
「バスケでアピールする神子ってのも新しいけどな」
「そうだな」
そう言って2人ともおかしそうに笑う。
「……だけど、まだまだこれからだぞ。星帰り祭はまだ始まってすらいないんだから」
「そうだな」
「……それじゃ、帰ろうか」
「うん、帰ろう」
2人はコートの外で待つクラスメイト達のところへと向かうのだった。
星帰り祭本番まで、あと1週間のところまで迫っていた。
「つまり、卿らは重桜の星隠れの現象にセイレーンが関わっていると見ているのか」
「少なくとも、本国の王立研究所の研究員はそう見ています」
「ふむ……実はこちらの研究所でも似たような説が唱えられていた」
「そちらでもか」
「だが、その根拠がまだ手に入っていない」
グラーフ・ツェッペリン達はアズールレーン重桜支部のとある一室で話をしていた。
「支部長、重桜の方では研究はどこまで進んでいるのだ?」
「……正直なところ、何も分かっていないというのが現状だ」
アズールレーン重桜支部支部長は戸惑ったような表情を浮かべる。
「そもそもこの星隠れの現象で起きる脅威は無いに等しい。そんな現象の研究に優先的に資金を回す必要もない、というのが重桜政府の方針なのだ」
「ふむ……まぁ、妥当だな」
「もしもセイレーンとの関連性が見つかれば話は変わってくるだろうが……」
「その為にも……この3人とのコンタクトを早めに取る必要がありそうだな」
4人は机の上に置かれた写真を見る。
そこには3人の少女の姿が映っていた。
遠目でハッキリとは分からないが、淡い紫色の髪に金色の瞳……
かつて世界中で猛威を振るったセイレーンの特徴を、3人とも持っていた。
「ところで、ユニオンからも研究名目で派遣されてくるという話を聞いたが」
「あぁ、それは……彼女からの要望で、会ってからのお楽しみだそうだ」
「ということは……私達の知っている誰か、ということですわね」
「ふむ、楽しみだな」
「それと……実はもう一人協力してくれる人がいるんだ」
「我らの知る人物か?」
「いや、恐らく君達は知らないだろう。何せ、我々も知らなかったのだから」
「?どういうことだ?」
「それは……」
その時、部屋の扉がノックされた。
「む、来たか。入っていいぞ」
『失礼する』
そう言って入ってきたのは、一人の男性であった。
歳はまだ30歳ぐらいだろうか。無精髭を生やして気怠そうな表情をしているが、どこか達観したような、幾つもの修羅場を切り抜けてきたかのような、そんな雰囲気を纏っている不思議な人物であった。
「紹介しよう。彼が……えーっと……」
「あ、名前だっけか。そうだな……『博士』は何か嫌だしなぁ。まぁ、適当に呼びやすいように呼んでくれ」
「はぁ……?」
グラーフ達はポカンとした顔で男を見る。
「これでも財団の研究員をしていた……って言っても伝わるかどうか分からんな。ただ、ある程度は力になれると思う。たぶん、短い付き合いになるだろうが、よろしく頼む」
突如現れた不思議な男性に、グラーフ達は戸惑うことしかできなかった。
ラストで少しわかりづらいネタをぶっこんでいますが、サブストーリー的な話で出す人物で、メインの話には関わる予定は無いので、あまり気にしなくてもいいです。