「毎度ありにゃー」
明石は購買部でいつものように働いていた。
足りなくなった文房具を買いに来る生徒や、小腹を満たすためのパンを買いに来る生徒。
大賑わいというわけではないものの、それなりに生徒達が顔を見せてくれる。
明石としては賑わった方が嬉しいのだが、あまり忙しいとそれはそれで面倒なので、これぐらいがちょうどいいと思っていたりする。
「ふぅ……」
購買部に来る生徒も落ち着き、明石は小さく息を吐く。
「……」
そして、購買部の入り口をチラッと見る。
そこには、何かを迷っているかのような男子生徒の姿があった。
もう5分ぐらいそこに立っており、何かを買おうとしているのは確かなのだが、中々決心が付かないようであった。
「……」
だが、明石も何もしないし、声もかけない。
彼のような生徒はこの時期になると珍しくない。彼が何を買おうとしているのか、何を迷っているのか、明石には大体予想ができていた。だからこそ、本人の問題なので明石が声をかけるのは無粋になってしまう。
明石は作業をしながらその男子生徒の動きを伺った。
そのまま帰るならそれでもよし、こちらに来るなら対応するだけ。
「……!」
その男子生徒はしばらく俯いてから、決心したかのように購買部に足を踏み入れる。
明石は「いらっしゃいにゃー」と言いながら、背後からあるものを取り出した。
「あ、あの!」
その男子生徒は顔を赤くしながら明石に声をかける。
「えっと、その……あ、アレはありますか?えっと……」
勇気を振り絞ってはいるものの、まだ迷いがあるのか、男子生徒は消え入りそうな声でそう言った。明石はそれを見て、あるものを差し出した。
「これかにゃ?」
それは、購買部で取り扱っているケッコン指輪のレプリカ。
恋人同士が買っていったり、告白用に買う生徒がいる商品だ。
「あ、う……は、はい」
彼は恥ずかしそうに俯く。明石は「やっぱり」と苦笑いをした。
星帰り祭の時期になると、神子への投票の時に直接神子に想いを伝える生徒が毎年後を絶たない。そんな中で、購買部で購入したケッコン指輪を神子に渡す生徒もいる。レプリカとはいえ、学生にとっては決して安くはないケッコン指輪。それを人前で想いを込めて渡すのだから、その本気度は計り知れない。
この男子生徒も、本気なのだろう。表情にはまだ迷いこそ見られるものの、その目には強い意志のようなものが見える。
「それで、買うのかにゃ?」
明石はそう尋ねた。
男子生徒は少し俯き、そして顔を上げた。
「は、はい!お願いします!」
「それじゃ、値段はこちらになるにゃ」
男子生徒は明石に提示された金額を支払い、指輪を受け取った。
「……これで」
男子生徒は、指輪を大事そうに抱える。
それだけで、彼の純粋な気持ちが伝わってくるようだ。
「……それで?」
「はい?」
「誰に渡すつもりかにゃ?」
明石は興味津々といった様子で尋ねる。
「え、え、こ、答えなきゃダメ、ですか?」
「明石が興味本位で聞いてるだけにゃ。答えたくなければ答えなくていいにゃ」
男子生徒は少し困ったような顔をしたが、すぐに「うん」と頷いた。
「じ、実は……」
「実は?」
男子生徒が答えようとした時だった。
休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。
「あ、もう行かないと!」
「そっか。それじゃ、本番は頑張るにゃ」
「は、はい!」
男子生徒はそう言って走り去っていく。
「結局、誰だったのかにゃ……ま、本番になれば嫌でも耳に入るからいいかにゃ」
そう言って明石は仕事を始めた。
「……クリーブランドさん」
男子生徒は指輪を抱え、教室へと走りながらそう呟くのだった。
「おぉ、これが星帰り祭なのか!」
フィーゼは目を輝かせながら辺りを見渡した。
星帰り祭1日目。
学園高等部の中庭、校庭、そして校舎はまさに「祭」の色で染まっていた。
様々な出店が並び、それを盛り上げる人々で賑わう。
町全体が参加するだけあって、その活気は凄まじいものがあった。
「これら全てを見て回れるだろうか……!」
「祭は4日間あるから、今日で全部見て回る必要はないんだぞ」
「それもそうだな」
フィーゼはソワソワした様子でキョロキョロと顔を動かしている。
早く見て回りたい。そんな気持ちが伝わってくるようだ。
「それじゃ、溝口さん。フィーゼのこと頼んだ」
「任せて。桐原君も、クリーブランドさんのことよろしくね」
「任せろ。じゃ、フィーゼ。溝口さん達とはぐれないようにな」
「分かった。よろしく頼む、溝口」
フィーゼは溝口と手を繋ぎ、そして彼女達の集団は人混みへと消えていった。
「あの、ご主人様。本当に私がついていかなくてよろしいのですか?」
シリアスが不安そうな顔でそう尋ねてくる。
「大丈夫大丈夫。俺と一緒だとシリアスさんも目いっぱい楽しめないだろうし、どっちかというとエリーの方が心配だしな」
「どういう意味よ」
「遊園地行った時にしょっちゅう迷子になってたのはどこの誰だ?」
「それは昔の話でしょ!」
「というわけで、エリーを頼むよ。せっかくだからシリアスさんにも楽しんでもらいたいし」
「……分かりました。ご主人様がそう仰るのでしたら」
「そうと決まれば早速行くわよ!さっき面白いお店があったのよ!」
そう言って駆け出そうとするエリザベス。しかし、ピタッと足を止めるとすぐに龍仁の方へと戻ってくる。
「……クリーブランドと2人っきりだからって変なことするんじゃないわよ?」
「しねーよ」
どうだか、と言ってエリザベス達は今度こそ人混みの中に消えていく。
「さて、と。そろそろクリーブも着替え終わってる頃かな」
龍仁はクリーブランドとの待ち合わせ場所へと向かうのだった。
「あ、龍仁先輩!」
クリーブランドとの待ち合わせ場所――女子更衣室前に行くと、そこにはポートランドの姿があった。すでに彼女は「神子」の正装に着替え終わっていた。
「よっ、ポートランド。和美待ちか?」
「はい。先輩はクリーブランド先輩と?」
「そ。まだ終わってないみたいだけどな」
周囲には着替え終わった神子が数人見える。どうやら、彼女達も守り人役と待ち合わせ中のようだ。その中に、ポートランド以外は龍仁の見知った顔はなかった。
「ところで、どうです?」
「どうです、って何が?」
「決まってるじゃないですか、この衣装ですよ」
ポートランドは両手を広げてその姿を龍仁に見せる。
「うん、いいんじゃないか?可愛いと思うぞ」
「でしょでしょ?なんたって私が着てるんですからね!」
ポートランドは「ふんす」と得意げな表情を見せる。
「でも、ちょっとこれ際どいかなって思ったりもするんですよね……胸元開いてますし、その……横も開いてるので、これ中に何も着てなかったら丸見えですよね?」
彼女の言う通り、神子の衣装は横が開いているためほとんど丸見え状態である。一応中にインナーは着ているため直接は見えないが、それでも煽情的な格好であることに変わりはない。
「星帰り祭初代実行委員長の趣味だったらしいぞ。一応本来の星帰り祭の神子衣装をベースにしているらしいけど、本物はもっと露出抑え目なんだよなぁ」
「……誰か変えようって言わないんですかね」
「毎年神子から『変えてくれ』って意見は出るらしいんだが、それ以上に好評だから毎年変わらずこの衣装だそうだ」
「……男の人って」
「……そんな目で見られても困るぞ」
「あ、た、龍仁……」
その時、聞き慣れた声が聞こえた。
2人が声の方を向くと、そこには神子服に着替えたクリーブランドの姿があった。
「お、着替え終わったか、クリーブ」
「あ、あぁ……でもなんか、横とか開いてて落ち着かないんだが……」
「ポートランドと同じこと言ってるな。でも、似合ってると思うぞ」
「そ、そうか?」
龍仁にそう言われてクリーブランドは頬を綻ばせる。
「うんうん、クリーブランド先輩似合ってますよ!」
「あ、ありがとう。ポートランドも似合ってるぞ」
「えへへー、これはお互いいいところまで行けそうですね!」
「そういや、ポートランドは準備期間にどんな活動してたんだ?」
「えっと……清掃活動とかボランティアでしたね。何というか、いい案が中々思い浮かばなくて……」
「そっか。でも、そういうのも大事だと思うぞ。助けてもらった人はちゃんと覚えててくれるからな。自信持て」
「は、はい!ところで、この後も一応行動は自由なんですよね?」
「あぁ、大声でアピールするもよし、普通に遊ぶもよしだ」
「……この後のプラン全然考えてないんですけど、どうすれば……」
「適当に遊んどけばいいんじゃないか?俺達はそのつもりだぞ」
「あれ?そうなんですか?アピールとかは?」
「神子の衣装で歩き回るだけでもアピールにはなるし、下手にアピールしてもみんな遊ぶのに夢中で気付いてくれないことが多いしな。だから、自分達も楽しんだ方がずっといい」
少なくとも、去年はそうだった。初日はみんなで長良のアピールに努めていたのだが、みんな祭りに夢中でほとんど効果が無く、結局「じゃ、解散で」ということになった。結果的に、普通に楽しんだ方が注目も集まった。
その経験もあり、今年は「クリーブランドには好きに遊ばせよう」ということになった。
「そうなんですか」
「とは言っても、アピールも兼ねるからどういう順序で遊ぶかってのも大事になるけどな」
「……へぇ、それならインディちゃんとも一緒に楽しめますね!」
「そうだな。ところで、勝手が分からないなら一緒に回るか?一応、それなりに考えたルートで回るから、ポートランドにとってもいいアピールになると思うぞ」
龍仁の提案に、ポートランドは「うーん」と唸り、そしてちょっと残念そうに笑った。
「ありがたいですけど、遠慮しておきます。せっかくだから自由に遊びたいですし」
それに、とポートランドはクリーブランドを見た。
「……お邪魔するのも悪いですしね」
「お邪魔?別に邪魔じゃないぞ」
「もう、そういうところですよ、先輩」
ポートランドはぺしっと龍仁を叩く。
「それじゃ、時間も勿体ないですし先輩達は行っちゃってください。和美があとどれくらいで来るのかも分かりませんし」
「そうか?それじゃ、行くか、クリーブ」
「そ、そうだな」
クリーブランドはチラッとポートランドを見る。
ポートランドは「頑張ってください」とウィンクをした。
「……インディちゃんも中々手強い人を好きになっちゃったなぁ」
遠ざかっていく2人を見送りながら、ポートランドはそう呟いた。
「さて、今日は予定通り校庭と中庭だな」
「うん」
龍仁とクリーブランドはまず中庭へと足を運んでいた。
初日であれば校外から来た人の多くはまず中庭や校庭を回ることが多い。学校生徒へのアピールは準備期間の中で十分やって来ているので、外から来た人達をターゲットにする必要がある。そのため、2人はまずそういった人達が集まるであろう中庭と校庭を中心に回ろうと決めていた。
「んじゃ、まずは適当に……」
「お、こっちにも神子さんがいるぞ!」
突然聞こえた声を皮切りに、クリーブランドへ周囲の視線が集まる。そして、すぐさま彼女の周りに人だかりができた。
「おぉ、あっちの子も可愛かったけど、こっちも中々……」
「というか、カッコいい……」
「あれ?この子ってもしかして中央公園でバスケ教えてた子かな?」
押し寄せる人の波に、クリーブランドは思わず引き下がる。その人の波を、龍仁は何とか抑えていた。こういったことがあるから、神子を守るために守り人は付きっ切りで彼女達を守る必要がある。
「というか、アレってクリーブランドさんじゃん」
「ホントだ!去年の大会見てました!ファンなんです握手してください!」
どうやらクリーブランドの活躍を知っている人もいたようで、そういった人達がグイグイ詰め寄ってくる。さすがの龍仁も抑えるのが限界になってきた。
「龍仁、大丈夫だから」
クリーブランドは笑いながら龍仁の前に出る。
そして、目を輝かせながら彼女を見る人達と接し始めた。すると、あれだけ押し寄せてきていた人の波がすぐに収まり、ただ賑やかさだけが残った。
「わ、私、クリーブランドさんを見て今年からバスケ始めたんです!」
「去年の試合、凄かったです!」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
クリーブランドははにかむように笑いながら、一人一人と握手をしていく。
「……もしかして、俺いらなかったかな」
すぐに騒ぎを収めるのはさすがクリーブランドの人徳といったところか。
龍仁は少しだけ自分がいらないんじゃないか?と不安になる。
「あー、龍仁くーん」
「龍仁~」
すると、どこからともなく聞き慣れた声が聞こえてきた。
声の方を見ると、そこには物陰に隠れる長良と康大の姿があった。
「どうした、2人とも。お疲れの様子だけど」
「いきなり人が集まってきて大変だったんだよ~……」
「長良を守るので精一杯だったよ……」
確かに、長良ほどの美少女なら人が殺到するだろう。その光景が鮮明に思い浮かぶ。
「で、急に人だかりが引いたから、やっと脱出できたんだよ」
「何で人が引いたのかって思ったけど、クリーブランドの方に行ったのか」
「あぁ」
「……何というか、スター選手みたいな貫禄だな」
たくさんの人と楽しそうに笑い合うクリーブランドを見て、3人は「すごいなぁ」と息を吐いた。
「これさ、もしかして俺いらなかったかな、って思ったり。クリーブ一人で場を収めちゃったし」
龍仁は思わずそう2人に零していた。
2人は顔を見合わせ、そして笑った。
「そんなことはないと思うよ~。やっぱりクリーブランドさんには龍仁君が必要だよ」
「そうそう。さっき経験したから分かるけど、やっぱり人の波って怖いぞ。それをアレだけ堂々とできるって、傍に龍仁がいるからだと思うぞ」
「そうかな……」
龍仁はクリーブランドをチラッと見る。すると、クリーブランドと目が合う。
少しだけ不安そうな、それでいて龍仁へ向けてくる信頼の表情。
長良達の言うように、龍仁が傍にいるだけでも彼女は安心できているようだ。
「……それなら良かったかな。せっかく守り人に選ばれたのに、何の役にも立ちませんでしただと格好付かないし」
「うん、龍仁君はちゃんとクリーブランドさんの役に立ってるよ。だから自信持って」
花が咲くような長良の笑顔。それを見てるだけで本当に自信が湧いてくるようだ。
「あ、あそこにさっきの神子さんがいるぞ!」
「ホントだ!写真撮り損ねたから今度こそ!」
龍仁と話してたことで人目についてしまったのか、長良に再び人が群がってくる。
「わ~、ちょっと押さないで~!」
長良と康大はあっという間に人の波に攫われて行った。
残った龍仁は、クリーブランドの方を見る。
「それじゃあ、次の大会も応援してます!」
「あぁ、任せてくれ!」
こちらは落ち着いたのか、手を振りながら去っていくファンと思しき子達に、クリーブランドは手を振り返していた。
「落ち着いたか?」
「あぁ、待たせて悪かったな」
「そうでもないさ。さっきまで長良達がいたからな」
「長良達が?今はどこに?」
「えっと……」
龍仁は長良達が消えていった方に目をやる。姿こそ見えないが、その目線だけで何があったのかはクリーブランドに伝わったようである。
「さすがは長良だな……」
「クリーブも負けないようにしないと」
「そうだな。でも、さすがに人混みに揉まれるのはちょっと……」
「その時はちゃんと俺が守ってやるからさ。……たぶん」
「……ははっ、期待してるよ」
「さて、せっかくだしちょっと店を見て回るか」
「あぁ」
龍仁とクリーブランドは中庭に出ている店をぐるっと回った。
その間も人が集まることがあったが、クリーブランドはにこやかに対応していた。
「ん、龍仁とクリーブランドか」
後ろから声をかけられ、2人は振り返る。
そこには、ジャン・バールと和昌の姿があった。
「お、ジャンに和昌か。守り人はどうしたんだ?」
「和昌にオレを押し付けて『あとは頑張れ!』とか言ってどっか行ったよ。ったく、無責任な……」
「えっと、僕はお姉ちゃんと一緒に歩けて嬉しい、かな」
照れたようにそう言う和昌に、ジャン・バールも赤くなった顔を逸らす。
「龍仁、この子は?」
「ん?ジャンの親戚の子らしい」
「は、初めまして、吉元和昌です」
「へぇ、ジャンにこんな可愛い親戚の子がいたんだな」
クリーブランドは和昌の頭を撫でる。
和昌は少しくすぐったそうにしながらも、嬉しそうに撫でられていた。
「……にしても」
「ん?」
「さっき長良とも会ったけど、やっぱりみんな神子服似合ってるんだな……」
「何言ってるんだ。ジャンも似合ってるぞ」
「そういうお世辞は結構だ」
「俺がそんなお世辞言う奴に見えるか?」
「……まぁ、お世辞を言うような奴じゃないか、お前は」
「だろ?だから自信持てって、ジャン」
「でも、お前に見る目があるかどうかは別問題だけどな」
「信用ねえな、俺」
龍仁は苦笑いを浮かべる。
「それじゃあさ」
「うん?」
龍仁は和昌に近付く。
「なぁ、和昌」
「あ、どうしたんですか、先輩」
「ジャンの今の恰好、どう思う?」
「おい」
「あ、えっと……す、すごく綺麗、だと思います」
「だとよ」
「……そういうのは卑怯だと思うぞ、龍仁」
勝ち誇ったような顔の龍仁が何を言いたいのか理解し、ジャン・バールは少しだけ悔しそうな表情を見せる。
「……でも」
ジャン・バールは和昌に近付き、そっと頭を撫でる。
「お姉ちゃん?」
「……そう言ってもらえると嬉しいよ」
いつもは中々見せないジャン・バールの優しい笑み。
その表情は、思わず見とれてしまう程に綺麗だった。
「んじゃ、そろそろ行くか、和昌」
「もう行くのか?」
「せっかくだから和昌に祭を楽しませてやりたいからな」
「そっか。それじゃ」
「あぁ」
ジャン・バールは和昌の手を引くとそのまま去っていった。
2人を見送ってから、龍仁とクリーブランドはまた歩き出した。
「ふぅ、疲れた……」
この日の星帰り祭が終了し、クリーブランドは大きく伸びをした。
「お疲れ、クリーブ」
「龍仁もお疲れ」
「エリーの方はどうだった?」
「えぇ、中々楽しめたわ」
「あと3日あるから、まだまだ楽しんでくれよな」
「……あと3日も龍仁はクリーブランドに付きっ切りなのね……」
「何か言ったか?」
「何でもないわよ」
ふんっ、とそっぽを向くエリザベスに、龍仁以外は苦笑いを浮かべる。
「フィーゼはどうだった?楽しかったか?」
「あぁ。とても有意義な時間を過ごせた気がする」
「そうか。それなら良かった」
「ところで、エリザベスさん達はどうしてこっちに?屋敷は別方向じゃ」
「ん?あぁ、今日はエリー、ウチに泊まるんだよ」
「え?」
「今日星送りの日だろ。フィーゼもエリーも見たことないっていうから、一緒に見ようと思ってさ」
「そ、そうなんだ……」
そんな会話をしていると、いつの間にか龍仁の家の前に着いていた。
「んじゃ、また明日だな、クリーブ」
「あぁ。明日もよろしく」
クリーブランドは立ち去る間際、チラッとエリザベスの方を見る。
(……大丈夫。私にはまだチャンスがある)
クリーブランドはそう自分に言い聞かせ、その場を後にした。
「……」
「どうしたんだ、エリー」
「何でもないわ。行きましょう」
エリザベスは龍仁の腕を引っ張り、家の中へと入るのだった。
「……この星々が見えなくなるのか」
食後、龍仁達はベランダから星空を眺めていた。
雲一つない空には、星々が輝いていた。
「あぁ、ホントに不思議な現象だよな」
「で、その星送りはまだなの?」
「たぶん、あと少しで……あ」
龍仁が空を指さす。
フィーゼとエリザベスが空を見上げると、空に輝く星々が少しずつだが輝きを失っていく。そして、数分後には星が綺麗に見えなくなってしまった。
「これが、星送り……」
月の輝きさえも消えてしまった、漆黒の空。まるで、全てを呑み込んでしまうかのような、そんな恐ろしさが今の空にはあった。
「なんだか……恐ろしい」
「えぇ、あの空に吸い込まれそう……」
「だな。俺も毎年のように見てるけど、何回見ても怖いと思うよ。ま、実際には何もないんだけどさ」
「でも……」
「不思議と、目が離せない……」
フィーゼとエリザベスは龍仁の服を無意識のうちにギュッと掴む。
恐ろしくも、何故か目が離せない漆黒の空。
3人はしばらくの間、その空をひたすら見上げているのだった。