「ハーイ、久しぶり、みんな」
「リッチモンド!ユニオンからのサポーターはお前だったか」
海軍の研究施設。
アーク・ロイヤル達の前に姿を現したのは、かつての同僚であるリッチモンドだった。
「世界中を旅して回っているという話は聞いていましたが、まさかここで会えるなんて」
「これでも色んな国で色んな知識を蓄えてきたからね~。何かの役に立てるかなって思って。星隠れの現象についても興味はあったからちょうどよかったし。何より、久しぶりに仲間に会いたかったからね」
「我もまた会えて嬉しいぞ」
「私もだよ、グラーフ。そういえば、フィーゼちゃんは?」
「……」
「そう、やっぱり見つからないんだね……」
リッチモンドは少しだけ寂しそうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。
「それにしても、これが星隠れか~。話だけは聞いてたけど、本当に星が見えなくなっちゃうんだね」
モニターに映される夜空。雲一つない夜空であるにも関わらず、星や月の光が一切見えない。重桜だけで観測される謎の現象、星隠れがそこにはあった。
「それで、何か手掛かりはつかめているの?」
「うむ、今『博士』にそれを調べてもらっている」
「あ、やっぱり『博士』なのね……」
『博士』と呼ばれた男は、ガックリと肩を落としながらも何やら作業をしていた。
「えっと、あなたが……?」
「あぁ、今回特別参加することになった……えっと、『博士』だ」
「……その呼び名、嫌いなんですか?」
「嫌いというか、トラウマを呼び起こすというか……」
『博士』は何を思い出しているのだろうか。死んだような目で遠くを見ていた。
「えっと、『博士』って呼び名が一番しっくりくるからそうしたのだが、嫌なら変えるが」
「いや、俺としても『博士』に憧れなかったわけじゃないからな。複雑な気分ではあるが、別にそのままでも構わん」
「そうですが。それでは……」
「ところで、『博士』は今何をしているの?」
「ん?ちょっと機械の動作チェックをな……」
「機械?」
「よく分からないが、重桜を何かしらの力が覆いつくしてこのような現象が起きていると考えたようでな。それを検出する機械を作っているらしい」
「でも、そういった検証って今までもやってきてるんじゃ?」
「あぁ。だから俺の世界の技術が役に立つんじゃないかと思ってな。もしかしたら直接的なエネルギーじゃなくて、何か現実改変に近い現象が起きてる可能性がある」
「世界?現実改変?」
「ま、そこはゆっくり話せるときに話すよ。……っと、これでよし」
機材のチェックが終わったようで、『博士』は「ふぅ」と息を吐く。
「しっかし、思ったよりも技術が進んだとこだな、ここは。おかげで想定以上のものが完成したよ」
「そうか。それで、今日中には稼働できそうか?」
「あぁ。とりあえずそのセイレーンってやつのエネルギー反応を探せばいいんだろ?データさえあるならたぶん1時間もかからないと思う」
「……なぁ、グラーフ。私達の出る幕あったのか、これ」
「まぁ、元々は研究の名目で集まるのが目的だったのだ。やることがなくても気にする必要はないさ」
「ふふっ、グラーフは相変わらずね」
今も変わらないかつての仲間を見て、リッチモンドも嬉しそうにする。
「さて、さっそく動かすか。……よし、と。反応が出ればアラームが鳴るからな」
「これで何か分かればいいのですが……」
「セイレーンか……俺はよく知らないんだが、そんなにヤバかったのか?」
「えぇ、彼女達のいた時代、人類は文字通り壊滅の危機に陥りました。世界にとっては、間違いなく最悪の敵でした」
「……何か含みのある言い方だな。まるで、自分達にとっては敵じゃなかった、みたいな」
「いえ、私達にとっても間違いなく戦うべき相手でした。ですが……」
「……あまり大きな声では言えないが、私達の指揮官は、かつてセイレーンのとある個体と交流を持っていた。もちろん、互いの立場を理解した上で、な」
「そうなのか……あ、心配するな。口外するつもりはない」
「えぇ、お願いしますわ。ところで、せっかくですのであなたのお話も聞かせていただけませんか?」
「俺のか?あんまり面白い話じゃないぞ」
「構いませんわ。あなたという人を知ることが大事なのですから」
「そうか……それならまずは――」
『博士』が口を開こうとした時だった。
機械がアラーム音を鳴り響かせる。
「これは?」
「何パターンか試すつもりだったが、1発で引き当てたらしい。やっぱり現実改変が起きていたか。喜んでいいかどうか分からないが……」
『博士』はアーク・ロイヤル達を見回す。
「どうやら、この現象にセイレーンとやらが絡んでいるのは間違いない」
「さて、2日目も盛り上がっていこう!」
星帰り祭2日目。椎名はハイテンションの様子で拳を突き上げた。
「テンション高いな。どうしたんだ、椎名さんは」
「ほら、椎名ってば昨日は屋台の手伝いがあって私達……というかフィーゼちゃんと一緒に回れなかったじゃん?だから、今日はその分もあってテンション高いってワケ」
「あ、昨日椎名さんいなかったのって手伝いだったのか。てっきり溝口さんがフィーゼの身の安全のためにどっかに軟禁してるものとばかり」
「……それ、ありかもね」
「冗談だから、椎名さんをもっと大事に扱ってあげて」
本気で椎名をどっかに軟禁しそうな表情の溝口を、龍仁は何とか宥める。
「ね、ね、フィーゼちゃん!今日はどこ行きたい?」
「どこでも。椎名がいてくれれば、どこでも楽しい気がする」
「グハッ」
椎名が頭を押さえてよろめく。
そしてフラフラと龍仁の方に近付き、龍仁の肩をガシッと掴む。
「桐原君、フィーゼちゃんを是非とも嫁に頂戴」
「フィーゼに聞け」
「椎名、それは困る。私は龍仁の嫁にならないといけない」
「ならないといけないって決まりもないからな、フィーゼ」
「そうよ、フィーゼ。龍仁は私の物なんだから!」
「話をややこしくするな、エリー」
相変わらず龍仁の周囲は賑やかであった。
「そういえば、そろそろクリーブランドさんを迎えに行った方が良いんじゃない?」
「ん、そうだな。もう着替え終わってる頃か。んじゃ、溝口さん。フィーゼのこと頼んだ……って、どうした、2人とも」
「「むー」」
フィーゼとエリザベスは不満そうに頬を膨らませている。
「……やっぱり龍仁と一緒に回りたいわよ」
「私もだ。龍仁と一緒にこの祭りを一緒に楽しみたい」
「と言われてもなぁ……」
守り人になった以上は神子の傍を長時間離れるわけにはいかない。
龍仁としてもフィーゼやエリザベスと一緒に楽しみたいという気持ちはある。だが、自分の役目を放棄するわけにもいかなかった。
「……それならさ」
「ん?」
「明日はみんなで回らない?」
「みんなで?」
溝口の提案に、龍仁はポカンとする。
「そ。今日はとりあえずクリーブランドさんと一緒に。昨日中庭と校庭回ったなら、今日は校舎内回るんでしょ?校舎内回るのなら今日一日で終わるだろうし、そうすれば明日はフィーゼちゃんとエリザベスさんも一緒に回れるよね?」
「まぁ、たぶんな」
「それに、綺麗どころが集まればそれだけ注目も集まると思うんだよね」
「うんうん、溝口分かってるね!この椎名さんみたいな美少女がいれば注目度は120%アップだよ!」
「まぁ、椎名なら引き立て役ぐらいにはなるだろうし」
「扱いが酷くない!?」
「それで、どうかな」
「そうだな」
そういうことなら龍仁としても断る理由は無かった。
「フィーゼとエリーはどうだ?」
「私は龍仁と一緒にいられればそれでいい」
「私もよ」
「「まぁ、できれば龍仁と2人きりが良かったけども」」
「そこは我慢してくれ」
そう約束を交わし、一団は解散していった。
フィーゼやエリザベスを見送り、龍仁はクリーブランドが待つ更衣室前へと急いだ。
「ちょっと話し込んじゃったから、クリーブの奴待ってるかもな」
待たせたら悪いと思うと自然と早足になってしまう。
「……あれ?クリーブはまだ着替え終わってないのか?」
更衣室前に着くと、そこにクリーブランドの姿はなかった。
「クリーブランドならまだ時間かかるわよ。衣装の装飾が取れちゃって」
「あ、ヘレナ」
辺りを見回している龍仁に声をかけたのはヘレナだった。
他の神子と同じく衣装に身を包んでいる。
「たぶん、あと5分ぐらいはかかるかもね」
「そっか。ヘレナは何をやってるんだ?」
「私は守り人待ちよ。昨日着替えに時間かかっちゃったから待ち合わせの時間に余裕持たせようと思ったんだけど、今日は思ってたより早く済んじゃって」
「時間持て余してるのか」
「そうとも言うわね」
「にしても……」
龍仁はヘレナをじっくりと見る。
ヘレナもそれなりにスタイルはいい。少し露出の多めな神子服でヘレナの肉体もいい感じに映えている。何よりも、神子服独特の神々しさの中にヘレナ自身の持つ家庭的な雰囲気が見事にマッチし、見ているだけで心が安らぐ。
「な、何よ」
「いや、こうやって見ると、ヘレナの神子服姿って他の人にはない独特な感じがあるよな、って思って」
「それはいい意味で?悪い意味で?」
「もちろん、いい意味で」
「それならいいわ」
神子服を気に入っているのか、ヘレナは少し得意げであった。
「そういや、ヘレナは料理部の出し物に出てるんだっけ?」
「えぇ、神子が出し物に出ちゃいけないなんて決まりもないし、お食事処なら自然と人も集まるから動き回らなくてもアピールになるもの」
「確かにな」
神子が料理を作ってくれる、なんて打ち出せばさらに客は増えるだろう。
中々の策略である。
「あ、もちろんクリーブランドと来てくれていいわよ。大歓迎だから」
「あぁ、ちょうど今日回ろうと思ってたところだ。その時は世話になるよ」
「ふふっ、姉さんから『厨房の方に入って』とか言われたりしてね」
「……やっぱ行くのやめようかな」
「もう、そんなこと言わずに来てよね」
そんなやり取りをしていると、更衣室からクリーブランドが姿を現した。
「悪い、龍仁。衣装がちょっとな」
「それはヘレナに聞いたよ。一緒に話してて時間も潰れたし、気にするな」
「そっか。それじゃ、さっそく行くか」
「あぁ。んじゃ、ヘレナ。たぶん後で行くから、その時はよろしくな」
龍仁は「たぶん」を強調してクリーブランドとその場を離れた。
「……いいな」
ヘレナはクリーブランドの横を歩く龍仁を眺めながら、そう呟くのだった。
「うーん、どっから回ろうか」
星帰り祭の出し物は町全体が協力してくれることもあり、文化祭の時よりも派手で規模が大きい。文化祭は文化祭で楽しいところはあるのだが、星帰り祭も相応に楽しむところが多い。だからこそ、どこから回るかというのは悩みどころである。
「ま、順に回ればいいさ。時間はたっぷりあるんだ」
「それもそうだな。それじゃ、まずはあそこか?」
龍仁が指さしたのは、何やらおどろおどろしい雰囲気の教室だった。
「何々?お化け屋敷?」
「みたいだな」
「そういえば、やたら完成度の高いお化け屋敷があるって昨日チラッと聞いたな」
「ふぅ~ん、それは楽しみだな。な、クリーブ」
「ははは、そうだな。龍仁。それじゃ、別のところから」
「まぁまぁ、そう言わずに行こうぜ」
龍仁は回れ右をしてその場を去ろうとするクリーブランドの肩を捕まえる。
「い、いやぁ、私はいいかな。その、何か今日暑いだろ?」
「暑いならなおさらお化け屋敷なんていいんじゃないか?」
「ほ、ほら!私はあっちの方に興味があってだな!」
「あっち?」
「えーっと、ほら、あれ!」
クリーブランドは何かに縋りつくかのように周囲を見渡し、特に確認もせずにパッととある教室を指さした。
「えーっと……オカルト研究部の恋占い?」
「~~~~~~~~~~~~~~!?」
クリーブランドは「しまった」というように顔を真っ赤にする。
「……うん、そうだよな。クリーブも女の子だもんな。そういうの気にするお年頃だもんな」
「ち、ちがっ!いや、その気にはなるけども……」
「へぇ、気にはなるのか。相手は誰だ?」
「そ、それは……」
クリーブランドは上目遣いで龍仁をチラッと見る。
だが、当の本人は能天気な顔でクリーブランドの顔を覗き込み、彼女の意図に気付いた様子は全くない。
「……も、もう!こうなれば自棄だ!お化け屋敷行くぞ、龍仁!」
「あ、おい!無理はすんなって!」
クリーブランドは龍仁の手を引っ張ってお化け屋敷の方へと向かうのだった。
「あぅ……」
「だから無理すんなって言ったのに。いや、最初に煽った俺も悪かったけど」
お化け屋敷から無事帰還した2人。
だが、クリーブランドは龍仁の腕にしがみついて涙目になっていた。
元々オバケやホラーなどが大の苦手なクリーブランド。その上、今回のお化け屋敷は話に聞いていた以上のクオリティで、多少は耐性のある龍仁でもまだ背筋が寒いぐらいだった。クリーブランドがまだ怯えっぱなしというのは無理もないだろう。
「い、いや、大丈夫だ。うん。井戸から出てきた女の人可愛かったよな、うん」
「それ、一番悲鳴上げてたやつじゃないか」
井戸からずるりと現れる髪の長い女性。
クリーブランドは甲高い悲鳴を上げて龍仁に抱き着いてきたのだが、その感触が心地よかったというのは龍仁は自分の胸の中にしまうことにした。
「ちょっとどっかに座って落ち着くか」
「そ、そうだな……」
「それならいいとこあるよー」
急に声をかけられ、2人は振り返る。
そこには見覚えのない女子の姿があった。
「えーっと……?」
「ちょっと座りたいんでしょ?それならこっちこっち」
彼女は龍仁とクリーブランドの手を強引に引いてある教室に連れ込んだ。
「え、ここって……」
「はーい、オカ研の恋占いへようこそー。初めまして、恋占い担当の崎川忍でーす」
「さて、クリーブ。喫茶店でも探すか」
「そうだな」
「あーん、ちょっと待ってよー!」
崎川は教室を出ようとする2人を阻止する。
「昨日から全然お客さん来ないのー!これじゃあ部長とかゼクちゃんに馬鹿にされちゃうんだよー!だから休憩ついででいいからお願いー!」
何やら必死になる事情があるようだ。
龍仁とクリーブランドは顔を見合わせ、「仕方ないか」と肩をすくめる。
「分かった分かった」
「え、いいの!ありがとう、桐原君!」
「……俺、自己紹介したっけ?」
「そんなの必要ないよ。エリザベス陛下をたらし込んだ人って有名だもん」
「嫌な名の広がり方だな」
「まぁまぁ、とりあえず座ってください~」
崎川に言われるがままに2人は席に座る。
「んで、恋占いって言ったか?」
「はい。その人の恋愛運とか、好きな人との相性とかを占うんだよ」
「で、的中率のほどは?」
「ふふん、これでも腕は確かって評判なんだよ」
「なのにお客さんが来ないと」
「ごふっ」
龍仁は教室内を見渡す。
どう考えても内装が悪いとしか言いようがなかった。
恋占いをするという可愛らしい内装ではなく、明らかに黒魔術とか悪魔召喚とかそっち方面を意識した内装なのだ。これではよっぽどの物好きでもない限りは気軽に恋占いなどできないだろう。
「うぅ~、でもでも!神子さんを占ったとなれば拍がつくじゃん?だから、ね?」
「別に構わないけどさ」
「よしっ!それじゃ、さっそくだけど何を占う?」
「ん~、そうだな。クリーブ、何を占ってもらいたい?」
「え、えっと……どんなことを占えるんだ?」
「さっきも言ったけど、恋愛運とか好きな人との相性とか。あ、ちなみに好きな人との相性の場合は相手の名前言わなくても大丈夫だよ」
「え、えっと……それじゃあ、その……す、好きな人との相性占いで」
「任せて。それじゃ、幾つか質問するね」
そう言って崎川はクリーブランドに何個か質問をする。
そして回答をメモしながら「ふむふむ」と頷いていた。
「……なるほどね」
「な、何か分かったのか?」
「うん、とりあえず、クリーブランドさんの恋の行方なんだけど……」
「……(ゴクリ)」
「これ以上ないぐらい茨の道だね」
「……へ?」
「いや、占い結果なんだけど、その好きな人との相性自体は凄く良いんだよね。もう最高のパートナーってぐらい。だけど、その肝心の相手がね……他にも相性のいいライバルがたくさんいて、しかもクリーブランドさんの気持ちに気付いてない上に気付く可能性も低いと来た。もうこれはアレだね。相手がクリーブランドさんのことを好きになって、自分から告白してくる、ぐらいじゃないと恋が実るのは厳しいかもね」
「そ、そこまで分かるのか……」
「言ったでしょ~。これでも恋占いには自信があるんだって」
「……だ、そうだ。大変だな、クリーブ。よく分からんが、応援はするよ」
他人事のように言ってくる龍仁を、クリーブランドは思わず睨みつける。
「で、どうする、桐原君もやる?」
「んー、恋愛運ぐらいはお願いするかな」
「合点。それじゃ、幾つか質問するね」
そう言って先ほどと同じように崎川は龍仁に質問をしていく。
龍仁はその質問に正直に答えていく。
「……ん~」
崎川は難しそうな顔で唸っている。
「どうしたんだ?」
「ん?いやぁ、難しいなって」
「何がだ?」
「桐原君の恋愛運、かなり複雑に絡み合ってて、どう読み解けばいいのかが分かんないんだよね。女難の相、というほどは深刻ではないんだけど、何て言えばいいのかな。桐原君ってばどこの女誑しかってぐらい色んな人との相性がいいんだよね。しかもそれで笑えるぐらいの範囲だけどトラブルも絶えないって出てるし」
「……」
龍仁自身、エリザベスやフィーゼのことで心当たりがあるので何も言えなかった。
「だから、うん……ここまで見るのが難しい人ってのは初めてだよ。恋愛運がいいとも言えるけどそれがいい結果になるかって言われると微妙なところだし」
自分で言うだけあって、崎川の占いの腕前は確かなようであった。
「なるほどなぁ……」
「うーん、2人ともごめんね?なんか微妙な結果になっちゃって」
「いや、構わないさ。こういうのは正直に言ってもらえた方が身が引き締まる。な、クリーブ」
「う、うん……」
大して気にしていない龍仁とは対照的に、クリーブランドはどこか落ち込んだ様子であった。占い結果が当たっているかつ具体的であっただけに、気分が重くなるようであった。
「それじゃ、そろそろ落ち着いたし、行くか」
「そうだな。ここのことは触れ回った方がいいか?」
「そこまでしなくていいよ~。たぶん、神子さんが教室から出てきたってだけでそこそこの話題になるはずだから」
「なるほど。んじゃ、また何かの機会があればな」
「うん、またね」
教室を出る2人を見送り、崎川は「ふぅ」と息を吐いた。
「あれ?崎川先輩。お客さん来てたの?」
龍仁達が出ていった直後、教室にZ36――ゼクちゃんが入ってきた。
「あ、ゼクちゃん。お帰り」
「ふぅん、先輩の恋占いに頼ろうとするなんて、物好きもいたもんだね」
「なんかすっごい馬鹿にされてる気がする!これでも自信あるのに!」
「先輩の占いの腕前が凄いのは知ってるけども……まずはこの教室の内装どうにかした方がいいと思うよ。さすがの私も引く」
「ゼクちゃんに引かれるとかホントに傷つくんだけど!?」
「で、どんなお客さんだったの?」
「ふふん、実はあの噂の桐原君と神子さんだったよ!」
「……なるほど。なんか理由つけて無理矢理引き込んだんだね」
「……私って信用ないなぁ。間違ってないけども」
「それで、どんな結果だったの?」
「あぁ、それはね――って、お客さんの情報は秘密だからね」
「それもそっか」
「……」
崎川は先ほどの龍仁のことを思い出していた。
彼のこんがらがった、愉快で賑やかな運命のことを――
「さて、そろそろ飯にするか?」
色んな教室を回り、気付けば昼が近い時間帯。
お昼時になればどこの店も人で混み合うことが予想される。だから、今の内に食事は済ませておきたかった。
「そうだな。せっかくだからヘレナのところに行くか」
「うん、今の時間なら空いているだろうからな」
そう言って2人は料理部が開く食事処へと向かっていく。
食事処がある教室へと着くと、まだお昼前だというのにすでに人が並んでいた。
「こりゃ、思ったより時間かかりそうだな」
「まぁ、『神子の手料理が食べられる(かもしれない)食事処』って触れ込みだからな。人も集まるだろうな」
「おっ、お前らも今から飯か?」
聞き慣れた声に振り替えると、そこにはノーマンやヨルク、ヒッパー、オイゲンのいつもの4人の姿があった。
「あぁ、早めに済ませちゃおうと思ってな。お前らもか?」
「ちょうど生徒会の仕事が一段落したからな。今の内にって」
「そっか。それじゃ、一緒に並ぶか」
そう言って龍仁達は列に並んだ。
「ったく……高雄さんってば人使い荒いんだから……」
「そういや、ヨルクとヒッパーも生徒会の手伝いなんだっけ?」
「そ。この馬鹿がやりたいって言い出してね」
「またどうして」
「……最初はさ、俺も生徒会の手伝いすれば神子さんとお近づきになれる!って思ったんだよ。ほら、生徒会も神子のサポートに回るだろ?だから……なのにさぁ……昨日は生徒会室から一歩も出られなくて神子さんとの触れ合いどころじゃなかったんだよぉ!神子さんどころかヒッパーちゃん以外の女の子との触れ合いすらなかったんだよ!おっぱいだよ!おっぱいが足りなさすぎぶふっ!?」
今にも血の涙を流しそうなヨルクの頭をヒッパーが思い切り叩く。
「ノーマン、今日は大丈夫だったのか?」
「あぁ。今日はある程度余裕があるからな。会長も気を利かせてくれて外を回る時間をくれたし。にしても……龍仁が来てるなら摩耶さんも連れてくれば良かったな」
「あ、摩耶も手伝ってるんだ」
「えぇ。お昼も一緒に誘ったのだけど、『人混みは疲れる』って」
「摩耶らしいな。でも、せっかくなら一緒に飯食いたかったな」
「明日か明後日に時間作ればどうだ?俺達からも話しておくからさ」
「あぁ、頼んだ」
そう話しているうちに龍仁達に順番が回ってきた。
「いらっしゃーい……って、あら、龍仁君」
「あ、こ、こんにちは、部長」
龍仁を出迎えたのはセントルイスであった。
「あらあら、もしかして手伝いにきてくれたのかしら?大歓迎よ」
「いや、俺、守り人の役目もありますし、今日はご飯食べに来ただけですから」
「あら、残念。でも、来てくれただけでも嬉しいわ。えっと、6名様でいいのかしら?」
「はい、大丈夫ですか?」
「えぇ、大丈夫よ。ヘレナ、6名様ご案内」
「はーい、ってクリーブランド!」
ヘレナは嬉しそうにクリーブランドに駆け寄る。
「来てくれたのね」
「あぁ」
「龍仁君も」
「よろしくな、ヘレナ」
「あぁ、神子さんだ……」
「ヨルク、顔」
ヘレナに案内され、6人は席に座った。
「さーて、神子さんに何作ってもらおうかな~」
ヨルクはメニューを血走った目で見つめていた。
「いや、必ずしもヘレナに作ってもらえるわけじゃないからな。そういや、長良は?」
「長良も今手伝ってもらってるわ」
「つまり神子さんに作ってもらえる確率が2倍!これは大チャンス!」
「どうでもいいけど、さっさと選べよな。他のみんなはもう決めてるぞ」
「マジかよ。それじゃあ――」
6人はそれぞれ注文すると、ヘレナはメモをして厨房へと向かっていった。
「あぁ、いいなぁ、楽しみだなぁ」
「うわぁ、ヨルクの顔が今までにないぐらいキモい……」
「仕方ないだろ!女の子の手料理なんて中々食べられないんだぞ!」
「だってさ、ヒッパー。もうちょっとヨルクに手料理振る舞ってやったらどうだ?そのうち人の道逸れるぞ、コイツ」
「そこまで飢えてねーよ!」
「ま、考えておくわ」
そうやって話をしていると、料理を手に持ったヘレナと長良が姿を現した。
「お待たせ」
「えへへー、龍仁君達が来たって聞いたから気合入れて作ったよ」
ヘレナと長良は6人の前に料理を並べていく。
さすがは評判のいい料理部の料理である。見た目、香り共に食欲をそそる。
「こ、これが神子さんの料理……」
約一名目をギラギラさせた人物がいたが、その場にいた全員がスルーした。
「私達は厨房に戻るから、何かあれば呼んでね」
「ごゆっくり~」
ヘレナと長良は厨房の方へと戻っていった。
「それじゃ、さっそく……いただきますっと」
龍仁達はそれぞれの料理を食べ始める。
見た目や香りを裏切らない美味しさが口いっぱいに広がる。
「~~~~~~~~~~~~~~!!」
約一名、美味しさとは別の感動を覚えている人物がいたが、その場にいた全員が(以下略
「ふぅ、美味しかった」
「相変わらず料理部の料理は絶品だな」
「えぇ、お店に出しても良いぐらいね」
「部長は将来的にはお店を出そうって考えてるらしいけどな」
「あぁ……女の子の手料理……」
「お前はそろそろこっちに戻ってこい、ヨルク」
幸せそうな顔でお花畑を見ているヨルク。
龍仁が引き戻すために肩を掴もうとすると――
「よし、決めた!」
急にヨルクがカッと目を見開いた。
「うわっ、な、何だよ」
「シェフを呼んでくれたまえ!」
「……は?」
「だから、俺の子の料理を作ってくれた麗しきシェフを呼んでほしいんだよ」
「……何で?」
「いや、ほら。映画とかでよくあるじゃん?だからやってみたくて」
「……別にいいけど。おーい、ヘレナ」
「どうしたの、龍仁君」
龍仁が呼ぶと、ヘレナがすぐに厨房から出てきた。
「ごめんなんだけどさ、ヨルクの料理作った人を呼んでくれないかな」
「え、何で?」
「ヨルクの奴が作った人を見たいんだってさ」
「えっと、別にいいと思うけど……」
「悪いな。時間取らせちゃって」
「ううん。じゃ、呼んでくる」
そう言ってヘレナは厨房へと駆け足で戻る。
「ヘレナが呼びに行ったってことは長良さんか?うへへ、それはそれでいいなぁ」
「……」
「おーっす、龍仁」
「よっ、康大」
「あれ?康大、どうしたんだ?」
6人の前に現れたのは康大だった。
「どうしたも何も、呼ばれたから来たんだよ」
「呼ばれたって誰に?」
「誰って、お前が呼んだんじゃないのかよ、ヨルク」
「誰を?」
「俺を」
「何で?」
「何でって、その料理作ったの俺だぞ」
「え?マジで?」
「あぁ」
「……」
「……」
「……他の奴らのは?」
「他の人達のはヘレナさんと長良の料理だな」
「つまり、俺だけ男の手料理?」
「そう、なるな」
「……」
「……」
「あぁ……」
ヨルクは顔を真っ白にしてその場に崩れ落ちた。
その顔は知る必要のない世界の扉を開いてしまった旅人のようでもあった。
「龍仁、もしかして知ってたのか?」
「もしかして、ぐらいだったけどな。ヨルクの食べてた料理、康大の得意料理だったから」
「えっと……もしかして俺、余計なことした?」
「いや、康大は悪くない。うん、誰も悪くない」
龍仁達の昼食時間は、ちょっとした悲劇と共に過ぎていくのだった。
「フィーゼちゃん!こっちのお菓子とかどう?」
「……うん、美味しい」
椎名はデレデレした様子でフィーゼにお菓子を与えている。
フィーゼもフィーゼで上機嫌な様子でお菓子を味わっている。
「椎名、フィーゼちゃんにお菓子食べさせすぎて太らせでもしたら桐原君が怒るよ」
「大丈夫。その時は私が手取り足取りで思いっ切り運動するから」
「……フィーゼちゃん、お菓子はそれぐらいにして次行こうか」
「そうだな」
「あーん!そんなぁ!」
一行が歩き出そうとした時だった。
「……ん?」
「どうしたの、フィーゼちゃん」
突然、フィーゼが立ち止まった。
その視線の先には、混み合う人の波があった。
「……」
「フィーゼちゃん?」
「ん、どうしたのだ、溝口」
「いや、フィーゼちゃんが急に立ち止まったから……」
「あぁ、すまない。ちょっと気になることがあっただけだ」
「気になること?」
「……何でもない。次に行こう」
フィーゼは溝口の手を引っ張った。
「あ、溝口ズルい!フィーゼちゃん!私の手も!」
「あ、じゃあ私がフィーゼちゃんのもう一方の手握るね」
「お、ナイス有川」
「あああああああああああああああああああああ!」
(……先ほどの女性)
フィーゼは人混みの中からこちらをジッと見る女性と目が合った。
会ったこともないはずの女性。だが――
(あの女性は……間違いなく私に似ていた)
だから立ち止まった。だが、彼女はすぐに人混みの中へと消えていった。
追いかけようかとも思った。
だが、不思議と追いかけてはいけない。そんな気がしたのだった。