大勢の人で賑わった星帰り祭も4日が経過し、残すは星帰り祭の本番ともいえる『神子の人気投票』だけとなった。
人で賑わった祭りだが、この人気投票の時が最も人が集まる。
それこそ、アズールレーン学園の誇る美少女達を見ようと重桜各地から人が集まる。
さらには、今年はエリザベスの件もあってか例年以上に注目度が高かく、メディアやネットでも大盛り上がりを見せている。
既に今年の神子のことは全国に広がっており、ネット上でも「誰が優勝するか」という論争が絶えない。色とりどりの美少女が揃い、人々の好みも十人十色。論争が起きるのも仕方のないことだと言える。
そして、その日はやってくる――
「さぁさぁ、始まりました!皆様お待ちかねの投票ターイム!」
ステージの上の青葉の掛け声と共に校庭に集まった人々が雄たけびを上げる。
まるでいにしえの合戦前のような熱気である。
「星帰り祭も今日で最終日!野郎ども、祭は楽しかったかー!」
再び沸き上がる雄たけび。
その様子を龍仁とクリーブランドは教室から眺めていた。
「……何なんだ、アイツのテンションは」
「さぁ……ところでさ、こういうのって放送部がやるもんじゃないのか?確かウチの学校、放送部あったよな?それとも、青葉って掛け持ちしてたっけ?」
「いや、青葉が放送部に乗り込んで半ば強引に司会進行の座を奪い取ったらしい」
「何やってるんだ、青葉は……」
呆れ気味に溜息を吐きながら、2人は校庭へと視線を戻す。
『さぁ、今年の神子さんはこれだぁ!』
どこから用意したのかと小一時間ほど問い詰めたくなるほどの巨大なスクリーンに映し出される、今年の神子の顔写真。1クラスから1名ずつ、1学年12名の計36名の顔写真がそこには並んでいた。その中にはもちろん、クリーブランドの写真もあった。
校庭に集まる人々(主に男性たち)が「おぉ~!」と歓声を上げる。
それも仕方ないほどに、並ぶ顔ぶれは美少女揃いだった。
「うぅ……」
「どうした、クリーブ」
クリーブランドは顔を赤くして俯いてしまう。
「い、いや……やっぱりみんな、その……可愛いなと思って」
「……あぁ、なるほど」
龍仁はクリーブランドの言わんとすることが何となく分かった。
勢揃いする美少女。その中に本当に自分がいてもいいのだろうかという不安。
今までは自分のことだけを見ていればよかった。だが、こうやって実際に並べられてしまうとそうもいかない。否が応でも他の人と比べてしまう。
いくら星帰り祭を頑張ってきたクリーブランドとはいえ、まだそこまで自信を持てているというわけではなかった。
「そんなに落ち込むなって。クリーブもみんなと負けず劣らず可愛いぞ」
「ふぇ?」
クリーブランドは涙目で龍仁を見上げる。
「前も言っただろ。クリーブも他の神子に負けないぐらい可愛いって。だからもっと自信持てって。こうやってみんなの顔が並んでても、クリーブも際立ってるからさ」
「……本当に、そう思うか?」
「俺がそういう世辞を言わないのは知ってるだろ」
「……ふふっ、そうだな」
先ほどの落ち込んだ様子とは違い、まだ不安の色は見えるものの、クリーブランドは少し落ち着いた様子で笑った。
「……ありがとう、龍仁。龍仁にそう言ってもらえると、その……う、嬉しい」
好きな相手の短い言葉でここまで心が軽くなる。クリーブランドは自分の単純さに少しだけ呆れてしまう。だが、同時にそれが心地よかった。
問題は、そんなクリーブランドの恋心に龍仁が全く気付いていないところではあるが。
「おう、だからどっしり構えておけ。これまでやれることはやった。昨日のアピールタイムでもみんなで全力を出した。あとは結果を待つだけなんだからさ」
「アピールタイムか……みんな頑張ってくれたもんな」
「ヨルクの案は却下されちゃったけどな」
「あ、当たり前だ!し、下着が見えたらどうする!」
「……」
「今、見えたらラッキーだったのに、とか思ったか?」
「思ってない思ってない」
昨日のアピールタイム。
祭前半とは異なり、ステージ上で神子達がそれぞれ自分をアピールする時間が設けられた。クラスによっては神子一人でアピールすることもあるが、大半のクラスはクラス総出で何かしらの出し物形式でアピールを行う。
龍仁達のクラスは正攻法でファッションショー風にクリーブランドのアピールを行った。最初は「バスケ風にアピールしよう」というヨルクの案もあったのだが、このアピールタイムは神子服で行うというルールがあり、動きによってはクリーブランドの下着が丸見えになるということで本人に却下された。
慣れないファッションショー風のアピールということもあってクリーブランドの動きはぎこちなかったのだが、観客にはそれが「初々しい」と映ったのか、盛り上がりの手ごたえは上々であった。
「そ、それよりもさ。さっきも言ったように、やれることは全部やった。あとはなるようになれだ。バスケも一緒だろ。練習して練習して、あとは本番で全力を出す。それと同じだ」
「まったく、簡単に言ってくれる。でも……それもそうだな」
クリーブランドはやっと安心したように笑った。
「今ここでバタバタしてても変わらないもんな。うん、私は私で、ここで堂々と構えておくよ。それが、今私にできることだもんな」
「うんうん、それでこそ俺の自慢のクリーブだ」
「お、俺のって……」
「ん?なんか変なこと言ったか?」
「……はぁ~」
いつも通りの龍仁に、クリーブランドは大きな溜息しか出なかった。
「……なぁ、龍仁」
「どうした?」
「龍仁はさ、もう誰に投票するか決めてるのか?」
「あぁ、決めてるよ」
「……誰に入れるんだ?」
「んー」
龍仁は考え込む。
「……まぁ、一つ言えるのは、俺は贔屓はしないってことだけだな」
「贔屓?」
「あぁ。ちゃんと俺が一番いいと思った人に入れる。じゃないと、一生懸命準備してきたみんなにも失礼だからな」
「そ、そうか……」
クリーブランドが少しだけしょぼんと落ち込む。
「おーい、龍仁」
その時、教室の中をノーマンとオイゲンが覗き込んできた。
「どうした、ノーマン」
「どうしたって、そろそろ始まるぞ」
「あ、もうか?」
校庭に目をやると、ちょうど青葉が今回の神子の紹介を終わらせていたところだった。
「さてさて!それでは始めようか!愛憎渦巻く人気投票を!」
「……なんで憎を渦巻かせようとしてるんだ、アイツは」
「あ、アハハ……」
「生徒達は各教室に。一般客の方々は専用ブースにそれぞれの投票バッジを持っていってください。それじゃ、始めぇ!」
青葉の掛け声と共に人の波が移動する。
「っと、そろそろ人が来るな。ってなわけで、はいこれ」
そう言うとノーマンとオイゲンはクリーブランドに投票用のバッジを渡す。
「応援してるからね、クリーブランド」
オイゲンはパチッと可愛らしくウィンクをする。
「それじゃ、俺達は誘導係の仕事があるから」
「えぇ、行ってくるわ」
「あぁ、ありがとう、2人とも」
ノーマンとオイゲンはそのまま去っていった。
「……さて、俺達も覚悟を決めないとな」
「あぁ」
遠くから聞こえてくる地鳴りのような足音に、2人は身を引き締めるのだった。
「……」
大移動を始める人波の中。一人の男子生徒がじっと動かずに校舎を見上げていた。
その手には投票用のバッジと、小さな箱が握られていた。
「……クリーブランドさん」
男子生徒は決意に満ちた目で校舎を見上げる。
その視線の先には、クリーブランドのいる教室があった。
「クリーブランドさん!これ、バッジです!」
「ちょ、おま、邪魔だ!バッジ渡せねえだろうが!」
「いててて!誰だ、髪引っ張るやつは!禿げるだろうが!」
「もう禿げてるだろ」
「禿げてねえよ!デコが人より広いだけだよ!」
「とりあえず落ち着け。クリーブは逃げないから」
教室に殺到してきた生徒達。
我先にバッジを渡そうとする彼らを、龍仁は何とか抑えていた。
「クリーブランド先輩、ずっとファンだったんです!バッジを受け取ってください!」
「あ、ありがとう」
クリーブランドは押し寄せる人波に少しだけ引き気味になりながらも、にこやかにバッジを受け取っていく。
「……」
その様子を龍仁は人を抑えながらもじっと観察していた。
ヨルクの読み通り、男子も多いが女子の数もそこそこ多かった。
例年通りであれば男子票でほぼ決する人気投票だが、これなら女子票も多く取り込んでいい勝負ができそうであった。
(問題はジャンだなぁ)
ジャン・バールのクラスも同じような狙いを持っていた。
そちらの方にも女子は殺到しているだろう。
恐らく、男子票はどのクラスも似たり寄ったりになる。それなら、どれだけ女子票を取り込めるかが重要になる。もちろん、一般票も重要だが、そこはなるようにしかならない。
(……ま、その時はその時だな)
今は目の前の人波に集中するしかなかった。
「いやぁ、盛り上がってるね」
校庭のステージ上で青葉がそう呟く。
ステージの上からでも見える一般客専用ブースの賑わいはもちろん、校舎から聞こえてくる声だけでその賑やかさは嫌というほど伝わってくる。
「お疲れ、青葉」
「あ、グリッドレイちゃん」
両手にジュースを持ったグリッドレイが青葉の横に座る。
「はいこれ」
「ありがと」
「今日はテンション高かったね、青葉」
「そりゃ、あれだけ叫べる機会に恵まれあとあればね」
それだけで放送部に殴り込みをかけた甲斐があったというものだ。
「神子紹介も盛り上がり上々だったよ」
「これならサクラ入れなくても良かったなぁ」
「……そんなことしてたの」
「念のためね、念のため」
呆れた様子のグリッドレイに、青葉はヘラヘラと笑うだけだった。
「にしても、神子紹介のアレ、よかったの?」
「よかったって、何が?」
「ほら、クリーブランドさんの紹介だよ。『男勝りだけど~』って、明らかに余計じゃなかった?本人聞いてたらカンカンに怒りそうだよ」
「あはは、大丈夫大丈夫。ちゃんと『女の子らしいギャップ萌えがある』ってフォロー入れてるから」
「……フォローになってるかは分かんないけどさ」
「それに……」
「それに?」
「たぶん、クリーブランドさんは教室で龍仁と2人っきりの世界にいただろうから、案外耳に入ってなかったりしてね」
「……青葉」
少しだけ寂しそうに笑う青葉に、グリッドレイはどう声をかけていいか分からなかった。
「それで、グリッドレイちゃんは誰に入れるの?」
「私?私はもちろんサラトガちゃんだよ。もう、それは分かってるでしょ」
「あはは、そうだね」
「青葉は?」
「私?私かぁ、そうだなぁ……誰にしようかな」
青葉はそう言いながらも既にことを決めたような目をしていた。
だが、その目の中に少しだけ迷いの色があったのは、本人も気付いていなかった。
「……さて、落ち着いてきたのはいいんだけど」
開始直後と比べ、人の動きはかなり落ち着いてきた。
少なくとも、龍仁が抑える必要がないくらいには。
だが、そうなると別の問題……問題というほどではないがイベントが発生した。
「クリーブランド姐さん!前々から好きでした!お付き合いを前提にお付き合いしてください!」
「おぉ、また勇者が出たぞ!」
これである。
例年のお約束といっていい「投票の勢いでの告白」である。
普段中々近付くことのできない意中の相手でも、この投票の時には近付くことができる。だからこそ、想いを秘める者達にとっては絶好の機会なのである。
クリーブランドも例外ではなかったらしく、今まさに告白を受けている。
――のだが。
「え、えぇっと……その、ごめんなさい」
「ぐはっ」
また一人勇者が玉砕した。
これで7人目かー、などと龍仁は呑気に考えていた。
ちなみに内訳は男子5人に女子2人である。
「そんな!俺の何が悪かったんですか!」
「そ、それは、えっと……」
「クリーブランドさん、ハッキリ言っちゃっていいんだよ。タイプじゃないって」
「そ、そんな……くっ、クリーブランドさん好みにもっと筋肉を付けなきゃ駄目だったのか」
「ちょっと待て!私の好みはどういう風に広がっているんだ!?」
こういうのも含めての神子の人気投票である。
今年はどんな勇者が現れるのか、どういう風に玉砕するのかと、興味津々のギャラリーが教室の外から教室内を伺っている。告白がある度に歓声が上がり、玉砕する度に励ましの声や笑い声が響き渡る。それは、他の教室でも同じであった。
「ははっ、中々手強いな、クリーブは」
「うぅ、他人事だと思って……」
「もしも告白が来たらちゃんと自分の気持ちをぶつけるって言ったのはクリーブだろ。なら、俺が何か口出しすることでもないからさ。ま、クリーブが変な奴に襲われそうにでもなったら助けるけども」
「龍仁……」
「それに、今年は何とも平和じゃないか。去年のアレと比べると……」
「あぁ、アレか……」
去年神子になった長良に挑戦する勇者の数は凄まじかった。
それを食い止めていた龍仁にとっては、今思い出しても身震いがする。
それを考えると今年の勇者達は何とも大人しい。
肝心の長良の教室はどうかは知らないが、かすかに聞こえてくる長良や康大の悲鳴はとりあえず聞こえないことにするのだった。
「でもまぁ、クリーブとしてはいい機会じゃないのか?」
「いい機会?」
「ほら、昨日の恋占いで言われたじゃないか。クリーブの好きな相手から告白してくるのを待つのが一番って。もしかしたら、それが今日かもしれないぞ」
「……………………ないな」
「言い切るのかよ」
「言い切れるな」
クリーブランドは諦めに近い溜息を吐く。
「クリーブも意外と理想が高いんだな」
「……理想は高くないんだけど、壁は高いよ。……私にとっての」
「どういう意味だ?」
「たぶん、龍仁には分かんない」
そんな話をしていると、また一人勇者(女子)が現れる。
当然のように、玉砕するのだった。
「うん、結構集まったな」
「こ、こんなに集まるものなのか……」
投票用バッジの回収ボックスの中には、既に数えることも億劫になるほどのバッジが入っていた。それだけクリーブランドを慕う人が多かったという証だろう。
「さて、制限時間まであと30分ほどか……」
「これで何事もなく終われば……ん?」
その時、一人の男子生徒が教室に入ってくる
下級生だろうか。緊張した様子で、弱々しい足取りでこちらに来る。
「あ、あの、クリーブランドさん……」
「あぁ、どうした?」
「えっと、あの……」
ギャラリーが「おぉ?」と注目する。これはどう見ても告白の空気である。
「……その、僕と……」
男子生徒は意を決したように両手を突き出す。
その手には小さな箱が、箱の中には、バッジと指輪が収められていた。
「おぉ、これは!」
「スゲーの来た!」
ギャラリーが大盛り上がりを見せる。
指輪を渡しての告白は、それだけ本気の度合いが高いということだ。
勢いで告白できる星帰り祭の投票とはいえ、ここまでできる人物は少ない。
「え、え?」
クリーブランドもあまりのことに困惑している。
「お、俺は1年の小牧義也です!クリーブランドさんのことが前から好きでした!全力で愛しますので、どうかお付き合いをお願いします!」
顔を真っ赤にしながらそう叫ぶ男子生徒。
ギャラリーのボルテージも上がってくる。
彼の言葉からは冗談などは一切感じられない。本気の覚悟で挑む男の言葉だった。
「えっと……」
「どうか、お願いします!」
彼は再び頭を下げる。
クリーブランドは龍仁の方をチラッと見る。
(クリーブの思ったことを言えばいい)
龍仁の目はそう言っていた。
それを見て、クリーブランドは男子生徒の方を見る。
「えっと、小牧、くん?」
「は、はい!」
「その……気持ちは嬉しい」
「じゃあ……!」
「でも、それに応えることはできない」
「え……」
ポカンとする男子生徒。ギャラリーは「あちゃー、またダメだったかー」と声を漏らす。
「ど、どうしてですか!も、もしかして、俺のこと嫌いでしたか……?」
「まず、私は君のことを知らない。だから、好きも嫌いもないんだ」
「……」
「それに、私には、その……も、もう好きな人がいてだな」
「そ、そんな……だ、誰ですか、それは!」
「それは……」
クリーブランドは龍仁の方をチラッと見る。
だが、龍仁はそれを助けを求めてるものと勘違いし、「言いたくなければ言わなくていいぞ」と目で語りかけていた。その鈍感さに、クリーブランドも若干腹立たしくはあったが気持ちは落ち着いた。
「……それは言えない。でも、少なくとも君の気持ちには応えられない。ごめん」
「……」
呆然とする男子生徒。だが、すぐに我に返り、口を開く。
「分かりました。じゃあ、お互いを知ればいいんですね」
「え?」
「俺、絶対にあきらめませんから、クリーブランドさん!」
そう言って男子生徒はバッジだけ置いて教室を去っていった。
クリーブランドはポカンとした様子でその後ろ姿を見送った。
「良かったのか?かなり本気だったぞ、さっきの奴」
龍仁がそう尋ねる。
「……いいさ。好きでもない相手と付き合うなんて、お互い幸せになれないんだから」
「にしても、こうなってくると本格的にクリーブの好きな相手ってのが気になるな」
「……い、言えるか、そんなこと」
「ま、それもそっか」
あっさり引き下がる龍仁に、クリーブランドは何か腑に落ちないものを感じた。
「もうちょっと、だな」
「あぁ」
制限時間まであと5分ほどになった。
すでにほとんどの人が投票を終わらせ、校庭に集まり、校舎内からは賑わいがなくなっていた。
「あ、そういえば龍仁は?龍仁は投票に行かなくていいのか?」
「ん?あぁ、そういや、もうそろそろ投票しないとな」
「……それで、誰に投票するんだ?」
「ん?決まってるだろ。ほい」
「え?」
龍仁にバッジを渡され、クリーブランドは困惑する。
「え、え、私?」
「クリーブ以外に誰がいるんだよ」
「え、だって贔屓はしないって……」
「してないぞ?」
「それってどういう……」
「ん?今年の神子の中だと、クリーブが一番だと思ったって話」
龍仁は当たり前のようにそう語る。
「……本当に、か?」
「あぁ、もちろん。言っとくけど、俺、そこら辺は厳しいからな?」
「……本当か?」
「本当だよ」
――敵わない。
クリーブランドはそう思った。
好きになったきっかけなどもう覚えていない。
だけど、こういう龍仁だからこそ好きになった。それだけは言える。
「どうした、何かおかしいか?」
自分でも気付かぬうちに笑っていたようで、龍仁が首を傾げる。
「……ううん、何でもない。ありがとう、龍仁」
「どういたしまして」
「……あの、龍仁!」
「ん?」
「私――」
クリーブランドが何かを言おうとした時――
「終了~~~~~~~~~~~~~~!」
投票の終了を告げる合図が鳴り響く。
「ん、終わったか。で、クリーブ、何か言いかけてたけど、どうした?」
「……何でもない」
出鼻を挫かれ、クリーブランドは言おうとしたことを言い出せなくなってしまった。
「そっか?ま、とりあえず係員が来るのを待とうぜ」
「うん」
2人はバッジを回収する係員が来るのを並んで待つのだった。
「あー、惜しかったわね」
帰り道。エリザベスは残念そうに溜息を吐く。
星帰り祭の人気投票の結果、クリーブランド達は1位とは僅か5票という僅差で惜しくも2位。1位は3年のサラトガというKAN-SENが勝ち取った。
「あぁ、もうちょっとだったんだけどな」
「作戦は悪くなかったんだろうね。……相手がアイドルのサラトガちゃんだったからなぁ」
「ま、そこは気にしても仕方ないさ。そのアイドルにもうちょっとで追いつけそうだったって、前向きに考えようぜ」
「うん、そうね。ところで……クリーブランド?」
「ん、どうしたんだ、エリザベスさん」
「クリーブランドは、その……あんまり悔しそうじゃないわね」
「そうか?これでも『もうちょっとだったのに』って悔しさはあるぞ」
「……それにしては、なんだか嬉しそうね」
「そ、そうか?」
「えぇ、なんか頬が綻んでいるというか」
「ニヤついているというか」
「ニヤッ!?」
「フィーゼ、それは直球すぎだ。んで、何かあったのか?」
「……」
「……あぁ、何となく分かったわ」
クリーブランドの視線で、龍仁が何かをしたというのはエリザベスもすぐに察した。
「まったく、これだから龍仁は……」
「え、俺?」
「ま、いいけどね」
「ちょっと待ってくれ、俺が何かやったのか?」
「さぁ、ね?ね、クリーブランド」
「うん、そうだな」
「???」
龍仁は頭の上に「?」を浮かべていた。
「それで、今日も3人で星を見るのか?」
「えぇ、せっかくの星帰りだもの。龍仁と一緒に見る予定よ」
「そ、そうか……」
「クリーブはどうする?」
「私は……今日は妹達とお疲れ様会をするって約束してるから」
「そっか。それは残念だな」
「……」
「……」
しばらく話していると、龍仁の家の前に着いた。
「んじゃ、お疲れ、クリーブ」
「あぁ、お疲れ様」
「えぇ、お疲れ様」
「お疲れ、クリーブランド」
クリーブランドは龍仁達に手を振ってその場を去ろうとした。
「……」
「ど、どうしたの、エリザベスさん」
そんなクリーブランドの手を、いつの間にかエリザベスが掴んでいた。
「……あんまりゆっくりしていたら、遠慮なく私がもらうわよ」
「……!」
それはエリザベスのクリーブランドへの挑戦だった。
真っ直ぐクリーブランドを見つめるその目には、確かな龍仁への強い想いを感じることができた。だからこそ、彼女が何を言いたいのか、クリーブランドにもすぐに伝わった。
「私は容赦しない。それぐらい龍仁が好きだから。それだけは言っておくわ」
エリザベスはクリーブランドの手を離すと、龍仁達のところへと戻っていく。
「何を話していたんだ?」
「秘密。それじゃ、ベル、お風呂の用意お願い」
「かしこまりました」
家の中へと消えていく龍仁達を見つめるクリーブランド。
「……このままじゃダメなのは分かってる」
だけど、どうすればいいのか分からない。
そんな漠然とした気持ちが、クリーブランドの胸の中に広がっていくのだった。
「……今日で星が帰ってくるのね」
「あぁ、そうだ」
夕食後。龍仁、エリザベス、フィーゼの3人はベランダから空を見上げていた。
「どうだ、星帰り祭は楽しかったか?」
「えぇ、楽しかったわ」
「私もだ」
「そっか。それなら良かった。っと、空を見てみろ」
龍仁に言われてエリザベスとフィーゼが空を見上げる。
すると、何の光もなかった空にぼんやりと光が見えてくる。
そして、気付いたら夜空には満天の星と月が輝いていた。
「……星空って、こんなにも綺麗だったのね」
「あぁ」
「でも……」
「でも?」
「……楽しかったお祭りがこれで終わっちゃったんだなって、ちょっと寂しくなるわね」
「……うん、その気持ちは分かる」
エリザベスとフィーゼは寂しそうな目で星空を眺める。
「……でもさ、まだ来年もあるんだ。それを楽しみにしてればいいさ」
「……来年も一緒にいられるかしら」
「当たり前だろ」
「……ふふっ、それならいいわ」
「あぁ、早く来年が来ないか待ちどおしい」
「ははっ、さすがにそれは気が早いよ」
「そうね」
3人は星空を見上げる。
星々は今まで何事もなかったかのように、ただただ空で輝くのだった。
「……星隠れも終わったか」
「えぇ、そうですわね」
海軍の研究所。
アーク・ロイヤル達は星々が戻った夜空を眺めていた。
「できれば、星隠れの間に件のセイレーンと接触したかったが……」
「そう上手くはいきませんでしたね」
「仕方ないだろう。海軍の情報網をもってしても姿を確認するだけでやっとなのだ。だが、それよりも……」
「あぁ、星隠れがセイレーンと関係していること……そして、セイレーン復活が確実になったことが分かったことだけでもかなりの収穫だ」
「これで海軍の上層部も動かざるをえまい。おかげで、我もしばらくはこちらに滞在できそうだ」
「えぇ、これもあなたのおかげです、『博士』」
「どういたしまして。少しでも役に立てたなら幸いだ。ただ飯食らいは格好がつかないからな」
「ふふっ、それで、『博士』はこれからどうするのですか?」
「しばらくはこっちで観測を続けることにする。どうせ戻りたくて戻れるような状況じゃないからな」
「それじゃ、しばらくは一緒だな」
「そうだな」
「そういえば、グラーフ」
「ん?」
「お前に何やら書類が届いていたぞ」
「書類?何のだ?」
「自分で確認してくれ。その方が早い」
アーク・ロイヤルから手渡された書類を、グラーフはジッと見つめる。
「……これは」
「どうだ、引き受けてくれるか?」
「……そうだな、こういうのも面白いか」
グラーフはニヤリと笑った。
彼女の持つ書類に書かれていたのは、「アズールレーン学園」の教師に赴任してほしいという内容のものであった。