アズールレーン学園   作:S・H指揮官

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第25話

「……で、ちょっかいをかけるってそういうことだったのか……」

 

 神桜高校バスケ部部室。

 ボルチモアは溜息を吐きながら頭を抱えていた。

 彼女の目の前には敵情視察に行った歩と千鶴の姿が。相手の練習風景や個人個人のレベルの話を聞き終わった後に、歩の口から「ちょっかい」の話を聞かされた。

 

「クリーブランドさん達を招待するのは別に構わない。私も、呼ぶなら彼女だろうと思っていたからな。でも、よりにもよって全く関係のない男子を呼ぶって、お前達な……」

「関係ないことはないぞ。彼はクリーブランドさんの幼馴染にして、この私の恋のライバルになる男だからな!」

「完全に私情だろ、それ。こういう時に千鶴が止めてくれるものとばかり思っていたんだが」

「ごめんなさい、部長。今回のちょっかいは私も賛成。向こうでお世話になった縁とか個人的に面白そうって思ったのもあるけど、私としてはちょっと種を蒔いておきたいっていうのもあるから」

「種?」

 

 ボルチモアは首を傾げる。

 

「私の見立て通りであれば、たぶん今回呼ぶ男の子って、クリーブランドさんの凄く大事な人なんですよね。たぶん、というか間違いなくアレは恋する乙女って感じ」

「ふ、ふーん?そ、それで?」

 

 何故かボルチモアはソワソワし出す。

 2人はそれに気付かない振りをしながら話を続ける。

 

「要するに、それでクリーブランドさんに発破をかけられないかなって思ったんだ。もちろん、クリーブランドさんが私達との戦いで手を抜くとは思っていない。本気で来るだろう。だけど、私はそれじゃあ物足りない。本気のその先、最高の戦いをしてみたいんだ。それでこそ、私とクリーブランドさんは本当に分かり合うことができるはずなんだ!」

 

 歩は子供のように目を輝かせながらそういった。

 

「……つまりは、歩の『趣味』ってわけか」

「そうとも言うな」

 

 全く悪びれた様子もなく笑う歩に、ボルチモアは深い溜息を吐く。

 

「もしも、その男の子にちょっかいをかけて相手さんが本気以上の本気になれば、不利になるのは私達なんだぞ」

「それは望むところだ。それでこそ私はクリーブランドさんに近付けるのだから!」

「万が一失敗してクリーブランドさん達が腑抜けたらどうするつもりなんだ?」

「それはそれで相手の主戦力が削れて私達が有利になるだけですから。歩が不貞腐れる以上のこちらの損失はありませんよ」

「それに、万が一の時は私がクリーブランドさんを慰めてあげればいいだけさ。そうすれば……うへへへへへ」

「歩、よだれ」

「はぁ……まったく」

 

 ボルチモアはやっぱり自分が行けばよかったと若干後悔していた。

 

「それに、何も悪いことばかりじゃないですよ」

「どういうことだ?」

「その男の子――龍仁君って言うんですけど、中々にカッコいいですよ。ほら、ウチってアレじゃないですか。だから、そういう機会を設ければウチもかなりやる気を出すんじゃないですかね」

「そうそう。日頃から『男子が見ててくれればやる気が出るのに』って言ってる部員も多いんだ、部長。だから、一度ここでバッとエンジンをかけてみるのもいいと思うぞ」

「まぁ、そういう声は確かに多いが……」

「それに、人柄は信用できますよ。なんたって歩のいたずらに乗ってくれて、しかも私達の面倒も見てくれたぐらいにはお人好しでしたから」

 

 環境が環境なだけに、男子との接触を望む部員も少なくない。

 そういった機会は何度か作ろうとしたのだが、必要以上に近付きすぎれば逆にバスケの練習が疎かになる可能性もあるため、そこの調整が難しかった。

 部外者でかつ身元がハッキリしていて、人柄も大丈夫ということであれば、部員と接触させても一時的な交流ということで後腐れもなく済むかもしれない。

 

「それに、部長にとってもいいことかもしれませんよ?」

「私に?どういうことだ?」

「前、男性のタイプが私と部長で似てるって話をしましたよね」

「そういえばしたな、そんな話」

「それで……実はその男の子、私のタイプだったんですよね」

「「なっ!?」」

 

 ボルチモアと歩が驚きの声を上げる。

 

「ど、どういうことだ、千鶴!冗談だったんじゃないのか!?」

「あら、好みまで冗談とは言ってないわよ?だから、部長にもいいチャンスかもって」

「ちゃ、チャンスって何だ!?」

「だって部長、色恋沙汰に興味津々なムッツリのくせに、『私はスポーツ一筋だ!』って言い張って見ててモヤモヤするんですもん」

「あ、それは私も思ってたぞ」

「歩まで!?」

「だから、この際開き直っちゃって恋にでも目覚めれば、部長もワンステップ成長するんじゃないかなって思いまして」

「よ、余計なお世話だ!そ、それに遠方の他校の男子生徒だろう!そ、そういう関係になったとしても、距離が離れすぎているだろ!」

「離れているって言っても、新幹線で2時間ちょっとじゃないですか。それに、遠距離恋愛なんて今どき珍しくないですよ」

「そうだぞ、部長。私だってクリーブランドさんと結ばれれば遠距離恋愛になるんだからな」

「うん、それはどうでもいいとして、どうですかね、部長」

「……ま、まぁ部員のモチベーション向上に繋がるなら構わないと思うぞ。私の色恋沙汰に関係なくな!」

 

 口ではそう言うボルチモアだが、態度から興味津々という感情が隠しきれていない。

 

「だが、本当にその男子はいいのか?ウチは……」

「ん、部長の許可は降りたんで、後は龍仁君からの連絡待ちですね。こっちのことも知ってるって言ってましたし、後はスケジュール次第だそうです。たぶん、今日中には連絡が来るはずですよ」

「そ、そうか」

「……やっぱり楽しみですか?」

「ばっ、そ、そんなことはないぞ!あくまで私は部員のモチベーションをだな!」

「ふ~ん」

 

 千鶴と歩はボルチモアをニヤニヤしながら見ていた。

 

「……ちょっかいを出すっていうのは、私に対してじゃないだろうな」

「さぁ、どうでしょうね」

「まったく……っと、そろそろ練習が始まるぞ」

「はーい」

 

 3人は椅子から立ち上がり、部室を出ようとする。

 

「……恋、か」

「どうかしましたか、部長」

「い、いや、何でもない!早く行くぞ!」

 

 ボルチモアは気を引き締めるために頬をバチンと叩き、急ぎ足で体育館へと向かった。

 

 

「神桜高校に招待された?」

 

 その日、龍仁はフィーゼと一緒に溝口の家に来ていた。

 

「あぁ、何かよく分からんけど、佐々木歩って分かるか?」

「分かるかも何も、超有名人じゃん。その人がどうかしたの?」

「実は一昨日その人がウチのバスケ部の見学に来てたんだよ」

「え、マジで!?うわー、教えてよ。見に行きたかったのに」

「いや、こっちも突然だったから。んで、ウチからも神桜高校バスケ部に見学に行くらしいんだが、クリーブ達のついでに何故か俺も招待された」

「……何で?」

「俺が知りたい」

 

 訳が分からない、といった表情の2人の横では、フィーゼが黙々とお菓子を食べている。

 

「でも桐原君はいいの?」

「何がだ?」

「だってさ、神桜高校って……女子校でしょ?」

 

 溝口の言う通り、神桜高校はその地域では有名なお嬢様学校である。

 学校としてのレベルも文武共に高く、通う生徒の中には名家のお嬢様も少なくない。文化祭などでは一般開放され、決して男子禁制というわけではないのだが、歴史ある名門女子校ということもあって「女子の聖域」のような扱いを受けていて、通常時に自分からその領域に入っていく男性は関係者以外ではほとんどいない。

 

「あー、そこは正直俺も悩んだ。俺、入っていいの?って。でも、歩さん達は気にしなくていいって言ってたし、せっかく招待されたなら断るのも失礼かなって」

「……桐原君って、結構度胸あるよね」

「それでなんだけどさ、行くのが来週の月曜日から水曜日なんだよ」

「あ、2泊3日なんだ」

「あぁ。んで、衣装っていつ取りに来ればいい?確か、溝口さんも旅行の予定があっただろ。それと被ったら迷惑かかると思って」

「なるほど。そうだね……出発は来週の日曜日だから、それまでに来てくれたらいいよ」

「分かった。これで安心して向こうに行けるよ。予定被ってドタキャンになったらあっちに申し訳ないしな」

「あれ?被ってたらこっち優先してたんだ?」

 

 溝口は意外そうな顔をする。

 クリーブランドが一緒だから、てっきり無条件でそっちを優先するものとばかり思っていたのだった。

 

「当然だろ。こっちの方が先に予定立ってたし、摩耶も楽しみにしてる用事をすっぽかすわけにもいかんだろ」

「……この場に摩耶さんがいればなぁ」

「摩耶?摩耶がいたら何かあったのか?」

「ううん、桐原君は気にしなくていいよ」

 

 溝口は苦笑いしながらそう答える。

 摩耶がこの場にいれば龍仁の言葉で喜びそうだったのだが、それを今の彼に言っても恐らく首を傾げるだけで終わるだろう。

 

「ところで、用事ってそれだけだった?」

「ん?あぁ、これだけだったけど……もしかして、急にお邪魔して迷惑だったか?」

「ううん、そういうわけじゃないけど、携帯でも良かったんじゃないかなって」

「ちょっとこっちまで用事があったからな、そのついでだ」

「用事?」

「フィーゼが遠出用のバッグとか持ってなかったからな。そういうのを買いにこっち来てたんだよ」

「あ、フィーゼちゃんも一緒に行くんだ?」

 

 フィーゼはコクンと頷いた。

 

「シリアスさんも一緒だ。さすがにフィーゼとシリアスさんの費用はこっち持ちだけどな」

「あれ?エリザベスさんは?」

「エリーは約束とかでこの地域から出られないんだとさ。万が一他の地域に出る時は海軍が一斉に動くとかで、さすがにエリーも動けなかったらしい」

「そ、それは……忘れがちだけど、エリザベスさんもやっぱりVIPなんだね」

「本人はもっと自由にしたいらしいけど、そうもいかないみたいだな」

 

 龍仁がプチ旅行に行くと聞いて「自分も行きたい!」と駄々を捏ねていたエリザベスを思い出し、龍仁も複雑そうに笑う。彼自身もエリザベスと一緒に行けるなら行きたかったが、自分達の都合だけで海軍を動かすわけにもいかなかった。

 

「でもシリアスさんはいいんだ?」

「シリアスさんはVIPってわけじゃないからな。名目上は俺の護衛って形だし、俺が遠出するならそっちについてくるのを優先したいんだとさ。最近はエリーに付きっ切りで仕事の手伝いしてたし、息抜きにはいいかとも思って」

「ふ~ん。にしても、行くメンツも女の子ばっかりだし、行く先も女子校かぁ」

 

 溝口は悪戯っぽく笑った。

 

「……なんだよ」

「いえいえ、まるでハーレムだなぁって思って」

「何でそうなる」

 

 ハーレムと聞いてフィーゼがピクッと反応する。

 

「だって周り女の子だらけなんだよ?その中に男子1人だよ?男子にとっては夢のようなシチュエーションじゃん?」

「……確かにちょっとドキドキするっちゃするけど、そんな大層なもんでもないだろ」

「夢がないなぁ、桐原君は。ヨルク君なら泣いて喜ぶでしょ」

「アイツと一緒に並べられるのは少しばかり不本意なんだが」

 

 

「はっくしょん!」

「おや、どうしました、ヨルク様」

「誰かに噂をされた気が……あ、いや。もしかしたら風邪かなぁ?」

「ふむ……見たところ顔色も呼吸も問題なし。脈と体温も……問題ないですね」

「あ、さいですか」

「というワケで、そろそろ行きますよ」

「いや、ちょっと待って、オリバーさん。まだ心の準備ができてないというか、そもそもスカイダイビング自体初めてだからできれば遠慮したいっていうかちょっ押さないで押さないで!せめて心の準備を終わらせてかいやぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

「むー……」

 

 フィーゼが唸りながら龍仁の袖をギュッと掴む。

 

「どうした、フィーゼ」

「……龍仁は、女性に囲まれてる方がいいのか?」

「まぁ、嬉しくないって言ったら嘘になるな」

「むー……」

「どうしたんだ、フィーゼ」

 

 むくれるフィーゼの様子を見て、溝口はクスクス笑った。

 

「フィーゼちゃん、桐原君を独り占めしたいから、桐原君がハーレム状態って聞いてヤキモチ焼いちゃってるんだよ。ホント、可愛いね」

「そうなのか?」

 

 フィーゼはさっきよりもしっかりと龍仁の腕にしがみつき、コクンと頷いた。

 

「ハーレムじゃないから。女子が多いだけだからな」

「……本当か?」

「本当だって」

「龍仁の嫁は私だけか?」

「えっと、それは……」

 

 フィーゼにジッと見られて龍仁は目を逸らす。

 この純粋な目にどう答えればいいのか、今の彼には分からなかった。

 

「もう、ここまで迫られてるんだから、いっそ勢いでぶちゅーって行けばいいんだよ。ほら、私見ないフリしといてあげるから」

「できるかぁ!」

 

 わざとらしく目を隠す溝口に、龍仁はそう叫んだ。

 

「龍仁はもしかして私のことが嫌いか……?」

「き、嫌いとかじゃなくてだな!」

「じゃあ好きか?」

「……」

「好きか?」

「よし、フィーゼ。まだ買い物残ってるからそろそろ行くぞ!」

「えー、もう一歩だったのにー」

「仮に言うとしても、いつの間にかカメラ構えてるやつの前で言えるか!」

 

 どこから取り出したのか、溝口はいつの間にかカメラを構えていた。

 当の彼女は悪びれた様子もなく「あちゃー、バレたかー」と笑っていた。

 

「せっかくだからお昼一緒に食べる?」

「さっきの話を継続させそうだから却下」

「ちぇー」

「ほら、フィーゼ」

「むー」

 

 フィーゼは拗ねた様子で動こうとしない。意地でも龍仁の答えが聞きたいようだった。

 

「……あ、そうだ!」

 

 突然溝口が立ち上がる。

 そして、積み上がった洋服を漁り、何かを探す。

 

「えぇっと、確かこの辺りに……あったあった!」

 

 溝口は一着の服を取り出した。

 シンプルなデザインの黒のゴスロリ風ドレスで、フィーゼの体にピッタリ合いそうなサイズであった。

 

「前回フィーゼちゃんのサイズ測った後に作ってみたんだー。来てくれた時にプレゼントしようと思ってて、ちょうどよかったよ」

「お、おぉ……!」

 

 その服を見てフィーゼは目を輝かせる。

 店に並んでいても違和感のない完成度に対する感嘆もあるが、それ以上にフィーゼの好みに合致した歓喜の方が大きいようだ。

 

「いいのか?」

「いいのいいの。私が好きで作ってる服だから、着てくれる人がいないともったいないし」

「だとさ、よかったな、フィーゼ」

「はい、フィーゼちゃん」

「ありがとう、溝口」

 

 フィーゼは洋服を受け取ると、大事そうに胸に抱えた。

 初めてフィーゼに服を買った時のことを思い出し、龍仁もほっこりした気持ちになる。

 

「さっそく着てもいいだろうか」

「いいよ。あ、着替えは隣の部屋を使ってね」

「分かった」

 

 フィーゼはパタパタと部屋を飛び出す。

 それを見届けてから、溝口は龍仁を肘でぐりぐり突く。

 

「服の件と話を有耶無耶にした件、これで貸し2つね」

「服のことは素直に感謝するが、話をややこしくしたのは溝口さんだろ……」

「細かいことは気にしない。どういう形で返してくれるか、楽しみにしてるからね」

「はいはい。わかりましたよ、と」

 

 そう話していると、着替え終わったフィーゼが戻ってきた。

 

「着替え終わった」

「「おー!」」

 

 龍仁と溝口は思わず歓声を上げる。

 当然のように服のサイズはフィーゼにピッタリ。フィーゼ自身がまるで人形のような愛らしさがあることに加えて、溝口の作った服が人形のような雰囲気に絶妙にマッチして神秘的な雰囲気さえ感じさせる。

 

「どうだ、龍仁、溝口」

「うん、可愛いぞ」

「我ながらいい仕事をしたわね」

「~♪」

 

 先ほどむくれていたのが嘘のように、フィーゼはご機嫌になった。

 

「よかったわね、この場に椎名がいなくて。いたら問答無用でお持ち帰りしてたかも」

「……その場面が容易に想像できる」

 

 

「はっ!?なんか今溝口の家でフィーゼちゃんが私を待っている気配が!?」

「何言ってるのよ、まだ掃除終わってないんだから、家から出ちゃダメだからね」

「ヤダー!フィーゼちゃんが私を待ってるのー!」

 

 

「フィーゼの服が必要な時は次からは溝口さんに頼むか」

「ふふっ、次からはちょっとお高いわよ」

「フィーゼが喜んでくれるなら安いもんだ」

 

 しばらくフィーゼの服を楽しんでから、龍仁とフィーゼは溝口の家を出るのだった。

 

 

「あ、龍仁君だ~!」

「お、本当だ。フィーゼちゃんも一緒か」

 

 町中を歩いていると、長良と康大にばったり遭遇した。

 2人とも両手に大量の食材を抱えている。

 

「おっす、2人とも。デートの真っ最中か?」

「今は料理部の食材の買い足しかな。デートでもあるけどね~」

 

 などと言いながら相変わらず人目もはばからずイチャイチャしだす2人。

 胆力なのか愛の力なのか分からないが、思わず感心してしまう。

 

「龍仁は何やってるんだ?フィーゼちゃんとデートか?」

「いや、俺達は普通に買い物を――」

「デートだ」

 

 フィーゼが食い気味にそう言った。

 

「ふふっ、デートなんだって。可愛い~」

「ったく、フィーゼは」

 

 長良達に負けじと龍仁にしがみつくフィーゼに、龍仁は苦笑する。

 

「そんで?デートで何を買ってたんだ?」

「ちょっと旅行用の道具をな」

「旅行?どっか行くのか?」

「あー、うん。ちょっとな」

 

 龍仁は2人に神桜高校のバスケ部見学に招待されたことを伝えた。

 

「へぇ、何でまた?」

「知らん。けど、せっかくお呼ばれしたんだから行くことにしてな」

「神桜高校って女子校だよね?龍仁君、まさか女装を……?」

「しないからな?絶対にしないからな?」

「お、フリか?」

「マジな奴だ!」

 

 期待するような目の2人に、龍仁は思わず大声を出してしまう。

 

「えー、龍仁君が女の子の恰好するの、似合いそうなのにー」

「全然嬉しくないからな、それ」

「もし女装して行くなら俺に連絡しろよ。そういうのに理解が深いお店知ってるから」

「なんでそういう店知ってるのかは敢えて聞かないが、連絡することはないから安心しろ。ところで、料理部の方はいいのか?早く冷蔵庫にしまった方がいい食材とかもあるんじゃないか?」

「あ、それもそうだね。それじゃ、そろそろ行こ」

「荷物持つの手伝おうか?どうせ帰り道だし」

「おっ、頼めるか?長良の荷物が結構多くてな」

「任せろ。フィーゼ、ちょっと学校に寄ってから帰るからな」

「分かった」

 

 龍仁は空いた手で長良から荷物を受け取る。幸い、フィーゼの買い物の荷物はそこまで重い物ではなかったので、荷物持ちは特に苦ではなかった。

 

「ふふっ、こうやってるとダブルデートみたいだね」

「!!」

 

 長良の言葉に目を輝かせ、フィーゼは龍仁の腕にガシッと捕まる。

 急に掴まれたために、龍仁は思わず荷物を落としそうになった。

 

「おわっと!フィーゼ、急にくっつくな。歩きづらいだろ」

「ダブルデートなのだから問題ない」

「ふふっ、やっぱり可愛い~」

 

 4人は学校を目指して歩くのだった。

 

 その後、学園で待ち構えていた部長のセントルイスに龍仁が捕まり、危うく料理部の入部届にサインをしかけたのはまた別の話。

 

 

『というワケで、こっちはOKだった』

 

 千鶴の携帯から龍仁の返事が聞こえてくる。

 

「おー、それは良かった」

『んで、こっちの連れの費用もちゃんとこっちで出せるから、心配はいらないってさ』

「うん、助かるよ。龍仁君まではそっちのマネージャー扱いでこっちが費用出せるけど、それ以上はちょっと厳しいから。それに、本物のメイドさんっていうのも見てみたいしね」

『案外普通だぞ』

「身近な人には分かんなかったりするのよ。だから実際に見てみないとね」

『それもそっか。んじゃ、来週はよろしく頼む』

「うん、ちょっと大変かもしれないけど、頑張ってね」

『え、何が?ちょっと、千鶴さん?お――』

 

 千鶴はぷつっと通話を切る。

 ちょっと不穏な空気を漂わせておいた方が面白そうだったのでそうした。

 

「千鶴、龍仁君は何だって?」

 

 飲み物を片手に歩が現れる。

 

「OKだって」

「それはよかった。部長もちょっと期待してたからな」

「何だかんだ言って、部長もそういうのには興味津々だしね。焚きつけるだけ焚きつけといたから、いざ会った時が楽しみね」

「……あのことって本当なのか?龍仁君が好みのタイプって」

「ふふっ」

 

 意味深に笑う千鶴に、歩は「むー」と頬を膨らませる。

 今まで何度か千鶴にアタックはしてきた歩だが、その度にするりと躱されていた。なのに、件の男子のことはよほどお気に入りのようで、何かと千鶴は話題に上げることが多い。それが歩には少し気に食わなかった。

 

「……これは意地でも部長とくっつけるのが得策か」

「ん?どうしたの、歩」

「いや、何でもない。ちょっと頑張らないとな、と思って

「ふーん、よく分かんないけど、頑張ってね」

 

 千鶴はそう言って呑気にお茶をすするのであった。

 

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