町中にあるファミレス。
そこのとある一席にモントピリア、デンバー、コロンビア、青葉、そしてクリーブランドの姿はあった。
「と、いうわけで、クリーブランドさんのための作戦会議の始まり始まり~」
青葉がそう告げると、デンバー、コロンビア、モントピリアが同時に頷く。
「さて、と。まず最初にやること。それはなんでしょうか、コロンビアさん」
「はい!まずは姉貴の現状の把握から!」
「その通り!そこから始めないと対策が取れないからね」
「いや、あの……」
「それじゃあ、さっそく現状確認を改めて……」
「ストップ!ちょっと待った!」
話をどんどん先に進めようとする青葉を、クリーブランドが制止する。
「どうしたの、クリーブランドさん」
「いや、どうしたのも何も、何をやってるんだ?」
「だから、作戦会議だよ」
「何の?」
「姉貴の恋路の」
「意味は分かるんだけど、意味が分からない。同じようなことは学校でもやったじゃないか」
クリーブランドは困惑の表情を浮かべる。
現在は夜中の8時。放課後、妹達に連れられてファミレスに来たクリーブランドは、何故かそこで待機していた青葉と合流。逃げ道を塞ぐかのように4人に囲まれ、そして今に至る。
「いや、あの時はヨルクとかノーマンがいたでしょ。男子がいると思い切ったことも言えないかな、と思って。ほら、エグい話とかもあるじゃん」
「そんなエグい話をするつもりは無いぞ!」
「でも、姉貴がピンチなのは確かなんでしょ?」
「私達も兄貴と今日たまたま会ったけど、あのフィーゼって子、結構手強そうだったし」
「……」
クリーブランドは何も言えずに黙り込む。
彼女達の言う通り、自分の恋路がピンチなのは純然たる事実なのだ。
「僕達としては姉貴には元気でいてもらいたいから、応援したいんだよ」
「その為にも、思い切ったことが言える場ってのは大事だと思うんだ」
「だからね、姉貴」
「……」
クリーブランドはまだ少し困惑しているようだったが、それでいて少し嬉しそうな顔をした。状況はどうあれ、妹達が自分のことを考えてくれたことは嬉しいようだ。
「さて、クリーブランドさんが納得してくれたところで……」
「現状の把握だっけ?」
「そう。まず、モントピリアさんから見て龍仁の方はどういう風に見えた?」
「うーん……フィーゼって子の親戚のお兄さん、って感じの距離感に見えた」
「2人は?」
「私もそういう感じに見えたかな」
「私も」
コロンビアとデンバーもモントピリアに同意する。
「つまり、今の段階で龍仁の方にはまだ余裕はあるって見ていいと思う。ただ……」
「ただ?」
「ほら、龍仁って結構流されやすいところあるでしょ?責任は取らないといけない、っていう風にも考えてるみたいだし……フィーゼちゃんに押されて『じゃあ付き合ってみるか』ってパターンもあると思うんだよね」
「それで、付き合い出してから相手のことを意識し始めて、そこから好きになっちゃう、みたいな……うん、兄貴ならあり得そうだ」
「でもさ、少なくとも兄貴ってロリコンではないよね。もしそうだとしたら、前の如月ちゃんだっけ?あの時に押され負けて事案発生、ってことになってそうだし」
「あー、そういえばそうかも」
「フィーゼちゃんから相当押されない限りは、兄貴も大丈夫かもね」
「うーん、思ったよりも余裕はある感じ、かな?」
それを聞いて、クリーブランドは心底ホッとしたような表情をした。
「問題は姉貴なんだよね」
「わ、私!?」
急にそう言われ、クリーブランドは素っ頓狂な声を上げる。
「いや、だってさ。今までも何度もチャンスあったわけじゃん?それを悉く無に帰したのって姉貴自身だもん」
「い、いや……そこまでチャンスってワケじゃ……」
「中学生の時の修学旅行の件、忘れてないからね?」
「ぐっ……」
青葉に痛いところを突かれたクリーブランドは再び黙ってしまう。
「姉貴もそろそろ覚悟決めた方がいいよ。本当に兄貴を狙うならね」
「じゃないと……私達が兄貴貰っちゃうよ?」
デンバーはそう言ってクリーブランドを見る。コロンビア、モントピリアも真剣な目でクリーブランドを見ていた。
デンバーの言葉が冗談などではないことは、クリーブランドも重々承知していた。
「で、どうなの?」
「私は……」
「もしもチャンスが残ってるなら、私は諦めたくないし、そもそも誰にも渡したくない!」
クリーブランドの力強い宣言。それを聞いて、四人はうんうんと頷く。
「よく言った!」
「さすが姉貴!」
「その意気だ!」
「よっ、男前!」
「誰だ!今男前って言ったのは!?」
「さて、クリーブランドさんの気持ちも確認できたところで……」
「ついに作戦会議の始まり、だな」
「その通り、モントピリアさん。今はまだ大丈夫だけど、うかうかはしてられないからね。ちょっと別の懸念材料もあるし……」
「別の懸念材料?」
「あ、こっちの話だから気にしなくていいよ」
「で、どうするの?」
「今日の学校でもみんな話したんだけどね、中々良い意見が出なくて……あ、姉貴。ちょっと水取ってー」
「はいはい」
クリーブランドはデンバーのコップに水を注ぐ。
「いざ考えると、中々思い付かないんだよね。というか、簡単に思い付くならとっくにクリーブランドさんと龍仁もくっついてるだろうしね」
「うぅ……」
「それじゃあ、こういうのはどうだ?」
「何?モントピリアさん」
「一思いに兄貴を押し倒して既成事実を作るとか」
「だから出来るかぁ!」
クリーブランドは思わず立ち上がり、大声で叫ぶ。店内の注目が一気に集まり、クリーブランドは恥ずかしそうに俯きながら座る。
「いやぁ、その意見出たんだよね。即クリーブランドさんに却下されたけど」
「と、当然だろ……というか、意味わかってるのか、モントピリア」
「分かってるぞ。姉貴が兄貴の家に押しかけてベッドに――」
「はいストップ。これ以上は不健全になっちゃうからねー」
「だけど、それぐらいやらないと姉貴も兄貴も進展しないと思うんだ」
「うん、分かる。その気持ちは分かるけど、その方法はなしでね」
「むぅ……いい方法だと思うんだけどな……」
よほど自信があったのか、モントピリアは不満そうにしながらも引き下がる。
「そもそも、クリーブランドさんにそんな度胸があると……あれ?クリーブランドさん?ちょっと、大丈夫!?」
「わー!姉貴の顔から湯気が!?」
龍仁を押し倒した後のことまで想像してしまったのか、クリーブランドは顔を真っ赤にしてフリーズしてしまっていた。
その後、クリーブランドが元に戻るまでに10分ほどかかった。
「コホン。さて、純情乙女のクリーブランドさんが戻ってきたところで、話を再開しようか」
青葉はそう言って話し合いを再開する。当のクリーブランドはフリーズこそしていないが、まだ顔が赤いままであり、青葉の言葉が耳に入っていないようであった。
「さっきのモントピリアさんの意見は論外として、他に何かある?」
全員が「うーん」と唸りながら考え込む。
みんなが考え込んでいると、デンバーがそっと手を挙げた。
「はい、デンバーさん」
「そもそもさ。兄貴ってどういう人が好みなのかな」
「と、言うと?」
「ほら、要するに、兄貴に振り向いてもらえるようにすればいいんだから、姉貴を兄貴の好みに近付けるのが一番の近道だと思うんだよね」
「なるほど。王道路線だね」
「何だ、王道路線って……」
「少なくともモントピリアのは邪道かな」
「うぐっ」
コロンビアが涼しい顔でモントピリアの傷をえぐる。
「で、重要なのが兄貴の好みになってくるじゃん。だから、兄貴ってどういう人が好みなのかなって。青葉先輩なら知ってそうだし」
「龍仁の好みかー……そういえば、よく知らないんだよね」
「え、そうなの!?」
意外そうな表情を浮かべるコロンビア、デンバー、モントピリアの三名。
龍仁と付き合いが長く、よく龍仁のことを調べている青葉であれば当然把握していると思っていたので、予想外であった。
「姉貴は?」
「……実は、私も知らないんだ」
「……なんで?」
「いやぁ、だってさ。ずっとクリーブランドさんと龍仁がくっつくと思ってたし。だから、龍仁の好みとか聞いてもしょうがないって思うじゃん?」
「姉貴は?」
「……聞くのがちょっと怖かったというか……」
俯き、もじもじしながら答えるクリーブランドの姿に、4人は思わずキュンとしてしまう。
「コホン。そう言う3人は?」
「私も知らないや」
「てっきり、青葉先輩か姉貴が把握しているものとばかり」
「僕も同じだ」
「つまり、誰も知らないと……」
「いきなり躓いちゃったよ……いい考えだと思ったんだけどなぁ」
デンバーは残念そうに溜息を吐いた。
「いやいや、諦めるのはまだ早いよ。ちゃんと知ってる人がいるじゃん」
「え、誰?」
青葉は携帯電話を取り出し、ニヤリと笑う。
「そりゃあ、もちろん……本人しかいないでしょ」
「んで、聞きたいことって何だ、青葉」
20分後、不機嫌そうな顔の龍仁がファミレスに姿を見せた。
「まぁまぁ、そう急がずにゆっくりしていこうよ。どうせ暇だったんでしょ?」
「……まぁ、正直助かったってのはある」
「助かった?何の話?」
「……入り方が分からないって、フィーゼから風呂に一緒に入るようせがまれてた」
(セーフ!)
5人は一斉に同じことを思った。
それと同時に、「まだまだ猶予がある」という自分達の認識が少し甘かったのも感じた。
「でもまぁ、私も最近兄貴とゆっくり話せてなくて寂しかったから、たまにはこうやってお話がしたかったなー、なんて」
コロンビアが少し照れたようにそう言うと、先ほどまで不機嫌そうだった龍仁が、嬉しそうに笑いながらコロンビアの頭を撫で始める。
「そう言ってくれると嬉しいよ。俺もコロンビア達と色々話したいことあったしな」
「えへへ~」
コロンビアも頭を撫でられて気持ちよさそうな声を上げる。
その様子を、クリーブランド達4人はジトっとした目で眺める。
「何というか……」
「龍仁って、昔からコロンビアには特に甘いよな……」
「甘いというか、むしろデレデレな感じ?」
「うん、明らかに僕達によりも甘い」
「いやいや、そんなことはないぞ。デンバーもモントピリアも、可愛い妹みたいな感じだと思ってるよ」
「いや、それは知ってるんだけど……コロンビアさんには特に、って思っちゃうんだよね」
「そりゃ、まぁ……デンバーはどっちかというと友人って距離感だし、モントピリアは……今はもう大丈夫なんだが、どうしても昔のイメージから抜け出せない部分があるというか……」
「昔のイメージ?」
青葉がデンバーに尋ねると、デンバーは苦笑いしながら答える。
「モントピリアって姉貴大好きでしょ?それで、姉貴と仲の良かった兄貴に昔は文字通り噛み付いててね……兄貴への態度が柔らかくなったのは姉貴達が中学生に上がった頃だったから、まだ兄貴の中に昔のモントピリアが残ってるんでしょ」
「うぅ……あの時は悪かったって思ってるけども……」
モントピリアは申し訳なさそうに顔を伏せる。
モントピリアも龍仁に懐き、龍仁もモントピリアを目いっぱい可愛がっているのを見ているので、その様子が青葉には全く想像できなかった。
「それで、一番懐いてたコロンビアさんには甘い、と。そんな感じ?」
「まぁ、そんな感じだ。だけど、昔みたいに『お兄ちゃん』って呼んでくれなくなったのは寂しいけどな……」
龍仁は少し寂しそうに笑う。
「そ、それは……今はさすがにちょっと恥ずかしいかなぁ。……ちょっと呼んでみたいけど、まだ心の準備とかが……」
コロンビアは顔を赤くして、モジモジしながらそう言う。それを見て龍仁は動きをピタッと止める。
「……クリーブ」
「なんだ?」
「コロンビアをウチの妹として正式に迎え入れたいんだが」
「ダメに決まってるだろ」
「そうだよ。でも、どうしても妹として欲しいならいい方法があるよ」
「いい方法?」
「そう。ずばり、クリーブランドさんと結こ――」
「あー!そういえば龍仁に聞きたいことがあったんだよな、青葉!時間も勿体ないし、早く本題に入ろう!」
クリーブランドが青葉の言葉を大声で遮る。
「それもそうだな。あんまり遅くなるとおっさんも心配するだろ。というか、あんまり遅くなりすぎて、それで俺が一緒にいたことがバレたら、俺がおっさんに殺される」
「そうだよな!だから早く話に入ろうか!」
青葉は小声で「ちっ、もう少しだったのに」と呟き、クリーブランドに睨まれるのだった。
「それで、聞きたいことって?」
ジュースを飲んで一息ついてから、龍仁は改めて尋ねる。
「うん。五人で話してる時にちょっと話題にあがって気になったことがあって……ずばり、龍仁ってどんなタイプの女の子が好みなの?」
「好みのタイプ?」
「うん。そういえば先輩の好みとか知らないなぁ、と思って」
「言った覚えもないもんな」
「それで、どうなの?」
青葉が目をキラキラさせながら尋ねる。他の四人、特にクリーブランドもジッと龍仁の言葉を待っている。
「好みのタイプかー……んー……」
「あれ?教えてくれる感じ?」
「別に隠すことでもないだろ」
「普通は隠すと思うんだけどなぁ……」
こういうところで致命的に鈍い龍仁に、青葉は呆れるしかできなかった。
「なんだろうな……」
龍仁は考え込む。自分のこととはいえ、パッとは思い付かないようである。
「そうだな……まず、料理ができる人ってのがいいな」
「料理?龍仁、自分で料理できるじゃん」
「自分で作るのと他の人に作ってもらうってのはまた別だよ。やっぱり、自分のために料理作ってくれる人がいるってのは安心するんだぞ」
「そういうものなのかぁ」
(……姉貴、料理得意だったっけ?)
(……やったことがない)
(大抵モントピリアが作ってるもんね……)
クリーブランド達はこそこそと話し、ガクッと肩を落とす。
「ほ、他には?」
「他に……そうだな、好みのタイプというか、憧れなんだが……やっぱり強い人とかかな」
「例えば?」
「そうだな……伊勢姉とか日向姉みたいな感じかな。あの二人は俺の目標でもあるし」
「成程成程」
(強さなら姉貴にピッタリじゃん!)
(姉貴、腕っぷしは昔から強いもんな)
(そ、そうか……!)
「まぁ、憧れってだけで、好みとはちょっと違うな」
(ダメだったね、クリーブランドさん……)
(ま、まだそうと決まったわけじゃないだろ!?)
「あとは……やっぱり、一緒にいて楽しいっていうのが一番重要かな」
「うわぁ、ありきたりだねー」
「いいじゃねーか。ありきたりなのも大事だぞ」
(先輩、姉貴と一緒にいて楽しそうだもんな!これは行けるんじゃないか!)
(一番重要って言ってるし)
「ほほう、つまりはいつも一緒にいて楽しいこの青葉ちゃんが龍仁の好みと?」
青葉がセクシーポーズを決め、ウィンクを飛ばす。
それに対して、龍仁は笑いながら答えた。
「はっはっは、冗談は新聞記事だけにしろ、青葉」
「ひどっ!そんな緩い感じで言われると結構傷付くんだけど!」
「ちょっと、青葉!」
クリーブランドがグイッと青葉の腕を引っ張り、小声で話し始める。
(何をやってるんだ、青葉!)
(い、いやぁ……私にもチャンスがあるかなぁ、と思って)
(今日は姉貴のための話し合いでしょ。何を抜け駆けしようとしてるの!)
(というか、チャンスって……)
(まさか、青葉先輩……?)
(な、なななな何のことかな!?別に、私はそんなことないよ!?)
青葉は顔を赤くして首をブンブン振る。
(青葉先輩、ちょっと詳しく話を……)
「あー、そうだ、龍仁!」
青葉は四人から逃れるように、龍仁に話を振る。
「なんだ?」
「そ、その……今、一番理想に近い女の子って、誰?」
青葉がほぼ核心に近い質問をする。
「理想に近い女の子?」
「そ。ほら、今好きなタイプのことを言ってたじゃん?そのタイプに一番近いのって誰なのかなぁ、って」
「理想の女の子、か……新聞のネタに使おうとしてないだろうな」
「龍仁のことを新聞に載せて誰が喜ぶのさ。一部の人が見るぐらいでしょ、そんな情報」
「それもそうだな。うーん……」
龍仁は腕を組み、俯いて考え込む。
そして、パッと顔を顔を上げる。
「そうだな、一番近いのといったら、それは――」
クリーブランドはゴクッと息を呑み、言葉の続きを待つ。
その時だった。
龍仁の携帯電話が鳴り響く。
「あ、悪い。父さんからだ」
龍仁は電話を取り、話始める。
クリーブランド達は緊張の糸が切れたのもあり、「はぁ」と溜息を吐く。
「はい、もしもし、父さん?あぁ。……今?まだファミレスだ。いや、告白とかじゃなくて。……うっせぇ!甲斐性無しで悪かったな!」
何か言われたのか、龍仁が急に怒り出した。
「それで、何かあったのか?……え、ちょっと話しておきたいことがあるからすぐ帰ってきてくれって?たぶん大丈夫だろうけど」
龍仁は青葉の方をチラッと見る。
さすがに家庭の事情であれば止めることも出来ず、青葉は「仕方ないなぁ」といった表情で頷く。
「うん、大丈夫みたいだ。すぐ帰るから。それじゃ、また後で」
そう言って龍仁は通話を終了する。
「悪い、すぐに家に戻らないといけなくなった」
「そっか……もうちょっとゆっくりできたら良かったんだけどな」
「また機会はいくらでもあるさ。んじゃ、代金はここに置いとくから。あんまり遅くまでいるなよ」
それだけ言うと、龍仁は飛び出すように店を出ていった。
「……あぁ、もう少しで龍仁の今の好きな人を聞き出せそうだったんだけどねー」
「そう、だな……」
クリーブランドは残念そうな、それでいて少し安心したような、複雑な表情をしていた。
「でも、結構考え込んでいたってことは、好きな人が定まってないってことじゃないかな」
「確かに。まだ『この人が一番!』っていうのがないって感じだったな」
「つまり、まだ私は龍仁の『友人』止まりってことか……」
クリーブランドはガクッと項垂れる。
「でも、逆に言えばクリーブランドさんにも十分チャンスがあるってことだよ」
「そうだよ、姉貴。それに、今回ちゃんと先輩の好みも把握できたじゃん」
「それを基に、先輩の理想の女の子に近付けるよう努力すればいいんだよ」
「……そうだよな!くよくよしてる暇があったら、前に進まないとダメだな!」
クリーブランドは顔を上げ、眩しいぐらいの笑顔を見せる。
「そうと決まれば、さっそく今日から動かないとな!とりあえずは料理、だな。さっそく明日の朝食にチャレンジしてみるよ!」
「それなら僕が色々教えるよ」
「よろしく頼むぞ、モントピリア」
「任せてくれ、姉貴」
「一応の材料は手に入れたし、もうちょっと方針定めてから解散にしようか」
「そうだね」
そして、「どうやれば龍仁の好みの女の子に近付けるか」の話し合いは続くのだった。
「単刀直入に言おう、龍仁。フィーゼちゃんの服が無い」
家に帰り着くなり早々、龍仁は辰巳からそう告げられた。
「服?」
「正確には、普段着や寝間着だな」
「いや、昨日着てたじゃないか」
「あれは以前いた施設用の簡易的な服で、ぶっちゃけ可愛くない」
「可愛くないって……まぁ、確かに大事かもしれないけど」
龍仁は昨日のフィーゼの格好を思い出す。
辰巳の言う通り、昨日のフィーゼの寝間着は機能性を重視したような質素な感じで、お世辞にも可愛い服とは言えなかった。
「それで、今週末フィーゼちゃんに服を買ってあげようと思ってな」
「いいんじゃねえの?だけど、フィーゼは何て言ってるんだ?」
「うん、最初は『よく分からないから、着ることができればそれでいい』って言ってたんだけどさ……母さんが」
「普段着、特に寝間着を可愛くすれば、龍仁もメロメロになっちゃうかもよ~?」
「是非ともお願いしたい」
「って感じで」
「母さん……」
相変わらずのフリーダムな芳奈と、それにあっさり乗せられるフィーゼに、龍仁は頭を抱えそうになった。
「ただ……」
「ただ?」
「俺達、週末も仕事が入ってるんだよ。だからフィーゼちゃんを連れていけなくてな」
「それで、俺に連れていって欲しい、と?」
「そういうこと。もうフィーゼちゃんにはそういうことで話をしてるから」
「もう決定事項かよ」
こちらもこちらで強引な辰巳に、もはや龍仁は苦笑いしか出なかった。
「あ、もしかしてデートとかあったか?例えばクリーブランドちゃんとかと」
「ないない。そもそもクリーブは友達であってそういう関係じゃねーよ」
「……こりゃ、クリーブランドちゃんも苦労するな。まぁ、その方がリーヴも安心するか」
辰巳は一人でうんうんと納得する。
「とりあえず、特に予定もないし、フィーゼの服選びってことなら断る理由は無いよ」
「おー、助かる。んじゃ、週末は任せたぞ」
「あいよー。んじゃ、俺はそろそろ寝るから」
「あ、そうそう。服選びなんだが」
「うん?」
辰巳は意地の悪い笑みを浮かべながら、とんでもないことを言い出した。
「フィーゼちゃんの下着も頼むな」
「うーん、結局は料理ってところかな」
「そうみたいだね」
5人はまだファミレスに残って作戦会議をしていた。
当初の予想通り、中々に踏み込んだ話やエグい内容の話も飛び出しながらも、彼女達は意見を出し合っていた。
「私にできるかなぁ……」
「大丈夫だって、姉貴!」
「僕も協力するから」
「ありがとう……ん?電話だ」
その時、クリーブランドの電話が鳴り響く。
「誰?もしかしてパパ?」
「いや、パパには今日は遅くなるからって事前に伝えてるし……あ、龍仁だ」
「え、龍仁?何だろ、忘れ物でもしたかな?」
「はい、もしもし?」
クリーブランドはとりあえず電話に出る。
『クリーブ?俺だ』
「どうしたんだ、龍仁」
『いや、週末時間あるか?』
「週末?週末は特に何もなかったと思うけど」
『それなら良かった。ちょっと一緒に中心街に行かないか?』
「中心街?え、何で?」
『実はさ、フィーゼの服を買うことになって、父さん達が仕事だから俺が連れていくことになったんだけど……俺だけじゃどういう服が良いのか分からないし、それに、その……下着も買って来いって言われてさ』
「あー、なるほど」
クリーブランドはそれで納得する。
本人に邪な気持ちは一切ないとはいえ、見た目の幼い少女の下着選びに龍仁一人で付いていくとなると、下手すれば事案になりかねない。だから、クリーブランドにも一緒に来てもらおうということなのだろう。
「いいぜ、手伝うよ」
『助かる』
「何時ぐらいに行けばいい?」
『そうだな……クリーブ達に合わせる』
「わか……え?達?もしかして妹達も連れてくるのか?」
『いや、だってなぁ……その、お前だけだとどんな服選ぶのか分からんし』
「んなっ!?失礼な!これでも少しはまともに服選びできるようになったんだぞ!」
『ホントか?』
「あぁ!そこまで言うなら、次の週末に私の実力を見せてやるよ!」
『そ、そうか。……うん、楽しみにしてるよ』
「……全然期待してないな。まぁ、いいや。とりあえずお昼前に行くから。そうすればお昼も一緒に食べれるだろ」
「あぁ、分かった。フィーゼと一緒に準備しておくよ。じゃあな」
そう言うと龍仁は通話を切った。
「え、何の話何の話?」
青葉達が目を輝かせながらクリーブランドに詰め寄る。
「別に面白い話じゃないよ。週末に龍仁がフィーゼちゃんの服を買いに行くから、手伝ってって話だから。私が服を選ぶことになった」
「え、クリーブランドさんが服選び?」
青葉が不安そうな表情を浮かべる。
「……何だよ、青葉」
「いや、だってクリーブランドさん、その……服のセンス壊滅的じゃん?」
「んな!?」
「いや、前々から言おうとは思ってたけど、服選ぶとき絶対それじゃないでしょってデザインの服をピンポイントでチョイスしてくるし……」
「ま、前は確かにそうだったけど、ちゃんと上達はしてるんだぞ!なぁ、お前達もそう思うよな!?」
「……」
「……」
「……」
「な、なんで目を逸らすんだ!?」
妹達に同意を求めたクリーブランドだったが、彼女を全面的に慕っている妹達でさえ、クリーブランドの服選びのセンスは無情にも擁護不可能だったようだ。
「でもまぁ、そこまで言うなら任せてみても面白いかもね。店員さんもフォローしてくれるだろうし」
「くっ、見てろよ……」
クリーブランドは悔しそうに唇を噛み締めるのだった。
「フッド、ここにいたのか」
重桜へと向かう船の甲板。
アーク・ロイヤルはフッドの姿を見つけ、傍に寄る。
「あら、アーク・ロイヤル様。どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたか、じゃない。急にいなくなったから探していたんだ。メイド隊も心配していたぞ」
「それは申し訳ないことをしましたね……ごめんなさい、アーク・ロイヤル」
そう言いながら、フッドは船の進む先を見る。
視界に広がるのは青い海。まだ、目的地の重桜は影すら見えない。
「そんなに慌てなくとも、重桜にはちゃんと着くのだから」
フッドの気持ちを察して、アーク・ロイヤルは苦笑する
「それでも、やはり待ち遠しくて仕方ありませんわ」
「気持ちは分かるがな」
そう言うとアーク・ロイヤルは目を輝かせながら海の向こうを指さす。
「重桜の駆逐艦の尊さはまるで天使のようだからな。その聖地に行けるなんて、なんという幸運なのだろうか!」
「もしも現地で何かあれば、すぐさま本国と海軍本部へ連絡いたしますわよ?」
笑顔のフッド。しかし、その笑顔には有無を言わせぬ威圧感があり、アーク・ロイヤルは思わず冷や汗をかいた。
「……それにしても……重桜、か。まさか、こんな形で閣下の故郷に来るとはな」
「えぇ。まさに運命を感じますわ」
「できれば、閣下と共に重桜の地を巡りたかったものだ」
「……そう、ですわね。ですが、それが叶わぬからこそ……」
「あぁ。分かっているさ」
アーク・ロイヤルが懐から出したのは、一枚の古びた写真。
そこに映っているのは、たくさんのKAN-SENと一人の男性。KAN-SENの中には、アーク・ロイヤルやフッドの姿もあった。
「……そろそろ戻ろう。メイド達も心配している。それに、現地での段取りも決めなければ」
「そうでしたわね。それでは、行きましょうか」
フッドはもう一度だけ船の行き先を見た。
「……」
その目は、まるで愛しい人を見るかのように、儚く、優しく、そして悲しげであった。