すみれ色と正義の味方 作:カズラドロップ
初連続投稿です。
私がアジサイさんの孤児院に住まうようになってから、早いことでもう5年の年月が流れていた。ゼファー君は10歳。私の年齢は歳を取る様子がないために不明である。
どうやら体の方は女神的パワーで不老なのかも知れない。まあ、ONE PIECEにおいて老いは、かなり強烈な弱体化を招く要因なので喜ばしいことであろう。外見が変わらないことについては悪魔の実で言い訳が出来るという点もいい。
私ことヴァイオレットもといスミレは、"パタパタの実を食べた織物人間"――という呈で暮らしている。それによって外見の年齢は自由に取り繕えるという寸法である。
というのもまず私ことヴァイオレットの能力から説明しよう。先に言っておくと
ヴァイオレットの能力は3つ。
ひとつはスキルの"変身"。自らのカタチを変えるスキル。自在に繊維状の身体に変身可能で、打撃系の攻撃を受けた時、ダメージを大幅に削減することができる。原作では手を線維化し螺旋状にして抉り穿つことで戦ったり、決戦時には何億という蛇が集まった様な形態にもなれる。
また、これは全身を隈無く繊維化させられるため、誰がどう見てもパラミシア系の悪魔の実の能力者。パタパタの実なる架空の物体は食べていないが、繊維人間……人間? だということは間違っていないだろう、うん。
ふたつはサクラファイブの持つスキルを超えたチート能力である
要するに現実では9割以上が偽物と言われている時間停止モノのAVの本物を撮れる能力なのだ。ただし、使うととんでもなく疲れるため、数回も使用すれば私が疲労でぶっ倒れる上、発生まで多少の予備動作があるので正直使い勝手は良くはない。まあ、他の
そして、みっつはEXランクの騎乗スキル。乗り物を乗りこなす能力であるが、EXランクになると乗騎と同化・融合する事すら可能で、あらゆる物を乗りこなせる。また、"変身"と組み合わせる事で更なる能力も解放できる。
船そのものと同化出来る時点でとんでもなく便利なスキルだ。ONE PIECEの海は魔境過ぎるのでなおのこと重宝するだろう。
まあ、要するに私はパラミシア系の悪魔の実を3つ食べれているにもかかわらず、普通に泳げる能力者のようなものなのだ。うーん、ONE PIECE基準だと凄まじく強いが、サクラファイブ基準だと若干ショボめに感じるのは、やはり私が心配性なだけだといいな。
とは言え、流石にこのような存在が普通に知れ渡ると良からぬモノに目を付けられるかも知れないので、余程のことがない限りは、"変身"スキルだけを使用してただの悪魔の実の能力者として振る舞っているのだ。
少なくとも4年間はこれで違和感なく溶け込めているので大丈夫だろう。最悪、騎乗EXに関してはハタハタの実が覚醒したと言っておけばなんとかなるかも知れないが、現状特に不便はないので何も問題ない。
「やっ! やっ!」
さて、そんな私は今、この海軍の港町にある剣術道場で竹刀を振るっているゼファー君を見学していた。
なぜ後に"黒腕"と呼ばれるほど拳主体の戦闘をしていた彼が、今竹刀を振るっているのかと疑問に思っていたが、翌々思い返すと映画で出て来た今ぐらいの年齢の写真では竹刀を腰に差していた。加えて、子供の頃にゼットをしていた頃にも腰に可愛らしい模造剣を差していた気もする。
まあ、男の子は誰しも剣と銃に憧れるのが世の常なので仕方あるまい。その辺りはONE PIECEでも変わらないらしい。
彼が10歳になり、流石に正義のヒーローゼットごっこはいつの間にかしなくなったことに一抹の哀しみを覚えながら、私は慈しむように眺めていた。
「スミレ姉……。気が散るんだけど?」
後、最近の彼はスミレねーちゃんとも呼んでくれなくなり、私は悲しい(ポロロロン)。くっ……これが反抗期ですかッ! 昔はあんなに素直に抱き着いたり、一緒にお風呂にも入ってくれたのにッ!!
……どうにも私は一番下の妹だったために、姉という属性に餓えている節がある気がするという謎の思い込みがある。多分、私の内なる
ちなみにそもそも
私に組み込まれた女神は三柱。一柱目はギリシャ神話に登場する、元は地母神であった女怪メドゥーサ。二柱目はインド神話に登場する水精であり、乳海攪拌の際に生まれた天女アプサラス。三柱目はフランス・ポワトゥー地方の民間伝承に登場する、ケルトの古い女神をルーツとした半人半蛇の竜女メリュジーヌだ。
こうして挙げてみるとスゴそうで実際スゴいのだが、日常生活の何の役に立つかと言われれば、たまに思考をメデューサさんに乗っ取られている気がする程度なので全く意味がないとも言える。後、そのせいか掛けていないと落ち着かないのでメガネを買った。勿論、伊達メガネである。これにはきっとメデューサさんもニッコリ。
ちなみに剣術道場にこうして来ている理由は、ゼファー君を迎えに来る為である。まだ、10歳の彼が帰り道で悪い人や海王類にでも拐われたらお姉ちゃんは大変なのだ。
何故か姉を自称する度に水着を着てイルカを連れた聖女の影がちらつく気がするが、きっとミーム汚染なので気にしないことにした。
◇◆◇◆◇◆
「スミレおねーちゃん! 高い高いして!」
「ええ、いいですよ」
現在、孤児院の庭先で泥をつけて遊んでいる1人の女の子にそのように依頼をされたので、言われた通り、両手で彼女の脇を抱えて高く上げた。これだけでも私の背は182cmもあるため、前世なら普通に子供が泣くような高さになっているであろう。
「むー……低いよー、伸ばしてー!」
「え、ええ……わかりましたよ」
しかし、ONE PIECEの世界の子供にとっては大した高さではないらしく苦情が来る。まあ、私が覚えさせてしまったことも要因かもしれない。
私は変身により、両腕を繊維化してそのまま5m、10m、15mと繊維と化した腕を伸ばしていく。これだけ見ると、私の能力はゴムゴムの実と若干似ているかもしれないが、血を加速させることや急伸縮させて打ち出したりすることもできないため、威力や速度はあちらに分があるであろう。
「きゃっきゃっ!」
そして、孤児院の一番高い場所を超え、既に落ちれば軽く死ねるほどの高さになっているにも関わらず、彼女は高く伸ばす毎に笑みを強めて楽しそうにしていた。
「あっ、ずりー! 次オレだからな!」
「ボクも高い高いしてー!」
「ウチのときはもっと高くしてねー!」
「あくまの実すごーい!」
「……はいはい、順番ですよ」
更に高い高いをしている私の回りには、それまで別の遊びをしていた子達が目を輝かせて集まっていた。彼らにとって今の私は遊具のようなものであろう。
本当にONE PIECEの住人は誰でも逞し過ぎるなあと染々考えつつ、しばらく子供達を高い高いする作業に没頭していた。
ちなみにこうして子供と遊ぶことも、孤児院の仕事のひとつだが、他にも掃除、洗濯、料理などの家事諸々から施設運営まで色々と4年間で任されるようになっている。特にお金の管理や運営を任されるようになったときは、何故か魂が震えるほど嬉しかったものだ。
まあ、
「スミレさん。少しお時間をいただけますか?」
「わかりました。何なりとお申し付けください」
子供達を一通り高い高いし終え、特に凝ってはいないが人の腕に戻した肩を軽く回していると、アジサイさんが何故か小声で手招きをして来た。
込み入った話なのかと思い、居住まいを正しつつ彼女に着いて行き、子供達が遊ぶこと少ない庭の隅に行くと、少し真剣な様子で目を見開く。
「スミレさん。剣術に興味はありませんか?」
「はい?」
何を思ったのかアジサイさんがそんな言葉を掛けて来た。ひょっとしてゼファー君を迎えに行き過ぎて、私が剣術道場に通いたいのではないかと思われたのかと考え、それについてはキッパリ否定しておく。
そもそも私は4年経ち、ようやく孤児院のひとりで管理から運営まで回しつつ、他の事業にも取り組める時間と資金を算出出来るようになってきたのだ。もっともっと今より効率を突き詰めて私が仕事をすればアジサイさんをより休ませて――。
「……お気持ちはとても嬉しいのですが、スミレさんは自分のしたいことをしてください。それにその……スミレさんが働き過ぎで母の仕事がなくなってしまいます……うぅ……」
そう言われてしまうと辛い私である。そもそもアジサイさんは孤児院の経営が趣味と生き甲斐を兼ねているようなお人のため、仕事を取るのは良くない。楽をさせたい一心とは言え、そんな彼女のことは理解しているため、そこまで仕事を取るという程ではなかった気がするのだが、彼女的にはもっと働いていたいらしい。
「おおアリです! そもそもスミレさんは――ああ、いえそうではなくてですね……。前々からずっと考えていたのですが、なんでもそつなくこなせるスミレさんならば私の剣術もきっと習得できると思いまして」
「剣術ですか……」
どちらかと言えば、メデューサさんはセイバーではなくランサーなんだがと思いつつ、習得しておいても損は決してないとも考える。
そもそも私は能力はあれど、戦闘に関してはずぶの素人。全く相手の力量などわからないが、アジサイさんから漂う強キャラ感はなんとなくわかるため、強いのだろうとは常々思っていたのだ。
……まあ、ややメタい視点のONE PIECE考察的な観点で話をすると、アジサイという花の名前をしていることから、高確率でアマゾン・リリーこと女ヶ島の出身なのではないかと秘かに疑っていたので、それなりの実力はあるのだろうなと勝手に考えていたのである。
「いや、しかしそれなら尚のこと私ではなく、ゼファー君に教えた方が良いと思うのですが?」
「ゼファーはその……」
そう言うと、アジサイさんは一旦言葉を区切り、キョロキョロと辺りを見回して彼が居ないことを確認してから、申し訳なさそうな様子で再び口を開く。
「本人には伝えられませんが、あまり剣術には向いていないので……」
「そうなんですか……」
「息子はもっと素直なモノの方が向いています。拳とか」
それを聞いてやはりこの人は他人を見る目があるのだなと再確認しつつ、折角なので剣術指南を受けることにした。
尚、その当日中に私は剣術指南を受けると言ったことをちょっと後悔することになる。
◆◇◆◇◆◇
「では始めましょうか!」
その日の夕方。やや山奥の開けた場所までアジサイさんは私を連れて来たかと思えば、いきなり抜き身の真剣を投げ渡して来る。
それだけでも大分アレだが、更に見れば対峙する彼女は太刀と脇差しを腰に差しており、かなりやる気だということがよく分かる。その上、背中には弓を背負っており、見るかに物々しい雰囲気が漂っていた。
「はい……?」
元から優れた動体視力でそれをキャッチした私は、渡された太刀とアジサイさんの構える太刀を交互に見つめ、目を点にする。
可笑しいな……。剣術どころか武術すら齧ったこともない素人だとアジサイさんにはあらかじめ説明した筈なのだが、作法や刀の構え方すらすっ飛ばしてこれは余りに異次元過ぎないだろうか……?
ひょっとしてあれか。アジサイさんは私に孤児院の仕事を取られたことを殺したいほど憎んでおり、剣術指南とはその口実だったのかも知れない。うーん、それなら私は潔く殺される他ない。今さら恩人に殺してまで行きたくはないからな。
ああ、それならこれは自決しろという心の現れなのだろうか。ごめんなさいアジサイさん、スミレは今すぐ死に――。
「我が亡骸は野に捨て、獣に施すべし」
「ちょ、ちょっと待ってください!? そのような物騒なことではありません!
自刃しようとした私は、慌てた様子のアジサイさんに止められた。どうやら死ねということでも殺すということでもないらしい。
……………………………………。
………………………………。
…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……ああ、女ヶ島基準の普通か。なるほど理解した。
とりあえず言われるがままに所定の位置につく。そして、片手で刀を持つと共にもう片方の腕は繊維化させて螺旋状にまとめた。
一応、合間の時間に変身のスキルで身体を繊維化させることは一通り出来るようになったため、付け焼き刃程度にはなる……といいな。
「では――せいっ!」
「は……?」
その瞬間、アジサイさんが腰を落とした居合いの構えから刀を勢いよく上に抜き放つと共に、地を削りながら斬撃の刃と衝撃波が合わさったようなモノがこちらに向けてさも当たり前のように飛んで来る。
30mほど彼女とは距離があったのだが、その程度なら次の瞬間には距離を消し飛ばす勢いで私に殺到してくることだろう。鬼かこの人。
「――――――ッ!」
私は繊維の片腕を鞭のようにしならせてそれを槍のようにまとめてから打ち付けるように合わせる。確実にヴァイオレット本来の動体視力や、瞬発力がなければこうはならないだろう。後はもう猿真似だ。
まあ、この腕はそこそこ頑丈なので吹き飛ばないかも知れない。仮に引き裂かれ千切れようとも死力を尽くすまで。元よりいつ終わっても構わない命だ。
「ぐ……!」
螺旋槍の先端と斬撃が衝突し、身体ごと私が大きく後退させられるが辛うじて斬撃は止まる。しかし、尚も消えないそれは、もう片手の刀を差し込むように横から切り裂いたことでようやく霧散した。
その刹那、チリンと鈴の鳴る音を私の耳は捉え、視線と意識をそちらに向けると――既に抜刀したアジサイさんが太刀を振り上げている。
「やはり
使う……? 覇気なんか使われたら流石に大人げ無さすぎませんかね!? 暇を見つけて座禅とかもしてみましたけれどさっぱりわかりませんでしたとも、ええ!
「ぐぅ……!?」
上段から叩き付けるように振るわれたそれは、とんでもない威力を持ち、反射的に刀で受け止めた私ごと衝撃を貫通させて地面を陥没させる。
技量よりもどちらかと言えば、パワーファイターな辺りがゼファー君と似ているのかもしれないと考えつつ、私は螺旋槍にしていた腕を鞭のようにしならせてアジサイさんを打とうとし、更に髪を繊維化させて数本の槍のように発射する。
恐ろしいことにこの反撃行動はほぼ無意識であり、攻撃を加えてから彼女の頭部と心臓目掛けて行ったことに気づいた。
「はあっ!」
しかし、私のやってしまったという想いを裏切り、アジサイさんは明らかに私の遅れたタイミングで脇差しを抜刀したと思えば、次の瞬間には私の繊維化した腕と髪を受け止めて見せる。
その際、白い刀身の脇差しに私の繊維化した髪が巻き付くが、私が幾ら引こうがまるでびくともしない。
「この――!」
とりあえず、付け焼き刃以下の刀など持っていても仕方ないと考えた私は、太刀を放り捨てると共に、両腕を細かく繊維化させ、彼女の太刀に巻き付けて止めておく。
「いざ――」
そして、少し間アジサイさんの二刀を私の髪と腕が押さえ込めたと思った瞬間、彼女の二刀が腕ごと黒く染まり、これまでにない異様な力と瞬発力で私の髪と腕が弾き飛ばされる。
あっ、この人使えない奴に覇気とか使いやがりましたよ!
「御免っ!」
そして、私を2~3度斬り付けた上で後ろに大きく飛び退いたアジサイさんは背中の弓を構え、矢筒の中にある弓を機関銃か何かのような速度で連射する。
見れば、それらの矢は全て黒く染まっており、覇気が込められていることがわかる。普通にこれ油断した能力者が受ければ死ぬのではないかと思いつつ、私は全身を繊維化させ、細く歪曲することで無理矢理表面積を減らし、目算のみで矢の掃射を避けた。
無論、覇気は使えないが、動体視力と反射神経と変身さえあれば、カタクリの真似事ぐらいは出来るというものだ。まあ、こんなの相手が真剣や拳等なら軌道が直前で変わるので、どうせ通用するわけもないのだがな。
そして、矢をなんとか避け切り、再び変身で人型に戻ると――。
「むー……」
何故か頬を膨らませたアジサイさんにちょっと泣かれていた。流石にこれは予想できずに面食らう。
「剣術指南なのに刀を捨てないでください!」
「………………ああ、すいません」
そう言えばこれは剣術指南だったということを、言われてどうにか思い出した。しかし、確かに太刀を放り出したのは私なのだが、正直繊維化の邪魔だったので何とも言えない気分になる。
一旦、剣術指南は中止になったのか、アジサイさんはぷりぷりと怒ってますといった雰囲気を醸し出していた。
「まず、貴女自身が思っている以上に貴女の体は頑丈だと思います。恐らく……生半可な方法では傷をつけることさえ困難かと」
「はあ」
なんだかその言い方だと、まるで四皇クラスが無意識に展開している最硬クラスの覇気を纏っているような言い方に思えなくもないが、それは流石に私が自意識過剰過ぎるだけであろう。
「………………スミレさん。手を繊維に変えてその太刀の刃に触れてみてください。軽く擦るだけで構いません」
「刃にですか?」
すると何故かスミレさんはそんなことを言ってくる。
言われるがままに私は地面に落とした太刀を拾い上げ、片手をやや柔らかめに繊維化させると、手が斬れてしまわないように注意しながらそっと刀身をなぞる。元々、繊維になっているのでついでに刃を磨いておいた。
何故かそれをアジサイさんは少し怖いほど真剣な表情で見つめる中、地面に落ちたことで少しついていた土埃を全て拭う。使う前よりも綺麗にして返すのが、物を借りたときの鉄則だな。
「――――はぁ……。申し訳ありません。今日は貴女の試金石でした。とりあえず、貴女がどこまで戦えるか、見てみたかったのです」
「ああ、なるほど……」
「非常に高い身体能力と、悪魔の実の応用能力に引き換え、戦い方がとてもおざなりですね。ちぐはぐどころか、継ぎ接ぎのようですよ」
余りにもその通りな評価であった。実際、私はヴァイオレットの身体を持つだけのしがない人間である。
「記憶を喪う前のスミレさんは生まれついての戦士か、身体が覚えているほど戦いを経験しているのかも知れません――――まず、明日は刀の握り方から指導しますよ!」
「あっ、はい」
どうやらやはりアジサイさん的に、私は0点だったらしい。まあ、マイナスでなかっただけ良しとして、明日からキチンと取り組もうと気持ちを引き締めた。
◇◆◇◆◇◆
「……………………」
先にスミレに帰るように促したアジサイは、彼女から返却された太刀の静かに凪ぐ月夜の湖畔の水面を映したかのような見事な刃文をひとり見つめていた。
すると、ふと動いたと思えば片手に武装色の覇気を纏わせると、その刃を撫でるようにそっと指を這わせる。
そして、撫でた指を見つめながら彼女は眉を潜めてポツリと呟く。
「この"鬼切安綱"は最上大業物なんですがね……」
アジサイの指は武装色の覇気ごとパックリと裂けており、今さらになって細く血が流れ始めるほど鋭過ぎる切れ味は、尋常ならざる妖刀のようでさえ思えたことだろう。
それから目を放した彼女は、鬼切安綱を腰に戻すと代わりに脇差しを取り出し、鞘からそっと抜いた。
「パタパタの実を食べた織物人間ですか……」
"例えるなら自分の能力はそのようなものではないか"と話していたスミレの姿を思い返しながら、アジサイは誰に言うわけでもなくまた唇を震わせて呟く。
「この脇差しは――」
彼女は白い刀身を持つそれを眺め、小さく溜め息を吐く。そして、スミレが去っていった方向を一瞥すると、天を仰ぐように夜空になり掛かる茜色の空を見据えた。
「"海楼石"ですのに……」
海楼石は海と同じ性質を持ち、奇妙で加工の非常に難しい鉱物だ。もっぱら軍艦の船底に付けて海王類避けにしている以外での武器などでの運用は非常に少ない。
しかし、それ故に海そのものが弱点の悪魔の実の能力者には、絶大な効果を発揮し、触れるだけでも全身の力が抜けてしまうのだ。
それをスミレは繊維化させた髪で事も無げに縛り上げ、全く力が弱まる様子なくアジサイと拮抗していた。
それはすなわち――彼女の能力は、悪魔の実でもなんでもないことを暗に示している。
「よよよ……母は貴女が心配ですよ」
しかし、如何にスミレが異様だからといってアジサイの心にあるのは不変の母心。彼女にとっては可愛らしい我が子のひとり以下になることはない。
それ故に少し不思議な我が子を案じる彼女は、子の秘密にあえて気づかない振りをするのであった。それもまた母心なのだろう。
このスミレさんもといヴァイオレットさんがONE PIECEにおいてどういった存在なのかはお察しください。
感想や評価を頂けると作者は大変喜び、次話投稿への意欲になります。