すみれ色と正義の味方   作:カズラドロップ

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海軍入隊

 

 

 

 

 とある偉大なる航路(グランドライン)前半の海にある中規模の海軍支部から少し航海した場所にある無人島。そこで、この支部では5本の指に入るほどの大捕物が行われようとしていた。

 

 作戦を展開する海賊頭目は、この無人島を縄張りに8隻の海賊船を統べる男であり、船団で島々を襲う海賊行為によって多大な被害を出し、この時代のグランドライン前半の海にしては高額の1億800万ベリーの賞金首となっている海賊団そのものである。

 

 また、船長はメタメタの実 モデル:タングステンというパラミシア系の悪魔の実を食べた能力者であり、ダイヤモンドに次ぐ頑強さを誇る身体によって、並みの海兵では歯が立ちようもない実力者であった。また、無人島の一角には10隻ほどの海賊船が停泊可能な隠れ港があり、高い岩壁に囲まれた入り江はそれだけでも天然の要塞のような役目を果たしており、一筋縄では行かないであろう。

 

 そのため、全ての海賊船が隠れ港に集結する頃合いを狙い一網打尽にしつつ、船長を捕縛か討ち取るために海軍本部大佐を招いた大規模な作戦であり、決行前日から海軍支部は緊張と使命感に浮き立っていた。

 

 

 そして、決行日――入り江はあまりに不気味な静けさに包まれていた。

 

 

 その島の海岸線沿いは明け方になると深い霧に包まれ、入り江からは一切の視界が塞がれるという欠点があったため、作戦はまだ日が登り切っていない早朝に行われている。しかし、そんな弱点は海賊側にとって自明の理のため、対策をしており、必ず1隻が入り江外に停泊して見張りを立てているため、先制攻撃を海軍側が持てる艦隊戦に持ち込める筈であったが――。

 

 その見張りの海賊船が何故か、ついさっきまで人がいたような生活感を全てそのまま残したまま、無人船となって沿岸で漂っていたのだ。人間が出来るような所業には思えず、まるでそれは()()()()()()中で人間だけが連れ去られたような異様な様相であった。

 

 そんなモノを見せつけられた海軍であったが、気持ちを引き締め直し、これを好機と見てまだ霧が出ている入り江を完全に包囲する。ここから海軍本部大佐を先陣に突入と艦砲を掃射を仕掛ければ最早袋もネズミも同様であろう。

 

 しかし、海軍はここで再び異常に気づく。

 

 海賊側の敵襲警報どころか、海賊たちの怒号や何らかの生活音さえもまるで聞こえなかったのだ。その代わり、金属を叩くような鈍い音と1人か2人の男の叫び声のようなものだけが入り江の中から響いてくる。

 

 明らかに異様で、誘い込まれているのではないかと海軍は考えて二の足を踏む中、海軍本部大佐はひとまず内部の様子を見るため、直属の部下と支部海兵の一部を連れて、隠れ港に侵入した。

 

 

 

 そして、そんな海軍本部大佐と彼が連れてきた他の海兵たちを待ち受けていた光景は――。

 

 

 

 

「ま、待ってくれ……お、俺が悪かっ――」

 

「海賊風情が嗤わせるな……! 寝言はァ――寝て言ェい!!」

 

「――――――――!!!?」

 

 

 

 

 標的の海賊団の船長のタングステンの身体を、己と相手の血で濡れた拳ひとつで、丁度砕き仕留めた海軍支部の新兵の男――ゼファーの姿だった。

 

 海賊団船長は、自慢の身体の胴体部にゼファーの拳が突き刺さり、そこを中心に見るも無惨に砕かれ、そのまま泡を吹いて気絶する。明らかにもう立ち上がることはない。

 

 未だゼファーは覇気の習得をしていないため、タングステンを愚直に叩き続けたその拳は、骨折や打撲などでしばらく使い物にならなくなるほどの重傷であったが、先に砕けたのは相手の心だったのであろう。未だにギラついた獣のような瞳に、興奮冷め止まぬ様子で自然な笑みを浮かべた姿は修羅のようでさえあった。

 

 ただの新兵だった筈の男が、達成したジャイアントキリングに支部の面々が絶句している中、海軍本部大佐はゼファー以外の大きな気配を覚えてそちらを見る。

 

 

「あら……丁度でしたね。見ての通り――全員生きたまま捕縛しました」

 

 

 するとそこには、千数百体はあろうかという布で全身を覆われたマネキンで出来た巨大な山のような何かの天辺に腰掛けている帯刀した海軍支部の新兵の女海兵――スミレの姿があった。

 

 また、よく見ればその山は蠢いており、全てが生身の人間だということがわかる。そして、それらを拘束している物は、繊維に変化しているスミレの片腕が何百、何千mも伸びたモノだということも理解出来るであろう。それだけでも海軍本部大佐だけは、覚醒していると見紛うほど卓越したパラミシア系の能力者であることがよく分かる。

 

 更に蛇足だが、"束縛"し尽くした山の上にいる彼女は何故かうっすらと頬を朱に染めており、また興奮するように息を少し荒げているように見えるが、その変化は微々たるものなため、日頃から彼女と接しているゼファーぐらいしか疑問には思わなかった。

 

 そして、2人から見れば遥か格上の海軍支部の上司が、化け物を見るような目で動機を問うと、片方の海軍支部の新兵の女海兵はさも当たり前のような表情でこう呟いた。

 

 

「先日、上官殿に進言した通り、こちらの方がより効率的だと証明したまでですが?」

 

 

 明らかに上官に対する物言いとは思えないふてぶてしさと、常軌を逸した戦闘能力、そして何よりも双方に死者ゼロかつたった2人で解決せしめた手腕と行動力。それらを一考し、少なくともこの海軍支部には御せる人材ではないと結論を出して小さく溜め息を吐いたのは海軍本部大佐――"コング"である。

 

 彼はゼファーに船長を担いで自身の側にいるように指示を出し、スミレが捕縛している海賊船8隻分の無数の海賊たちを全員軍艦に積み込むため、呆けている連れてきた海兵らに激を飛ばす。

 

 慌ただしく動き始めた海兵たちを尻目に、コングは2人の海軍本部への転属届けを出す手筈を考えるのであった。

 

 

 

 

 

 これは後に海軍最高戦力に数えられる2人――"黒腕"のゼファーと、"紫髪"のスミレの最初の功績のお話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゼファーくんとちょっとした売り込みを経て、晴れて海軍本部勤めになってから早いもので既に1年が経った。前の支部のいた期間も1年。ゼファー君が20歳になり、私がヴァイオレットになってから15年の年月が流れたことになる。

 

 ゼファーくんは本来の流れならば下士官の時点で六式を修得し、34歳で覇気を修得する。しかし、既に海軍本部勤務になっており、そもそも私の影響か日頃から鍛えに鍛えていた彼は、六式や覇気が無くとも億超え程度(普通に)強いと思うので、若干早まるやも知れない。既に私たちは大尉まで昇進しているので偉いのです。えっへん。

 

 まあ、原作だとコビーが作中で約2年と少し、年齢にして18歳で覇気使いどころか、少将にまで登り詰めているのでそれに比べれば、私とゼファーくんの亀っぷりに少し悲しくなってくる。まあ、勿論ぜったいコビーよりもゼファーくんの方が強い!――という親馬鹿染みた贔屓があるからという以外の何物でもない。

 

 それはまあ、過去の記憶もなにもない私が、15年も彼と一緒にいればこうなっても仕方ないと思う。私にとっては彼が全てなんですもの。

 

 また、一等兵以下は制服・制帽の着用が義務付けられているが、伍長以上になると私服が認められているので、私は基本的にいつもの黒いセーターに青のジーパンというラフな格好だ。

 

 

 そんな私は現在、海軍本部の修練場の片隅にて――。

 

 

 

「そろそろ、頭は冷えた?」

 

「とっても身体がしっとりしてます」

 

 

 同期のポニーテールに髪を結んだまだ若干あどけない顔立ちを残す儚げな美女――"つる"さんのウォシュウォシュの実で干されていた。とても洗濯物の気持ちがよくわかる。天気のいい日にお日様に当てられて乾くのは中々悪くない気分かも知れない。

 

 このまま物干し竿に掛けられて日向ぼっこをしていたい気もするが、そろそろ動かないと私の心が少し綺麗になってしまいそうなので動こう。それに時間もそろそろだ。

 

「ですから誤解なんですつるさん。私はただどえらい美しい若いつるさんの美貌を、何か形に残るモノにしておこうとしただけで、その結果があの裸婦像と裸婦画なんです。つまりはあなたの肢体は余すことなく芸術的であったということであり、そこには感動こそあれども卑猥などは一切ありませんし、そもそも私たちは同性で――」

 

「もう少し強く洗っておこうかね……」

 

「なぜッ!?」

 

 とりあえず、生命帰還(仮)でへなへなペラペラの全身を見据え、変身で一度繊維化してから再構築して難を逃れた。ちなみに今のつるさんはピチピチの22歳だ。こんなの何らかの形に残しておくしかないではないですかッ!?

 

「素直な馬鹿どもより、頭のいい阿呆の方が厄介だとスミレで学んだよ……」

 

 2次元から3次元に戻った私が一目散に逃走すると、後ろからつるさんのそんな言葉と溜め息が聞こえてきた気がするが、聞こえない事にした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 つるさんから逃げ切った私は修練場の別の区画に居た。海軍本部ともなると修練場も広大な上に、多数のエリアに区分けされているので目的の場所に向かうのも一苦労だ。

 

 私が来たのは最も海兵の家族の居住区や商業区から離れた修練場――要するに何をしてもよく自己責任の区画となる。主に簡単に周囲に被害を出すロギア系やパラミシア系の能力者の海兵が使っている。

 

 そして、そんな場所で拳と拳がぶつかり合う轟音が響き渡ると共に、ロギア系でもパラミシア系でも何でもない2人の青年が堂々と殴り合いをしていた。

 

 

「ガープ!!」

 

「ぶわっはっは!! ゼファー!!」

 

 

 彼は私のストーキング相手ことゼファーくんと、後の海軍の英雄であり、ドラゴンさんを革命軍にルフィくんを海賊に育て上げた人間の屑ことガープさんだ。2人は最近、戦闘スタイルが似ているためか、実力が今のところは拮抗しているためか、時間を見つけてはこうして模擬戦をしている。

 

 まあ、確りと被害の出ないところで、誰にも迷惑を掛けていないなら別に――。

 

「ガープゥゥ!! 貴様またすっぽかしやがったな!!!」

 

 思った側からガープさんは他人に迷惑を掛けていたようだ。未来の親の反面教師は伊達じゃない。

 

 私と同じようにこの修練場にやって来たのは控え目なボリュームのアフロ頭の青年――センゴクさんだった。ちなみに彼は25歳、ガープさんの年齢は24歳だ。意外にもまだ20歳のゼファーくんが一番年下である。これらを見越して私の書類上は26歳にしてあるので全員に年齢でマウントが取れます。ぶいぶい。

 

 まあ、職業者になった以上は年齢よりも階級や経験年数なので、つるさんを含めた私たちはただの同期となっている。上下関係も今のところ特になく、私を含めた5人の中では気にするような性格の方も居ないとは思う。

 

「行くぞガープ!!」

 

「邪魔したなー!」

 

 ガープさんはセンゴクさんに首根っこを掴まれて引き摺られて行った。うーん、見ているだけでもあの2人は面白い関係だ。互いに互いが程よく補完されているようにさえ感じる。

 

「よいしょ……よいしょ……」

 

「おい、スミレ。なぜ腕を引っ張る?」

 

「いえ、折角ですので私もセンゴクさんのように引っ張っていこうかと。我々は訓練中なので特に目的地はありませんが」

 

「止めい」

 

 ちょっと2人の関係に憧れた私は、早速センゴクさんの真似をしようとしてみたが、簡単に振りほどかれてしまった。どうやらゼファーさんのお気に召さなかったようですね。

 

 まあ、流石に冗談なので本気にされたら私が困っていたところだ。気を取り直して私は背負っていたリュックの中身を取り出す。

 

「どうしてスミレはここに来たんだ?」

 

「だってもうお昼ですよ? 予報通り天気もいいですし――」

 

 そう言いつつ私は近場の木の木陰にブルーシートを敷いて、重箱と水筒を置く。そして、靴を脱いでブルーシートの真ん中よりやや端に座ると隣をポンポンと叩いて見せた。

 

「ほら、ゼファー。お弁当を作ってきたのでお昼ご飯にしましょう?」

 

「………………お前、そう言うところ母さんに似てきたな」

 

「うぅ……ご飯も食べてくれないんですか? お姉ちゃんは悲しいです……」

 

「そこまで似せんでいい!」

 

 それだけ言うとゼファーくんはちょっと顔を赤くしつつも私の隣に座り込んだ。まあ、互いにこの歳でデートにも見間違えられそうなことをするのは多少、恥ずかしいかもしれないな。実のところ、お姉ちゃんもちょっと恥ずかしいです。

 

 とは言え、これは家族団欒というもの。恥ずかしがることも気に病むこともない。朝の日が登り始めた頃から作った重箱お弁当は、体格の大きなゼファーくんに合わせて作っているのできっと満足してくれる筈だ。

 

「……旨い」

 

「ふふっ、それはどうも」

 

 箸をつけたゼファーは小学生並みの感想を溢すが、作り手からすればそれだけで嬉しいというもの。どちらかと言えば私はイチイチ感想をレビューされるよりも、黙々と食べてくれる方が、より美味しいと思って貰っていると勝手に解釈出来るので好きだ。本当に美味しい料理は食べた者が、食べることに夢中になるような料理だと私は思う。

 

 それに(ヴァイオレット)は生真面目で効率的。科学の観点から料理をするにはもってこいの性格なのだ。

 

「…………」

 

「はい、どうぞ」

 

 ゼファーくんが空になった水筒のコップを私の方に寄せてきたのでお茶を注ぐ。そうして、木漏れ日と風を感じつつ、彼が食べ終わるまでの間、私は今この瞬間を楽しんでいた。

 

 本来ならば、今から約十数年後。彼は結婚して所帯を持つことになる。つまりこうして私が姉のように接することが出来るのは、精々10年と少しということになる。

 

 だから……だからそれまではもう少しだけ、家族として隣にいても許されますよね?

 

 私のそんな想いは誰に言うわけでもなく胸に秘め、彼を見ているうちに一抹の寂しさは薄れていくのであった。

 

 

 

 

 





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