すみれ色と正義の味方 作:カズラドロップ
海軍本部であり、綺麗な三日月型をしているマリンフォードに来てから約2年。ゼファーくんは21歳。書類上の私は27歳ということになる。うーん、私は食べられ頃ですね。そろそろ熟れちゃいます。
まあ、目覚めた当時から私の一切容姿は変わっていないため、年齢を重ねようともサッパリ変化はない。そのため、どちらかと言えば気分は16歳ぐらいだ。まだまだピチピチですよ。
それはどうでもいい。海軍本部に来てから一番実になった事と言えば、やはり"六式"を覚えられる事であろう。六式とは覇気を礎にし、極限まで肉体を鍛え上げた者のみが体得を可能とする特殊な体技の総称。指銃・鉄塊・紙絵・剃・月歩・嵐脚の六つを基本としている。また、六式を全て習得して極めることで覇気の習得に繋がるだけでなく、昇級も視野に入るという。
そんな六式を習得するために日々鍛練を積むこと、日数にすると約900日ほど。2年ではないのは修行を完全にしない日を抜いたためだ。以外と書類仕事が増えたためそちらに時間を割かれることも珍しくはない。
そんなわけで一応、私は2年間で六式を習得したのだが、その期間にはかなりばらつきがある――。
まず、最速で習得出来たのは"紙絵"。敵の攻撃から生じる風圧に身を任せて、紙の如くひらりと相手の攻撃をかわす防御技である。元々全身を繊維化させられるせいかイメージや、布の気分が何となくわかるため、教えられてから1日以内に習得出来た。先読みしなければならないため、見聞色の覇気の基礎修行なのかもしれない。
それとほぼ同じく1日以内で習得出来たのは"指銃"。指の先に力を集約させ、弾丸のような速さで相手に撃ち込む攻撃技であり、要するに極限まで威力を高めた一本貫手である。腕を繊維化させ、先端を槍のように尖らせて行う一本貫手は私の得意技であるので、それを繊維化させずにするだけで可能だった。
次に習得出来たのは"嵐脚"。凄まじい速度で脚を振り抜き、蹴りと同時に扇状の鎌風を放つ攻撃技である。要するに飛ぶ斬撃を脚から放つのだが、こんなの斬撃を飛ばしまくるアジサイさんと戦っていたら自然に刀からは飛ばせるようになっていたため、2~3日で習得出来た。
やや遅れて習得したのが"剃"。その場から消えたかのように見える程瞬間的に加速する移動技であり、移動中の方向転換等も自在に行えるというスゴ技である。しかし、発動の瞬間に地面を10回以上蹴って爆発的な加速を生み出すというわかるようでサッパリ理解のできない方法が、どちらと言えば理屈屋っぽい私の頭を苦しめた。出来るわけないでしょう普通に考えて。水上は走れるかもしれませんけれど……。
そんなこんなで私の頭の中の常識を身体で踏み越えるまで約3ヶ月程掛かり、今ではビュンビュン駆け回ることもちゃんと出来ている。
そして、意外かもしれないが、まだ習得に手間取っているのが"月歩"。強靭な脚力によって空を蹴り、格ゲーの二段ジャンプの如く宙に浮く移動技である。というか、空を蹴ってスマブラよろしく浮くだなんて感覚がハチャメチャ過ぎてサッパリわからない。
というか、逆に考えて欲しい。どうやって空を蹴って更に飛ぶというのか。あれか、雨が降ったからベランダの洗濯物を取り込むために、外から二階のベランダに月歩でひとっ跳びか。はははは――イメージがし難過ぎる……。そもそも空気を物質化出来るほどの威力と速さで蹴ろうモノなら、木っ端微塵に碎け散るのは脚の方でしょう!? 百歩譲れば剃はまだ分かります。だが、月歩……あなたは私には理解できません!
ちなみに最近、気付いたのだが繊維化させて雲まで細長く伸ばせば、どこかのイトイトの実の能力者の如く空を飛べる。雲に糸が掛かる方がどうなんだと思うかもしれないが、そもそもこの世界の雲の上には島があるからな。考える方が可笑しい。
「スミレはちと難しく考え過ぎなんだと思うんだが……」
「ぐぬぬ……」
「何がぐぬぬだ」
何とも言えない面持ちを向けて来るゼファーくん。月歩が使える人に言われたって慰めにもならないんですよ!
ちなみに彼は私とは違い、鉄塊・指銃・月歩・剃・紙絵・嵐脚の順で修練度が高く、まだ鉄塊・指銃・月歩・剃の四式使いである。とは言いえ、極め切れて居ないだけで別に紙絵と嵐脚が使えない訳ではないので、実質六式使いと言っても過言ではない。
というか、後に"全ての海兵を育てた男"と呼ばれる彼に至って習得率は違えども苦手ということは有り得ないであろう。実際、本来の流れでは下士官の時点で六式を修得していた。
まあ、覇気の習得が34歳で、海軍大将になったのが38歳のゼファーくんだが、私が前いた支部で偶々コングさんを見掛けたことで飛び級――もとい効率的に階級を上げて修行環境を整えれると思ってしまった。そのため、私が
まあ、結婚も早まるかも知れないと考えると、まだまだゼファーくんをストーキングしていたい私としては、非常に複雑な気分である。今から結婚式のスピーチの内容を考えておかなければ、奥さんを連れてこられたらしばらく放心状態で書ける気がしません……。
ああ、ちなみ私が挙げなかった全身に力を込め、肉体そのものを鉄の甲殻に匹敵する程に硬化させる防御技の"鉄塊"だが、私とゼファーくんを本部へ転属させてくれた恩師であり、直属の上司でもあるコングさんから"お前さんは別にいらんだろ"という謎のお墨付きを頂いたため、何故か最初から習得したことになっている。
まあ、海軍に関わるようになってから気づいたが、そもそも私は無茶苦茶硬い。その上、生命帰還(仮)で無理矢理鉄塊のような何かが可能な上、その状態で繊維化させて動くジャブラの鉄塊拳法っぽいものも出来るので外されたのであろう。貰えるものは全部貰っておくのが私のポリシーなのでちょっと得した気分ですね。
後、生命帰還(仮)を見せたところ、そもそも生命帰還の使い手は海軍でも多くはなく、その程度や最終的な到達地点も千差万別のため、私のこれも紛れもなく生命帰還だと思われるとのこと。
かっちりした言葉だが要するに、あなたがうちゅうC.Q.C.だとおもうものがうちゅうC.Q.C.です。ただしたにんのどういをえられるとはかぎりません――ぐらいフワッとしたことを言われた。やはり私の生命帰還(仮)はカッコカリから抜け出せない宿命らしい。ちくせう。
「どうしたら月歩が使えるようになるんですか……! 教えて下さいゼファー先生!」
「わかったからおかしくなるな……」
ゼファーくん改め未来のゼファー先生に師事を仰ぐ私。もうこうなったらプライドもお姉さんも抜きです!
◇◆◇◆◇
業務時間が終了し、既に夕陽が射し込んでいる頃。人気の無くなった修練場の一角で、まだ自主的に練習をしているのは、海軍本部の虎の子の大型新人として扱われているゼファーとスミレのふたり組である。
「むぅ……。剃を空中ですればできないか?」
「は……? 水面を走るのすら人間ならば理論上、一秒間に十数回以上水面を蹴れなければ不可能なんですよ? 高々、10回以上地面を蹴る剃なんかで空中を足場に出来るわけないじゃないですか?」
現在、ゼファーは頭がいいのか頑固なのか、飲み込みがいいのか偏屈なのかよく分からない
海軍本部で六式を2人で教わり、彼女の天才としか言い様のない習得速度に教官もゼファーも舌を巻いていたが、どうも彼女は剃が他に比べれば不得意であり、特に月歩に関しては何故か絶望的に相性がよくなかったらしい。
彼女は教わって3~4ヶ月頃には、既に月歩以外の五式使いになっていたため、教官も脱帽した様子であったが、その頃から月歩が全く成長していないのである。そのため、2年経過した今では教官も困り果てている始末だ。
「スミレが月歩が出来ないことに何か自覚している理由はないか?」
「…………うーん、イメージが出来ないのと私がまだ世界に弾け切れてないんだと思います」
「イメージか……」
世界に弾け切れるという彼女のロックな妄言は無視し、イメージが出来ないということにゼファーは注目する。かといって目の前で見せるぐらいで出来ているのならば、とっくに成功している筈であり、これまで教官がアプローチしていたような方法でも不可能であることも明白であろう。
しばらく考え込んだ末、ゼファーはポツリと呟く。
「抱えて跳ぶか」
「えっ……?」
次の瞬間、ゼファーはスミレの身体を両腕に抱えると、空に跳んだ。更に空中で月歩を遅めの一定の間隔で行い、数m程の距離を月歩と自由落下を交えて上下移動を繰り返す。
「これなら間近で見れ、感覚も少しは掴めんか?」
「え、ええ……そうですね……」
しかし、腕の中にいるスミレはどこか歯切れが悪そうにしており、視線も月歩をしているゼファーの足ではなく、宙を泳いでいた。
日頃から効率を追求している彼女が、珍しく鍛練に身が入っていない様子に疑問を覚えていると、少し頬を朱に染めた彼女がこちらに目を合わせる。
「その……こういったことはゼファーの恋人にしてあげた方が好ましいと思われますが……」
「恋人……? あっ――」
その言葉でゼファーは鍛練に意識を向けていたせいで気にならなかったことに意識が向く。
それはスミレを花嫁のように腕の中で抱き抱えていたことだ。お姫様抱っことも呼ぶそれは、彼に比べれば小さな彼女の身体をすっぽりと抱え込んでいる。そして、柔らかく艶かしい肢体に触れる感覚を味わった。
「違うんだスミレ。今のは不可抗力で、全く悪気はなくてだな……。いや、俺が全面的に悪いのだが――」
すぐにゼファーは地面に降り立ち、腕からスミレを解放すると言い訳を述べる。その様子は必死さが滲み出ており、彼女に嫌われたくないと思っていることが、他人から見てもわかるであろう。
そんな様子のゼファーを目を丸くして少し眺めたスミレは小さく笑みを浮かべる。
「ふふっ……いえ、私はいいのです。ただ、ゼファーがいつか結婚する相手に申し訳が立たないと思いましてね」
そんな相手を気遣う言葉は、スミレはゼファーのことを結婚相手としては全く捉えていないとも言い換えることができ、それを聞いて少し寂しげな様子になった彼はポツリと呟いていた。
「スミレは……将来、どんな男と結婚するんだ?」
「私……ですか? うん……うーん……」
するとスミレはしばらく考え込んだ末、小さく溜め息を吐きながら肩を竦める。
「いえ、そもそも私のような面白味もなく、偏屈で可愛いげのない女など娶りたい者は居ないと思われます。なので、結婚というものは縁遠く、あまり考えられませんね」
「そうか……いや、それはないと思うぞ」
「え?」
スミレ自身の想像以上の自己評価の低さにゼファーは軽く呆れて、ついそのまま思ったことをつい口にしてしまう。
「俺は嫁に来て欲し――」
「………………………………え――?」
それは吐いてしまった告白であった。そのことに言ってから気付き、慌ててゼファーは言葉を止めるが、彼が見たことがないほど呆けた顔をしているスミレを見ればそれが既に無駄なことであるのが理解できよう。
するとゼファーは言ってしまったと眉間を押さえた後、
観念した様子でスミレに向き合った。
「ああ…………よし、もう言うぞ。いいかスミレ?」
「は、はい……」
「俺は……いつからかはわからんが、昔からお前のことが好きだ。それで……俺と本当の家族になって欲しいと思う。結婚してくれ」
「……………………――――――ッ!!」
数秒後、ポフンと音が鳴りそうな様子でスミレの顔が真っ赤に染まる。それは夕陽に染まる以上に赤くなっているように見えた。
「昔から……ゼファーは不器用で嘘が吐けない方でしたね」
ポツリとスミレはそんな言葉を呟く。そして、彼女も意を決した様子で口を開いた。
「少しだけ私の話を聞いて貰えますか――?」
スミレは話をした内容は主に3つ。ひとつは自身が恐らくは人間ではなく、何者かに造られた怪物だということ。ふたつは自身が普通に恋愛をしてみたいと思うと同時に異質な程の束縛願望を持っているということ。
そして、みっつ目はそもそも記憶喪失というのが半分は嘘で、自身のことは一切覚えていないが、この世界の大まかな事柄や歴史を今から50年ほど先まで知っているということであった。
それらを説明し終えたスミレの身体は少し震えており、この世の終わりのような表情で目を伏せている。その様子は彼女らしくなく、見ているだけでゼファーは居たたまれない気持ちになる。
「私は……アジサイさんまで騙し続けていた上、人間ですらないので――」
「…………? ああ、それは俺も母さんも知っているぞ」
「へ……?」
あっけらかんとした様子で言われた言葉に、スミレは口を大きく開けて驚く。
「母さんが言っていた。"スミレは色々な言えないことを抱えていますから、あなただけは力になってあげてください"とな。まあ、何かまではよくはわからんかったが……聞けば別に大したことでもない」
「ええと……」
そもそも長年スミレと接しているゼファーからしてみれば、彼女が人間のそれから外れているのは、最早当たり前のようなことであり、今さら本当に人間でなかったとしても大した問題ではない。
それにしっかりと人型をしているのだから、どんなに贔屓目に見ても魚人やミンク族のような亜人には見えず、それらでさえ伴侶にするような人間も少なからずいる。
また、束縛願望などスミレの性格や性癖の一側面でしかなく、未来のことなど彼女が語らなければ要らぬ軋轢は生まず、他者に語ったことを見たこともない。つまり、あろうがなかろうがゼファーにとってはまるで関係のないことだ。
だったら一体なんの問題があるというのか?
「ああ、俺は今聞いたことを誰にも話さんよ。それでスミレを喪うようなことになれば、それこそ真っ平ごめんだからな」
「そのぉ……」
言ってからゼファーは我ながら大した独占欲だと自嘲する。しかし、本当に欲しい者を前にして、今さら引き下がれることが出来るほど彼は器用ではなかった。
「もう一度言うぞ。俺と結婚してくれ」
再びの告白により、既に後も断る理由も尽きたスミレは目を白黒させながらゆでダコのように顔を赤くする。
彼女はたっぷりと考え込んだ後、意を決した様子で目をキュッと瞑りながらゼファーに抱き着いた。そして、嬉しさと羞恥に染まった顔で彼を見上げる。
「…………………………ふ、不束ものですが……このような化け物でもよろしければ……幾久しくお願いいたします。こ、子供は3人欲しいです……」
かくして、ゼファーは21歳にしてスミレ――女神ヴァイオレットを娶ったのであった。
◇◆◇◆◇◆
「――――!」
告白を受けてから3ヶ月程経った頃。スミレは空をとんでもない速度で縦横無尽に跳び回り、空に打ち上げられる的を次々と破壊していた。的の発射の方が間に合わない様子である。
しかし、見ればその軌道は月歩のものではなく、ガクガクとあらゆる方向に直線的な動きをし、軌道そのものを移動の度に変え続けることで移動していた。
そんな光景を教官――コングは見せ付けられ、何とも言えない半笑いを浮かべている。
ちなみに現在、行っているのは六式の認定試験のひとつであり、クレー射撃のように空に放った多数かつ多種の的を破壊することで、破壊した的の種類と数とノルマまでの所要時間から得点を付けるものだ。
「如何ですか? 月歩はイメージが出来ないとのことで、いっそのこと応用技の"
そんなことを言うのは、左手の薬指にシルバーリングを嵌めているどこか誇らしげな様子の男――ゼファーであった。よく見れば空を駆けるスミレの左手の薬指にも同じシルバーリングが輝いている。
"
剃と月歩を融合したような移動技で、見ての通りの鋭い軌道と恐るべきスピードで空を駆け抜ける体術である。ちなみにゼファーも既に覚えているらしい。
「
次の瞬間、投石機で放たれた大岩に接近し、髪の毛を両手の握り拳状にしたスミレのそれが触れた瞬間に、爆音と共に跡形もなく
"
六式の全てを極限まで高めた者のみが使える究極奥義である。両手の握り拳を相手に当て、
無論、このようなものがマトモに直撃すれば、現海軍三大将ですら下手をすれば即死してしまう程の代物であろう。
「あれはいったい……?」
「私はまだ六王銃も満足には出来ませんが、2人でやり方を考えるうちに彼女が、六王銃の衝撃をより瞬時かつ効率的に伝える方法を編み出しました。ただ、アレは……常人が放てば肩が弾け飛び兼ねないので、生命帰還で髪を使えるような者以外にはオススメは出来ないかと存じます……」
「えーと……月歩は?」
「全く、これっぽっちも出来ません。一度もです」
「一度もかぁ……」
どうやら月歩は相変わらず出来ない代わりに、何故か剃刀は出来るようになった――というよりも月歩を完全に棄て、剃刀を極めることにしたとのこと。全くもって意味のわからない状態であろう。
「うーん……うん? ああ……認定どうすよォ……」
コングは溜め息を吐いて頭を抱えるのであった。
ちなみに最終的な判断としては、認定試験にて歴代最高クラスの成績まで叩き出してしまったため、彼女を五式使い(六式使い相当)という専門学校卒(大学卒業相当)のような異例の枠付けとなり、大いにマリンフォードを沸かせたがそれはまた別のお話である。
効率厨のスミレちゃんが編み出した六王銃の改良――改悪型。元の六王銃に比べて、攻撃までの発生速度が短縮され、
その代わりに反動まで忠実に再現されているらしく、素手でやると自身の両腕が数日はろくに使えないほどの損傷を受ける。そのため、有事の際以外では、パラミシア系・ロギア系の肉体を再生可能なモノに置換出来る能力者や、生命帰還を使って髪で打つなどの工夫が必須。
Quick宝具:RankE(対人宝具)
自身に無敵貫通を付与(1ターン)+敵単体に超強力な防御力無視攻撃(オーバーチャージで威力UP)+HPが減少[デメリット] hit数18
~QAコーナー~
Q:スミレちゃんって海軍の大将だと誰と一番性格的な相性いいの?
A:サカズキ(赤犬)
Q:ゼファー先生の成長速度可笑しくない?
A:数年間、毎日の修練相手がスミレちゃんですもの。