彩の軌跡   作:sumeragi

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プロローグ

七耀暦1204年 3月30日

 

 

 

「・・・まさかこいつに続いてティアまで突拍子もないことを言い出すとはな」

 

 

帝都ヘイムダルの《バルフレイム宮》で、ミュラーは頭を抱えていた。

彼の目の前にいるのは、先ほど彼がティアと呼んだアルティアナ皇女と、"こいつ"と呼んだ彼の主であるオリヴァルト皇子。

 

 

「前から決めてたことですよ。聖アストライア女学院を卒業したらトールズ士官学院に入ろうって」

 

「初耳だぞ・・・・・・オリビエは知っていたのか?」

 

「愛する妹とボクが理事長をしている学院のことだよ?知らないわけがないだろう」

 

 

いたずら好きの子供のようなにこにことした表情のオリビエと、それをじろり睨むミュラー。

この二人が主従の関係にあるとは俄かに信じがたいが、親しいものならば見慣れた光景である。

ティアはその光景を微笑ましく眺めながら、説得するように口を開いた。

 

 

「導力銃と魔法(アーツ)を習っていたのは、ミュラーさんもご存知でしょう?女学院に通っている間も、暇を見て稽古をつけてもらってましたから、自分の身くらいは守れます。特に魔法は自信がありますから、心配しないでください」

 

 

それに、と言いながらティアはオリビエを見つめる。

兄そっくりのいたずらっぽい笑顔は、二人が兄妹だと見るもの全てを納得させられるだろう。

 

 

兄様 (にいさま)がリベールに行ったことに比べれば、大したことないじゃないですか」

 

「まったく、我が妹ながら痛いところを突いてくれるよねぇ」

 

「・・・なるほど。お前は宰相殿に続いてティアにも同じように言いくるめられた、と」

 

「ふふ、オズボーン宰相のクロスベル訪問と比べても、可愛いものだと思いますけど」

 

 

そこまで言って、今度はミュラーに目を向ける。

すでにミュラーには反対しようという思いはなくなっており、ティアもそれを悟っていた。

年が離れているとはいえ、他の兄妹に比べると圧倒的に長い時間をこの二人と過ごしている。

最初から、結局は認めてくれることを分かっていたのだ。

 

 

「さっすがミュラーくん。なんだかんだ言ってティアには甘いよね」

 

「お前ほどではないだろうがな」

 

「ふふ、どっちも変わりませんってば」

 

 

腹違いの兄と、その兄の護衛。

ティアは関係以上に二人を兄として慕っていた。

また、自身も姉として、妹のアルフィンと弟の皇太子であるセドリックから慕われている。

 

 

「父上にもお許しをいただいているし・・・残る関門はアルフィンね」

 

「まだ納得してくれていないのかい?」

 

「はい・・・理解はしてもらえたんですけど、やっぱり抵抗があるみたいで」

 

 

天使のような可憐さで、帝国民から絶大な人気を誇る妹をもちろん自分も愛している。

だが、妹はそれ以上に慕ってくれており、その愛情故に自分が士官学院に入ることを良しとしないのだ。

 

 

「皇女殿下はティアに懐いておられるからな」

 

「ありがたいことではあるけど、過大評価しすぎなところがあるから・・・将来、悪い男の人に騙されないか心配です」

 

 

そう言い残し二人の兄と別れ、将来に少し不安を抱かせる妹の部屋へと向かう。

ノックをして声をかけると、扉が開かれる。

隙間からのぞき見えるふわふわの長く綺麗な金色の髪は、間違いなくアルフィンだ。

普段の可憐さからは想像もつかないような、じっとりとした恨みがましい目でこちらを睨んではいたが。

 

 

「アルフィン。少しお話したいの。部屋に入れてくれないかしら?」

 

 

苦笑しつつ、妹をなだめるように声をかける。

どうぞ、と小さくつぶやきアルフィンがソファに向かったのを見て、ティーセットを借りて紅茶を淹れる。

淹れたての紅茶を妹の前に出し、一口飲んだのを確認してから自分もソファに腰掛けた。

 

 

「ねえアルフィン。まだ私が士官学院に入ることは反対?」

 

「当たり前です!お姉様の目的も、女学院の他にも高等教育を受けたいというお気持ちもよく分かりました。でも、やっぱり士官学院である必要があるとは思えないのです・・・!」

 

「・・・宮殿でも出来ることなのは確かね。でも、知識を持っておくだけでは、生かしきることは出来ない。皇族として、上に立つものとして、国民の目線を知る必要もある。トールズには貴族と平民の生徒がいて、それぞれに信念を持っている。見解を広げるには丁度いいと思うの」

 

「それはそうだと思いますけど・・・」

 

「あなたは優しいから、私が傷つくのを嫌っているのよね。でも、私は守られるだけの存在でいたくない。兄様達だけが傷つくのは嫌なの。・・・・・・アルフィンもそうでしょう?」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

何度も聞いた姉の強い決意に加え、自分の本心まで言い当てられてしまっては反対の言葉もなくなる。

姉の行動を束縛したくない。やりたいことがあるのならそうしてほしいと、本当は思っているのだ。

兄の力になりたい、という理由に、少なからず嫉妬もしていたが。

 

 

「・・・三つ、約束してほしいことがあります」

 

「うん、きかせて?」

 

「・・・手紙を書くことと、休日には帝都に戻ってくること」

 

「必ず書くわ。休日も出来る限り戻ることにする。あとの一つは?」

 

 

 

「絶対に顔に傷はつけないでください!お姉様の綺麗なお顔に傷が残るなんて・・・このアルフィン、耐えられません」

 

「だから過大評価しすぎだってば・・・でも、気をつけておくわ」

 

「絶対ですよ!」

 

 

ただならぬ気迫に気圧されながらも、ティアが頷いてみせると、アルフィンは満足そうに笑った。

言いたいことを伝えて満足したのか、アルフィンはいつもの可憐さを取り戻している。

 

 

残っていた紅茶は冷めてしまって、任せてくださいと言うアルフィンが淹れ直してくれるのを待つ。

妹にもちゃんと分かってもらえて、喧嘩別れのようにならなくて一安心だ。

 

 

アルフィンの淹れてくれた紅茶は美味しく、お姉様に比べたらまだまだと謙遜する彼女は本当に可愛い。

その後も、他愛のない話をしたり、"耽美な世界"の話を聞き、女学院で流行っていたなあとうっすらと思い浮かべる。

夜には荷物の最終確認をして、子供の頃のように妹と同じベッドで眠った。

 

 

 

 

3月31日 朝

 

 

 

 

セミロングの金の髪をサイドでまとめ、兄と同じ赤紫色が自慢の瞳で、見送りに来てくれた人達の顔を眺める。

 

 

「制服、とても似合っているよ」

 

「ありがとう兄様・・・でも少し短すぎませんか?」

 

 

両肩に士官学院の校章の入った赤いブレザーはオリビエの言ったとおりティアに似合っている。

しかし、普段はかないような短いスカート。

見えることは無いだろうが、その丈が気になって落ち着かない。

 

 

「そうですよお姉様!こんな不埒な輩に狙われてしまいそうな格好・・・」

 

「ア、アルフィン・・・さすがに士官学院にそんな人はいないと思うわよ」

 

「いやいや、男は皆狼だからねえ」

 

「オリビエ・・・お前は黙っていろ」

 

 

怒りマークが見えそうなミュラーに止められ、オリビエはわざとらしくブーブーといいながらミュラーをジト目で見ている。

 

 

「姉上・・・お体に気をつけてくださいね」

 

「セドリックもありがとう。落ち着いたら手紙を書くわ」

 

「楽しみにしておきます」

 

「お姉様!私にも絶対書いてくださいね!」

 

「もちろんよ。アルフィンはこのあと女学院の授業でしょう?頑張って」

 

 

妹と弟に別れの挨拶をしながら、オリビエとミュラーの様子をうかがう。

ティアには、この赤い制服を着たときから一つの疑問があり、それをオリビエに訊ねたかったのだ。

兄様、と声をかけようとしたが、そろそろ列車がくる時間だろうと先に声をかけられる。

心残りではあるが、仕方ないと思い、荷物を持つ。

 

 

 

「では行ってきます」

 

 

 

そう全員に言って、一人の皇女はバルフレイム宮を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、オリビエ」

 

「なんだいミュラー?」

 

「お前が新しく作ったという《特科クラスⅦ組》については言ってあるのか?」

 

「やだなぁ~。そんなことは決まっているだろう」

 

 

 

はっはっはっ、と芝居がかった笑い声をあげたあと、

 

オリビエはいたずらに成功した子供のような笑顔で

 

 

 

 

「教 え て な い よ」

 

 

 

 

ととても嬉しそうに告げた。

 

 

 

 




はじめまして。sumeragiといいます。
小説ではこれが処女作なので、キャラの口調はあってるか、読みやすいか、が不安です。


旧式の戦術オーブメントとアークスってクオーツの組み方が変わっただけで発動方法自体は変わらない、という設定で進めていこうと思います。

オズボーン宰相なんですが、空・碧とは違い閃では良い印象の方が強く出ていたように感じました。
プレイヤーとしては宰相=悪い奴、と思ってたので正直驚かされて・・・
ティアは第三の道を行くオリビエの力になりたいと思っているので、Ⅶ組の中でも宰相に対し否定的な見方をする方だと思います。


原作のストーリーを尊重しつつ、オリジナルの話や恋愛要素を混ぜたりして話を進めていくつもりです。

拙い文章ではありますが、よろしくお願いします。

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