彩の軌跡   作:sumeragi

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事件発生につき。

4月25日

 

 

「――ラウラ。昨日は済まなかった」

 

 

身支度を整えてから一階に降りて朝食をとった後、昨日のように女将から特別実習の封筒を受け取った。

必須の依頼はなく、早めに終わらせて風見亭で夕飯を食べてからトリスタに戻ろう。

そう話がまとまったところで実習に出かけようとした矢先にリィンが発した言葉が冒頭の台詞である。

 

 

「そなた自身の問題ゆえ、私に謝る必要はないと言ったはずだが・・・?」

 

「いや、そうじゃない。謝ったのは、"剣の道"を軽んじる言葉を言ったことだ」

 

 

『ただの初伝止まり』なんて言葉は、老師にも、八葉一刀流にも、"剣の道"そのものに対しても失礼な言葉だった。

リィンはそう語り、それを軽んじたことだけは謝らせて欲しいと言ってラウラの言葉を待つ。

 

 

「・・・そなた、"剣の道"は好きか?」

 

 

どんな人間も身分や立場に関係なく、誇り高くあれる。

自分自身を軽んじた事こそ恥じるべきだろう。

いつものラウラらしく凛と言い放った後、リィンに問う。

 

 

「・・・好きとか嫌いとかじゃなくて、あるのが当たり前で・・・自分の一部みたいなものだ」

 

 

その言葉を聞き、ラウラはようやくリィンに笑顔を見せた。

 

 

 

「ふふ、良かったです。お2人が仲直りできて」

 

 

最初に言葉をかけたのはティアだった。

 

 

「別に仲違いをしていたわけじゃないんだが・・・」

 

「まあ、そうだな」

 

「まったく、2人だけで分かった顔しちゃって。これじゃあどう仲直りさせようか悩んでたこっちが――」

 

 

昨日の風呂でも同様、また墓穴を掘ってしまったアリサ。

段々と顔が赤く染まって動揺しているアリサに視線が集中する。

単純に驚いているようなリィンと、世話をかけた、という言葉とは裏腹に微笑ましそうな表情のラウラ。

エリオットは少し嬉しそうに、ティアは唇に手を当ててくすくすと笑っていた。

 

 

「ああもう、私のことはどうだっていいでしょう!――ティアだって、悩んでなかったとは言わせないんだからね!」

 

「え、ええー・・・?」

 

 

頬を赤く染め否定していたアリサだが、道連れにとでも思ったのかティアに話を振る。

 

 

「ティアも心配してくれていたのか・・・。前の件といい、悪いな」

 

「いえ、気にしないでください」

 

 

申し訳無さそうな顔をしているリィンには悪いが、彼に関することで思い煩っているアリサを見て少し和んでいたことは秘密だ。

 

 

「それに、こういうときは謝るんじゃなくて、"ありがとう"って言うべきですよ」

 

 

ティアの返事が思いがけないものだったのか、リィンは一瞬目をぱちくりさせ、目を細めた。

 

 

「・・・・・・ありがとう、ティア。」

 

「どういたしまして」

 

「アリサも、ありがとうな」

 

「べ、別に・・・」

 

 

リィンに真正面から言われ、頬に赤みが差したアリサは唇を尖らせながら顔を背けた。

その様子にティアとエリオットとラウラは顔を見合わせて笑い、リィン1人だけが頭に疑問符を浮かべていた。

 

雨降って地固まる。

女将が笑いながら告げた直後、若い女の声が響いてきた。

 

 

「女将さん、大変大変!大市の方で"事件"ですよ!」

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「・・・この野郎・・・!」

 

「・・・絶対に許さんぞ・・・!」

 

 

大市の入り口に差し掛かると、怒鳴り声が聞こえてくる。

風見亭のウェイトレスであるルイセの話では、店の品物が盗まれて屋台も壊されていたそうだ。

元締めの仲裁にも耳を貸さず、言い争いを続けている2人の言い分からもそれは把握できた。

 

 

「卑しい田舎商人め!どうせ君がやったんだろう!?白状したまえ!!」

 

「んだと、帝都の成金が!そっちこそ俺の場所を独り占めしようとしたんだろ!?」

 

 

2人の勢いは止まることなく、取っ組み合いになってしまいそうなところでリィンが一度制止をかける。

また横槍を入れられて辟易としている様子だが、すぐに口論を再開し、彼らはお互いに掴みかかった。

 

 

「――そこまでだ」

 

 

このままでは本当に流血沙汰になりかねない、そう思ったときに背後から声がする。

振り返ると、そこには昨日遭遇した領邦軍がいた。

領邦軍隊長はすぐに元締めにこの騒ぎの原因を説明させ、状況を把握した後、2人を引っ立てろなどと理不尽なことを言いのけた。

いがみあう2人の商人が同時に起こした事件、というのが領邦軍隊長の見解らしい。

 

 

「捜査もしないうちから、強引過ぎるのではないか?」

 

「フン、領邦軍にはこんな小事に手間を割く余裕などないのだよ」

 

 

見咎めたラウラにも傲岸な態度をとり、まだ騒ぎを続けるなら本当に連れて行く、と商人たちに告げた。

言外に"なかったことにしろ"とほのめかされ、納得など出来るはずもないが商人たちは観念した。

 

 

「何とか騒ぎは収まったけど・・・」

 

「こ、こんなの滅茶苦茶だよ!?」

 

「あれが領邦軍のやり方というわけか」

 

 

領邦軍が立ち去り、アリサ、エリオット、ラウラは堪えきれずに言葉をこぼし、ティアはまさに開いた口が塞がらないといった気分だった。

それに、大市には不干渉を貫くと言っておきながら今日は姿を現したというのも不可解だ。

しかし、疑念を抱かせる材料はいくつもあるけれど、確信に至る事実がない。

このまま考え込んでいても仕方がないと、一度頭から考えを振り払い、壊れたテントの片付けの手伝いに専念する。

 

 

 

その後大市は無事に開かれることとなり、ティアたちは元締めの家で少し話をした。

ケルディックは、想像以上に根が深い問題を抱えているけれど頼るべき領邦軍を当てに出来ない。

更にその領邦軍を統括しているのは四大名門であるアルバレア公爵家だ。

ケルディックの人々や、士官学院生がどうこう出来る相手ではない。

 

言い知れぬ無力感が漂ってきた時、ずっと何かを考え込んでいたリィンが口を開いた。

 

 

「・・・お願いがあります。今回の事件――俺たちに調べさせてもらえませんか?」

 

 

元締めは自分達の問題だから気にするな、と一度は拒否するが、士官学院の生徒である自分達が理不尽を見逃すことは出来ない、とリィンは主張する。

 

 

「『せいぜい悩んで、何をすべきか自分たち自身で考えてみなさい』・・・サラ教官はそう言っていました。――今が"その時"かもしれませんね」

 

「・・・・・・なるほど。確かにこれも特別実習のうち、なのかもしれないわね」

 

「ちょっと不安だけど・・・僕達だけでやるしかない、よね」

 

「義を見てせざるは勇無きなり・・・か」

 

 

素人の自分達に調査など出来るのか、と戸惑っていたが、真っ先に同意したティアの言葉でその真意を理解し、アリサ達もリィンに賛同する。

その様子を見つめていた元締めは、彼らの熱意に折れ、事件の調査を任せることに決めた。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「ウ~イ・・・酒だ、酒持ってこぉい~・・・」

 

「さ、酒臭い・・・」

 

 

大市で再び2人の商人に話を聞いたティア達は、やはり彼らは犯人ではないだろうという結論にたどり着いた。

動機は十分だが、同じ犯行を同じタイミングで行うというのも現実的ではないし、そもそも彼らにはアリバイがあった。

 

そこで、どうにも行動に説明のつかない領邦軍を訪ねてみた。

"増税取りやめの陳情"を取り下げない限り、ケルディックの大市は"守るべきもの"ではない。

遠回しにではあるが、領邦軍隊長はそう言った。

たいした収穫はなしか、と思いかけたのだが、エリオットの機転で領邦軍が被害者のことを録に調査もしていないはずなのにしっかり把握している、ということが分かった。

 

領邦軍がクロだと確信し、実行犯は他にいるはずだと考えたティア達は、表通りを中心に各自聞き込みをすべく別れた。

ラウラは領邦軍の詰め所に、エリオットは礼拝堂辺りに。

リィンは聞き込みをしている途中、特別実習の課題でもあった財布の落とし主探しを任され、手伝いを申し出たアリサはリィンと一緒に課題をしながら聞き込みをしていた。

 

 

「なんだよぉ~・・・嬢ちゃん、何見てんだよぉ・・・」

 

「え、ええと・・・」

 

 

聞き込みは表通りを中心に行っていたのだが、ティアは、昨日西ケルディック街道の入り口で領邦軍を見たことを思い出し、何か見つからないかと少し様子を見に来たところでこの酔っ払いを見つけたというわけだ。

あまり関わりたくはないが、話しかけられてしまっては無視するのも憚られる。

 

 

「その、大丈夫ですか?良かったら水でも持ってきますけど・・・」

 

「うるっせえなあ・・・おじさんのこたぁ、ほっといてくれよぉ・・・いきなりクビにされちまうような、こんなロクデナシはよぉ~・・・・・・。自然公園の管理は、俺の生きがいだったのによぉ~・・・」

 

「自然公園って・・・《ルナリア自然公園》のことですか?」

 

 

実習の途中に寄ってみたが、立ち入り禁止だからと管理員らしい男達にあまり歓迎されなかった場所を思い出す。

警護しているという雰囲気でもなく、立ち入り禁止の理由もあまり詮索されたくない様子だったので印象に残っていたのだ。

 

 

「おお~、嬢ちゃん知ってんのかぁ~?おじさんはなぁ、そこの管理員をしてたのだぁ~・・・」

 

「貴方が管理員を・・・なら、どうしてクビになったんですか?」

 

「うぅっ・・・それがさぁ、いきなりクロイツェン州の役人サンがきてさぁ・・・解雇されちゃったんだ~よぉ・・・おじさんはさぁ、ものすご~くがんばって仕事してたのにさぁ・・・」

 

 

突然なんの理由も無く解雇されたのだとすると、随分理不尽な話だ。

更に話を聞いていると、ジョンソンというこの酔っ払いは、昨日の夜に現在の自然公園の管理員たちが西口から出て行くのを見かけたらしい。

・・・それも、木箱やいろいろな物を抱えて。

 

 

自然公園なら潜伏場所としても盗品を隠す場所にしても最適かもしれない。

入り口に立っていた男達は見張りだとすると、あの妙な態度も納得がいく。

そして、クロイツェン州の命令でそんな状況が作られたのだとすると、いよいよ真っ黒ということになる。

 

 

「――ジョンソンさん、ありがとうございました」

 

「なになに、おじさんが役に立っちゃったのかぁ~?お礼なら、酒を一杯おごってくれてもいいんだぜぇ~?」

 

「お酒は無理ですけど・・・もしかしたら、あなたの場所を取り戻すことが出来るかもしれません」

 

「はあ・・・?」

 

 

何を言っているんだ、といった表情をしているジョンソンに、酔いは醒ましておいてくださいと言い残し、リィン達が聞き込みをしているであろう表通りまで戻る。

指定された集合時刻よりも少し早いため、集合場所には誰もいなかった。

急ぐに越したことは無い、と聞き込みの最中のリィン達に声をかけてジョンソンから聞いた話を伝える。

 

それぞれが集めてきた情報も報告しあい、潜伏場所はルナリア自然公園だろうと全員が確信したところで、ティア達は自然公園へ歩を進めた。

 

 




聞き込みを全員がかたまってするのはおかしいだろう、と思いばらばらに聞き込みしているということにしてみましたが、ミナと話さずにジョンソンまでたどり着くとか難易度高すぎましたね(笑)


段々ティアさんが私の代弁者になってまいりしましたよ!
アリサ可愛い!!!!


そして新キャラが発表されましたね!
アルティナ・オライオンですか・・・・・・ふむ。
ミリアムとの関係が気になるところですね。
・・・アルティアナとの絡みを書いてみたいところです。

そしてユーシスのセリフも色々と想像力を書き立てられますね・・・!
書きたいシーンがたくさんあるので早く進めたいです・・・。


4/12 一部修正しました

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