彩の軌跡   作:sumeragi

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第2章 麗しき翡翠の都
女子会


5月22日

 

 

初めての特別実習が終わり、早一ヶ月。

男子の間では新たに亀裂が生まれ、一部ではギスギスした雰囲気が漂っているが、女子の間にはそんな問題もなく一緒に食事を作ったり、寮の誰かの部屋に集まり話をすることが増えていた。

 

 

「あの、少しいいですか・・・?」

 

 

そう言ってエマが机に置いたのは、上品な白いティーカップ。

中身は、オレンジピールとほんの少しシナモンを加えたブレンドティーだ。

爽やかなオレンジとシナモンの甘い香りが漂う紅茶で喉を潤しながら、ティア達は明日に迫った自由行動日などの話をしていたところだ。

 

 

「リィンさんとマキアスさんのことなんですけど、今日も放課後に少し・・・」

 

 

少し眉を下げながら話し出すエマ。

フィーに勉強を教えるため購入した参考書を教室に忘れてしまい、急いで取りに行くとリィンとマキアスの話し声が聞こえたらしい。

彼らの雰囲気は険悪・・・といっても、マキアスが一方的にリィンを拒絶しているだけなのだが。

エマが教室の扉に手をかけると同時に、マキアスがリィンに重い一言を放った。

 

 

『この際、君が貴族であるかどうかは関係ない。だが、嘘をつく人間は信用できない――ただ、それだけのことだ』

 

 

そう言い残しマキアスは教室を出て行こうとする。

入り口に立っていたエマにぶつかりかけると、罰の悪そうな顔をするがすぐに背を向け歩き去っていったようだ。

 

 

「マキアス君がそんなことを・・・」

 

「んー。ユーシスみたいに、性格が合わないってわけじゃないんでしょうけど・・・」

 

「なかなか根が深いようだな」

 

 

エマから聞いた話を元に、また新たに亀裂の生まれた2人――マキアスとリィンのことを思い浮かべる。

ちなみに、フィーは眠くなったと言い部屋に戻っていったが、普段から就寝時間が早いらしくティア達もそれを見送り、そのまま話を続けていた。

フィーはこういった話にはあまり興味は無く、単に茶菓子を目当てにしているだけだったりするが。

 

Ⅶ組設立当初から険悪な仲だったのは、リィンとアリサに、マキアスとユーシスの2組だったが、なぜリィンとマキアスまで険悪になってしまったのかと言うと、話は先月末まで遡る――

 

 

 

 

初めての特別実習が終わり、A班B班のメンバーがそれぞれ書いたレポートを元に、Ⅶ組教室にて報告会が行われていた。

A班の評価が最高ランクには届かないものの、Aという高評価であるのに対して、B班は最低ランクのEという芳しくない評価。

ガイウスとフィーは普段通りだったが、マキアスとユーシスは報告をする間苦々しげな表情を崩さず、エマは眉尻を下げ、時折2人の様子を伺っていた。

 

 

「――皆に話しておきたいことがあるんだ」

 

 

実習の報告とサラの講評が終わると、リィンが話を切り出す。

B班のメンバーは何のことかと首を傾げるが、A班のメンバーは察しがついていた。

 

 

「俺の実家は、ユミルの領主であるシュバルツァー男爵家。養子だから貴族の血は引いていないが、俺の身分は一応、貴族なんだ。・・・マキアスには最初、誤魔化した答え方をしてしまい、すまなかった・・・」

 

 

そう言ってリィンはマキアスに頭を下げるが、マキアスは目を見開いたまま硬直している。

マキアスだけではない。エマとユーシスはもちろん、フィーやガイウスですら驚いていた。

 

実際よりも長い時間が過ぎたように感じられる空間で、ふいにマキアスが口を開き、静かに一言だけ告げた。

そうか、と。

 

 

 

 

「マキアスさんもリィンさんを嫌っているわけではないでしょうし、その内分かってくれるとは思うんですが・・・」

 

「次の実習まで長引くとしんどいですね」

 

 

殴り合いにまで発展しかけたという先月のB班の特別実習。

エマが胃薬を手放せなくなったくらいだと言うと、B班の大変さはティア達にもすぐに理解できた。

 

 

「サラ教官も分かっててやったんだから、余計にタチが悪いっていうか」

 

「うむ。特別実習のたびに仲直りと喧嘩の両方が起こっていてはキリがないぞ」

 

「アリサさんとリィン君みたいに上手くいくと良いんですけど・・・」

 

 

ティアがアリサに視線を向けると、ラウラとエマも釣られたように顔を向ける。

 

 

「も、もうその話はいいでしょう!?」

 

 

にっこり、よりもにやにやという擬音語が似合いそうな表情の3人に、アリサは顔を赤らめて口を震わせながら抗議する。

ぷんぷんしていると言っても差し支えなさそうな様子に、怖がる者が居るはずもなく。

期待した効果を得られていないことに気付いたアリサは、話題を逸らすことに決めた。

 

 

「ティアだって、いつの間にかユーシスと仲良くなってるじゃない!」

 

「わ、私ですか・・・?」

 

 

アリサはからかられるとティアを身代わりにするようにでもしているのか、と少し疑いそうになる。

 

 

「ふふ、確かにユーシスさんはティアさんと居る時、少し雰囲気が変わりますよね」

 

「そんなことはないと思いますが・・・」

 

 

彼が――ユーシスが自分にだけ他とは違う態度をとるのは、そんな理由ではないのだ。

気を緩めるのではなく、むしろ気をつかっているだけで。

最初に普通に接してくれと言ってはみたが、やはりそう簡単に態度を変えることは出来ないようだ。

何故あの彼が気をつかうのか、と訊かれても答えられるはずもないので、乾いた笑いしか出てこない。

 

その後もユーシスについては曖昧に返し、期待した反応も見られずにふてくされたアリサを宥め、キリのよいところで解散する。

折角の自由行動日。寝坊してはもったいないなと思う反面、ゆっくりと寝てみるのも悪くないなと思いながら、ティアは瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

『オリビエ・レンハイム様――

 

 

 初めての特別実習から、もう1ヶ月が経ちます。

最初はどうなってしまうのかとも思いましたが、実習内容自体はそう難しくもありませんでしたよ。

ただ、軍人を目指すだけなら積めない経験ばかりなのだろうと感じました。

兄様から聞いていた貴族派と革新派の対立に、その結果引き起こされてしまった増税、領民を省みない領邦軍・・・表面上だけではなく、もっと深いところにまで問題は根付いているのでしょうね。

頭では理解できていると思っていたのに、いざ目の前にすると私は何をして良いのか分からなくなってしまいました。

覚悟が足りなかったのだと、ようやく気付かされました。

 

 そうそう、兄様が《Ⅶ組》に何を期待しているのか、私にもやっと分かってきました。

最初から教えてくれればいいのに、なんて言うと、兄様は最初からタネが分かっていてはつまらないだろうと言うのでしょうね。

未熟な私が兄様やミュラーさんのように強くなるには、まだまだ時間がかかりそうですが、ご期待に沿えるよう精進します。

サラ教官は正直、少し信頼してもいいのかと思ってしまう面もありましたが、ちゃんと私たちにも気を配ってくださっているようで、兄様がスカウトしたのも頷けます。

 

 

 ご存知かとは思いますが、怪盗B・・・結社の執行者、怪盗紳士でしたか。

彼がエレボニアに入国しているという噂が広まっているようです。

どうかお気をつけください。

 

 追伸 アルフィンにはまた改めて手紙を書くので、帝都に戻らない私をきっと怒っているでしょうが、頑張って宥めてあげて下さいね。

 

 

――ティア・レンハイム』

 




マキアスがリィンに嘘をつく人間は信用できないって言うシーン、リィンって嘘はついてないよなーと。
貴族かどうかの質問で、高貴な血は流れていない、というのは質問にふさわしい答えではなかったかもしれませんが、言ったのは本当のことですし・・・。
決めつけと視野の狭さが原因っていうのは本当その通りなんですよね。

ゲームを進めていくと、どうしてもリアクション芸人なマキアスにばかり注目してしまいますが、初期の周りが見えていないマキアスに若干の苛立ちを覚えていたからこそ、結局はその人だ、と気付けたマキアスに親のよう気持ち抱いてしまいますね・・・。



それと、描こうかどうしようかと迷っていたティアの立ち絵を、ついに描いてみました。
といっても、ノートには大量に設定だったり挿絵のようなものを描きまくってはいましたが。

設定のちょっとしたメモと一緒に載せておくので、興味のある方はご覧になってください。




髪は下ろすとちょうど胸が隠れるくらいの長さ。
制服はワンピースタイプでブレザーの前は開けている。
オリビエが使っているものとほぼ同じデザインの銃をバックサイドホルスターに入れて使っている。
デリンジャーも持っているがあまり使う機会は無い。


【挿絵表示】


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