彩の軌跡   作:sumeragi

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自由行動日と変わった先輩

5月23日

 

 

旧校舎第2層に轟音が響く。

剣戟の音に、銃声・駆動音など、戦いの音だ。

 

 

「――はあああっ!」

 

 

ラウラの剣が地を裂くように振り下ろされ、斬撃が直線上の敵2体に襲い掛かる。

しかし、蛾のような像に見える魔物・・・ケルビムゲイトはびくともせず、不快な叫び声を上げた。

頭に響くその叫びに、ラウラ達の動きが鈍くなる。

 

 

「・・・っ、それっ!!」

 

 

ティアが特殊なエネルギー弾を発射し、ケルビムゲイトに直撃すると、当たった場所から波動が発生して叫び声を相殺する。

ケルビムゲイトは一瞬動きを止め、また攻撃を仕掛けてくるが、それはティア達ではなく他のケルビムゲイトへ向けられた。

仲間から攻撃されたケルビムゲイトもまた動きを止めると、その隙を突くようにガイウスの起こした竜巻が襲い掛かる。

 

 

「崩したぞ!」

 

「任せてください!」

 

 

体勢の崩れたところへ、丁度駆動を終えたティアが氷の刃を放つ。

その一撃によって、ケルビムゲイトは沈黙した。

 

残りの敵はどうなっているかと目を向けると、リィンが駆け出し、すれ違いざまに鋭い一閃を喰らわせていた。

アリサも後方からアーツと弓を駆使してリィンをサポートしているようだ。

もう1体のケルビムゲイトは、混乱してまともに動けていない間にラウラによってかなり消耗させられていた。

 

 

「――アースランス!」

 

 

エリオットがアーツを発動させると、弱りきっていたケルビムゲイトの体勢が大きくぐらついた。

そこへラウラが強烈な一撃を叩き込むと、紫色の光を放ちながら消滅していく。

 

それと同時に、アリサがリィンに補助アーツ――フォルテをかけた。

アーツの恩恵を受けて威力を増した彼の剣が、最後のケルビムゲイトへと繰り出される。

 

 

「はああああああっ!」

 

 

鋭い金属音が響き、少し遅れて苦しげなうめき声を上げながらケルビムゲイトは光となり、消えていった。

 

 

「ふう・・・なんとか倒せたわね」

 

 

 

 

リィンが生徒会の仕事の手伝いをしている、という話は聞いていたが、その仕事の中には旧校舎の探索も含まれているらしい。

それも、ヴァンダイク学院長からの依頼として。

4月の自由行動日にも旧校舎の探索をしていたリィン、エリオット、ガイウスの3人に加え、ティア、アリサ、ラウラの3人も探索に協力することになり、6人は旧校舎へと足を踏み入れていた。

 

トールズ士官学院の旧校舎は不思議なもので、どうやら構造が変わってしまうようだ。

ガーゴイルと戦った階段部屋は4月には2回り以上小さくなっていたようだが、今回は階段部屋そのものが無くなってしまっていた。

代わりに現れていたものは台座のようなもの。

調べてみると、その台座はどうやら昇降機で、地下第2層まで降りられることが分かった。

探索を始めて、最奥にたどり着いた途端に現れた3体の魔物・・・それが、ケルビムゲイトだった。

 

 

 

 

「うむ・・・おそらくこの階層のヌシといったところだろう」

 

 

そう言って、ラウラは剣を収めながら周囲を見回す。

ラウラだけでなく、他の5人も目を配るが、これといった変化は見当たらない。

リィン曰く、前回の探索の時も終点に着くと同時に強力な敵が現れたらしい。

ただ、偶然という可能性もあるので、現時点ではなんとも言えず、これ以上先には進めそうにないので、探索は終了になった。

 

旧校舎から出ると、辺りは燃えるような夕陽に染まっていた。

 

 

「なかなか大変でしたね」

 

「うん、魔獣も1ヶ月前とは比べ物にならなかったし・・・」

 

「あの昇降機の出現には特に驚かされたな。すぐにでも、学院長に報告しに行かないと」

 

「教官にも声をかけておいたほうがよさそうだな」

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「更なる地下へと降りる昇降機・・・。まさか、そんなものまで現れるとはのう」

 

「あたしが1週間くらい前に調べたときは、そんなものなかったはずなのに。・・・なんだか狐につままれた感じだわ」

 

 

リィンが旧校舎で起こったことを話すと、やはり学院長とサラも驚いていた。

今回探索した第2層より下へは現段階では行けないようだが、昇降機のパネルからは、少なくとも地下にはあと4つの層があることが推測される。

しかし、ロックを解除する仕掛けもなく、どうすれば下の層にいけるのかは謎だった。

 

 

「学院長、何か心当たりはないですか?」

 

 

考えが行き詰ってしまい、もしかしたら、という思いからリィンは学院長に質問する。

 

 

「・・・もしかしたら、かの《ドライケルス大帝》に関係あるのかもしれんのう」

 

 

考え込んだ学院長の口から出てきたのは、思いもよらない人物。

獅子心皇帝と名高い大帝は、この士官学院の創設者ではあるが、旧校舎の不可思議な現象と結びつくのか。

 

 

「学院が設立されてから、代々の学院長には大帝からの"ある"言葉が伝えられておる。あの建物――旧校舎を、"来たる日"までしかと保存するように、と」

 

 

更に、《獅子戦役》や《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットにまつわる話という説もあるらしい。

《聖女》には多くの伝承が残されているが、それすらも旧校舎に関係があるのだろうか。

 

 

「――ま、憶測の段階だし、気にしすぎることもないでしょ。」

 

「本当にご苦労だったのう、《Ⅶ組》の諸君。話が長くなってしまったが、心より感謝させてもらうぞ」

 

 

学院長から労いの言葉をかけられティア達は学院長室を後にし、そのまま解散した。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

リィン達と別れたティアが図書館へ向かうと、ユーシスの姿を見つけた。

ティアは図書館へ頻繁に通う方でもないので、図書館でユーシスを見かけたのはこれが初めてだ。

声をかけて相席させてもらい、場所柄少し声を潜めながら言葉も交わした。

 

最低限の教養だと言ってはいたが、ユーシスは伝承などの話が好きらしく、ティアの読んでいる『帝国の伝説・伝承 上』も既に読んでいたようだ。

先ほどの旧校舎での出来事があったので少し気になっただけだが、確かに読み物としても面白い。

 

 

 

 

「ねえ、見てみて・・・!」

 

 

ふと上から声が降ってきたので少し頭を起こし視線を向けると、2人の女子生徒が階段上から見下ろしていた。

声を抑えようとはいているらしいが筒抜けに聞こえてくる。

 

 

「噂通り、まさに貴公子って感じね。一緒にいる女の子は友達かしら」

 

「貴族の交友関係か・・・ちょっと気になるかも。っていうか、あれってもしかしてかの」

 

 

パタン!とその先の言葉が聞こえる前にティアが音を立てて本を閉じた。

彼女達は自分達の話が聞こえているとは思っていないのか、さして気にした様子も無く、またなにか違う話をしながら図書館を出て行った。

 

図書館に残された静寂を破るように、しかし今度は静かにティアが立ち上がった。

 

 

「えっと・・・丁度読み終わったので、お先に失礼しますね」

 

「・・・ああ」

 

 

本を元の位置に戻し、図書館から立ち去る。

視界の端に見たユーシスはまた黙々と本を読んでいて、気にした様子も無く堂々としていた。

いつか見た、兄の陰に隠れている少年の面影は見当たらなかった。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「よっ、後輩ちゃん」

 

 

寮に帰ろうと校門まで行くと、また後ろから声をかけられた。

声の持ち主は緑色の制服を着崩し、頭にはバンダナを巻いている。

 

 

「えっと、・・・クロウ先輩?」

 

「ははっ、覚えててくれて嬉しいぜ」

 

 

片手を上げながら気さくに話しかけてくるのは、先月にインパクトのある出会いを果たしたクロウだった。

意味ありげな、いつも通りにも見える飄々とした笑みを浮かべながら歩き寄ってくる。

クロウが口を開こうとしたその時、また新たに声が聞こえてきた。

 

 

「また君は、幼気(いたいけ)な後輩からたかろうとしているのかい」

 

 

後方からハスキーボイスが届いた瞬間、横にいたクロウが顔をしかめた。

 

 

「ちげーよ!どう見ても落ち込んだ後輩を慰めようとする良い先輩だろ!」

 

「私にはどうも可憐な少女に迫り寄る悪漢にしか映らないがねえ」

 

 

肩をぷるぷるさせながら怒るクロウを軽くいなし、からかってさえいるライダースーツの女子は、確かログナー侯爵家の令嬢だ。

口喧嘩をしてはいるものの、ユーシスとマキアスのように一触即発という雰囲気ではないので止める必要はないだろうが、このままでもいいとも思えない。

 

――自分は落ち込んでいたのか

ティアには、クロウが放った一言の方が気になっていた。

ふと視線を感じて顔を上げると、ライダースーツの女子と目が合う。

クロウが四つん這いになっているところを見ると、もう喧嘩は終わったのだろうか。

 

 

「いいね・・・素肌が隠されていて非常に惜しいが、黒タイツが余計に脚線美を引き立てている。実に素晴らしいじゃないか」

 

「・・・・・・なっ!ど、どこ見てるんですかっ!?」

 

 

ワンテンポ遅れて後ずさり、スカートを引っ張ってはみるが長さはもちろん変わらない。

ログナー家の令嬢が変わり者だとは聞いていたものの、あまりにも予想外だ。

顔の熱を感じながら視線を上げると、校門へ向かってくる男子生徒が視界に入った。

 

 

「まったく・・・ログナー侯爵家のご令嬢は遊びが過ぎるな」

 

「ユーシス君・・・!」

 

 

閉館時間までまだ時間はあるし、もうしばらくは本を読むつもりだろうと思っていたが、そうではなかったようだ。

いつの間にか立ち上がっていたクロウが口笛を吹いていた。

 

 

「おや、ユーシス君じゃないか。お久しぶりだね。私としては遊びのつもりは無いんだがね」

 

「・・・尚更タチが悪いな」

 

 

ジト目を向けるユーシスでさえも軽く流し、彼女はにこやかな表情のままクロウの首根っこを引きずり、さらばだと声をかけ立ち去った。

 

 

「・・・なんだったんでしょうか?」

 

「考えるだけ無駄だろう」

 

 

ユーシスは溜息を吐き、校門の方へ歩いて行く。

校門を通り過ぎたあたりで立ち止まり、帰らないのかと声をかけてきたので、ティアも歩き出し寮へ帰った。

 




地味にティアの攻撃クラフトその①、『リバーブバレット』が出ました。
特殊なエネルギー弾を発射し、触れた場所から振動を引き起こし、しばらく頭に嫌な音が響くような感じで攻撃する・・・というイメージです。
ゲームステータスっぽく書くと、範囲は円Mで効果は混乱(50%)くらいですかね。
実習に行ってからもう一つクラフトを出す予定なので、楽しみにしていただけると嬉しいです。


クロウは・・・出したかっただけですが、アンゼリカもいたせいかどうもかっこよくなりません。
あと、今までで1番楽しかったかもしれない。

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