彩の軌跡   作:sumeragi

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意外な一面

北クロイツェン街道の中央部にある一本の木から、リィン達は目的のドリアード・ティアを見つけ出した。

実物は話に聞いていた通り、宝石にも劣らないであろう美しさで、向こう側の景色が透けて見える。

これで指輪を作ったら、素敵な物になるのだろう。

旅行者ベントの喜ぶ顔を思い描きながら、リィン達はバリアハートへと戻っていた。

 

 

「あー!ユーシスさまだーっ!」

 

「わあっ、ほんとだ!ユーシス様・・・!」

 

 

街道からバリアハートに入ったところで、ベンチに座っていた子供達が声を上げた。

呼ばれたユーシスは、ラビィ、アネットと子供達のものらしい名前を呟くと、リィン達に目配せし、子供達の下へ歩いて行った。

男の子がラビィ、女の子がアネットと言い、2人は姉弟らしい。

彼女達の両親は共働きで、昼間は家に誰も居ない為、このベンチで帰りを待っているようだ。

 

 

「偉いぞ、お前達」

 

「わーい、やったー!」

 

「えへへ・・・ありがとうございます!」

 

 

留守番が出来る、と自信満々に言った子供達の頭をユーシスはくしゃりと撫で、柔らかな笑みを浮かべる。

ラビィは嬉しそうに、アネットは少し体を揺らし、はにかんだような笑顔を向けた。

 

 

「ユーシスって、子供にモテるんだな」

 

「ん。意外な一面発見」

 

「マキアスさん、どう思います?」

 

「・・・フ、フン。子供相手なら、もっと愛想よくするべきだろう」

 

 

ニコニコと話す子供達と、遠目からでも分かるほど穏やかな表情をしているユーシスを見ながら、リィン達も小声で思い思いの意見を述べていた。

膝をついて子供達に目線を合わせているユーシスの姿には、驚きを禁じ得ない。

だが、子供達を見つけた後からのユーシスの言動を見るに、彼が子供から好かれるのも納得がいくものだ。

マキアスだけは認めたくないのか、憎まれ口をたたいていたが。

 

 

「・・・子は親の鏡とも言いますし、きっと素敵なお母様に育てられたのでしょうね」

 

「そうだな。アルバレア公爵も、良くない噂を聞くけど、案外親しみやすい方なのかもしれない」

 

「時間を取らせて悪かったな」

 

 

子供達と話し終えたユーシスがリィン達に合流した。

向けられる4つの生暖かい視線に、居心地が悪くなったのか、すぐに宝飾店へ向かうぞと声をかける。

この和やかな雰囲気が一気に吹き飛ぶことになるなんて、誰も想像していなかった。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「き、きさま・・・!今自分が何を・・・・・・!!」

 

「――マキアス!」

 

 

宝飾店内で起こった信じがたい出来事を目の当たりにしたマキアスが怒鳴り声を上げる。

リィンがそれを慌てて止めるが、口に出た言葉が戻ることはない。

怒声を浴びせられた当人――ゴルティ伯爵は、案の定それを咎めた。

 

 

 

事の原因は、リィン達が持ってきたドリアード・ティアにあった。

宝飾店を再び訪れたリィン達を待ち受けていたものは、ベントの笑顔ではなく、悲しみに沈んだ顔。

店員ブルックにドリアード・ティアを渡すと、彼は指輪を作り始めるのではなく、店内に居た高慢そうな男にそれを渡した。

男はドリアード・ティアを受け取ると、口の中に放り込み、噛み砕いた後、水で流し込んだ。

全員が呆気にとられる中、真っ先に声を上げた者が、マキアスだった。

 

 

 

「これしきのことで事を起こすワシではないが、くれぐれも言動には慎むことだな。ワシがその気になれば、平民風情の首の一つや二つ――」

 

「やれやれ、言動を慎むべきなのはそちらの方ではないか・・・?」

 

「ああ?」

 

 

見過ごせないと口を挟まれ、伯爵は傲岸不遜な態度を取るが、その声の主がユーシス・アルバレアだと気付くと、驚いて後ずさった。

明らかに不機嫌なユーシスに説明を求められると、伯爵は手のひらを返したように、おどおどしながら話し出す。

 

ドリアード・ティアはベントとの正式な契約で手に入れたものであり、食した理由は、東方では主に滋養強壮剤として用いられるが、若返りの効果すらあると言われているためらしい。

 

くだらない、とユーシスが一蹴すると、伯爵はそそくさと店を出て行った。

 

 

 

伯爵の居なくなった店内でリィンが契約について尋ねると、伯爵の言うとおり、正式なものであることが分かった。

同時に、帝国で暮らす以上、伯爵クラスの貴族に物申すことは出来ない、とも言っていたが。

ベントは伯爵から受け取ったミラを頭金にして、地元で指輪を用意するつもりだと話すと、店を後にした。

 

 

「折角見届けさせてもらったというのに、まるでくだらない喜劇だったな」

 

 

ブルブラン男爵の声がしたので振り返ると、彼はやれやれと肩を竦め、首を振りながら、リィン達の方へと歩み寄ってくる。

ある程度近付いたところでぴたりと足を止め、そういえばと話し出した。

 

 

「店員に聞いたんだが・・・君たちは士官学院の生徒で、この街へは実習で来ているそうだね。老婆心ながら言わせてもらうが、人生とは思うようにいかないからこそ面白く、美しいものだ。先程の茶番は見るに耐えないが・・・しかしそれに苦悩し、もがき苦しむ君たちは美しい。」

 

「何のことですか・・・」

 

 

リィンが堪らず呆れ声を漏らすが、その様子ですら面白いという風に男爵はフフと笑った。

 

 

「さて――私もそろそろ次の美を探しに行かなければ」

 

 

男爵が歩き出し、店を出て行くのかと思われたのだが――

 

 

「・・・何か御用ですか?」

 

 

目の前で立ち止まられたティアが顔色を変えることなく、警戒を強めた声色で問う。

男爵は薄い笑みを携え、無言のまま優雅にティアの手を取ると、手の甲にキスを落とした。

 

突然のことにマキアスが短く声をあげ、エマがまあ、と口にし、フィーの表情は普段と変わりが無いが少し面白そうに思っているように見える。

リィンとユーシスはあまり驚いた様子を見せないが、ユーシスの目つきが鋭くなっていた。

 

 

「凛とした顔も素敵だが、その驚いた顔も悪くない」

 

 

強く結んだ口を開き、ティアが何か発しようとする前に男爵は手を放す。

また会おうと言い残し、今度こそ店を出て行った。

 

 

「・・・・・・嫌な予感しかしませんね」

 

「出来れば会いたくないんだけど」

 

「フィ、フィー君・・・」

 

 

本音を何一つとして包み隠さず漏らすフィーに、マキアスは止めようとするがあまり強くは言えないようだ。

 

 

「結局、あの人は何が言いたかったんだ・・・」

 

「えっとまあ、要するに『頑張れ』ってことじゃないでしょうか・・・」

 

 

行動に脈絡が無く思える男爵に、リィンとエマが呆気に取られつつ、苦笑していた。

 

 

「目的はよく分からんがな」

 

 

フンと鼻を鳴らし、男爵が通り過ぎて閉められた扉を見つめながらユーシスが告げた。

 

依頼は結局、ドリアード・ティアを見つけてくるという目的は果たしていたので達成ということになったが、後味の悪い結果に違いは無い。

気を取り直して残りの課題も片付けようと、リィン達はブルックに挨拶をすると、店を後にした。

 




バリアハートのモブ会話は子供達とユーシスのものとか、オーブメントの属性の話とか、2日目のゴルティ伯爵とかが好きです。

余談ですが、私はプレイ動画を見ながら話を書いています。
ただ、モブ会話となると自分のセーブデータを見るほうが楽なのですが、3章後からのセーブデータしかなく、書きたいと思ったモブ会話が書けない!
なので、モブ会話のために最初からやり直していましたよ・・・!


それにしても、この依頼で貰えるクオーツが幸運とかなんて皮肉。


2章の最後まで終わりましたが属性の話が見つけられませんでした・・・。
私の記憶違いだったのでしょうか・・・?
ユーシスの主属性は空だから~みたいな会話に覚えのある方がいらっしゃいましたら、お教えいただければ幸いです。

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