彩の軌跡   作:sumeragi

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序章 トールズ士官学院
入学式


 

やはり、おかしい

 

 

以前士官学院祭に来た時に見た制服の色は、白と緑。

貴族生徒の白い制服と、平民生徒の緑の制服。

自分が着ているような赤い制服の生徒はいなかったはずである。

 

 

帝都駅やトリスタへ向かう列車内では、同じデザインの制服を着た学生をたくさん見かけたが、その色はほとんどが緑で、赤い制服の学生は数えるほどしかいない。

 

 

「(貴族生徒は導力車があるだろうし、列車で見なくても不思議ではないけど・・・)」

 

 

赤い制服の学生。

自分も含まれているのだから、きっと兄がなにか企んでいるのだろう、と当たりをつけ考えを止める。

 

帝都からトリスタまでは約30分程度。

流れていく景色を眺めていると、あっという間に目的地に到着した。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

駅を出ると、一面に咲き誇るライノの花に思わず目を奪われる。

これほど美しく咲いているところはなかなか無いだろう。

 

 

「綺麗・・・・・・こんなに咲いてるの初めて見たかも・・・」

 

「俺も同じことを思っていたよ」

 

 

思わず呟くと、駅の出口に立っていたらしい男子生徒から返事が返ってきた。

同じ色の制服を着ているから気になって声をかけてしまったらしい。

 

 

「リィン・シュバルツァーだ。もしかしたら同じクラスになるかもしれないし、よろしくな」

 

「ティア・レンハイムです。こちらこそよろしくお願いしますね。リィンさん」

 

「同じ新入生だ。別にさんなんてつけなくていいさ」

 

「あはは・・・すみません、こういうことには不調法で。・・・ではリィン君、と」

 

 

妹と弟以外に呼び捨てにするような親しい友人もおらず、一番親しい人といえば兄というくらい普段はオリビエとミュラーにべったりだったのだ。

ティアの場合、社交界にもあまり出ないため余計にそういうことには慣れていなかった。

しかし彼は不調法なのは自分もだから気にしないでくれと言う。

普段ティアは家族や使用人以外の男性とは話す機会はあまり無いが、リィンは話しやすく、クラスメイトになれるといいなと思う。

 

 

リィンとは駅で別れ、うろつきながら街を見て回る。

雰囲気はとても良く、過ごしやすそうな街だ。

もうしばらく見て回りたいが、時間はそれを許してくれないようで入学式まであまり余裕が無いことを示していた。

2年間ここで暮らすのだしこれからいくらでも見られるだろう、と言い聞かせ学院へ向かう。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「ご入学、おめでとーございます!」

 

 

校門を抜けると、緑の制服を着た女生徒とつなぎを着た男子生徒に迎えられた。

 

 

「あなたが最後みたいだね。ティア・レンハイムさん、――でいいんだよね?」

 

「はい。・・・失礼ですが、あなたは?」

 

「はうっ、わ、私ったら名前確認ばっかりで、そういえば名乗ってなかったよ・・・」

 

 

この二人は見かけたおそらく先輩なのだろうが、女子生徒は小柄で、年上には見えない。

どうしよう、とつなぎの男子生徒に問いかける様子はまるで小動物のようで、尚更そう思う。

 

 

「えっと・・・挨拶が送れちゃったけど、トワ・ハーシェルです。」

 

「ジョルジュ・ノームだ。申請した品を預からせてもらえるかな」

 

「案内書にあった通りですね」

 

 

ティアはジョルジュに、ラインフォルトのロゴの入ったトランクを渡す。

入学案内に従い、寮へ送った荷物とは別に持ってきていたものだ。

 

 

「確かに――。ちゃんと後で返されるとは思うから、心配しないでくれ」

 

「分かりました。・・・・・・そういえば、最初に言ってた『私が最後』っていうのは・・・?」

 

 

校門には、多くはないけれど新入生らしい学生はたくさんいる。

自分が最後とは納得もいかなくて、先輩たちに聞いてみるがはぐらかされ、このまままっすぐ講堂へ向かうよう促された。

事情があると言っていたが、自分の名前を知っていたことにも関係があるのだろうか。

 

 

「あ、そうそう――《トールズ士官学院》へようこそ!」

 

「入学おめでとう。充実した2年間になるといいな」

 

「ありがとうございます」

 

 

色々と聞きたいことは残っているけれど、時間もそんなに残っていない。

トワの案内の通り、講堂へ向かおうと歩き出す。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「『若者よ――世の礎たれ。』」

 

 

ヴァンダイク学院長の朗々とした声が講堂に響き渡る。

 

 

「"世"という言葉をどう捉えるのか。何をもって"礎"たる資格を持つのか。これからの2年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにして欲しい。」

 

 

ドライケルス大帝の残した言葉と、学院長からのメッセージ。

高く困難な目標を新入生に課して学院長の話は締めくくられ、入学式は終わったのだが――

 

 

 

 

『指定されたクラスへ移動すること』

貴族風の男性はそう言ったが、入学案内でそんなものを見た覚えはない。

しかし、赤い制服ではない学生達は移動を始めた。

 

 

「入学案内にそんなこと書いてあったかしら?」

 

「いえ・・・入学式で発表するものだと思っていましたが・・・」

 

 

同じように戸惑っているらしい隣に座っていた白金色の髪の少女に声をかけられる。

鮮やかな深紅の瞳が印象的で、ツーサイドアップの髪形が似合う美少女だ。

 

 

「はいはーい。赤い制服の子たちは注目~!」

 

 

そう言いながら現れたのは赤紫色の髪の女性。

入学式のときステージ下に並んでいたので、おそらく教官だろう。

彼女は講堂に残っている学生たちに、少し事情があると前置きして、

 

 

「君たちにはこれから『特別オリエンテーリング』に参加してもらいます。」

 

と言った。

 

 

赤い制服の生徒たちは多種多様な反応を示していたが女性は気にした様子も無く、ついて来て、という言葉を残して講堂を出て行く。

戸惑ってはいるがこのまま講堂に居続けるわけにもいかず、それに従い歩き出す赤い制服の生徒たち。

 

 

「えっと・・・よかったら一緒に行かない?」

 

「そうですね・・・ぜひ」

 

 

会話というにはいささか短すぎる気もするが、先ほど言葉を交わした少女。

断る理由も無く、一緒に行かせてもらう。

 

後ろを振り返ると、駅で会ったリィンも赤毛の少年と一緒に講堂へ向かうようだった。

 

 

 




リィンとの会話のところを書いていて、これ単にコミュ障ですって説明してるだけじゃないかと・・。
ちょっと男性慣れしていないだけで、女学院では普通に皆と会話できていたからコミュ障ではないです。

リィンは、シュバルツァー男爵が自分を拾ったせいで社交界で居場所が無くなったみたいなことを言ってましたが、娘のエリゼが社交界デビューを控えているので、まったく無いわけではないのでしょうか。
皇室縁の名門だし皇室でのパーティーには顔を出してそうですけど。

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