彩の軌跡   作:sumeragi

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美談と密談

「あの子達は・・・・・・」

 

「あ、昨日のお姉さんたち」

 

 

もう1つの課題、手配魔獣を退治するため北クロイツェン街道入り口に向かうと、昨日見かけた少女達が今日もベンチに座って本を読んでいた。

声をかけようかとティアが近付いていくと少女が気付き顔を上げた。

 

 

「今日もここに居たのか」

 

 

少し遅れてリィン達も近寄ってくるが、少女達は昨日ユーシスと一緒に居るところを見ているためか、見知らぬ年上の男女にも怯えた様子がない。

 

 

「わたしはアネットって言います!こっちは弟のラビィ」

 

「私はティア。こっちのお兄さん達は――」

 

 

ティアから始まり、1人ずつ名前を言っていくリィン達をアネット達は眺めると、最後のマキアスが名乗ったところでユーシス様のお友達なんですかと聞いた。

はい、と笑顔で答えるティアの後ろで、1人だけ苦虫を噛み潰したような顔になったのは言うまでもないだろう。

 

 

「今日はユーシス様は一緒じゃないんですか?」

 

「ごめんな、ユーシスは実家に呼び出されてて」

 

「そうなんですか・・・」

 

 

アネットの残念そうな顔に、リィン達も心が痛む。

 

 

「本当にユーシス君のことを慕ってくれているのね」

 

「・・・わたしたち、怖い貴族の人にいじめられたことがあって・・・そのとき通りかかって助けてくれたのがユーシス様だったんです」

 

「だってさ、マキアス」

 

「ええい、茶化すな!」

 

 

ユーシスは貴族も平民も関係なく、目の前の理不尽を許しはしないだろう。

彼らしい行動に一同が納得する中、マキアスは居心地が悪そうにしていた。

更に、ユーシスは彼女達の両親の働き先にも口添えしていたらしい。

 

 

「えへへ、ユーシス様はかっこよくてお優しくて、わたしたちの恩人なんです」

 

「ふふ、ユーシスさんって、なんだか王子様みたいですね」

 

「そうなんです!わたしたち、ユーシス様がいなかったらきっと、ただじゃすまなかったと思うから・・・」

 

 

エマの発言はアネットも常々思っていた為か、急に大声になってしまい、照れたように肩をすぼめ元のトーンで話し出す。

弟のラビィも嬉しそうに、ユーシスさまは強いしかっこいいんだー、とのんびりした口調で言った。

宝飾店の店員を初めとした職人街の人達に、貴族の子供に、アネット達平民の子供。

庶子であるユーシスは町の人からも親しみを感じられているらしく、ユーシス自身の性格もあり、良い付き合いをしているようだ。

 

実習の課題があると言って別れると、気をつけてくださいと手を振ってくるのでリィン達もバリアハートを出て見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

魔獣を討伐し、昼前には午前の課題を全て片付けてしまうと、余裕が出てくる。

急ぐ必要もないと少しゆっくり歩きながらバリアハートへ戻る道中、マキアスにユーシスとは和解しないのかとリィンが尋ねた。

それとこれとは話が別だ、ユーシスは素で気に喰わない、とマキアスは答えるが、その言い方には今までのような棘はない。

もはや喧嘩する程仲が良いくらいだろう。

言えば朝と同様に、彼の持つショットガンのように言葉が飛んでくるのだろうけど、何故だか妙に言ってみたい気持ちになり、前を歩く男子達にバレないようティア達はくすりと笑った。

 

入り口では、領邦軍兵士達が忙しなく行き来しているのが遠目からでも分かった。

何かあったのだろうかと思いながらバリアハートへ入っていくと、領邦軍兵士達が駆けつけて来る。

 

 

「"実習"とやらでここに来たという《トールズ士官学院》の生徒はお前達だな?」

 

「ええ、そうですが・・・」

 

 

手配書と一致、すぐに見つかってよかった、と不穏なことを兵士達は言い合う。

何のことだと問いかける前に、その謎は解消された。

 

 

「1年Ⅶ組、マキアス・レーグニッツ・・・貴様を逮捕する」

 

「大人しくお縄に付いてもらうぞ」

 

「へ・・・」

 

 

思いも寄らぬ兵士の言葉に、マキアスが今までの訝しむような顔を崩し気の抜けた声を漏らしたが、それも一瞬のこと。

 

昨日仲間と一緒に居る時に見かけた銀色の飛行物体、それに乗っていた人物が犯人だと思われるオーロックス砦への侵入罪。

見に覚えのない容疑をかけられた理不尽さに、マキアスも、リィン達も反論するが兵士達は聞き入れず、笛を鳴らし応援を呼んだ。

 

 

「彼の無実は、私達の仲間である"ユーシス・アルバレア"も証明してくれるはずですよ」

 

「フン――だからどうした?」

 

 

え、と驚きに目を見張るティア達と、本当にユーシスという存在を気にしていないかのような態度の兵士達。

その間にも兵士達はマキアスを拘束し、連行していく。

多勢に無勢、大した抵抗も出来ずマキアスが連れて行かれる後ろ姿を、悔しさを顔に滲ませながら見つめていた。

 

 

「(何とかしないと――)」

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

領邦軍詰め所まで足を運び、責任者でもある隊長にマキアスの無罪を訴えても相手にはされず、分かった事と言えばユーシスはこの為に実家へ呼び戻されたという事だけ。

おそらく、軟禁されているのだろう。

 

ホテルも、レストランにも兵士が巡回に来ており、迷った結果職人通りの宿酒場でリィン達は今後のことを話していた。

 

マキアスが捕まったのは砦への侵入罪とは無関係で、彼の父――レーグニッツ帝都知事との取引に使える最高のカード、知事の息子を拘束することが狙いで間違いないだろう。

 

 

「わたしたちで直接奪還するしかないと思う」

 

 

今回の冤罪を計画したのは、十中八九アルバレア公爵。

ユーシスは実家で動けなくされている可能性が高く、ルーファスは帝都に行っておりいつ帰ってくるかも分からない。

 

昨日侵入されていたものの、オーロックス砦の警備は相当なもので、もしもマキアスが砦に移送されたら奪還の可能性は無いに等しい。

その前に、まだ侵入の余地がある市内の詰め所に居る内に奪還するというフィーの提案は、彼らが現時点で取れる最善の方法だった。

 

幸いにも、その侵入ルートは同じ宿酒場でマスターと話をしていた男性から得ることが出来た。

後は、準備を整えてマキアスを解放するだけ。

リィン達は一端別れ、各自手早く装備を整えることにした。

 

 

 

 

「(こんなところで使うことになるとは思わなかったけど・・・)」

 

 

建物と建物の間から入る事が出来る裏通り、人気の少ない場所で1人手元を見つめるティア。

 

 

「お久しぶりです。急で申し訳ありませんが、連絡を取っていただきたい方が居て――」

 

 

近くには誰も居ないというのに、ティアは耳に手を当てると唐突に喋りだす。

何かを考える時につい零れる独り言とは違い、明らかに誰かに語りかける口調。

 

 

「ありがとうございます――兄様」

 

 

最後に少し優しい口調で告げると耳から手を離した。

ティアが握っているものは、オリビエがリベールを訪れたときに連絡手段として使っていたアーティファクト。

兄同様いつでも連絡が取れるようにと隠し持っていたものだ。

しかし、本来なら教会に引き渡すべきもの、だからこそティアは通信にこの人の居ない場所を選んだのだ。

 

 

 

 

「(早く戻らないと――)きゃっ」

 

 

通りへと出た瞬間、誰かとぶつかりそうになり咄嗟に避ける。

背を向けるように前かがみになっていた体を起こし、体ごと後ろへ向けると、立っていたのは宿酒場に居た男性だった。

 

 

「よう、また会ったな。今が丁度実習中なのか?」

 

 

課題は全て終わらせているが事情を話すわけにもいかず、ティアは軽く、はいと肯定の意を示した。

気さくに話しかけてくる様子は宿酒場で会った時と変わりない。

マスターの話では彼は元遊撃士で、名前は――

 

 

「トヴァルさん、でしたか?」

 

「そうだが・・・マスターから聞いたのか?おしゃべりだからなあ・・・」

 

 

やれやれ、と頭をかくトヴァルだが、怒っている様子はなく慣れたものだというように、仕方ない、と顔に書いていた。

 

 

「早く仲間の所に行かなくていいのか?」

 

「あ!・・・・・・失礼します!」

 

 

ティアは頭を下げるとトヴァルに背を向け、リィン達の下へ走っていった。

 

 

領邦軍の詰め所への侵入は、間違いなく頼れる者が居ない士官学院生達が選ぶ最善の手だった。

相応のリスクを伴うが、一刻も早くマキアスを奪還しなくてはいけないという目的においては。

 

ただ、今回リィン達は気づかなかった――知らないという方が正しいだろう――が、選択肢は他にも存在していた。

それを選ぶことが出来たのはティア1人だけだったのだ。

 




小型の通信用アーティファクトはずっと出してみせる!と企んでいたのでついに出せて2章半ばだというのに達成感に満たされてしまっています。


最後のティア・・・察しの良い方なら気付かれたかもしれませんが、某リベールの姫様と同じ行動ですね。
深読みしていただけると幸いです(笑)

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