彩の軌跡   作:sumeragi

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特別オリエンテーリングⅡ

特別オリエンテーリングの開始を告げ、頑張れと無責任な言葉を残して切られた通信。

どうしたものかと全員が『ダンジョン区画』へ続く扉の前で佇んでいたが、ユーシスはフンと鼻を鳴らして扉の方へ歩き出した。

 

 

「ま、待ちたまえ!いきなりどこへ・・・まさか、一人で勝手に行くつもりか?」

 

「馴れ合うつもりはない。・・・それとも"貴族風情"と連れ立って歩きたいのか?」

 

 

一人で行こうとするユーシスを止めるマキアスに対し、彼はまたしても挑発的な態度をとる。

 

 

「魔獣が恐いのならば同行を認めなくもないがな。武を尊ぶ帝国貴族として、それなりに剣は使えるつもりだ。貴族の義務(ノブレス=オブリージュ)として力なき民草を保護してやろう」

 

「だ、誰が貴族ごときの助けを借りるものか!僕は一人で先に行く!旧態依然とした貴族などより上であることを証明してやろうじゃないか!」

 

 

マキアスはそう大声で宣言し、一人で扉の中へ入っていく。

あの様なことを言われては引き下がれないのだろう。

ユーシスもその背中を見送っている。

 

 

 

「・・・・・・煽るような言動はあまり感心できませんね」

 

「ちょ、ちょっと!」

 

 

隣のアリサが焦ったように、ユーシスを見つめているティアを振り返る。

大人しそうなティアがそのような口を利いたことに驚いたのだろうが、四大名門《アルバレア公爵家》の子息相手にそんなことを言って大丈夫なのか、という不安も見て取れる。

 

当のユーシスは気にした様子もなく、しばらくティアを見て自分も扉の中へ入っていった。

 

 

 

 

「はああ~っ・・・・・・」

 

 

最初に沈黙を破ったのは赤毛の少年だった。

 

 

「びっくりしたよ・・・マキアスに続いてあんなこと言い出すんだもん・・・・・・」

 

「あはは・・・少し軽率でしたね」

 

「いや、確かにあれは煽りすぎだったと思う。あれじゃあ引くに引けないだろうし」

 

「そうね・・・下手に怪我する前に忠告できて良かったんじゃないかしら。――でも、四大名門相手によく言えたわね」

 

 

本当にびっくりしたんだから、と睨んでくるアリサに苦笑を返す。

あまりにも自然にリィンの言葉に続いたので、仲直りは早そうだなという安堵も含んでいたが。

 

 

「それで、これからどうしましょう・・・」

 

「とにかく我々も動くしかあるまい。念のため数名で行動することにしよう。」

 

 

眼鏡の女子の疑問に青髪の女子はそう答え、ティアとアリサと眼鏡の女子を指し、私と共に来ないか、と続ける。

一人で行くには心細いので、ぜひ、と返すと他の二人も同じ考えだったようですぐに同意した。

 

 

「それに、そなたも――」

 

 

と銀髪の少女に向かい声をかけるが、彼女は一人で扉の中へ歩いていった。

 

 

「ふむ・・・?まあいい。後で声を掛けておくか。――では、我らは先に行く。男子ゆえ心配無用だろうがそなたらも気をつけるがよい。」

 

「あ、ああ・・・」

 

 

リィンの若干歯切れの悪い返事を聞き、青髪の女子は扉へ歩き出す。

 

 

「そ、それでは失礼します」

 

「・・・・・・・・・・・・フン」

 

「ゴールで会いましょう」

 

「そうだな。・・・そちらも気をつけてくれ」

 

 

そして、眼鏡の女子とアリサに続いてティアもダンジョン区画へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「それにしても、先程のそなたには驚かされたな」

 

「へっ?」

 

 

一瞬何のことだろうかと思ったが、四大名門の、と言われユーシスの件だと思い至る。

 

 

「失礼ながら、あのような強気なことを言うとは思っていなかったのでな。」

 

「あんまり掘り返されると心苦しいですね・・・」

 

「でも、平民であのような言い方が出来る方はなかなかいないと思いますよ。・・・えっと」

 

「そういえば名乗っていませんでしたね。ティア・レンハイムです」

 

「エマ・ミルスティンです。ティアさんは貴族の方なのですか?」

 

「い、いえ・・・さっきのは性分みたいで・・・・・・」

 

 

平民だと偽って学院に来ているのに、さっそく平民ではないのかと怪しまれてしまった。

正直、焦る。

 

 

「なるほどな。まあ、是非の問題でもある。身分にとらわれても仕方あるまい。――ラウラ・S・アルゼイドだ。」

 

「それもそうよね。・・・私はアリサ・R。よろしくお願いするわ」

 

 

意図しないラウラの助け舟によってその場は流されたが、これからは気をつけなくてはいけない。

兄のように腹芸が得意であればいいのだろうけど、なかなか上手くはいかないようだ。

 

 

 

一通りの自己紹介が終わって、次に戦闘スタイルの確認となるのは必然か。

 

 

「私の武器は見ての通り、この剣だ。」

 

「す、すごく重そうな剣ですね・・・」

 

「鍛錬すればどうと言うこともないがな。剣には少々自信がある。前衛は任せてもらおう。――そちらのその珍妙なものは?」

 

 

身の丈ほどもある剣を軽々と持ち上げ構える姿はとても様になっていて、前衛として頼りになりそうである。

ラウラは、自分の持つ剣に感嘆の声をもらしたエマに問いかける。

 

 

「もしかして、それが魔導杖(オーバルスタッフ)とかいう・・・?」

 

「ティアさんご存知なんですか?」

 

「入学時に適性があるって言われたんです。見たのは初めてですけど」

 

「ふむ・・・その魔導杖とはどういったものなのだ?」

 

「新しい技術を使った武器で、駆動時間なしで近距離のアーツを発動できるみたいです。私も入学時に適性があると言われて、使用武具として選択したんですが・・・ティアさんは違うみたいですね?」

 

 

適性があると言われたようだがそれらしきものは持っていないし、見たこともないという。

ならば、何の武器を・・・と思うと

 

 

「私はこの導力銃です。」

 

「あら・・・これって『ファントムHG零』じゃない」

 

 

エマに続き武器を見せると、アリサが思わぬ反応を見せる。

 

 

「ラインフォルト社製のファントムシリーズで静音性に優れた銃ね。ショットガンタイプはまだ研究中らしいけど、ハンドガンタイプはもう出てたんだ」

 

「詳しいんですね・・・・・・でも、アリサさんの武器って」

 

「私は銃じゃなくてこの導力弓ね。――く、詳しいのは、えっと・・・その、ラインフォルトに知り合いがいて・・・」

 

「ああ、実家はルーレと言ってましたね」

 

 

明らかに動揺した素振りだが、年頃の女子が武器に詳しいことがを恥ずかしがっているようにも見える。

地元なら知り合いもいそうだと言うと、そうなの!と勢いよく肯定するアリサ。

"R"という苗字と関係がありそうだが、知り合ったばかりなのだし話してはくれないだろう。

隠し事をしている者同士、咎める気も起きないが。

 

 

「アリサさん、ご実家はルーレ市なんですね。私は辺境出身で・・・都会なんて羨ましいです」

 

「辺境と言うなら、私の出身地レグラムもそうだろうな。」

 

「レグラム・・・帝国の南東の外れにあるエベル湖畔の街だったかしら」

 

「うん。湖のほとりにある古めかしい所だ。ティア、そなたは?」

 

 

霧と伝説の街レグラム・・・光の剣匠と謳われるアルゼイド子爵の治める街。

バカンスで訪れる者も多いらしいそこには、様々な伝承やおとぎ話の他、《槍の聖女》リアンヌ・サンドロットの伝説も残っている。

一度は見てみたい街だ。

 

ラウラの質問には正直に帝都だと答え、ティアたちはそのままダンジョンを進んでいく。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

ラウラはその力強い剣戟で襲い来る敵を叩き切り、アリサは正確な射撃で敵の急所をつく。

エマは魔導杖の扱いにまだ慣れていないようだが、適性があると言われた通りアーツの腕前は高い。

通常攻撃とアーツを使い分け、効率的にダメージを与えている。

 

そして

 

 

 

 

 

「――アクアブリード!」

 

 

その声と共に、青い光が球状に集まり、強烈な水の塊を打ち出した。

アーツの直撃を喰らい、瀕死の魔獣にラウラが剣を振りかざし止めを刺す。

 

ティアは銃で敵を翻弄し決定打の隙を作っているが、メインはエマと同じくアーツによる攻撃だった。

エマの魔導杖では敵の情報を解析できるらしく、この地下で出会った魔獣たちは火のアーツに弱いことが分かったが、このARCUSという新しい戦術オーブメントは開いているスロットも少なく、使えるアーツもまだまだ少ない。

それでも水の下級アーツを駆使してなんとか敵を倒していく。

 

 

 

「――うん。なかなか順調だな」

 

「そうね。エマとティアのアーツも強力ですごく助かってるし」

 

「ふふ・・・ラウラさんとアリサさんの攻撃で敵が弱っていたからですよ」

 

「私の場合、この水の魔法と相性がいいのかもしれません。駆動も短くて済みますし」

 

 

 

ダンジョンを探索しているといくらかの魔獣に出会ったが、ラウラの言うようにとても順調に撃退できていた。

 

紫色の毛に覆われ、羽の生えている飛び猫という魔獣は飛んでいるところをティアやアリサが撃ち落とし、弱ったところをラウラが叩き切る。

 

ぶよぶよとしたゼラチン状の軟体魔獣グラスドローメは物理攻撃が効きづらいが、エマの魔道杖で効率的にダメージを与えられた。

 

硬貨のように硬い皮膚を持つコインビートルの群れに襲われたときは、ティアが広範囲同時の早撃ちで足止めをしている間に、アリサとエマが範囲アーツを駆動し発動させる。仕留めそこなった敵はラウラが止めを刺した。

 

 

主力となったのは前衛のラウラだったが、後衛の3人もそれぞれの武器の特徴を生かし、アーツでサポートをしながら敵を倒していった。

 

 

敵はなんなく対処出来ていたが、会ったばかりのメンバーの為上手く連携出来ているとは言い難い。

敵の体勢が崩れていても追撃が遅れ、立て直されることも間々あった。

連携がとれれば、もっと楽に倒せるのだろうか。

 

 




い、いきなり怪しまれているという・・・。
しかしオリジナル展開は書きやすく楽しいのですが、会話文が多くなりすぎるので気をつけないといけませんね。
支援・回復タイプなのでMクオーツはカノンが合うのでしょうがエリオットのものなのでね・・・アリエスで体力もEPも補充しながらアーツ連打してるといいですよ。この時点ではレベルが低いから無理でしょうけれど。
銃の腕前もそこそこ、というのは次回で書ければいいなと思います。


ティアが導力銃を選択した理由は、オリビエが使っているから、というのが主な理由です。
ミュラーが前衛には出るな、と言っていたらいいなという妄想設定もあります。
じゃあクローゼに剣教えたユリア大尉はそういうこと言わないのか、と思ってしまうのであくまで妄想ですが。

銃はSCでのオリビエの初期装備でもあるファントムのシリーズ。
ガンユニットのテストで貰えるマキアスのショットガンと同じファントム零のハンドガンタイプにしました。
ファントムは静音性に優れている、と武器説明によくあるのでサイレンサーを標準装備している銃なのでしょうかね。
拳銃ではなく機関銃ですが、あるサイレンサーを標準装備したシリーズはとても静かだと聞きます。


空だとライン一直線で水属性でクローゼより通常クラフトが回復特化くらいかな、と思っていましたが閃では固定属性が2つも!
ミュラーと同じ水とオリビエと同じ幻以外の固定属性が見つかりません。

今更ですが、ミュラーの属性が水って意外な感じです。火っぽいのに。
まあ武器共通な元ヤンアガットさんがいるから仕方ないのかもしれませんが・・・

・・・そのうちあとがきの方が本編より長くなってしまいそうですね。

次回もお付き合いいただけますと幸いです。


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