彩の軌跡   作:sumeragi

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第1章 新学期~初めての実習~
自由行動日とクッキーと


4月18日

 

 

特別オリエンテーリングの日から2週間以上が経ち、初めての自由行動日になった。

厳密には休日ではないが、1日自由に過ごせるということで生徒たちはどこか解放感にあふれている。

 

クラブ活動は自由行動日にやっていることが多いらしく、ティアは昨日の放課後にアリサ、エマと一緒に部活見学をしていた。

フィーは授業が終わった後すぐに教室を出て行ってしまい、ラウラは最初から水泳部を見に行くつもりだったようだ。

色々な部活があったが、アリサはラクロス部に、エマは文芸部に決めたらしい。

ちなみに、文芸部では過去の部誌を見せてもらえたが、爽やかなストーリーのものに混じって一冊だけ毛色の違う話のものがあった。

それを読んでしまったときは無言で重ねてあった部誌の一番下に戻して、2人にそのことを伝えずじまいだったがエマもあのような話を書くのだろうか、とは少し気になる。

 

 

「失礼します――」

 

「やあ、こんにちは。えっと・・・君は昨日見学に来ていたよね?もしかして入部希望かな?」

 

「はい、1年のティア・レンハイムです。よろしくお願いします」

 

「歓迎させてもらうよ。僕は2年のニコラス。こちらこそよろしくね」

 

 

見学の際、気になる部活はいくらかあったが、ティアは調理部に決めた。

ニコラスから料理手帳と一緒に入部届けの紙を貰い、さっそく書いているともう1人入部希望らしい生徒が来た。

1年Ⅱ組所属の貴族生徒で学院には花嫁修業のため入学したとのことだが、なんとも強烈・・・というか、いや、止めておこう、とティアは思考を中断した。

ドレスデンという名には聞き覚えがあるので、仲良くできるといいのだが。

 

入部届けを出した後、何か作ろうと思い、最初に手帳と共に教えてもらったレシピを試してみることにした。

お手軽の名の通り材料も少なく簡単に出来たが、ニコラス曰く、上手くいくとふわとろになるらしい。

お菓子作りとはなかなか勝手が違うのか、と思っているとリィンが調理室に入ってきた。

 

 

「リィン君ももしかして調理部に?」

 

「いや、俺は技術部の依頼で配達に来たんだ。部長さんは?」

 

「部長は僕だよ」

 

 

リィンはニコラスに依頼の品という計量器を渡す。

導力式のそれは宮殿の調理室でもよく使わせてもらったし、先ほどのオムレツを作る際にも使ったものと同型だ。

導力式の計量器は初めて見たらしいリィンにニコラスが説明して、余っているからと料理手帳を渡した。

 

 

「ところで、どうしてリィン君が配達を?」

 

「ああ、色々あって生徒会の手伝いをすることになったんだ」

 

「それで昨日も生徒手帳を配ってたんですね」

 

「まあ、そんな感じかな・・・」

 

「?」

 

 

どうやらリィンは生徒会で処理しきれない仕事を手伝っているようだ。

その原因はサラで、嵌められたも同然のようだがトワ会長が忙しそうなのは本当のようで、引き受けたらしい。

2週間程度の付き合いだが彼は押しに弱い気がする。

 

 

「何か手伝える事があったら言ってくださいね」

 

「そうさせてもらうよ。・・・それにしても、ティアは調理部に入ったんだな」

 

 

ティアと側にあるオムレツとを交互に見比べながらリィンが言う。

 

 

「意外でしたか?」

 

「いや・・・さっき学生会館に行ったら委員長が文芸部に入っていたから。ティアもなんとなく似合いそうだなと思ってて」

 

「そ、そうですか・・・。実家ではお菓子くらいしか作ったことがなくて、興味があったんです」

 

「へえ。そのオムレツもおいしそうだし、お菓子も気になるな」

 

 

失敗はしなかったが大成功というわけでも無い料理を褒められると少し気恥ずかしいが、やはり嬉しいものだ。

そうだ、と先ほどまで考えていたことを口にする。

 

 

「実は、Ⅶ組の皆にお菓子を作ろうと思っていたんです。貰ってくれますか?」

 

「もちろんだよ。出来上がるのが楽しみだな」

 

 

まだ手伝いがあるというリィンが調理室を出て行く。

時計を見るともうすぐ昼時だ。

簡単なサラダも作りオムレツを昼食にして、食べながらⅦ組の皆へのお菓子は何にしようかと考える。

 

 

「(やっぱりクッキーかな・・・それなら包装用の袋も必要だし、一回ブランドン商店に行かないと)」

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「よしっ」

 

 

ティアはブランドン商店でラッピング用の袋のセットを買い、学校に戻ってきていた。

ニコラスに包装袋ならここにもあったのに、と言われ先に確認しておけばよかったと思うが、初めて渡すものなのだし自分で買ったものの方がいいか、とも思う。

次の機会があれば頂戴することにして、クッキーを作り始めた。

 

寝かせておいた生地を取り出し、型抜きしようとした瞬間、背後に妙な気配を感じた。

背筋に寒気が走るような感覚に襲われる。

 

 

「あらあん。貴方もクッキーを作るのぉ~?」

 

「は、はい。クラスメイトに渡そうと思って。・・・・・・マルガリータさんのそれは」

 

「これは特製クッキーよぉ。これを食べたらどんな人でもイチコロなんだからぁ~」

 

 

ムフォッ!と息を吐きながらマルガリータは意気揚々とスキップをしながら調理室を出て行く。

そういえば彼女は花嫁修業と同時に花婿探しもしていると言っていた。

花婿候補に先ほどのクッキーを渡すつもりなのだろうが・・・

 

 

「・・・・・・あの、ニコラス部長・・・。さっきのクッキー、紫色だったんですが」

 

 

紫芋でも入っていたのだろうか。

それにしては毒々しい色合いな上、妙な黒い煙が出ていた気がする。

ニコラスは何も言わない。

ティアは地震でも来ているかと勘違いしそうになる床の振動を受けながら、料理手帳の珍妙料理にドクドクッキーと書き足し、型抜きを再開する。

 

 

――15分後

焼きたてのクッキーの香ばしい香りとハーブの香りが調理室に広がる。

クッキーを齧るとサクッ、という音が響いた。

口内に広がる甘さに、ティアは満足感を得る。

ニコラスに試食してもらうと、彼は隠し味に入れたハーブも含めて材料とその分量をピッタリ言い当てた。

とても正確な舌の持っているようで、彼が調理部なのも頷ける。

そんな彼が太鼓判を捺してくれたので、このロイヤルサブレは大成功だろう。

 

 

 

 

それから、クッキーを袋詰めするために冷まし、その間にも別のレシピを試しているといつの間にか陽は落ち、窓の外は夕焼けに照らされていた。

ニコラスは先に帰るというので、戸締りを任せてもらい、クッキーを袋に詰めていく。

 

 

 

 

「・・・作りすぎちゃった」

 

 

昔、お菓子を作りたいと兄たちに無理を言って、なんとか作ることが出来た少し焦げ跡のついたクッキーを思い出していると、ラッピングしたクッキーはⅦ組のメンバーの分よりも多くなっていた。

サラの分を足しても1個多い。

ニコラスも帰ってしまったし自分で食べるしかないか、と考えながら調理室の鍵を閉め、第3学生寮へ帰ろうとする。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「よっ、後輩ちゃん」

 

 

校舎を出て校門に差し掛かると、先輩らしき人に声をかけられた。

緑色のブレザーから平民クラスの先輩と分かるが、バンダナにピアス、着崩した制服からは軟派な印象を受ける。

 

 

「なんかイイ匂いがすんなあ。クッキー?」

 

「クッキーなら調理部でさっきまで作っていましたけど・・・」

 

「やっぱりなあ。調理部っつーことはニコラスの後輩か」

 

 

突然声をかけてきてふむ、とかほう、とか言っている目の前の先輩はかなり怪しい。

どうしたものかと思っていると急に目の前の先輩がうっ、と腹を抑えてうずくまる。

 

 

「どうしたんですか!?」

 

「・・・・・・腹が減った・・・」

 

「は、はぁ・・・?」

 

 

なんとも演技くさいがかすかに腹の虫が鳴く声も聞こえる・・・気がする。

クッキーも作りすぎている。

目の前の先輩に良かったらどうぞ、と渡してみるとすっと立ち上がり礼を言いながら流れるように受け取った。

本当に何なのだろう、この先輩は・・・と戸惑いを通り越して呆れそうになる。

 

 

「俺は2年のクロウ・アームブラストだ」

 

「1年のティア・レンハイムです・・・」

 

「知ってるさ、Ⅶ組だろ?色々てんこ盛りそうだけど、まあ肩の力を抜いて頑張ってくれや」

 

 

じゃーな、と背を向け第2学生寮へ向かっていく姿にはため息しか出ない。

入学式のトワ会長といい、Ⅶ組にはやはり何かあるのだろうか。

そんな疑問を抱えつつも、Ⅶ組メンバーとサラの分で丁度になったクッキーを手に第3学生寮への帰路へ着いた。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「あ、リィン君にエリオット君、それにガイウス君も」

 

 

第3学生寮へ向かっていると、公園に今ティアが呼んだ3人が座っていた。

他の2人はそうでもないが、エリオットは少し疲れている様子で、クッキーを渡して話をきくと3人は旧校舎を探索していたらしい。

声をかけてくれればよかったのに、とごちるとリィンが焦ったようにクッキーの邪魔をしちゃダメだと思って!と弁明してくるのが可愛く見えて、思わず笑みがこぼれる。

リィン以外の2人も同じだったようで、肩が震えていた。

夕日のせいか少し頬を赤くしたばつの悪そうなリィンがそれを見咎め、早く寮に帰ろうと言い、4人は歩き出す。

 

 

 

 

夕食後、全員にクッキーを配り終えたティアは休日に帰ってこなかったことを怒るだろうかと思いながらアルフィンやセドリック、オリビエへの手紙を書き、眠りについた。

 

 

 




部室の鍵って部長さんが持ってる場合とか一箇所にまとめてる場合がありますがトールズはどうなっているのでしょう・・・

この時点で一番付き合い悪そうなユーシスがティアにはそんなことはないでしょうから、お菓子とか持っていったら遠慮はするけど断れないだろうな、と。
自由行動日にずっと調理室にいたら絶対ご飯はそこで済ませていると思います・・・!!

ドクドクッキーはなんか毒々しい感じがしますがロイヤルサブレってどんなのだろう・・・と思い、考えて見ると
ロイヤル→ロイヤルミルクティー→紅茶→ユーシス→ハーブ
みたいなやっぱりよく分からない発想になりました。
しかしスイートクッキーのレシピにフレッシュハーブは必要ない(ギリィ


実技テストは入れようかと思ったのですがほぼ原作通りになるでしょうから、あらすじ形式にして次から特別実習へ行きたいと思います。

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