彩の軌跡   作:sumeragi

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仲直りのち簀巻き

4月24日

 

 

先週の自由行動日前日のHRで予告されていた実技テストが3日前に行われた。

単なる戦闘力ではなく、『状況に応じた適切な行動』を取れるかを見ることが目的だったそれは、戦術殻と呼ばれた得体の知れない傀儡との模擬戦という形式だった。

最初にリィン、エリオット、ガイウスの3人が戦ったが、彼らは戦術リンクを活用しあっという間に戦術殻を倒してみせる。

その後他のメンバーも2組に分かれて同じように戦術殻と戦ったが、どちらも苦戦を強いられ、戦術リンクというものがどれほど重要かが分かる結果となった。

 

その後サラから、Ⅶ組ならではの特別なカリキュラム――《特別実習》について説明された。

2班に分かれて実習先に行き、用意された課題をこなすというもの。

課題についての具体的な説明はなく、説明後に配られたプリントには班分けと目的地しか書いていなかった。

 

 

【4月特別実習】

A班:リィン、アリサ、ラウラ、エリオット、ティア

   (実習地:交易地ケルディック)

B班:エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス

   (実習地:紡績町パルム)

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

現在A班の5人とサラは、実習先へ向かう列車に乗っている。

サラは本来なら実習には付いてこないが、初回という事で補足説明に来たらしく、今は通路を挟んだ向かいの席で寝息を立てていた。

 

 

「子供みたいな寝つきの良さだったね」

 

「いや、それ以上だろう。只者ではなさそうだ」

 

「ちょっとマネ出来ないですよね。・・・なんだか見てるこっちまで眠くなりそうです」

 

 

ちなみに、アリサは今朝のうちにリィンと仲直りが出来たようで、今はリィンと話している。

元々気が合うのか、今までが嘘のように話は弾んでいて、とても楽しそうだ。

 

 

「アリサさん、嬉しそうですね」

 

「うん、念願叶って謝ることが出来たようだしな」

 

「はは、見てるこっちも歯がゆかったもんね」

 

 

その様子を微笑ましく見ながら、ティアとラウラ、エリオットは小声で話していた。

アリサは今まで、トマス教官の授業でリィンが当てられていた際、こっそりリィンをフォローをする等、何度か謝るチャンスを作ろうとしたがなかなか上手くいかず、随分と思い悩んでいた。

特に、部活の後片付けをリィンが手伝ってくれた時でさえ謝れなかったのは相当ショックだったようで、酷く落ち込んでいた。

その時に話相手をしていたティアが落ち込んでいるアリサを励ましていたのが記憶に新しい。

リィンの方も、なかなか謝らせてくれないと落ち込んでいたとエリオットが言う。

Ⅶ組発足当初から気まずかった2人が、今朝は寮の玄関で仲良く談笑している姿を見た時は、思わず頬がほころんでしまったものだ。

 

Ⅶ組にはアリサとリィンよりもさらに険悪な2人がいるが、駅で見た様子だとまだまだ時間がかかりそうだった。

サラはB班の手に負えなくなったらフォローに行くつもりだと言っていたが、エマなんかは特に胃を痛めてしまいそうだと心配になる。

 

 

「そういえばさ・・・この間、こんなものを手に入れたんだよね」

 

「それって、もしかしてブレードか?」

 

 

エリオットがカードを差し出すと、それに気付いたリィンが反応する。

『ブレード』というカードゲームに使われるものらしいが、エリオットがルールを知っているらしく、それなら皆でやらないかとリィンが提案した。

 

 

「(リィン君、そこはアリサさんと話していてください・・・!)」

 

 

話を振るタイミングとしてはキリが良かったようだが、2週間もの間まともに話すことが出来なかったのだ。

やっと仲直りが出来たのだから、もう少し2人で話していてもいいだろう、とティアは少し不満そうな顔のアリサを見ながら心の中で告げる。

 

 

「――ミラーよ!」

 

「甘いですよ。こっちもミラーです!」

 

 

しかしブレードを始めてみると案外楽しくて、アリサも楽しんでいるようだった。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「へえ・・・ここがケルディックかぁ」

 

「のんびりした雰囲気だけど結構人通りが多いんだな」

 

「えぇ。あまり帝国では見ない服装の方も多そうです」

 

「あちらの方にある大市目当ての客だろう。外国からの商人も多いと聞く」

 

「なるほど、帝都とは違った客層が訪れてるってわけね」

 

 

駅から出るとA班の5人は各々感想を述べる。

帝国東部、クロイツェン州にある交易町ケルディック。

木造の建物が建ち並び、風車も点在し、のどかな田舎らしい雰囲気を感じるが、大市で有名という通り活気が溢れている。

 

 

「ちなみに特産品はライ麦を使った地ビールよ。君たちは学生だからまだ飲んじゃだめだけどね~」

 

 

サラは勝ち誇ったように言うが、羨ましがる者は1人もいない。

一同そろって呆れたような視線を向けるが、サラは全く気にした様子も無い。

今日の宿を案内すると歩き出したのでそれに続く。

 

 

 

 

 

「《紫電(エクレール)》の君――こんな所でお目にかかるとは。何やら興味深い雛鳥たちをつれていたが・・・」

 

 

建物の影から、歩いていく6人を見つめる白を基調とした服を着た男の呟きは誰にも届かず、風に流されていった。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「やっほー、おばちゃん」

 

「おや、サラちゃん。どうしたんだい?例の話は聞いてるけどあんたも来たのかい?」

 

「ま、最初くらいは付き添おうと思ってね。――こっちがあたしの教え子よ」

 

 

宿に着くとサラは中年女性に親しげに話しかけた。

女性は女将をしている人でマゴットさんと言うらしい。

サラに紹介された後、女将に今日泊まる部屋へ案内される。

 

部屋に着くと女将が扉を開ける。

扉の向こうには、広くゆっくり出来そうな空間が広がっていた。

右側には壁に沿うように置かれているソファ、真ん中には窓へ向かうよう机が置かれていて、左側にはベッドがある。

 

 

「・・・ベッドが5台ありますね・・・」

 

「ま、まさか男子と女子で同じ部屋ってことですか!?」

 

 

部屋を見回していたティアが見たままの光景をそのまま口に出してみると、アリサがすぐに声を上げる。

 

 

「うーん、アタシもさすがにどうかとは思ったんだけどねえ。サラちゃんに構わないからって強く言われちゃってさ」

 

「そ、そんな・・・」

 

 

一応2つと3つに分けて並べられているが、かなり距離も近い。

全員が驚いた顔をしているが、ティアは固まっており、アリサは絶望したような表情だ。

 

 

「・・・困ったな」

 

「僕たちは構わないけど女の子はそうもいかないだろうし・・・」

 

 

リィンとエリオットが気遣わしげな視線を送る。

見られて困る生活をしているつもりはないが、さすがに男女で同室となると容易に了承はできない。

2人が何かするような人には思えないことだけが唯一の救いといったところか。

 

 

「――2人とも。ここは我慢すべきだろう。そなた達も士官学院の生徒だ。それを忘れているのではないか?」

 

「そ、それは・・・」

 

 

軍は男女区別なく寝食を共にする世界。

部屋を同じくすることは、いずれは慣れる必要がある。

そうラウラに諭され、アリサも迷っている。

 

 

「リィン君とエリオット君なら、何か間違いが起こることもないでしょうし・・・」

 

 

ダメ押しとばかりにティアがアリサに囁く。

自分と同じく抵抗を示していたティアまで了承してしまい、アリサは分かりました!と渋々と言った様子だが妥協した。

 

 

「でもね、ティア!誰かさんには前科があるんだから!」

 

 

真っ赤な顔でアリサは小声で叫ぶ。

随分と器用な真似が出来るものだ。

ちらりとリィンの方を盗み見ると、何を言っているか聞こえていないため不思議そうな顔をしていた。

 

 

「あなた達。不埒な真似は許さないわよ?」

 

「あはは、しないってば」

 

「・・・・・・右に同じく」

 

 

アリサが今度はリィン達を――というより、リィンにだけだが――睨みながら言うと、エリオットは困ったような顔で、リィンは真剣な顔で答える。

それでもリィンにだけ安心できないのか、簀巻きにでもしようかと言っている。

 

 

「・・・簀巻きにして窓から吊るしてみます?」

 

「頼むから止めてください・・・・・・」

 

「じょ、冗談ですからね!」

 

「あはは、ご愁傷様・・・・・・」

 

 

ミュラーがよくオリビエを簀巻きにしようとしていたなと思い、少し悪乗りしてみるとリィンが見たことが無いような情けない顔をしたので慌てて否定する。

アリサは名案だとでもいうような輝いた顔をしていたが、リィンがそれに気付かないことを祈るばかりだ。

 




某怪盗紳士とは絡ませてみたいのですが1章では難しそうですね・・・

場面がころころ変わってしまい上手くまとめられなかった上中途半端なところで切ってしまいましたが、最後の場面は書いていてとても楽しかったです。

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