彩の軌跡   作:sumeragi

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※半分以上がお風呂での会話です


夜、風見亭にて

元締めに話を聞いた後、ティア達はもう一度大市を見回る。

途中、同じ士官学院1年のベッキーの父ライモン商人の提案で、タイムセール中の店番を任されたりして、すっかり日が落ちた頃に風見亭に戻った。

 

サラはというと、B班のフォローに向かった。

『せいぜい悩んで、何をすべきか自分たち自身で考えてみなさい』

と思わせぶりな台詞を残して。

 

 

「私の志望理由は単純だ。目標としている人物に近付くためといったところか」

 

「目標としてる人物?」

 

 

地の食材をふんだんに使った夕飯を満喫し、一息ついたところで5人は士官学院への志望理由について話し合っていた。

 

 

 

「ふふ、それが誰かはこの場では控えておこう。アリサの方はどうだ?」

 

「そうね・・・。――色々あるんだけど、1番の理由は"自立"したかったからかな。ちょっと実家と上手く行ってないのもあるし」

 

 

アリサが実家と上手く行っていないとは意外だった。

気遣いも出来るし、リィンを一方的に避けてしまっているときも自分を責めていたくらいだ。

 

 

「うーん、その意味では僕は少数派なのかなぁ・・・。元々、士官学院とは全然違う進路を希望してたんだよね」

 

「たしか・・・音楽系の進路だったか?」

 

「あはは、まあそこまで本気じゃなかったけどね・・・。リ、リィンはどうなの?」

 

 

本気ではなかったと言ってエリオットは笑っているがその笑みは自虐の色が濃い。

 

 

「俺は・・・そうだな。"自分"を――見つけるためかもしれない」

 

「え・・・」

「へ・・・」

「へぇ・・・」

「・・・・・・」

 

 

アリサとエリオットが驚いたように、ティアは興味深そうに声を漏らす中、ラウラだけが無言だった。

 

 

「いや、その。別に大層な話じゃないんだ。あえて言葉にするならそんな感じってだけで・・・」

 

 

リィンは謙遜するが、エリオットがかっこいいと褒め、アリサにはロマンチストと言われる。

思っていた評価と違ったのかぱちぱちと目を瞬かせた後、少々照れくさくなったのか、目を伏せた。

 

 

「はは・・・ティアは何で士官学院に入ったんだ?」

 

「そういえば、私も聞いたことないわね」

 

「私は・・・アリサさんやリィン君に近いかもしれませんね。自立って程ではないかもしれないけど、自分ひとりで何が出来るのかを見つけたい・・・ってところでしょうか」

 

 

言葉にしてみると思ったよりも恥ずかしい。

皆が好意的な目を向けてくれることもあるのかもしれないが。

全員が話し終え、そろそろレポートを書こうと部屋に向かう。

その前に女将に挨拶をするが、その間もラウラはリィンに厳しい目を向けたままだった。

 

 

 

 

          ・・・

 

 

 

 

「癒されるわねぇ・・・」

 

「はい・・・体の芯からあったまる感じですぅ・・・」

 

「ふふ、満喫しているようだな」

 

 

レポートを書き終えた5人は風見亭の風呂に入っていた。

勿論というか、流石にこちらは男女一緒という事はなかったが。

 

木製の風呂は建物と同じく趣がある。

入浴時間も遅めなため他に客はおらず、貸し切り状態だった。

首までどっぷりと浸かっている2人を見ながら、少し遅れてラウラが近づいてくる。

鍛えられて引き締まった体が湯船に浸かり、湯が小さく波打った。

 

 

「ほう・・・確かにこれは心地よいな」

 

「でしょう?体の疲れが抜けていくわ・・・」

 

「たくさん歩きましたからねぇ・・・」

 

 

西から東へ歩き回り、凶暴な手配魔獣の他にも街道にいた魔獣との戦闘が何度もあった。

主力はリィンとラウラだったが、サポートをしていたティアやアリサと、おそらくエリオットは慣れない街道探索も相まってかなり疲れていた。

気を抜けば風呂でも寝入ってしまいそうなくらいである。

 

 

「でも、明日は今日よりもハードな課題があるのよね・・・」

 

 

早く上がって寝た方がいいかしら、と言いながら首まで浸かっていた体を起こし、腕と足を伸ばす。

普段は制服で隠されている腕は細くしなやかで、足もすらっとしている。

同じ女としてもつい見入ってしまう光景だった。

 

 

「・・・・・・さ、さっきから何なのよ・・・」

 

 

視線に気付いたアリサがジト目で睨んでくるが、体が温まっているせいか頬も赤く、あまり期待した効果は得られない。

 

 

「いやー・・・・アリサさんって本当スタイルいいなと思って・・・。憧れちゃいます」

 

「ふむ、確かに見入ってしまうものがあるな」

 

「な、なな、何言ってるのよ!もう!!」

 

 

2人からの視線を浴びたアリサは手で胸を隠すように覆った。

先程よりも顔は赤くなっており、それに比例するかのように目つきもキツくなっていた。

 

 

「ふ、2人だってそんなに悪くないでしょ!ティアなんて肌はきめ細かいし・・・。化粧品とか何使ってるの?」

 

「私は化粧品とかはあんまり・・・。アルモリカ産の蜂蜜入りの美容液は人気だって聞きましたけど」

 

 

クロスベル自治州の一部であるアルモリカ村の特産品の蜂蜜が近年注目を集めているが、中でも蜂蜜を使った化粧品が特に帝都で人気が出ていた。

 

 

「私はそういったものには詳しくないな・・・」

 

「んー、私は聞いたことあるかも」

 

 

士官学院では基本制服で過ごすのであまり見る機会はないが、アリサは私服もお洒落だ。

普段からそういった情報には敏感なのだろう。

ちなみにラウラは貴族風のしとやかな服、ティアはお嬢様然とした服を好んでいる。

 

 

 

 

 

その後も数分ほど所詮ガールズトークを繰り広げていたが、落ち着いたところでラウラが立ち上がった。

 

 

「私は先に失礼する。そなた達ものぼせる前に上がるといい」

 

 

そう言ってラウラは浴室から出て行った。

普段の彼女の行動は颯爽としているが、今はあまりそんな風に感じない。

 

 

「ラウラさん、元気ありませんね・・・」

 

「やっぱり、夕食後の会話が原因かしら・・・」

 

 

部屋に向かおうとした時、なぜ本気を出さないのかとラウラはリィンに問い、リィンは手を抜いているのではなく自分の"限界"だと答えた。

剣の道に限界を感じ修行を打ち切られたからと。

 

実習中もラウラはリィンを気にしたような素振りをみせていたが、最大の原因はやはりその会話だったのだろう。

 

 

「何か抱えているような顔はたまにしていたけど・・・」

 

「よく見ているんですね」

 

「べ、別に意識してたんじゃなくって謝るチャンスを伺ってただけよ!」

 

「ふふ、・・・リィン君のことだなんて言ってませんよ?」

 

 

アリサは思案顔をしていたが墓穴を掘って絶句している。

落ち着いていた顔色がまた真っ赤に染まっていく。

ラウラとリィンの仲は心配だが、アリサがリィンを気にかけている様子はいじらしくて仕方がない。

 

 

 

 

「・・・・・・何かを抱えているのはきっと、皆同じですよ・・・」

 

 

そう呟いたティアの声は、ゆらゆらと立ち上る湯気に溶けていく。

からかい混じりだった言動から一転、真面目だけれどどこか自嘲を含んだような表情を作るティアに、アリサは言葉に詰まる。

すぐにいつもの笑みを浮かべ、ラウラ達を仲直りさせるにはどうすべきか、と悩み出したのでその空気は消え去ったが。

 

ラウラやリィンのように剣の道に生きているわけではないから、2人のすれ違いの原因について詳しいことは分からないけれど、仲直りできる方法はあるはずだ。

明日に備えて早く寝た方がいいだろうということで、ティアとアリサも風呂から上がり、その方法を考えながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分に何が出来るのかを見つけたい――』

 

 

志望理由を聞かれたときにそう答えたのは嘘じゃない。

 

それが全てというわけでもないけれど。

 

頼ってばかりいるのが嫌だった。

 

険しい道を行くと決めた兄の力になりたい、と。

 

 

――そんなものはただの言い訳だということに、気付かない振りをしながら。

 

 

 




お風呂のイメージはエルモ温泉です。ヒツジンはいませんが。
n番煎じではありますがお風呂シーンがどうしても書きたかったんです・・・ガールズトークも大好きです・・・。
閃の軌跡での温泉イベントってドラマCDだけですがⅡのユミルで見られるのでしょうか。
そしてゲームのキャラならいくらでも褒めたいのですが、自分のオリキャラを持ち上げるのは少し精神的ダメージがありますね。
でもティアは兄妹を考えると美少女にしかならないと思うのです・・・くっ。

どうでもいいですが蜂蜜入り美容液は私が大好きです。


うーんこの皇女様、もしかしたら息つくように嘘を吐いているんじゃないでしょうか・・・(困惑)
自分の中の理由と現時点で公開出来る情報(?)の差と言いますか・・・。

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