人類最強の男 作:焼肉定食
「……ってことだから、次は王都の大結界の居場所を探って来てくれないかな?」
「……分かった」
と夜中が深まったころ俺は気配隠蔽を使いずっと闇の中でとある女子を追跡していた
「兄貴やっぱり引っかかった。一人は大結界のアーティファクトの方に向かった。まだ殺さないでくれよ。使い道はあるんだから。こっちは俺が処理する」
『……悪い。助かった。これがもし本当なら』
「内部から崩れ落ちることになっただろうな王都は。全く、どこにもずる賢い奴はいるようだな」
俺は小さく息を吐くとすると別れて行動しかけている二人の姿がいた
「んじゃ。健闘を祈る」
『そっちも、……処罰はそっちで頼んだぞ?』
と連絡は切れ小さくため息を吐く
まぁ未遂であるがあっち側は恐らく死刑は確定だろう。
死人に口なし。
それがこの世界の常だ
俺は久しぶりに剣を抜きその裏切り者の一人である恵里の首元に触れさせる
もちろんろくな抵抗があったら殺せるように
「動くなよ。さっきの会話は録音済みだ」
「……っ!!」
「メガネを外してまでクラスの裏切り者である檜山に、それも俺が話した初日から動くとは感心するよ。普通なら油断している人も多いだろうしな。警戒力もいいみたいだしな……ただ香織を見張るために俺のところに近づいたのが失敗だったな。俺が嘘を見抜く技能があるのは王都でも有名な話だ。情報収集が足りてないんだよ」
と既に詰みということが分かったのだろう。恵里は悔しそうに俺を睨む
王都以外でも俺に嘘はつけない。直感は計略を見抜けるということで俺が一役冒険者や軍人として名をあげたのはこの固有技能があったからにすぎない
「どうするの?僕を殺すの?」
「いや。殺人未遂だったからな。死刑にはしないつもりだ。まぁ俺がいないと行動できなくするくらいだな。見張りはつけてさせてもらう。俺には奇襲も通用しない。よかったな。降霊術を未だ魔物にしか使ってなくて。これで殺人の容疑があれば即処刑だったぞ。まぁ、お前の親友は気づいていたらしいけどな」
「えっ?」
「俺が外に出る時に鈴がお前のところに行くのか聞いてきたんだよ。肯定したら殺さないようにって土下座までして懇願してきたんだよ。なんでもするっていいながらな」
数分前俺が雫の特訓をしたあとに恵里を追うようにと兎人族の少女に伝えずっと見張ってもらっていたのだ。そしてその位置を伝えてもらい俺は向かおうとした時に鈴とあったのだ。ちょうど恵里を探していたのだろう。何かと不安を覚えたかった
「本当はお前が何か企んでいることを知っていた。でも嘘だと思いたかったんだってさ。でも確信に変わったのはギルドの加入の原因とハジメが生きていたと分かった恵里の反応で気づいたらしい。だから勇気を出そうとして聞き出そうとしたら既に部屋はもぬけの殻で、必死に探そうとしたら、俺が剣持っている時点で察したらしい。思いっきり泣きついてきやがった」
なお、そのせいで服が一つ濡れて使い物にならなくなったのは別にいいのだが
「てかお前の犯行理由はなんだよ。夜は長いんだ。あいつらが居たら話づらいだろうからここで吐いてもらうぞ」
すると観念したのか恵里は小さな声で話出した
曰く恵里の父親は5歳のころに恵里の不注意でなくなったのだと聞いた。
話を聞く限り恵里の母親は父親に依存していたのだろう。だからこそ、その牙が恵里に剥くことになった。
人前では控えたが家では暴力や暴言、憎悪をずっと向けていたのだ
ただ、母親のことを時々庇うような発言をしていることから、本心では母親のことを信じていたんだろう
だからこそ新しい父親がくるとなったときに、その思いは裏切られるようになったのだろう
……そして結果その父親が典型的なクズっぷりを見せることになっても
僕という一人称もショートカットもそのころの名残らしい
ただ小さいころの恵里の次の父親はいやらしい視線を向けることになったのだから
そして案の内その事件が起こった男が恵里に欲望の牙を剥いたのだ。恵里の母が夜の仕事に出ていないときのことだった。
恵里の悲鳴を聞きつけたご近所の人が警察に通報したおかげで、恵里の貞操が散らされることはなかった。
恵里自身、いつかこんな日が来るのではないかと思っていたらしいので、窓を開けて悲鳴が届きやすいように備えていたことが良かった
期待していた母親がこれで目が覚めるとも思っていたりした
でも
「向けられたのはただの憎悪だったよ。」
と恵里がかなり悲しそうに言ったことは忘れられない。
母親にとってはクズさを理解するきっかけではなく、恵里が自分の男をまた奪ったという認識だったのだろう
父を裏切った母、自分を痛めつける母、自分が襲われたことよりも男といられないことに悲しむ母……この時、恵里は本当は分かっていて今まで目を逸らしていたことを直視するはめになった。
これが母親の本性だと。
そのショックは測りしれないもので小さい恵里は耐え切れなかった。だから少し離れた川で自ら命を絶とうとするほど
飛び降り自殺を計画し、そして今に飛び降りようとしていようとしたところで勇者に見つかってしまったというべきだろうか?
しつこく事情を尋ねる光輝に、恵里はかなり省略した説明をした。その時に恵里曰くとてもカッコいい姿で
――もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる
と言ってしまったのだ。
言ってしまったのだ。壊れた少女の心に、自分は誰にとっても無価値なのだと理解した直後に、〝守る〟と。
別にそれがちゃんと行動に伴っていた場合それは文句はない。
その日、どうにか自殺を思い止まり、母親に追い出されるように学校へ行かされた恵里は、クラスの女子達が次々と明るく自分に話しかけてくるという状況に驚愕し、しかもそれが、光輝の一言でなされたということを知ったことにより、光輝を依存するきっかけになったのだろう
その後じどうそうだんじょ?とかいう職員の恵里の母親の素行から虐待を疑い、幾度か調査に訪れるということがあったのだという。しかし、光輝から引き離されることを嫌がった恵里は、全力で〝母親大好きな女の子〟を演じた。職員達の前では、満面の笑みで母親に抱きつき、仲の良い母娘を演じた。それがどれだけ母親が怖いことなのか想像にできる。実際それが母親を潰すのであれば一番いい方法だったのだろう
その後思った通り母親は潰れたのだ、母親をそれとなく脅して、家に生活費だけは入れるように仕向け、光輝の傍にいられるよう環境を整えて……自分は王子様に選ばれた特別なのだと確信して……
だが、恵里は勘違いしていた。光輝にとって恵里は、正義のヒーローが助けるべき一人に過ぎなかった。クラスメイトに一言声を掛けて、孤立している恵里と仲良くしてもらえば、それで光輝の救済は終わったのだ。
どうせその恵里のその話かけたクラスメイトも、光輝が話しかけたからそうしていることも頭のいい恵里は少し気づいているんだろう
「……これが僕の人生だよ。結局光輝くんを手に入れることも失敗するし……本当に……なんで……」
と泣き出してしまう恵里。多少なり同情してしまう過去。恐らく俺と匹敵をする。いや俺がミリアと会っていなかったら、ミリアの遺言を聞いてなければ俺もこうなっていたのかと思ってしまう
ただ
「お前、バカか?」
真っ先に出てきたのが罵倒の声だった。その一言に恵里は睨むが俺の次の一言で恵里は固ってしまう
「なんで母親みたいに一人の男に依存しているんだよ。お前も同じことをやっていたら今度はまたお前みたいな子供ができるぞ?」
「……えっ?」
「だってそう思わないか?お前さっき手に入れるって言っていたんだぞ?別にお互いに好き同士なら別にいいさ。でもさ、お前がやろうとしたことは大体予想つくけど、でもそれって依存するだけ依存して、自分の要求を満たしていた。お前の母親と似ていないか?」
そう依存しているのだ。光輝だけに気を取られて、本当に大事なものが見えていない
そこで恵里も自分のやろうとしていたことを振り返っているんだろう。そこで大きな動揺を見せる
「孤児院をやっていると少し最初の父親については正直理解できるためことがあるな。お前の父親はお前をかばったんじゃない。お前を守ろうとしたんだろ?」
「僕を守る?」
「そうだろ。……つーかミリアと全く同じだよ。……そうやって自分の大事な人を守って死んでいったのは。」
「そういえばミリアって」
「俺の婚約者だった。俺とミリアと……兎人族のリアって娘もいたんだよ。まぁ知っている人も多いし俺も少し話そうか」
と俺も最初の3人に話した通りのミリアとリアについて話していく。
すると恵里はただじっと俺の話を聞いていた。
「まぁここからはほんの数人しか話してないんだけどな。ミリアの遺言が。最後に頼んだことが、家族を守ることと、俺の幸せだったんだ」
「クローバーさんの?」
「あぁ。そう言ったよ。俺が死んだらダメって……理不尽だよな。……愛していた人に先立たれて。自分は死なせてくれないって」
だらしなかった俺がここまで慕われるようになったのは確実にミリアだ。
すると恵里もどこか思うことがあるのかずっと黙っている
「だからお前の父親はお前をかばったんじゃない。お前の幸せと大事な娘を守ろうとした勇敢な人だよ。ただその大事な娘を残して逝った時点で、間違っているのだけどな」
そう死んだら同じなのだ。誰かを守るために死んだら元も子もない
「それにお前って本当にあの勇者のことが好きなのか?話を聞いている限り、どこか依存しやすいから勇者のことを好きになっているって思い込んでいる気がするんだが。お前の話を聞く限り勇者の本質にも気づいているんだろ?」
そう。妄想癖はすごいが元々は頭が回るタイプなのだ。だから気づいていない訳がない。
勇者も恵里とは違う意味で妄想癖が激しい自己中心的な人間であることも
「……本当に嫌なところをついてくるね」
「純粋に境遇が似ているっていうのもあるんだけど。ただ誰かを好きって思うより甘えられる人だから好きって言っているのかなって思っていたんだよ。ただ居場所が欲しいだけなんじゃないか?」
「……」
「つーか俺から見たら恵里は一つの居場所を作っていたように思えたんだけどな。恐らく帰ったら根掘り葉堀り聞かれるぞ?」
「……鈴のこと?」
すぐに出てくるあたり自覚はしているんだろう
でも。鈴の助命がなくても基本的に生かしておくつもりだったが、処分はだいぶ軽くなったことには違いがないのだ
「あぁ。普通泣いてまで友達の安否を心配してくれる友達はそうそういないだろ?というよりも俺も技能がなければ正直気づいてなかっただろうしな。警戒はしていただろうけど」
「そっか。……鈴には話してみるよ。僕の過去も全部」
「……それがいい。それと……これお前らにはトラウマかもしれないけどお前にやるよ」
俺は空間魔法でとある箱を呼び出す。そしてその箱を恵里に渡す
「これって?」
「ミリアの形見だよ。……俺が初めてあげた誕生日プレゼント。あいつ俺と一緒にいるとき以外はつけてなかったからな。ちゃんと今でも綺麗に使えるはずだ」
「えっ?」
「俺はアクセサリーとか全くわからないからな。……今までひっそり生きてきたからおしゃれとかも拒んできたんだろ?元々雫にあげようかと思ったけど恵里の方が似合いそうだったからな。要らなかったら雫にあげるか売ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってこれってクランツ鉱石?」
「かなり高かったからなそれ。……俺はそういう鉱石の価値はわからないけど……女子ならこういうのに詳しいだろ。俺が持っていても仕方ないからな……」
実際8桁以上するかなり高級品である。恐らく、家を買った以外では一番高い買い物だ
「帰るぞ。鈴も心配しているだろうし、明日からは早いからな。それと」
俺は軽く恵里の頭を軽く叩く
恐らく誰も肯定はしてやれない恵里の行為。
「お疲れさん。よく頑張ったな」
でもせめて一人くらい励ましを言葉をかけてやってもいいだろう
今までどんな苦痛だったのか俺には理解できない
でも、壊れていても生きていたこと
そして修復の一歩担う言葉になるだろう
そうして後はギルドハウスに向かっていく
振り向きはしなかったがもはや見ないでも大丈夫なような気がしていた