翌日。俺とベル、リリは朝早くからダンジョンに赴いていた。結局リリとは契約することになり、その際「リリのことはリリとお呼びください」と言われ呼び方を変えることになった。
「…ベル様」
「ん?」
「あのナイフは、どこにしまったんですか…?」
「うん、今度は落とさないようにプロテクターの中へ鞘ごと収納しているんだ。格納スペースがちょうどあったから」
「そ、そうですか…」
明らかに気分が沈んでいるリリ。どうやらまだ諦めていないらしい。それでもコマチの面影を重ねた俺はもうリリを捕まえようなんて考えが一切起きないようになっていた。しかし容易くもう盗ませる気もなく常に見張ることにした。そして目を光らせながら七階層まで行き、帰ってきたのだが…。はっきり言ってリリの存在は劇的だった。まずリリがでっかいバックパックを持ってくれているおかげでバックパックが満帆になることはなく一々上に戻って換金する手間が省けるようになった。そうすると長時間ダンジョン内にいることができ俺もベルも身軽になり好きなだけ暴れ、その合間合間でリリが魔石とドロップアイテムを回収する。これを繰り返しまくった結果。ギルドの換金所から受け取ったお金は—―。
「「「…」」」
口が開いた亜麻色の袋の中身を、俺達三人は覗き込む。その中にあるのはあふれんばかりの金貨金貨金貨。
「「「五万千ヴァリス…」」」
俺は絶句し残り二人は袋から顔を上げ見つめあった瞬間。
「「やああーーーーーーーーーー!!」」
二人は歓喜して飛び上がった。
「すごい、すごいですっ!ドロップアイテムは数えるくらいしか出なかったのにっ、ベル様とハチマン様のお二人で二万五千ヴァリス以上稼いでしまいました!!」
「わっ、わっ、わっ!夢じゃないよねっ!現実だよね!?一日でこんなにお金が手に入るなんて…これもリリのおかげだよ!」
二人は興奮が冷めぬままに騒ぎ散らかしていた。
(確かLv1の冒険者五人で一日に稼げるのが二万五千ヴァリス…。サポーターって偉大なんだな…)
改めてサポーターの有用性を知り感心する。
「…では、ベル様、ハチマン様そろそろ分け前をいただけませんか?」
「お、おうそうだったな。えっと五万千ヴァリスだから…ほれ」
どばっと一万七千ヴァリスをリリに渡す。
「………へ?」
「ああ、これなら普通に神様に美味しいものを食べさせてあげられるかも…!」
「そうだな。しかもこれが続くようなら結構夢が広がるぞ」
「ね!」
ベルは握りこぶしを作って思わずガッツポーズをしてしまっている。その隣でなぜかリリが目を丸くしていた。
「あ、あの、これは…?」
「分け前だよ、決まってるじゃん!あ、そうだ!せっかくだしリリ、よかったらこれから一緒に酒場行かない?僕、美味しいお店知ってるんだ!」
ベルは上機嫌にお誘いするとリリは瞠目して息をのんでいる。その差庇ってもしかして『豊饒の女主人』じゃないよね?リリ死んじゃうよ?ベルさん?
「じゃあ、行こうリリ!」
「べ、ベル様!」
完全に自分の世界にトリップしていたベルはリリの声でようやく現実に戻ってくる。
「…ひ、独り占めしようとか…お二人は思わないんですか?」
「え、どうして?」
心底不思議そうにベルは問い返す。純白と言っていい程綺麗な心を持っているこいつには想像もつかないんだろう。そんなベルにリリは心を詰まらせる。
「まあ俺たち二人じゃ絶対に稼げなかった額だからな」
「そうだよ。リリがいてくれたから、でしょ?」
だから、ありがとうとも付け加え、これからもよろしくねとさらに添え、リリと出会えて本当によかったよと笑って見せる。何この子天然なの?恥ずかしくないの?しかし顔を見ると至って真面目である。
「…リリ、ほら、行こう?」
ぽぅっとベルはリリに手を差し伸べる。差し出された手をリリはおずおずと自らの手を重ねた。
「…変なの」
取り敢えず俺はそんな二人を見てジジイから習った言葉を心の中で唱えた。リア充爆発しろ、と。
***
ベル・クラネル
Lv.1
力:D 596
耐久:G 233
器用:C 608
敏捷:B 705
魔力:I 0
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.1
力:C 701
耐久:F 302
器用:B 706
敏捷:C 641
魔力:I 0
***
「ぬああああああっ…!?」
目を覚ましたヘスティアのうめき声が聞こえる。
「だ、大丈夫ですか、神様?」
「す、すまない、ベル君、こんな見苦しいところを…」
「いえ、そんな。…えっと、昨日ミアハ様にも聞きましたけど、やっぱり?」
「…ああ、どうやら飲みすぎたみたいだ」
ヘスティアは寝たままの姿勢でベルに水を軽く飲ませてもらっている。どうやら昨日ミアハ様と酒を飲みまくって潰れたらしい。その後ミアハ様がヘスティアをうちまで送ってくださってその際「少し疲れているようだ。僅かでもいい、かまってやってくれ」と意味深なセリフを残して去っていった。
「…君達、ダンジョンに行かなくていいのかい?」
「今の神様を放っておけませんから。今日はハチマンに任せて僕は休むことにしました」
「そう言うことだ。ほれ取り敢えず朝飯。あっさりしといたのにしといたから好きな時に食っといてくれ」
俺は作っておいた朝飯をヘスティアの前に置きダンジョンに行く準備をする。
「神様、これ、食べられますか?」
「…ちょ、ちょっと辛いかなぁ。ベル君、食べさせてくれないかい?」
「あ、はい、わかりました」
準備を進める俺の後ろでイチャコラする二人に多少イラっとする。このフラグ製造機め…。そして暫くして準備を終えた俺はドアにまで行き手をかける。
「それじゃあ行ってくる。今度からは気をつけろよ」
俺はそう言いドアを閉じダンジョンまで足を進めた。
***
(よく考えたらこの道を一人で通るのは初めてだな…)
いつもベルとダンジョンに向かう道を通りながら心の中でそう思う。
「ハチマンさん!」
「ん?」
一人で道を進んでいると後ろから声を掛けられ振り返る。するとそこにはシルさんが息を切らしながら立っていた。恐らく俺のところまで走ってきたんだろう。
「今日は、ベルさんはいないんですか?」
「ああ実はヘス…主神が体調を崩してましてその看病をしてるんですよ」
「なるほど…」
それを知るとシルさんは少し悲しそうな顔を浮かべる。
(あいつ何人とフラグたててるんだよ…)
その表情を見て心の中で辟易する。
「ハチマンさんは看病していかなかったんですか?」
「俺はそう言うの柄じゃないですし最近サポーターを雇ってパーティーを組んでるんですよ。何で連絡もしないといけないんでベルに任せてきました」
それにミアハ様のセリフを考えてみてもそういう役回りに向いてるのはベルだろうからな。
「そうですか…。それじゃあこれ」
「え?」
「お弁当です。いつもベルさんに二人分渡してるんですけど…」
「あ、ああ。ありがとうございます?」
「ふふっ、何で疑問形何ですか」
この手のことに慣れていない俺はついついきょどってしまう。それを笑われ思わず顔をそらしてしまう。
「ベルさんもそうですけどハチマンさんもからかいがいがありそうですね…」
「いやマジでやめてくださいほんとにお願いしますマジで」
俺の心が持つ気がしないから本当にやめてほしいところである。そんな風に雑談(?)を交わしているとシルさんの後ろから声がかかる。
「シル、こんなところで何を…おやヒキガヤさんも一緒でしたかおはようございます」
「お、おはようございます」
部屋ぎなのかいつもの『豊饒の女主人』の制服とは違う服装に多少驚いてまたきょどってしまう。いやだってしょうがなくない?美人の部屋着だよ?そんな誰に聞こえるわけでもない言い訳を心の中で羅列していく。
(こんだけ綺麗でも俺よりも強いんだよな…)
数日前心の中で渦巻いた疑問を思い出す。今の俺がどこまで通用するのか。
「…」
「あの…ヒキガヤさん、そんなに見つめられると困るのですが…」
「へ?…い、いやちがっ…その…ごめんなさい」
「いや別に大丈夫ですが…」
どうやら考え込んでいるうちにリューさんをガン見していたらしい。いや女子の部屋ぎガン見するって変態かよ俺。そんなどぎまぎしている俺の横でシルさんが目を見開いていた。
「…それでハチマンさん。リューがどうかしたんですか?それともリューみたいな女の子がタイプなんですか?」
「いっ!?」
「シ、シル?」
しかしそんな表情もすぐになりを顰め、満面の笑みに変わり俺に問いかけてくる。可愛らしいはずのその笑みがなぜか今は恐怖しか感じなかった。本当にめちゃくちゃ怖い。
「い、いやまあその…」
「なんですかもしかして人に言えないようなことをリューで考えていたんですか?」
「シルっ!?」
なんか暴走気味のシルさんを止めるために思っていたことを洗いざらいはいた。
「なるほど…。リューにどれだけ通用するか…ですか…」
「…ヒキガヤさんいつから気付いていたんですか?」
「まあ初めてあの酒場に入った時から…なんなら他の従業員の人たちもそうですよね?」
「ええそうですが…よくわかりましたね」
「なんか一つ一つの動きが洗練されてたと言うか…体運びが明らかに冒険者のそれだったんですよね」
(すさまじい観察眼…ばれないようにしていたつもりなのですが…)
「失礼ヒキガヤさんが冒険者登録したのはいつですか?」
「確か…一週間とちょっと前ですね」
「…到達階層は?」
「七階層です」
「…」
リューはそれを聞き絶句する。
(冒険者登録をして一週間とちょっとで七階層?しかも私の実力を見破った…?)
明らかに異常事態その類を見ない成長速度に恐れを抱きながらも興味を持つ。
「ヒキガヤさん」
「?はいどうしました?」
「これから時間はありますか?」
***
『豊饒の女主人』の広い庭のような空間。そこで俺は地面に倒れリューさんは木刀を持って涼しげに立っていた。あの後俺が時間があると答えると「ならあなたの疑問に答えましょう」と言われここまで引っ張って連れてこられ木刀を握らされる。行き成りの展開に戸惑っていたが戦いたかった俺は「では始めましょう」というリューさんの言葉を皮切りにリューさんとの戦いを始める。結果だけ言おう。文字通り手も足も出なかった。一撃も与えることができなかった。何度か惜しい場面はあったものそれも全部躱され、ものの見事にぼこぼこにされたのだ。
(強い…これがLv4…)
(…駆け引きや技はまだまだ未熟。それでも全くないという訳でもない。この状態でもかなり厄介だった。この人は確実に伸びる)
戦いを通じて確信にも近い何かをリューは得ていた。
(【ステイタス】の成長速度はさることながら、技や駆け引きの呑み込みもはやい。この戦いの中でも確実に成長し、私に一矢報いようと襲い掛かってくる)
本当に恐ろしいLv1だ、と心の中で付け加える。
「…今日はありがとうございました。おかげで自分に足らないこととかいろんなことが分かりました」
地面に転がったままハチマンは感謝を述べる。
「いえこちらこそありがとうございました。久々に体を動かせて楽しかったです」
「…それはよかったです」
(まあそうは言っても微々たるもんなんだろうけど…)
その証拠にリューさんは息切れをほぼ起こしていなかった。対して俺は息も絶え絶え地面にぶっ倒れて死にかけている。ここでもさらに差を感じる。
「…ヒキガヤさん」
「?」
「もしヒキガヤさんがよければなんですが、これからも朝ここでこうして何戦か交えていただけませんか?
」
俺はその提案に思わず跳ね起きる。
「…いいんですか?」
「ええ、朝は元々素振りなどはしていたのですがそれではどうしても物足りなかったので」
心の中で大きくガッツポーズをする。これは毎朝自分より格上と戦うチャンスがやってくるってことだ。つまり強くなれる。しかも今の戦いで強く実感させられた未熟な技や駆け引きを鍛えれると言うこと。是が非でもと言う感じで俺はその提案に飛びついた。
「…ところでハチマンさん」
「?はい」
自分でもテンションが上がっているのを自覚しながらずっと俺達のことを見ていたシルさんに声を掛けられる。
「ダンジョンに行かなくてもいいんですか?」
「あ」
そんな上がったテンションもその一言で地に落ち俺は顔を青ざめさせた。
***
「本当に申し訳ありませんでした」
「い、いいですから!顔を上げてください!」
雲一つない青空。そんな青空の下で俺は自分より身長の低い女の子にヘスティア直伝の土下座をしていた。シルさんの一言を聞いてからリューさんと予定を決め急いでバベルまで走っていた。そしてリリを見つけるなり俺は土下座をかましたわけである。そこからは本当にリリに慌てられ今日の分け前はリリが六で俺が四と言うことで話がついた。その提案をしたときはリリは目を見開き「遅刻だけで…?この人達はもしかして頭がおかしいんじゃ…?」とガチトーンで言われた。失敬な。
「てことは今日はベル様は来ないんですか?」
「まあ今日はもうあの様子だとヘスティアにつきっきりだろうな」
下層へと向かう階段の最中怪物祭以来ヘスティアのベルに対する雰囲気が変わっていた。だからつきっきりって言うかつきっきりにされるって言うか…。今回ベルに押し付けたのもこれが理由の言ったんだったりする。
「なるほど…ところでハチマン様…なんでダンジョンに潜る前にそんなにボロボロなんですか?」
「ああ…これはちょっと来る前にぼこぼこにされて…」
「本当に何があったんですか…」
それを聞くとリリは小声で「やっぱりこの人…」なんて呟いている。別に頭おかしいわけじゃないからね?
そんなやり取りを交わしながらモンスターを狩り七階層まで到達する。
「じゃあ行きますか」
「はいっ!行きましょう!」
その声と共に昨日同様俺は自由に暴れまくった。
どうも149です。今日の朝に挙げたばっかなのにもう上げてしまうのですがこのペースでも大丈夫でしょうか。できた瞬間にあげているので遅いときもあるのですがもし一定間隔開けてほしいなどがありましたら教えてください。それまでは自分の好きなペースで上げさせていただきます。なにとぞご理解よろしくお願いします。それでは閲覧ありがとうございましたまた次回お会いしましょう。