「せい…れい…?」
「そう精霊」
「精霊ってあの…?」
「どのかわからないけどたぶんその」
「…」
目の前の自称精霊の言葉を聞いて思わず絶句する。精霊とは伝説とまで言われている存在。どの著書を読んでもその存在については詳しく書かれていなかった。それほどまでに希少で稀有な存在。それが今目の前にいて俺と話していると言うのだ。驚かない方が無理である。しかし驚いている反面ハチマンはどこか納得していた。
この空間明らかな異常事態、神と似たような能力を保有しているとも言われている精霊がやったと言うなら納得だ。ただそれを抜きにしても
(前々から感じてたこの懐かしい感じ…。何の違和感もなく明らかな
「昔にどこかで会っている…?」
「正解」
「!?」
思わず漏れた声に精霊さんが答える。
「その様子だと記憶は戻ってないけど推測したってところかな?」
「なんで…ていうか記憶…?」
「うんハチマン君の推測通り私たちは昔に会っている」
「!?」
「そしてその時に色々あってあなたの中に入って私と会った記憶を消してるの」
「…それを聞いても?」
「もともと話す気だったし記憶消したのは私の独断だしそれじゃあハチマン君おでこ借りるよ」
「ちょっと待って今なんっ!?」
いきなり精霊(?)さんが近付きおでこに何かぶつかる。その瞬間頭の中に記憶が流れ込んできて—————
***
クラネルの家に来てから数か月がたったある日俺は近くの森にやってきていた。理由はモンスターを探すため。ここに来る数か月前強くなることを決めた俺はまずクラネルの家にある書物で知識を蓄えていた。昔の英雄譚、モンスター図鑑、モンスターの弱点、剣術、極東の技、様々な知識をここ数か月蓄えていたハチマンの耳にある情報が入る。
『あそこの森でゴブリンが出たらしい————』
と言う情報が。その情報を聞いたハチマンは好奇心に駆られる。
(ごぶりんは、さいじゃくのモンスター…ならおれでも…)
その思考が一回でも浮かべば消えることはなく日々増大していくばかりだった。そして今日好奇心を抑えられなくなった俺はクラネルのおじいちゃんに近くで遊んでくると嘘をつき家にあったナイフを持ってゴブリンが出たという森に足を運んでいた。
(いない…)
しかしゴブリンの姿は見つからずどんどんと森の奥へと足を進めていく。怖さはなかった。ただあるのは好奇心と強くなりたいという思い。そして暫く森の中を歩いていると何かの音が耳の奥をかする。
(…?なんだ?)
その何かの音が聞こえる方向を探すために耳を澄ませる。
『…す…て』
(声…か?)
声のする方へ歩みを進めると言っていることがはっきりと聞こえてくる。
『たす…けて…』
その言葉を理解した瞬間気付いたら俺は走っていた。
(誰かが助けをもとめてる…だれかがきずついてる…っ!)
フラッシュバックするのはあの日の光景。誰も守れなかったみんなを見捨ててしまったあの日。
(っ!)
走って数秒段々と声のする方に近寄り…少し開けた場所にたどり着く。その真ん中には湖がありそのほとりで見つける。
(いたっ!)
俺と同い年くらいの銀髪の女の子が水の際で尻餅をついておりその目の前には——————
(ごぶりんっ!)
当初の目標であるごぶりんがその女の子を今にも襲おうとしていた。
(走っても間に合わない…なら…)
俺は周りを見渡し手のひらサイズの石を拾いそれをゴブリンの方に投げ注意を引こうとする。
「おいっ!ごぶりんっ!こっちだ!」
その石が近くにおちこちらに気付いたゴブリンに駆け寄りながら呼びかける。
『ギイ…!』
ナイフを持って走り寄ってくる俺を警戒したのか女の子から俺の方に視線を向けている。
(よしっ!)
完全に俺の方に敵意を向けることに成功した俺は勢いを止めることなくむしろスピードを上げる。
(何度だって想像した…本で読んだことと一緒に考えた…だから…負けない…!)
「あああああああっ!!」
『ギシャア!!』
ある程度距離を詰めたところでゴブリンが俺に飛び掛かる。それを横にずれることで避け着地した瞬間を狙い横から一突きする。
『ギィアっ!?』
手で何かが砕ける感触が伝わる。どうやら狙い通り魔石を砕いたらしい。
(…倒した…)
達成感が胸に残る。一歩踏め出せたそんな思いが胸を満たす。しかしその思いも振り切り襲われていた女の子の方へ近寄る。
「あの…大丈夫ですか?」
「…」
襲われた恐怖がまだ残っているのかずっと無言を貫いている。
「あの…」
「…」
視線はこちらに向いているが以前口を開くことはなかった。しょうがないと言えばしょうがないのかもしれないがさすがにちょっとへこむ。
(まあでもこのままほっとくわけにもいかないよなあ…)
よく見ると少女は震えていた。そんな少女を放置しとくわけにもいかずその少女の横に座る。
「!?」
「…」
横に腰かけた俺に少女は驚いたような顔を浮かべるが特に拒絶されることもなくそのまま二人一緒に時間を過ごす。どれくらい過ごしただろうか。一時間か二時間かそれくらいたったころに少女が初めて口を開く。
「あ…の…」
「!?」
今度は俺が驚く番だった。いきなり話しかけられたことに驚いた俺は言葉を返せずにいると少女はぽつりぽつりと言葉を繋ぐ。
「たすけ…て…くれて…ありがとうございます…」
「あ、いや…その、どういたしまして?」
元々はなすことが得意じゃないハチマンはどぎまぎしながら言葉を返す。そして少女は立ち上がり去ろうとしていたがなぜか俺はその少女の服の袖をつかむ。
(?何で止めた…?)
少女は俺の行動にまた目を見開き驚いている。そして俺自身も驚いていた。何で自分が引き留めているのかわからなかった。ただなんでかこの子が消えてしまうようなそんな気がした。
「あ…の…?」
「あ…その…すまん…」
不思議そうに見られ俺は謝りながら袖を離す。
「ど、どう…したんですか?」
「い、いやその俺もよくわからん…」
「…」
ぽかーん、と俺のことを見ていたがその表情は崩れかすかに破顔する。
「ふ…ふふ…」
「…」
「あ、ご、ごめん…なさい…」
「…いや大丈夫だ気にするな」
目をそらしながらぶっきらぼうに返す。
「じゃあ…そろそろ…」
「あ…」
俺が立ち上がり、来た道を帰ろうとすると今度は少女が俺の袖をつかむ。
「ど、どうしたんだ?」
「…」
少女はまた口を閉じたままになる。しかし言いたいことはその表情を見れば一目瞭然だった。
「…またあしたここにくる」
「!」
「もしだれかいたらまあうれしいな」
「…」
さっきまで寂しそうな顔を浮かべていた少女は俺のセリフを聞き嬉しそうに表情を崩す。
「まあだから…その、またあした…なそれじゃ」
「う…ん…!」
そこからはその少女との奇妙な日々が始まった。最初の内は無言で一緒にいるだけだったがその内段々と言葉を交わすようになり数日経てば口調も砕け普通に会話できるくらいにまでなっていた。そこから少女の笑顔を見ることも増え俺も心を許すようになっていた。その反面少女の表情に陰りがさすことも増えて言った。そしてある日。
「ね、ねえ」
「ん?」
その日は珍しく彼女の方から話をかけられる。
「もし、もしさ君の仲のいい人が人じゃなかったら…その人とはもうかかわらない?」
いきなり変な質問を投げかけられる。特殊な質問だったが悩むことなく俺は即答をする。
「べつにどうもしないとおもうぞ。そいつがひとじゃないからって関わらない理由にはならないからな。なんならこんなのにかかわってくれてるんなら、おれから頼んでかかわってもらうまである」
俺のその回答を聞くと彼女は嬉しそうな悲しそうなそんな複雑な表情を浮かべる。しかしそれもすぐで彼女は泣き出してしまう。
「ど、どうした?そのなんかしたか?」
その姿を見てかなり慌ててしまう。しかし当の本人はそんなのお構いなしに俺に近寄りそして抱きつかれる。困り果てた俺は取り敢えず彼女を抱き返し泣き止むまで頭をなで続けた。
***
「おちついたか…?」
「…」
彼女が泣き止み暫くして声をかける。しかし彼女からの返答はなかった。先程から彼女は決意したように顔を上げては俺を見て俯くと言うのを繰り返していた。ただ俺は何となくあることは察していた。
(たぶんこのこは…何かを抱えてる)
普段の会話からも名前を聞いても答えようとせず、なにより初日は拙かった言葉もなぜかここ数日で流暢にしゃべれるようになっていた。そこから違和感はあった。しかし俺がそれを言ったところでこの子が逃げてしまうことは想像に容易かった。だからどうするか考えていると。
「ハチマン君…私の話を聞いてくれないかな」
「…俺でよければ」
「ありがとう…」
しばらく無言の時間が流れる。数秒後彼女は意を決したように俺の目を見る。その目には恐怖に覚悟、後悔様々な感情が浮かんでいた。そして口を開く。
「あのね…私ってね人間じゃないの」
「…」
驚き無言になっている俺を置いて彼女は話を進める。
「私実は世にいう精霊ってやつでね。でもね私出来損ないなの。普通精霊って炎とか水とか何かを司ってるの。でも私は何もないの。それでもなぜか精霊として存在してる。おかしな話だよね。だから私は出来損ない」
「べつにそんなことないだろ」
「え?」
自分とは次元の違う話だったが自分を卑下するような口調に思わず口をはさんでしまう。
「べつに出来損ないとかじゃないだろ。精霊って本でよんだことあるけどすごいんだろ?それならその時点ですごいし、いまなんにも司っていないってことはこれから自分の好きなようになれるってことじゃん」
そういった俺の方を泣きそうな顔で見つめてくる。そして何かをこらえながら絞り出すように声をもらした。
「…だめ、だめだよハチマン君。なんでそんなに優しくしてくれるの?嫌われようと思ったのに…だから人じゃないことも打ち明けたのになんで、なんで受け入れてくれるのダメ、ダメなんだよ…」
もしかして嫌われていた?なんて考えが頭に浮かぶが彼女の次の一言でそんな考えも全部吹き飛ぶ。
「私もう少しで消えちゃうのにっ…!」
「は…?」
「っ!」
やってしまったそんな顔を浮かべるがそんなのを気にする余裕はなかった。
「なん…で」
頭の中でぐるぐると思考が回りきこうと声を出そうとするが絞り出したその声は自分でも驚くほどにか細かった。
「…」
「なんでどうして」
また目の前で誰も守れないそんな絶望に似た何かが胸を満たす。
「お願いだ…答えてくれ…」
「…ごめんごめんねハチマン君」
「…なんで謝るんだよ」
「こうなることは分かってたなのにあの時引き止められて嬉しかったのそれでつい引き止めちゃったの優しいあなたが傷付くことくらいわかってたのに」
謝りながら俺の目の前で涙を流す。
「私生まれたばっかりの精霊なの。でも何も司ってないから力が弱いの。だから…」
だからもうすぐきえてしまう——そう言葉を繋ぐ。その言葉を耳で聞きハチマンは放心状態に陥る。がすぐに頭を振って正気に戻る。精霊のことは本で読んで多少の知識はあったが雀の涙ほどでほぼ無知に近かった。その上司るものがない精霊なんて前代未聞であることは間違いない。いくら考えても何も出てこない。混乱に混乱を重ねるがハチマンは助けたいその一心で彼女に問う。
「…助かる方法はない…のか…?」
「…ないことはない…と思う…」
「!?本当か!?」
「…私力が弱いって言ったけど、力自体はあるの。でも何も司るものがないからその力を扱うことができずに垂れ流したままになってて…だから私が普通の精霊になれば…」
多少冷静になった少女はそう言う。でもそんなこと不可能だとでも言うように顔を歪める。そんな彼女の顔を見ながらハチマンは思考する。
(原因は力が垂れ流しになってること…。つまりそうなるには力を完全に掌握し制御することが条件…?でもそんな事一朝一夕でできることじゃない。でも時間があればもしかしたら…)
思考の海へと潜っていく。最初こそ絶望しかけたが助かる方法があると聞いてすでにハチマンは彼女のために何ができるかそのことで頭がいっぱいだった。そして考えに考え精霊についてあることを思い出し一つの可能性にたどり着く。ただ不確定なことが多くそのピースを埋めるために少女に声をかける。
「一つ考えがある。それを聞いてどう思うか聞かせてくれ」
「え?か、考え?」
「ああ、俺なりに色々考えてみたんだ。まあ一つしか思い浮かばなかったんですけど」
「…」
少女は唖然としていた。自分ですら諦めていたというのに彼は諦めずに考え、一つ思いついたことがあると言ったからだ。そのことに暫く呆けていると返事がないことを訝しんだハチマンは少女の顔を覗き込む。
「もしかしてダメか?」
「い、いやいいよ…うん…」
完全に毒気を抜かれた少女はさっきまでの悲しい気持ちなんて吹き飛んでいた。そんな彼女を放っておきハチマンは話を始める。
「まず普通の精霊になるってこと…これについては定義がわからない。だから原因の方に目を向けてみた。確か力があふれ出てるから普通の精霊とは違ってしかもそれが原因で力がなくなり消えてしまう…て認識であってるか?」
「うん」
「てことは溢れ出すことがなくなれば消えることはないってことだ。それの方法としてその力を完全に掌握して制御することができればいいわけだ。でもこれまでの話を聞く限りそんなの一朝一夕じゃできないと思う。なにより時間が足りない」
「…っ」
改めて事実を突きつけられ彼女は歯噛みする。
「なら効率化を図ればいい」
「…え?」
「つまり効率よくすればいいわけだ。てことは溢れ出る精霊の力を一人じゃ制御できないなら二人で制御すればいいんじゃないかって。そこで思い出したんだよ。昔に精霊の力を使える人がいたって話を。そこで一つ聞きたい」
俺はそこでいったん言葉を切り彼女の顔をまっすぐ見つめる。
「俺の身に宿ることは可能か?」
俺が言ってることがいかれてるからか彼女はその目をあらん限り見開く。自分でも頭おかしいことを言っている自覚はある。なんせ女の子に俺の体に入れるかって聞いてるんだからな。あれ変態っぽくね?まあそんなことは置いておいて。俺の考えてることは不確定要素も多いしこれで助かるかって言われれば素直にウンとは頷けない。でももうこれしかない気がした。そして俺は彼女の答えを待つ。彼女は暫く俺を見ていたが考えるようなそぶりを見せ口を開いた。
「かのう…だと…おもうけど…」
「なら試してみよう」
「だ、だめだよっ!分かってるの?精霊ってのはすごい力があって出来損ないとは言ってもそれなりにあるんだよ?そんな事したら君がどうなるか…」
「まあただじゃ済まない可能性が高いだろうな」
「ならなんで…たった数日過ごしただけだよ?何でそこまで…」
「…もう目の前で誰も守れないのは嫌なんだよ。それにここで女の子を見殺しにしたなんて妹に知られたら怒られてちまうしな」
「…ばか、馬鹿だよ君ほんとに馬鹿だよ…」
「しってる」
呆れたような声音でそう言うが今にも泣きそうな表情をしていた。
「まあこんだけいろいろ並べたけど実際どうなるかわからん。でもこのまま消えるよりはましだと思う。だからどうだ?」
「でもハチマン君が…」
「過去に精霊の力を使っても大丈夫だった人がいるんだからその辺は大丈夫だろ多分知らんけど」
さんざん悩んだ少女はハチマンの提案を承諾する。しかし単純に受け入れたわけじゃなかった。少女は最初はハチマンに嫌われて一人で消えようと考えていた。しかし実際は自分を受け入れ肯定し消えない方法を考えてくれてそれが自分に危険が及ぶことでも厭わないそんなハチマンの言葉を聞いていくうちにある思いが芽生え始めていた。
ハチマン君と一緒に生きたい、と。
しかしこの方法はもしかしたらハチマンに危害が及び最悪死んでしまう。そんなのは嫌だ。でも辞退してもこの少年は認めてくれない。ならどうするか。そこで少女はあることを考えつく。
「わかった」
「…そうかそれなら頼む」
「うん」
その言葉を皮切りに彼女の周りで不穏な空気が纏わりつく。
「…本当にいいの?」
「ああ、来い」
俺がそう言うと少女は俺の方に近付き、当たりそうになった時体が光ったと思ったら——————
「…何でここにいるんだ?」
記憶がなくなっていた。
***
「おい」
「…てへ」
「おい」
全部記憶を取り戻した俺はくだんの彼女の方を冷ややかに見る。
「何でおれの記憶がなくなってたんだよ」
「やっぱ精霊の力を宿すって代償があるものなのようんうん」
「…………」
「な、なによ」
「…ほんとうは?」
「いやだから代償で…」
「お前記憶戻す前記憶消したの私の独断って言ってただろ」
「…てへ!」
「…」
そこからひたすらジト目で見ていると堪忍したのかぽつぽつと話し始めた。聞いた内容をまとめるとどうやら取り敢えず記憶を消しておいてなんかあった時にすぐに出ていく気だったらしい。
「…」
「そんな睨まないでよ…」
「い、いや別に睨んでないけど…」
「私だって生きたかったけどハチマン君に何かあったら嫌だったんだもん…」
「ぐっ…」
段々と尻すぼみになっていく彼女の様子に言葉が詰まり何も言えなくなる。ていうか可愛い。いや見た目靄なんだけどね?そんな風に考えていると彼女が靄だったことを思い出す。そういえば何で靄なんだ?そんな疑問が沸き上がると更にいろんな疑問が頭の中で思い浮かぶ。それを解消しようとハチマンは彼女に話しかける。
「少し質問いいか?」
「いいよ」
了承をもらいそこから質問を重ねていく。
「何で靄なんだ?」
「いやあ久しぶりにハチマン君に会うってなるとなんか恥ずかしくて…」
「そ、そうか…」
恥ずかしそうなその声音でほんとに恥ずかしがっていることがわかる。と言うかこっちまで恥ずかしくなる。
「でもその…元に戻ってくれると助かる。今のままだと違和感しかねえ…」
「…わかった」
そう言うと彼女(靄)が光り思わず目をつむる。そして光が収まり俺が目を開けるとそこには赤髪の美少女がいた。風貌は昔と変わっていなかったが成長し身長は俺の首元ほどで綺麗な赤髪をしている。その容姿に思わず見とれてしまう。
「ど、どうしたの?」
「い、いやその何でもない。それより次の質問だ、その名前は何なんだ?」
誤魔化すように次の質問を投じる。
「そういえば誤魔化して教えてなかったね。私の名前はティポだよ」
「なんで誤魔化してたんだ?」
「ハチマン君の前からいなくなるつもりだったからね。すぐ忘れてほしかったし教えてなかったんだ」
「…そっか」
「まあ消えることはなかったんだけどね」
「そうだまだいるってことは普通?の精霊になれたんだな。何の精霊になったんだ?」
「ん?ハチマン君を司る精霊」
「へえ…え?」
「え?」
「…何を司る精霊だって?」
「ハチマン君」
「…」
この子は何を言ってるんだ?俺を司る精霊?ただただ困惑しているとその様子を見たティポが説明を加えてくれる。
「まあハチマン君を司ってるって言うかハチマン君専用の精霊?みたいな?」
「どういうことだよ…」
「私もよくわかんないけどね。ただ何かいつの間にかそうなってた。まあそんな気にしないで。私でもよくわかんないし私は存在してる。それでいいんじゃない?」
そういわれ、確かに当初の目的は達成してるしいいのか?と納得する。当の本人もわからないって言ってるんだったら俺に分かるはずないし。それで無理やり納得した俺は次の質問に移る。
「それじゃあ三つ目、何で赤髪になってるんだ?確か会った時は銀髪だった気が…」
「ああ、それはハチマン君の魔法のせいだよ」
「魔法?俺魔法なんて発現してないぞ?」
「?気付いてなかったの?君とベル君が読んでたのって魔導書だよ」
「…え、魔道書?」
「そう魔導書」
「…まじ?」
「マジよ」
「マジかあ…」
魔導書。それは読むだけで魔法が発現すると言う優れもの。勿論そんなもの何個もこの世界に存在してないそのため値段は張りそれこそ【ヘファイストス・ファミリア】の武器かそれ以上の価格となっている。そしてそれを俺は読んだと言い、なおかつベルもそれを読んだと言うのだ。しかもどっちも借り物。信じられないし何より信じたくなかった。
「それでその魔法を通してこうやって話しかけてるんだけどハチマン君が望んだ魔法って炎なんだよね。だから髪が赤になってるんだよ。炎なら赤、水なら青って感じでね」
「…」
そう説明を重ねてくれるティポの声を聴きながら頭を抱え、これから始まるであろう借金生活に思いを馳せる。
(やべえぞこれ…。…いやそもそもこんな高価なもの忘れる方が悪い。つまり俺は悪くない。てかなんならいっそ燃やせば…)
「ハチマン君」
お得意の責任転換で無理やり納得し、問題を解決(?)したところでティポに声を掛けられる。
「どうした?」
「そろそお別れみたい」
どういうこと、というより早く俺の体が浮上する。
「!?」
「外でヘスティア様が君の事を起こしてるみたいだから行っておいで。それじゃあまた後で」
ティポは微笑みそう告げる。それと同時に俺の視界は暗転した。
***
「…マン君。ハチマン君っ!」
俺を呼ぶその声に反応し俺は瞼を開ける。
「…ヘスティアか」
「ああ、そうだよ、僕だ。どうしたんだい、二人してテーブルで突っ伏したりなんかして?寝るならもっとましなところで寝ればいいじゃないか」
そう言われ横を見ると今起きたのか目を眠そうにこすっている。そんなベルを見ながら今一つ働いていない頭で何があったのか思い出す。
(確か…部屋で本を読んでて…変な靄が…!?)
そこでティポとの事を思い出し、思わず辺りを見回すがもちろんそこはホームでティポはいない。
「ど、どうしたんだい?ハチマン君」
「いや…なんでもない。気にしないでくれ」
その答えに納得したのかヘスティアは
(あれは…夢か…?)
『夢じゃないよ』
(うおっ!?)
いきなり頭の中でティポの声が響き、声には出さなかったものの驚き硬直する。
『ふふっ』
(笑うなよ…ていうか喋れるんだな)
『うんこうやって話すことはいつでもできるから用があるときは呼んでね』
(…了解)
そこで会話は終了し、その後は夕食の準備をし順番にシャワーを浴び、【ステイタス】の更新をすることにした。ヘスティアは針を出して刺し神血をにじませている間にベルが上着を脱ぐ。俺はその間ソファーに身を任せる。
(疲れた…まあでもよかった)
たったそう思いながらティポとのことを思い出す。あの時驚きすぎてそんなこと考える暇もなかったが今頃になってティポが生きていたその事実をかみしめる。そうこうしてるうちにベルのステイタス更新が終わるが最初はヘスティアその次にベルが悲鳴を上げる。どうしたんだとそっちの方を見るがすぐに原因について思い当たる。
(あ、そういえば魔導書あいつもよんだんだよな…はは)
本来なら祝うべきことなんだろうが発現した理由が理由なだけに全く笑えない。しかし気にしても意味がないので気にしないことにする。それよりもいいところにも向けよう。俺も魔法が発現するんだ。そう考えるとテンションが上がってくる。
「と、取り敢えずハチマン君のステイタス更新をしよう。はなしはそれからだ」
そう言いヘスティアは俺を呼び、俺はヘスティアのところに行く。そしていつものように服を脱ぎヘスティアが俺の背に血をたらしステイタス更新を行っていく。
「は?」
ヘスティアの手が止まり、背中からそんな声が聞こえる。
「ど、どうしたんですか?」
怪訝に思ったベルがヘスティアに呼びかけると…。
「べ、べるくんハチマン君にも魔法が…」
「えええええええええええええええええええっ!?」
うるさっ。
「は、ハチマン君、君にも魔法がっ…」
「そっすか」
「軽いなっ!?」
いやだって事前に知ってたし…。まあ知った状況が状況だったからティポに言われても全然驚かなかったけど。そんなことを考えながらヘスティアから紙を受け取る。
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.1
力:S 967
耐久:S 902
器用:S 996
敏捷:A 891
魔力:I 0
《魔法》
【サラマンダー】
・付与魔法(エンチャント)
・炎属性。
・詠唱式
《スキル》
【】
「…」
俺は紙を無言で眺める。事前に知ってはいたがやはりそれが事実だと確認できると喜んでしまう。
「魔法まで発現しちゃうなんて…例のスキルが魔法に影響を?うーん、わからない」
ヘスティアが横でぼそぼそ言っている。しかしその内容は聞き取れなかった。
「君たちの水を差すようで悪いんだけど、早速魔法について考察しよう。気になることがあるんだ」
「はいっっ!」
ベルは立ち上がって大きく叫ぶ。だからうるさいっての。
「いいかい?掻い摘んで話すけど、魔法ってのはどれも『詠唱』を経てから発動させるものなんだ。これくらいは知ってるかな?」
ヘスティアの問いに俺もベルも交換した互いのステイタスが書かれた紙を見ながらうなずく。
(【ファイア・ボルト】ねえ…。名前的に雷もしくは炎の魔法か。それに速攻魔法…あれか詠唱は魔法の名前ってことか)
「本題に入るね。ボクの友人に聞いた話だと、詠唱分は魔法が発現した際【ステイタス】の魔法スロットに表示されるんだ。ハチマン君のようにね」
「え…でも僕のところにはそんなのなかった気が…」
「そう、それなんだ。おっと、ボクが書き忘れたなんて勘ぐらないでくれよ?」
どうやら勘ぐってたらしいベルは気まずそうな顔をする。
「ここからはボクの完全な推測だ。スロットに捕捉されている詳細情報、この文面からすると…ベル君の魔法は…『詠唱』が必要ないのかもしれない。ハチマン君はどう思う?」
「俺もそうだと思うぞ。速攻魔法って多分そういう事だろ」
「じゃ、じゃあ、この【ファイアボ——————むぐっ」
ベルがその魔法名を言おうとするや否や俺とヘスティアが口に手を当て黙らせる。
「…迂闊に魔法の名前を言わない方がいい」
「むぐぅっ?」
「多分魔法の名前がトリガーのはずだ。しかも名前から考えるに炎か雷の魔法てことは…」
ベルの顔がさあ、っと青くなる。今ここでそんなものぶっ放せばどうなるかどうなるかわかったのだろう。
「結局推測だから、何が正しいかなんて当てにならないけど…明日ダンジョンで試し撃ちでもしてくると言い。それで君の魔法の正体がはっきりするはずさ」
「えっ、明日…?」
「おいおい、今からダンジョンへ向かう気かい?シャワー浴びちゃっただろう?慌てなくても君の魔法は逃げたりなんかしないぜ?」
「あ、はい…そうですね」
不満そうな顔をしていたベルはヘスティアに諭され寝る準備を始める。そして消灯。
(ふっ…おもちゃを与えられた子供みたいにわくわくしてんな。それにこういうのはヘスティアが寝た後にでも…)
『ハチマン君も変わんないと思うけど』
うるさい。
***
「「やっぱお前(ハチマン)も同じこと考えてたか(考えてたんだね)」」
ダンジョンの一階層。そこでざっ、と二つの足を止める音が響く。同じことを考えていた俺達はダンジョン内で出会う。
『『ギィ…!』』
そこにタイミングよくゴブリンが二匹現れる。
(付与魔法…てことはナイフにでも付与するのか?)
獲物を見つけた俺は魔法に関して考える。そうこうしてるうちに隣では手をグー、パー、と開閉を繰り返し右腕を真っすぐごぶりんへと突き出す。そして少しの呼吸の後それを呟く。
「【ファイアボルト】!」
次の瞬間、ベルの手から稲妻上の炎が放たれる。そして一直線にゴブリンへと向かい着弾し、まばゆい爆光が炸裂する。
『…ァ』
全身を黒焦げにし、至る所からもうもうと煙を立ち昇らせるゴブリンは、呻き声だけを残し絶命する。
「…うそ」
隣で信じられないと言う風に呟くベルに負けじと俺もそれを呟く。
「
その瞬間俺の腕、足、背中から炎が上がる。それを目視で確認すると感嘆の息を漏らす。
(すげえ…これが魔法…よし)
確認を終えゴブリンの方を向き、踏み込む。
「いっ!?」
『ギャッ!?』
しかし予想外の加速に驚き態勢を整える暇もなくゴブリンに体当たりしてしまう。そして何とか着地をする。
(なんだこれ…体の調子が違いすぎる…でも…)
思わずベルと顔を見合わせる。確かな手ごたえ、確かな前進、魔法を使った実感。目に見える大きな成長。それを認めてしまえば後ははやかった。
「「っっ!!」」
お互い思わずガッツポーズをしてしまう。ティポに伝えられた時やヘスティアに伝えられた時も状況が状況で喜べなかった反動が今ここで出る。そしてお互い調子に乗ってしまった。次なる得物を探し、その場から二人で駆け出す。
「ファイアボルト!」
「フィ・オーガ!」
『『エブシッ!?』』
モンスターを見つけては魔法を纏い倒す。
「ファイアボルトオオオオオオオオオッ!!」
「フィオーガァ!!」
『『ブギャアアアアアアアアアアアア!?』』
即見即殺。何度も魔法を連発しどんどんとダンジョンの奥に進んでいく。
「やべ、五階層まで来ちゃった…」
冒険者登録をした初日を思い出し、少し反省する。冷静になった俺は
『やっぱハチマン君も子供じゃん』
頭の中でティポの声が響く。
(しょうがないだろこれは不可抗力。つまり俺は悪くない世界が悪い)
『…』
何かあきれられてる気がするが気のせいだろう。
『あ、そういえばその魔法イメージしたらある程度のものなら作れることができる炎でだけど』
(え、まじ?)
それを聞いた俺はさっそくイメージをする。イメージするのは剣。それをイメージしながら詠唱式を呟く。
「
すると俺の目の前で剣らしきものが精製される。炎で。
(でもなるほど…使いようによっては便利だな…)
見た目こそ不格好だがそこは練習次第だろう。ある程度検証を終え結論を出した俺は今度こそ帰ろうと————
「———ぁ?」
そこで違和感に気付く。グラリ、と視界から音が鳴る。
「う…!?」
この感覚には知識があった。
(魔法使用後の急な酩酊間…これは…マインドダウン!?さっきまで余裕があったはずなのに…!?)
『あ、イメージで作るの消費激しいの忘れてた』
(原因はそれかよ…!?でもベルが…)
薄れゆく意識の中でベルの方を見るともうすでに倒れていた。
(あの野郎…)
ふざけんなと言う前に俺は意識を手放した。
どうだったでしょうか。割と悩んで今の形に落ち着かせたのですがおかしな点が複数見当たるかもしれませんその時はコメントでここおかしくね?や不明な点があれば質問など指摘してくださるとありがたいです。そして最初にも言いましたがいつか必ず手直しをします…!さて今回何ですが超要するにハチマンが精霊の加護を受けましたと言うことです。それが書きたいがためにこんな長々と書きました。お許しを。では今回も閲覧ありがとうございました。また次回お会いしましょう。