アイズはダンジョン内を走っていた。腐った目で黒髪の少年と白髪に深紅の瞳の少年を探し求め、片っ端から聞き込みをしながら。そして目撃証言をもとにどんどん階層を下っていき九階層を走破した時にアイズの胸に疑問が生じる。
————十階層?
アイズの知る少年らは駆け出しの冒険者。約二十日前、ミノタウロスに殺されかけていた彼らの動きはLv1の中でも底辺———それこそ恩恵を授かったばかりだと言っても過言ではなかった。
(成長、した…?)
この短期間のうちに?当時のアイズですら十層まで行くのに半年かかった。それを彼らは二十日で?しかしそれはあり得ない。
(速すぎる——)
いくらなんでも荒唐無稽だ。そんな冒険者聞いたこともない。ならなんで————ここまで考えたアイズは頭を振る。今は少年たちの救助が最優先。それに聞きたいこともあったのだ救助した後にでも聞けばいい、と心の中で結論付け無理やり心を切り替える。そして十階層にたどり着き、アイズは感覚を研ぎ澄ます。
「!」
するとモンスターの叫び声と、激しい戦闘音、そして人の声が聞こえる。その聞き覚えのある声が聞こえた瞬間アイズは転進する。長い通路を疾走し、音の出どころへと向かう。段々とその姿が見えてくる。暴れまわる巨大な影にその影と交戦する二つの影。
『ティポ!大丈夫か?』
『うん大丈夫だよ!』
そんな会話が聞こえるとともに霧の海が晴れていく。見開かれたアイズの瞳に移るのは吹き飛ばされるオークに、炎を纏った男が冒険者が二人。
—————間違いない!
少年たちを見つけたそう確信するがアイズは違和感に気付く。
(白髪の子がいない…?)
戦っているのは黒髪の少年二人だった。しかしエイナに聞いた話だとハチマン達は三人パーティーで一人がサポーターだと言う。しかしあの動きは明らかにサポーターの動きではなかった。そして二人がこちらの方向を向き顔が見えるようになり顔を確認すると——————
(ハチマンが…二人?それにあの魔法…)
何とハチマンが二人いるのだ。しかもオークやインプを相手に奮闘している。この訳の分からない事実達がアイズの足を止める。そして暫く戦闘が終了する。
「ふぅ…」
「やったよハチマン!全部倒せた」
「ああ、そうだな…しかし改めてみるとなんか嫌だな。まあどうでもいいや急ぐぞ…
戦闘が終わりハチマンが二人で会話?を交わしつつ嫌そうに顔を歪め、
「さて…ん?」
ハチマンがアイズに気付きアイズの方を向きアイズはハチマンに話しかける。
「ハチ…マン…?」
「あー、すいませんアイズさん事情は今度説明するんで許してくださいほんとうにすいません」
「あ…」
ハチマンはそれだけ告げると九階層へと続く道へと走り出す。
「
「!!」
ハチマンがそう唱えるとハチマンを炎が包み込む。
(せいれい…?)
ハチマンの魔法から精霊の気配を感じアイズは暫く棒立ちになっていた。
***
アイズさんと別れた後俺はリリを探し走り回っていた。
『ファイアボルトオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
すると遠くで聞きなれた声が聞こえる。俺はすぐさまその声が聞こえた方向に転進し地を蹴る。そして走りに走って角を曲がって目に入った光景は半円形のルームを埋め尽くすキラーアントとリリを庇いながら戦うベルの姿だった。
「リリィ!ベル!」
「ハチマン!!」
俺がそう叫ぶとリリとベルは俺に気付き、ベルは嬉しそうにリリは目を見開いていた。
「ハチマン生きてたんだね!」
「あほ勝手に殺すな言ったろ打開する策があるって」
そこから俺達は会話をやめ目の前の敵に集中する。時には斬り刺し燃やし穿ちモンスターを狩っていく。そして戦いを始めて少ししてホームに立っているのは俺たち二人になっていた。
「…して」
「ん?」
「どうしてですか?」
気付けばリリは言葉を漏らしていた。
「何でリリを助けたんですか?どうしてお二人はリリを見捨てようとしないんですかっ?」
「…えええ?」
「まさかご自身が騙されていたことに気付いていないんですかっ?リリがお二人を驚かそうとしてナイフを持って行ったなんて、そんな馬鹿な事を考えているんですか!?」
間抜けな顔をするベルにリリはとうとう声を荒げる。
「お二人って何なんですか!馬鹿なんですか!間抜けなんですか!?救いようのない能天気な頭の持ち主何ですか!?」
「あほっ…!?ちょ、りりっ、落ち着いて…!?」
「そうだぞリリ落ち着け。馬鹿で間抜けで救いようのない能天気な頭の持ち主はベルだけだ」
「何でこの流れで僕だけなのっ!?」
「無理です!!それにハチマン様もです!!お二人は気づいてないでしょうがリリは分け前をくすねたりしてたんですよ!?」
そこからいきなりリリの悪事暴露大会が始まる。分け前をちょろまかしただのアイテムを買う際に多めに金額をもらっていただのそんな話が暴露される。
「これで分かりましたか!?リリは悪いやつです!盗人です!お二人に嘘ばかりついていた、サポーターの風上にも置けない最低なパルゥムです!」
「え、えと…」
「それでもっ…それでもベル様は、ハチマン様は、リリを助けるんですか!?」
「「うん(ああ)」」
「どうしてっ!?」
息を切らしながらリリは俺達を見つめている。そしてリリの剣幕に押され続けていたベルが口を開く。
「お、女の子だから?」
「ばかぁっ!ベル様の馬鹿ああっ!!またそんなこと言ってっ、あの時と同じじゃないですか!?ベル様は女性の方だったら誰でも助けるんですか!?信じられませんっ、最低ですっ!ベル様のすけこましっ、女ったらしっ、すけべっ、女の敵いいいいいい!!」
リリが涙目でベルに向かって不満をぶちまけまくっていた。そんなリリの様子をベルは俺の方に視線を向け苦笑しながら見つめ、リリの頭に手を添える。
「じゃあ、リリだからだよ」
「———————」
栗色の瞳がいっぱいに開かれる。
「僕、リリだから助けたかったんだ。リリだから、いなくなってほしくなかったんだ」
「ふ、えっ…!」
「上手い理由なんてさ、見つけられないよ。リリを助けることに、理由なんて…」
リリはその言葉をきっかけに涙を流す。いつまでもどこまでもその涙声が響き続けた。ハチマンはベルの言葉を聞きながら微かに顔をほころばせていた。
***
あれから二日リリと別れすっかり音信不通になっていた。探そうかと思ったが何となく近いうちに会えるそんな気がしていた。
「!」
そして今日バベルの前でクリーム色のローブを身に着け大きなバックパックを背負っているパルゥムを発見する。それに気づいた俺とベルはその子に近寄る。相手も俺達に気付いたのか小さく身動ぎを繰り返していた。
「…」
「…」
お互いに触れあえる距離までやってくる。リリは顔を上げ口を開こうとするがすぐに俯くことを繰り返していた。
「サポーターさん、サポーターさん。冒険者を探していませんか?」
「えっ?」
辛抱を切らしたベルがそう話しかけ俺はやろうとすることを察し乗ることにした。
「混乱してるのか?でも、今の状況は簡単だぞ?サポーターの手を借りたい貧乏人が自分を売り込みに来てるんだ」
リリもここで気付いたらしく頬は赤く染まり目には涙をためていた。
「「俺達(僕達)と一緒に、ダンジョンに潜ってくれませんか?」」
俺とベルは手を差し伸べる。
「———はいっ、リリを連れて行ってください!」
リリは満面の笑みを浮かべ俺達の手を取った。
***
ハチマン・ヒキガヤ
《スキル》
・任意発動。
・自身と同一存在を作り出す。起動式は『
・武器またはモンスターに変身可能。起動式は
・武器像は詠唱時のイメージ依存。
・モンスター変身像は討伐したモンスターのみ。
・解呪式
***
バベルから北に進んだメインストリート。冒険者よりも市民の姿が目立つ子の大通りに、オープンカフェが面していた。からっとした日差しのもと多くの客が談笑を交わしている。多くの日傘が開き影を作る中、ベルとリリ、俺の三人は白いテーブルを挟んでいた。
「じゃあ、【ソーマ・ファミリア】の方はもういいの?」
「はい。リリはじきに亡くなったことにされるでしょうから」
俺達がパーティーを結成してから一日。リリを取り巻く今の状況を確認するためリリから説明を受けていた。
「死人と言う扱いになれば【ソーマ・ファミリア】にかかわる必要もないですし、あちらからも付け狙われることはないでしょう。何せ、もういないことになってるのですから」
なのでお二人にはご迷惑はかけません、とリリは笑って言った。そんな感じの二人の会話に耳を傾けているとリリが真面目な表情に変わり俺達を呼びかける。
「…ベル様、ハチマン様」
「ん、どうした?」
「お二人は、本当にこのままでいいんですか?」
「え?」
「リリをこのまま許してしまっていいんですか?」
明るくなっているベルの表情とは逆にリリの表情は暗くなる。
「リリはお二人をだましていたんですよ?お二人の厚意に付け込んで、あまつさえ裏切ったんですよ?」
「…」
「しかも、くすねたお金は返せません。このまま許されてしまったら、リリは…」
「気にしなくていいだろ」
「え?」
「騙していたから罪悪感があるんだろ?なら少なくとも俺は騙されていないから許す云々の話は関係ない。だから気にしなくていい」
「それはどういう…」
「おーい、ベル君!ハチマン君!」
「あっ、神様!」
リリがどういうことですか、聞こうとしたタイミングでヘスティアがやってくる。
「お待たせ。すまない、待ったかい?」
「そんなことないです。それよりもすいません、バイトに都合をつけてもらって…」
「ボクの方は平気さ。それより…彼女がそうかい?」
「あ、はい。この子が前に話した…」
「リ、リリルカ・アーデです。は、初めましてっ」
視線を向けられリリは慌てて椅子を降りて一礼する。
「あっ…いけない。神様の椅子を用意してもらってないや…」
「…!なあにっ、気にすることはないさ!この客の数だ、代わりの椅子もないだろう!よし、ベル君座るんだっ、ボクは君の膝の上に座らせてもらうよ!」
「あはは、神様もそんな冗談言うんですね。ちょっと待っていてください、店の人に頼んできますから」
笑いながらベルは去っていった。いや多分冗談じゃないと思うんだけど…だって凄いしょぼくれてるし…。
しかしそれも物の数秒でヘスティアは俺にチラっチラっ、と視線を送り始めた。俺はその意図を察する。
「すまんちょっとトイレ」
俺はそう一言声をかけ席を外した。
「さて…パルゥム君ちょっと付き合ってもらうよ。あの子達もすぐに帰ってくるだろうしね。自己紹介なんかはお互い知ってるだろうから省こう」
「は、はい」
「率直に聞くよ。サポーター君、君はまだ打算を働かせているのかい?」
「——っ」
言葉違わず真っすぐに切り出された問いに、リリは動揺する。
「———本人には口止めされているんだが一つ話をしよう」
「…?」
「もう率直にいうよハチマン君は君のことを初日から見抜いていたよ」
「それはどういう…」
「君ナイフを盗ってからドワーフの店に売りに行ったんだっけか」
「!?」
「ハチマン君はね初日から君の打算を見破り犯行現場も目撃していた。なのにハチマン君は君のことを捕まえるどころか俺とベルに任せてくれってわざわざ呼び出して頭まで下げたんだぜ?それで理由を聞いてみたら妹に似てるからって大真面目に言ってのけるんだよ」
『騙していたから罪悪感があるんだろ?なら少なくとも俺は騙されていないから許す云々の話は関係ない。だから気にしなくていい』
そこまで言われさっき言っていたハチマンの言葉の真意をリリは理解する。自分ははなから騙されていない全部知っていただから気にする必要はない、と。
「あ、ああ…」
その不器用で優しさの詰まった言葉にまた涙があふれそうになる。
「それじゃあ言い方を変えてもう一回きこう。これを聞いたうえでなお打算を働けるかい?」
「あり得ません。リリはあの方々に助けられました。裏切るようなことは絶対にしたくない」
涙があふれ出そうになるのをこらえヘスティアを見据え力強く答える。
「…うん、わかった。キミのその言葉信じよう。ただしもし同じことを繰り返して、あまつさえあの子達を危険に晒したら…ボクは君の事をただじゃおかないからな」
———リリは体を硬直させる。呼吸の仕方を忘れるくらいの威圧感。そんな圧に当てられながらもリリは前を見据え口を開いた。
「…誓います。もう二度とあのようなことはしないと。ベル様にも、ハチマン様にも、ヘスティア様にも…何より、リリ自身に」
何も知らない街の活気が賑やかに流れていく。無言の二人の時間はヘスティアが瞑目をすることで終わりを告げる。ヘスティアはわかったよ、と言うように視線を飛ばし、リリは我慢できずに脱力する。リリに釘をさしたヘスティアは腕を組み押し黙った。
「…サポーター君、正直に言うよ」
「は、はいっ」
「ボクは君のことが嫌いだ。ベル君とハチマン君に付き纏ってほしくないと思っている」
「!」
リリが目を見開く間に彼女は声を連ねた。
「当り前だろう。ハチマン君の話を聞いた時から君に対するボクの心証は最悪さ。二人の人の良さに付け込んで好き放題誑かして、あまつさえ今は手のひらを返したように取り入ろうとして。何が目的だ、この泥棒猫めっ」
魔法によって生えている耳が揺れ、汗を流す。
「大体さっきから何だい?あった時からずっとしょぼくれたような顔をして。見ているこっちがほとほと憂鬱になってくるよ」
目を尖らせたヘスティアの言葉は止まらない。
「優しい二人に助けられて、心を入れ替えたなんて言っている君のことだ、どうせ今度はあの子達が優しすぎて、困り果てているんじゃないかい?」
「!?」
「あの子達が君になにもしようとしないから、君は罪悪感に潰れそうなんだ。ボクから言わせればそれはただの甘えだね。本当に嫌な奴だ、君は」
とうとうヘスティアは言葉にも険を乗せ始めた。
「ハチマン君には任せてくれと言われているけど、ボクが君をさばいてやる。言っとくけど拒否権なんてないぜ。疑似『神の審判』だ、光栄に思うといいさ」
ふんと鼻を鳴らしヘスティアはふんぞり返る。ひるっみぱなしのリリはかろうじて頷くことしかできなかった。リリは落ち着きなく次の瞬間を待った。ヘスティアはと言うと歯をかみしめ溜息と共にその言葉を吐いた。
「二人の、面倒をみてやってくれ」
「…えっ?」
思いっきり不機嫌な顔をしながらヘスティアは続ける。
「言っとくけど、君の為なんかじゃないんだからな。ボクは今回の話をあの子達から聞いて、つくづく彼らのことが心配になったんだ。というか、確信した。…ハチマン君がいる限り二人が騙される可能性は低いけど当の本人がさっき聞いた通り馬鹿であのお人好しっぷりだ。絶対に手遅れなことが起きる」
「…」
「だから君に頼むんだ。変な奴に引っかからないように目を光らせてくれ。お目付け役さ」
リリは今度こそ驚く。
「そもそも断罪なんて生意気なこと言ってるんじゃないよ。今時神だってそんなことしないぜ?罪悪感なんて、結局自分のことを許せるか許せないかでしかないんだ」
それをあの二人に求めるな、と語気を強くした。
「あの子達の後ろめたいことがあるなら、満足いくまで恩を返せばいい。当たり前だろう。それが誠意だ。けじめだ。キミが心を入れ替えたと言うなら、行動で証明して見せろ」
一気に浴びせられた言葉はそこで終わった。辛辣にも聞こえるそれらは単に罵倒しているのではなくチャンスをくれているのだ。彼女は寛大で神格者だ。そんな彼女にリリは黙って一礼をする。そんな彼女たちの間では沈黙が流れる。
「ごめんなさーいっ、遅くなりましたー!」
「すまん遅くなった」
「…パーティーの加入は許可する。あの子達のお守りも任せた。けどっ、くれぐれもっ、出過ぎた真似はしないようにッ」
「はっ?」
静寂を破ったヘスティアの警告に、リリは目を丸くした。真意を訪ねる前にベルが椅子を持ってきたテーブルに戻る。そしてヘスティアはハチマンとベルの腕を取り自分のもとへ引き寄せた。
「————なっ」
「神様…?」
「おいっ」
「さてあらためて…初めまして、サポーター君。ボ・ク・のベル君とハチマン君が世話になっていたようだね」
ボクのを強調させのたまうヘスティア。纏う雰囲気は一変し、まるで縄張り主張する虎のように威嚇する。リリはそんな威嚇を二人の手を取り真っ向から迎え撃った。
「いえいえこちらこそ。リリにはお優しいお二人には、いつもよくしてもらっていますから」
「…っ!」
そんな幼女達の威嚇の仕合をなんで俺まで…、と見当違いのことを考えながら眺めるハチマンだった。
ヒロインなどについては設定集みたいなのをこの次に出す予定なのでそこで色々話します。それでは閲覧ありがとうございましたまた次回会いましょう。