やはり俺が強くなることは間違っているだろうか   作:149

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#18 クロッゾ

「あ、やっと来たニャ!」

 

「あはは、よく遅れるねえ、冒険者君」

 

「いやあ…ちょっと…追いかけられて…」

 

豊饒の女主人の入り口の扉に手をついて息を乱しながらアーニャさんの声に答える。

 

「シル達はずっと待ってるニャー。厨房の方もクソ忙しいのに融通利かせているんだから、さっさとするニャ」

 

「す、すいません」

 

「主役がいないようじゃ始められないからね、早く行ってあげな」

 

アーニャさんに促され酒場に足を踏み入れる。

 

「ベル様ー!ハチマン様ー!こちらですよー!」

 

全席に客が埋まり店内は繁盛を見せる中、奥の方でリリがぶんぶんと手を振ってきた。そのテーブルにはリリの他にシルさんとリューさんがついていて、格好は制服のままだ。微笑んでくるシルさんと会釈を交わすリューさんに、俺とベルは遅刻した非を詫びるのもかねて頭を下げた。

 

『ベルにハチマン…?』

 

『【ヘスティア・ファミリア】、か?』

 

俺とベルが足早に向かっていると、複数の視線が刺さる。賑わっていた店内が、少し趣の異なるざわめきを灯していた。

 

『白髪のヒューマンに黒髪腐り目のヒューマン…間違いねえよ。何つったか…【ホワイト・ルーキー】に【ブラック・ルーキー】だったか?』

 

『あんなガキどもがか』

 

世界最速(ワールドレコード)、らしいな』

 

『おいおい、決まりかよ?神の野郎どもが騒いでるだけだろ?一か月はいくら何でもねえって』

 

『ちげえねえ』

 

『でも、ミノタウロスをやりやがったのは本当らしいぞ、ほれ、例の九階層の奴』

 

いくつものテーブルを縫って進んでいく中、あちらこちらから視線を送られ軽くげんなりする。

 

「一躍人気者になってしまいましたね、お二人共」

 

「そ、そうなのっ?何だか凄く落ち着かないんだけど…さっきも、知らない神様達に追いかけまわされちゃって…」

 

「名を上げた冒険者の宿命みたいなものです。お二人に限った話ではないので、そんな顔しないでくださいハチマン様」

 

どうやら顔に出ていたらしくリリに指摘される。

 

「ふふ、じゃあお二人共いらっしゃったことですし、始めましょうか」

 

「あの、シルさん達はお店の方は…?」

 

「私達を貸してやるから存分に笑って飲めと、ミアお母さんからの伝言です。後は金を使えと」

 

リューさんの落ち着いた声にミアさんの方へと視線をやると不敵に笑いながら手をぱっぱっと振っている。今日くらいは羽目を外せってことなんだろう。

 

それからすぐ、俺達は乾杯とそれぞれグラスをぶつけあった。ミアさんの勧めもあり、俺とベルとシルさんはお酒を、リリは「苦手だ」といいジュースを、そしてリューさんはおみずをちびちびと飲む。

 

「そういえばティポさんは来ないのですか?」

 

水を飲んでいたリューさんが顔を上げて問う。その問いに確かにという具合にベル達の視線が俺へと集まる。

 

「どうもこういう場は苦手なんだと。まあ俺も何だけど」

 

「なるほど…ペットは飼い主に似るって言うことでしょうか」

 

「ペットって…」

 

「勿論ヒキガヤさんがペットです。ティポさんをペットと言うのは失礼だ」

 

「俺はいいのかおい」

 

俺とリューさんの問答にベル達が笑みをこぼす。お互い無口な質ではあったがこういう軽口くらいなら叩けるようにはなっていた。まあ主に俺が罵倒されるだけなんですけど。

 

「さあ、ベルさん、ハチマンさん。たくさんお飲みになってください。今日の主役は二人何ですから。それとも、何かお飲みになりますか?」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

そんなことを思いながら酒をあおっているとシルさんはいつの間にか隣に来て甲斐甲斐しく俺とベルの世話を焼こうとする。酌をとったり、料理を盛ったり、頻りに声をかけ、せっせっせっせっと…何故か普通に笑っているリリと無言で見つめてくるリューさんが怖かった。

 

「なんだか…すごい機嫌がよさそうですね、シルさん」

 

「そう、ですか?」

 

ベルにそう指摘され上気した頬に手をやり、くすぐったそうにはにかんだ。

 

「私のお手柄というのはおこがましいんですけど…あの本を渡して、ベルさんのお役に立てたのかな、って。そう思ったら、なんだか嬉しくて」

 

本とは魔導書の事だろう。シルさんは熱っぽい視線で上目遣いをし更に微笑みながら俺達のことを見る。それは中々に強烈だった。

 

「ですが、本当におめでとうございます。よもやミノタウロスを単独撃破し【ランクアップ】をするとは…貴方方はもっと誇っていい」

 

「確かにとてもすごいことだとは思いますけどリリは心配で心配でたまらなかったんですよ?何度この胸が張り裂けそうになったことか…」

 

「ご、ごめん、リリ…」

 

「…でも、格好良かったですよ、お二人共」

 

素直な賞賛の言葉の嵐に俺は聞こえなかったふりをしジョッキを口に運ぶ。

 

「ヒキガヤさん、今後はどうするのですか?」

 

「?」

 

「貴方達の動向が、私はいささか気になっています」

 

リリ達との会話(?)の後、リューさんから声がかかる。そんな彼女の質問に対して、取り敢えず明日の予定から口にする。

 

「えーと、取り敢えずは俺とベルの防具が壊れたんでバベルにでも行こうかな、と」

 

「それじゃあ、明日二人で買い物に行かれるんですか?」

 

「そう、ですね」

 

「でしたら、私も付いて行っていいですか?」

 

「…どうしてまた?」

 

「私もそろそろ買い出しに行かないといけなくて…お邪魔かもしれないですけど、お二人がよろしければ一緒に買い物をして回りたいんです」

 

「馬鹿言ってんじゃないよ」

 

「うきゅぅ!?」

 

シルさんの背後に大きな影が現れ、トレイを頭に振り下ろす。

 

「そう簡単に休まれちゃこっちも堪ったもんじゃないんだよ、この不良娘。調子乗ってるんじゃないよ」

 

「アタシに話も通さないでさぼろうだなんてどういう了見だい」とミアさんは続けた。シルさんはテーブルに伏せ、恨みがましい視線で抗議する。

 

「そんな目をしても無駄さ。ここじゃあアタシが法なんだからね。リュー、明日はシルを見張っておきな」

 

鼻を鳴らすミアさんはリューさんの返事を待たずに踵を返し、カウンターに戻っていった。

 

「…ベルさん、ハチマンさん、私、傷物にされました。どうか頭を撫でて慰めてくれませんか?」

 

「だとよベル」

 

「今ハチマンの名前も出てたよね?」

 

「気のせいだろ」

 

「気のせいじゃないですよ?」

 

「ほら気のせいだってよ」

 

「絶対違うよねっ!?」

 

横でベルがギャーギャーと騒ぎ立てるが俺は無視を決め込む。

 

「それでヒキガヤさんその後は?」

 

「え?」

 

「装備を整えた後、どうするつもりなのか、そう聞いています」

 

「…それは『中層』に行くかどうかってことですか?」

 

俺のその質問にリューさんは肯定する。そして肯定の意をみた俺はベル達と視線を合わせる。

 

「どうするんだベル」

 

「えっ?ぼく?」

 

「ああだってお前リーダーだろ」

 

「僕リーダーなの!?ハチマンじゃなくて!?ていうかいつ決まったの!?」

 

「俺はリーダーって柄じゃない。ってことでリーダーはお前だ今決めた」

 

「…ハチマンそれってめんどくさいからって理由じゃないよね?」

 

「まさか」

 

「そっか…」

 

「半分くらいしか」

 

「ハチマン?」

 

「そんな事よりどうするんだ?」

 

「…はあ、ええっと、取り敢えず十一階層で今の体の調子を確かめようと思っています。もしそこで攻略が簡単に進みそうだったら、十二階層までは足を伸ばすつもりです」

 

「ええ、それが賢明でしょう」

 

取り敢えず【ランクアップ】した自分たちの力を確認する、とベルは述べる。それに俺とリリは賛成しリューさんも賢明だと判断する。

 

「そういえばティポさんも一緒に潜るのですか?」

 

「いやティポは潜りませんよ」

 

「…理由を聞かせてもらっても?」

 

「別にいいですよ」と答え俺は理由を説明していく。これはティポを連れてダンジョンに二人で潜った時に気付いたことなんだが何故か接敵したモンスターは絶対にティポを狙うのだ。もしかして引き寄せてるのか?と考えた俺は色々試した。そして結果だけ言うなら別に引き寄せているわけじゃなかった。ただモンスターの視界の中にティポと俺が収まった場合100%ティポが狙われることになるってことだった。最初俺の影の薄さのせいか、とか思って泣きそうになったが普段は無視されることはないのでそれは直ぐに斬って捨てた。しかしそれに関してはティポが「精霊だからじゃない?」と言い、その辺は全く分からないのでティポの意見で納得することにした。

 

そしてこれの何が問題なのかと言うとダンジョン内で接敵する限りずっとティポは狙われ続けることになる。つまりそれだけティポの負担が大きくなると言うことだ。それにより集中力が切れもしティポが死んでしまったら?ティポ曰く【二重存在】(ダブル)の状態で死ぬほどの攻撃を喰らっても死ぬことはないらしい。ただそれだけのダメージを負った時ティポは俺の中に戻り、その瞬間俺にダメージがフィードバックしてくる。死ぬほどのダメージが入ってくるのだ。これはダンジョン内において致命的な隙になることは間違いない。最悪俺がショック死なんて話もあり得ない話ではない。

 

要するにティポと俺が一緒にダンジョンに潜る場合いきなり二人分かける可能性があるってことだ。一人ならともかく二人しかもパーティー内最高Lvが二人も抜ける…それはこのパーティーでは致命的なことになりかねない。だからティポは奥の手として封印しダンジョンには潜らないと言うことにした、と説明をし終える。

 

「なるほど…それならば納得だ。しかしそれならまだ中層に潜ることはやめておいた方がいい。貴方達の状況を見るに、少なからず私はそう思います」

 

「…つまりリュー様は、この三人では中層に太刀打ちできないと、そうお考えなのですか?」

 

「そこまで言うつもりはありません。ですが、上層と中層は違う。最低でも三人一組が理想です。しかしこれは本当に最低ラインです。なので貴方達はパーティーを増やすべきだ」

 

三人一組…つまり攻撃、防御、支援の連携が機能する体系だ。確かに本当に最低ラインで増やすした方がいいのは明確だ。リューさんはこれからのダンジョン攻略に差し当たって厳しいものがある、と判断したのだろう。

 

「万全は期すべきです。貴方達は少なくともあと一人、仲間と呼べるものを見つけた方がいい」

 

リューさんの言ったことはもっともだ。その意見に反対はないのかリリとベルも頷き一考すべきと伝えてくる。しかしそれに関しては俺は何とも言えない。自分で言うのも何だが俺はコミュニケーション能力は皆無と言っていい。そのことにこめかみをつい押さえてしまう。

 

「はっはっ、パーティーの事でお困りかあっ、ルーキー共!?」

 

そんな話を交わしていると別のテーブルについている客の一人が酒をあおりながら声を張り上げていた。

 

「話は聞ぃーた。仲間が欲しいんだってなあ?なんなら、俺達のパーティーにてめえらを入れてやろうか?」

 

「えっ!?」と声を出し驚くベルを横に俺は相手を観察する。

 

「ど、どういうことですかっ?」

 

「どうもこうも、善意だよ、善意。同業者が困っているんだ、ひれぇ~心も持って手を差し伸べてやってるんだよ。ひひっ。こんなナリじゃあ似合わねえかあ?」

 

「い、いえっ、別にそんなことは…」

 

「だぁろぉう?助け合いってやつだ、助け合い~ぃ。それに今、話題かっさらってるお前さんなら、俺達のパーティーに入れても構わねえし…なあ!」

 

「うっ…!?」

 

酒の匂いが強烈なのかベルは思わず仰け反っている。他にもシルさんは苦笑し、リリは顔を歪め、リューさんは何事もないように顔色一つ変えずに椅子に座っていた。

 

「それで、だ!俺達がお前を中層に連れてってやる代わりによぉ…この嬢ちゃんたちを貸してくれよ!?こんのえれぇー別嬪のエルフ様達をよっ!」

 

「…」

 

「俺もエルフに酌を受けて見てえんだよ、なあわかるだろ?お前さんがいくら払ったかは知らねえけどよぉ、仲間なら助け合い分かち合うが基本だ!そうだろう!?」

 

そのリリやリューさんをなめるように見るその視線に不快感がこみあげる。こいつらとパーティーはごめんだ、と結論を出し断ろうとした。

 

「いい。結構です。貴方達の手は、彼に必要ない」

 

けれどそれより早く黙っていたリューさんが口を開いた。

 

「…おぉ?何でだい、妖精さんよぉ?俺達じゃあそいつ等のお守を務まらないかい?」

 

「ええ、だから帰りなさい」

 

「ひひっ、おいっ、聞いたかぁ!ぽっと出の新人相手に、俺達は足手纏いだとっ!逆じゃなくてよ、はっはっ!?嬢ちゃん、俺達はこれでもずっと前から中層にこもってるんだぜ!?」

 

「そうでしたか」

 

「ああ、Lv2さ。俺達全員、な」

 

「わかりました。では、失せなさい。貴方達では彼らに相応しくない」

 

ピクリ、と豪快に笑っていた男の顔が揺れ、笑みを一旦消して、もう一度笑う。不穏な空気が立ち込める。

 

「…嬢ちゃん、そんなに俺達は頼りねえかい、そこのカスみたいなクソガキ共よりよぉ?」

 

一歩近づいた冒険者の男は自分の左手をリューさんの肩に置こうとする。

 

「触れるな」

 

それと同時に俺は立ち上がり、男の左腕を掴む。

 

「ああ?なんだクソが、いっ、でででででででででででででええっ!?」

 

掴んだ腕をそのままひねり上げ、力を込めていくと男は悲鳴を上げる。

 

「その手でリューさんに触んな…殺すぞ」

 

目の前で悲鳴を上げる冒険者とその仲間を睨みつけ暫く仲間の方へと男を投げる。ドタッと音を立て、床に尻餅をつく。

 

「…て、てめえぇ!?」

 

「このクソガキっ!」

 

「何しやがる!?」

 

俺の言葉に激昂した男達は武器を手に襲いかかろうとする。それに対し迎撃をしようと構えるとその前にガツンっ!と鈍い音が彼等の頭の裏に炸裂した。

 

「「はげっ!?」」

 

男の仲間が地面に叩きつけられる。愕然とした男の背後で、二人のキャットピープルが半壊した椅子を肩に担いでいた。

 

「————————ニュフフ、後頭部がお留守にニャっていますよ、ニャ」

 

「男ってーのは本当にめんどくさいニャー」

 

「お客さん。うちのエルフは凶暴だから、そこまでにしといたほうがいいよ?」

 

臨戦態勢に入っている豊饒の女主人の店員三人組が不敵な笑みを浮かべたっていた。周囲からは『あーあ、やっちまった』と言う声が聞こえてくる。

 

「…なっ、何なんだってめえ等はああああああああ!?」

 

男が腰に手を伸ばし、白刃を煌めかせる。それを見た俺は臨戦態勢に入り腰を落とした瞬間。別の方向から大爆発が起きた。

 

(!?)

 

いきなりの爆音に振り向くと、言葉を失った。水平だったはずのカウンターがV字に変形し握り拳を振り下ろしたミアさんの姿がそこにはあった。

 

(うそん)

 

店内は静まり返っていた。カウンターにいた客は口を半開きにし、ベルは言葉を失い、俺は若干引いていた。

 

「で、そこのアホンダラ。そこに転がってる馬鹿どもを連れてさっさと行っちまいな。もし今度面倒を起こしたら————————この店の下に埋めるからね」

 

男は一言も喋れないまま顔を上下に振り、仲間を抱え込んで足をもつれさせながら出口へ急ぐ。

 

「アホンダレエェッ、金は払っていくんだよぉ!!」

 

「は、はいいぃっ!?」

 

ミアさんの怒号が響き、男は有り金を全部置いていったようだ。だって財布ごと投げてるし。

 

「ヒキガヤさん、ありがとうございました」

 

酒場が喧騒を取り戻し始めた頃、リューさんは律儀に俺にお礼を述べた。

 

「え、あ、いや、そのどうも?」

 

「なにどもってるんですかハチマン様」

 

「いやだって…これ俺必要だった?」

 

俺がそう言うと全員が目を逸らした。おい。

 

「ま、まあ仕切り直しましょうか?」

 

シルさんが笑顔でそう言い俺達は夜遅くまで美味しい料理とお酒に興じた。

 

***

 

「ハチマンも探してる人一緒だったんだね」

 

「ああ」

 

あの祝賀会から一夜明けた朝。俺とベルは昨日言った通りバベルのテナントにやってきていた。バベルのテナントについた俺達は店内を回り依然見つけた鎧のパーツが山積みされたボックスを覗き込んで探していく。しかし見つかることはなく二人して落胆している所で何を探しているのか聞いたところ同じ人を探していることが分かり一緒に店のカウンターの向かっていた。

 

(それにしても…クロッゾ、ね)

 

名前に思うところがありながらも進んでいくと微かに声が聞こえてくる。

 

『何でっ…あんな…!』

 

「「?」」

 

どうやらカウンターで【ヘファイストス・ファミリア】の店員と、客らしき人が揉め事を起こしてるようだった。

 

「何でいつもいつもっ…あんな端っこに…!俺の恨みでも…!」

 

目前までやってくると声がはっきり聞こえてくる。言い争いをしていたのは黒の着流しに真っ赤な髪の青年だった。

 

「こちとら命懸けでやってんだぞ!もうちょっとマシな扱いをだなぁ!」

 

「ですが上の決定ですし…せめて売れるようになっていただかないと…」

 

「おまっ、それを引き合いに出すのか!?だったら尚更——————!!」

 

隣のカウンターの店員もはた迷惑な目をしていたけど、そこで俺達に気付き何事もなかったように「いらっしゃいませ」と笑顔を浮かべる。

 

「何か御用ですか?」

 

「はい。ヴェルフ・クロッゾさんの作品って、今は売られてないんですか…?」

 

時が止まる。正面の店員も横で言い合っていた二人も呆然となり俺達の方を向く。

 

「…あ、あのぅ、ヴェルフ・クロッゾさんの作品を、お求めですか…?」

 

「え、ええまあ…」

 

いきなり視線を集めたじろいでいるベルの代わりに俺が答えると先程まで抗議していた青年が反応する。

 

「ふ…うっはははははははははははは!?ざまぁーみやがれっ!俺にだってなぁ、顧客の一人や二人くらい付いてんだよ!!」

 

高らかに笑い始め、さっきまで食ってかかっていた店員に向き直り、ばんっとカウンターの上を叩く。

 

「あるぞ、冒険者。ヴェルフ・クロッゾの防具ならな」

 

「えっ!?」

 

「これだ」

 

ずい、と鎧の詰まったボックスが二つ眼前のカウンターにまで寄せられる。中身は白い光沢溢れる鉄色のライトアーマーと黒い光沢溢れる漆黒のライトアーマー。ついこの前まで俺とベルが使用していたものとほぼ同じ防具だった。

 

「どうだ、使ってくれるか?」

 

「え?こ、これ、貴方のものじゃないんですか…?」

 

「ああ、俺のものだな。…俺の打った作品だ」

 

「———————ぇ」

 

「どうせだから名乗っておくぜ、得意客一号二号。俺はヴェルフ・クロッゾ。【ヘファイストス・ファミリア】の、今はまだ下っ端の鍛冶師だ」

 

***

 

「じゃあお前達があの【ホワイト・ルーキー】に【ブラック・ルーキー】か!?」

 

「ちょっ…声でかい…!」

 

大声を出すクロッゾさんに声を抑えるよう言う。

 

「本当に俺より年下なんだな。いや、冒険者に年齢なんてそれこそ関係ないか?」

 

「えっと、クロッゾさんの年は…?」

 

「今年で十七だ。で、そのクロッゾさんって言うのはやめてくれ。家名、嫌いなんだよ」

 

「えっと…ヴェルフさん?それで僕達に用って…?」

 

「おいおい、さん付けか?…まあ今はいいか。じゃあちょっと話を聞いてくれ」

 

ヴェルフは備え付けの椅子から立ち上がり、俺達を見下ろす格好になる。

 

「単刀直入に言うとな、俺はお前さん達を離したくなかったわけだ」

 

「「?」」

 

「俺の作品は剣だろうが鎧だろうが全く売れない。自分で言うのも何だが、いい作品を出している自信がある。けど、からっきしだ。購入される後一歩で返却されるらしい。解せねえ」

 

「「…」」

 

俺もベルも『『兎鎧』(ぴょんきち)『黒鎧』(くろたん)とネーミングセンスに問題があるんじゃあ、何て思ったが口には出さなかった。

 

「だが、そこにお前たちが現れた。お前たちは二度も俺の作品を買いに来てくれた。俺の顧客、本物だ、違うか?」

 

「まあ、そう、かな?」

 

「なら、もうちょっと奥まで踏み込ませてほしい。ベル・クラネル、ハチマン・ヒキガヤ、俺と直接契約しないか?」

 

————直接契約。それは鍛冶師と冒険者が交わす契約で、冒険者はドロップアイテムを提供、鍛冶師はそのドロップアイテムで武器を打ち格安で譲ると言うもの。願ってもないその申し出に思わず言葉がこぼれる。

 

「…いいのか?」

 

「おいおい、それはこっちのセリフだぞ。Lv2のお前達と『鍛冶』のアビリティも持っていない無名の俺とじゃあ、釣り合わないだろう?」

 

ヴェルフは中腰になり俺達の首に腕を回し、笑みを近くまで寄せる。

 

「それにだ、ぐずぐずしてると他の鍛冶師だってお前たちのことを狙ってるんだ。せっかくの顧客がいなくなっちまう。だから俺は是が非でも契約したいわけだ」

 

「それに将来有望な冒険者と契約出来れば箔がつくしな」と快活に笑う。

 

「…まあこんな話の後じゃ信じてもらえないだろうが、Lvがどうでも良かったんだ。あんな数ある鎧の中から、俺のものを選んでくれたからな。挙句に、俺の作品を使いたいだなんていわれた日には…な?こうぐっとこみあげてくるものがあるってもんだろう?」

 

ヴェルフはそう言い、はにかんだ。

 

「…わかりました。ヴェルフさんと、契約を結ばせてもらいます」

 

「俺もよろしく頼む」

 

「よし、決まりだ!断られたらどうしようかと思ったぞ!」

 

差し出された手を取って立ち上がる。

 

「それじゃあよろしくなベル、ハチマン。それで正式な契約書とかはまた今度に回すとして…」

 

ヴェルフは口を動かしながら、握っている手をぶらぶらと揺らす。

 

「で、早速何だが…俺の我儘ってやつを聞いてくれないか?勿論見返りはするぞ。お前さんたちの装備、タダで俺が新調してやる」

 

「ええっ!?」

 

「だから驚くなって。鍛冶師が冒険者にものをねだるんだ、これくらいは当然だろう」

 

その申し出に声に出さずも驚いた俺達を差し置いてヴェルフは本題を切り出した。

 

「俺を、お前たちのパーティーに入れてくれ」

 

***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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