今回は短いですがこれで。忙しくてちまちま書いていたのでおかしいところがあるかもしれませんがどうぞっ!
***
十七階層に存在する『嘆きの大壁』—————————それは
そこに立っているのは主であるゴライアス、そしてそれに対する相手はたったの一人。しかも体中を血で染め、見てわかる程の満身創痍っぷり。
ちょっと風が吹けば倒れそうな侵入者にゴライアスは敵の命を奪おうとその太すぎる剛腕を振るう。しかし侵入者はそれを避けその拳は炸裂することなく、悲しく空を切る。そしてお返しとばかりに侵入者はゴライアスの腕に傷を与えていく。
『オオオオオオオオオオオオオオッッ!!』
ゴライアスが苛立ったように叫びをあげ、嘆きの大壁全体を揺らす。よく見るとゴライアスの体中に傷が残っておりこの攻撃が何回か繰り返されたことを示していた。
ゴライアスは怒った。攻撃は当たらず、逆に攻撃を返されることに。そして更なる攻撃を侵入者へと向ける。
それに対する侵入者——————――ハチマンは痛む体を無視してゴライアスに斬りかかる。そしてすぐ横に迫るゴライアスの拳に冷や汗を流しながら戦闘を続行していく。
あの拳を受けた後ハチマンは吹き飛ばされ壁にめり込み気絶した。しかしすぐに意識を取り戻し、ゴライアスの攻撃を避け続けていた。
満身創痍の体、精霊の奇跡を行使するほど残っていないなけなしの体力。唯一有り余っている精神力も精霊の奇跡を行使するのに使っているからどんどんと減っていってる。そんな絶望的な状況でもハチマンは動いていた。苦痛に顔を歪めながらも、体が悲鳴を上げながらも立ち上がりゴライアスと相対していた。
(情けない)
ゴライアスとの戦闘中の最中ハチマンはナイフを片手に傷を刻みながらも自らを戒める。
(弱い、嗚呼本当に弱い)
それは自身への嘆き。あの場面でリリが限界なことに気づけなかった自身への。逃げることしか選択できなかった自身への。
(悔しい)
度重なる負傷でゴライアスがほんの少し怯む。そんな隙をハチマンは逃さずにゴライアスの腕に着地し、駆け出した。それに対してゴライアスは自分の腕を登ってくる異物を払おうとその腕を大きく上げよう、としたその前に。
「
ハチマンが魔法を唱えハチマンの足元が爆発する。その爆発はハチマンの体を弾き飛ばし、ゴライアスの眼前まで加速させた。
『っ!?』
いきなり目の前に現れたハチマンにゴライアスは驚き僅かに硬直する。そしてその間にハチマンはゴライアスの目に一閃を放つと距離をとるようにゴライアスを蹴りちょっと離れたところで着地する。
『——————————っ!?』
ゴライアスは目に攻撃をもらい、その場で声にならない悲鳴を上げ地団太を踏んでいた。そんなゴライアスを目にしたハチマンはそっとその瞼を下した。そして覚悟を決めるように降ろされたその瞼の奥でハチマンは思考する。
(ゴライアスを倒すほどの火力がある魔法は俺にはない)
それは前から思っていた【サラマンダー】の弱点。決して弱いわけじゃないがベル同様に必殺の面で劣り、強大な敵に対しては明らかに火力が不足していた。
(だからと言って逃げられない。それに何よりもうそれを選択することを俺が許さない)
逃げてしまった。あの瞬間挑むことすらせずに諦めてしまった。それが悔しかった。そしてその拳を受け気絶すると言う失態を犯した。しかしそれもものの数秒でそこからすぐに復活し、ゴライアスの攻撃を避け続け、攻撃し返すなど誰が弱いと言おうか。それでもハチマンは自分自身を許さなかった。
(なら今挑もう。全身全霊を持って)
ハチマンは覚悟を決めた。言ってしまえばゴライアスが片目の視力を失ってその痛みで暴れまわっている今、全速力で出口を目指せば逃げ切ることは出来た。しかしハチマンはその選択をせずに闘うことを選んだ。
これで死んでもいい。だから全身全霊全力を持ってこの化け物に一矢報いようと。高みを目指すならこの程度超えて見せる、と。きっと高みにいるアイズ・ヴァレンシュタインならそうする、と。
ハチマンはゆっくりと瞼を上げおもむろに【
それはイメージ。これまでは斬れればいいと思い、イメージを適当にしていた。しかし今この時は武器のイメージを明確にしていく。たいして意味はないかもしれないそれでもハチマンはイメージをやめない。
イメージするのはアルゴノゥトが使っていたと言う剣。友から借り受け、格上を撃破した炎の剣。それを頭の中でイメージする。
「
ハチマンが呟くと同時にティポはどんどんと変化していき、黒と赤の刀身を持つ剣へと変わり時代を超えクロッゾの炎の剣が顕現する。
「
さらに魔法を唱え、体に炎が纏わりついていく。これまでとは比べ物にもならないほど猛り狂った炎が。
その身を焦がさんほどの炎は驚くことに更に火力を上げていく。その原因はティポにあった。
『ああ、悔しいなぁっ』
ティポはハチマン同様悔しがっていた。こういう強敵と相対するとき何もできないことが。だからせめて持てる全てを使ってハチマンに貢献しようと。
『これくらいしかできないけど、きっと役に立つようになるから許してねっ!!』
だからせめて、と自信が持てる力全てをつぎ込み魔法の効果を上げた。ハチマンの考えを理解したから限界を超え猛り狂わせた。
ここで二人の心情は一致した。自分たちには火力がない。ゴライアスを倒すほどの決定打がない。
なら、作ればいい、と。
ハチマンはイメージで剣を作り出し、魔法を唱えた。ティポはその魔法の効果を底上げした。
そして更にハチマンは魔法の上から剣にこれまでのすべてのダメージ付与を行った。
真っ赤な刀身はさらに赤く染まりながらも黒き輝きを纏う。準備は整った。今出せる持てる全てを使った。
だから行こう。
すでにゴライアスはダメージから回復しこちらに拳を振るっていた。なら自分も振るおう最高の一撃を。
「アアァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
獣のような雄叫びを上げ、ハチマンはその剣を強く握りしめた。背中が熱く燃えた。体が想いが願いが望みがそのすべてを燃やしてハチマンはその拳に向けて全力で下から上へ斬り上げた。
「——————————ッッ!!!」
瞬間黒い大斬撃がその場に開放される。主が願った意志をその精霊が望んだ結末を全うしようとゴライアスの拳へと迫り昇っていく。
その場にいたものは全員が目を塞いだ。その斬撃の眩しさに。荒れ狂う炎の輝きに。放ったハチマンですらその目を閉じ膝をついた。
そして数秒後輝きはどんどん収束を見せていく。全員の目が開かれ視界に収めたその光景に誰もが言葉を失った。
結果だけ言うならゴライアスは立っていた。しかしその姿は無残なものだった。
ハチマンに向けて放っていた右腕は斬撃によりすべて吹き飛び、その勢いはとどまることを知らなかったのか顔、そして右胸を吹き飛ばしていた。明らかに瀕死状態。まだ立っていることが、灰に変わっていないことがおかしいくらいに。
Lv2がLv4のゴライアスを倒した――――――――――。
その事実に駆けつけていた【ロキ・ファミリア】の面々はそれぞれ反応を示していた。それでも全員がそろって凄いと称賛の言葉を心に浮かべていた。それは誰もが認める偉業だった。
しかし一人だけそれを認めなかった。
(ああ、やっぱダメか…)
ハチマンは倒れ行く視界の中でゴライアスの姿を目に収めながらそんなことを考えていた。
たしかにゴライアスを瀕死状態に追い込むことは出来た。あともう少しすれば灰に変わるであろうことは確実だった。でもハチマンは勝ったなんて思っていなかった。
一度は気絶し再戦して全てを出し切ってなお先に膝をついたのは自分だと。それは勝利ではないと。
(もっと…強く…まも、る…)
そんな思いを胸にハチマンは気を失い地に伏した。そしてそれを見届けたかのようにゴライアスも灰に代わり巨大な魔石がごとっと音を立て地面に落ちる。
***
黒く紅い光が収縮した後【ロキ・ファミリア】の面々は立ち尽くしていた。全員が驚愕に瞳を染め、ただハチマンの姿を眺めていた。そんな中で二人が驚愕しながらも冷静にハチマンを見ていた。
(ああ、彼は…彼らは本当にいい)
その勇気に最後に見せた覚悟の瞳に【勇者】フィン・ディムナは称賛を送った。
(彼らが欲しい)
それと同時に彼らが自分と同じファミリアに居たら、なんてことを妄想してしまう。
そしてもう一人【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインもその背中を他とは違う目で見つめていた。
(すご、い…)
普段のアイズならば何故そんなに早く強くなれるのか、と疑問に思っただろう。なんなら嫉妬すら覚えたかもしれない。しかしアイズの思ったことはそんな事じゃなかった。
二度目の冒険。しかもミノタウロスよりも強大で明らかな格上。そんな相手に勇気を出し思いを燃やし、撃破したハチマンの背中に英雄の姿を幻視していた。昔自分の前に現れず諦めた英雄の姿を。
「…彼を連れ帰る」
ハチマンが倒れた所でフィンが声を出し場を支配していた沈黙を破る。
その当初の目的を告げられた全員がはっとし、すぐに動き出しハチマンの元へ向かった。
「だ、団長ゴライアスの魔石は…」
「あれは一応回収しよう。この手柄は彼、ハチマン・ヒキガヤのものだからね。僕達のテントで保管しておこう」
フィンは団員にゴライアスの魔石を回収し、保管することを命じ力に自信のあるガレス、ティオネ、ティオナが魔石の元へと向かう。その間に倒れたハチマンを回収し【ロキ・ファミリア】は無事ハチマンの救出(?)を達成し自分のテントへと帰っていった。
一人ハチマンの姿を近くで見て胸をドクンッ、と高鳴らせたものに気付かぬまま。
(…?)
そして本人もそれに気付かぬままに。
感想お待ちしてますっ!
質問について
-
全然いい
-
小分けがいい