やはり俺が強くなることは間違っているだろうか   作:149

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#25 対面

最初に感じたのは、果てしない体のだるさだった。

泥のような倦怠感が体に纏わりつき、深い微睡にとらえられていた。覚醒の境界線を行ったり来たりを繰り返している内に、意識はゆっくりと浮上していった。

瞼が上がり、ぼやけた視界が開けていく。

頭が空っぽなのも数秒、瞬きを二三度繰り返す。視界に入るのは布地の天井、恐らくテントか何かの中。その天井を暫く眺めた所で思考がはっきりし余裕が生まれた頃に目を見開いた。

 

「ベル、っ!?~~~~~~~~~~~~~~~~がっ!?」

 

中層からの逃亡劇、出現したゴライアス、気力を振り絞った最後の一撃。全てを思い出し、跳ね起きるように体を起こした瞬間、激しい痛みが体を突き抜けた。

 

「「「ハチマン(ハチマン様)っ!?」」」

 

起き上がった瞬間体を丸め、喉から声にならない悲鳴があふれ出る。恐らく体の酷使による酷使の限界。その声で俺に気付いた誰かが名を呼び、頭がおかしくなったような動きをしながらもなんとか視線をそちらの方へ向ける。

 

「ベルっ…?」

 

視線を向けるとベル、リリ、ヴェルフが俺の事を涙を含ませた瞳で見ていた。

 

「ハチマン…無事で、よかった…!」

 

「ハチマン様ぁ!!」

 

「この、馬鹿野郎っ!」

 

ベルは今にも泣きそうな顔で、リリは泣き出し二人そろって俺に飛びつき、ヴェルフは涙を光らせながら男前に笑みを浮かべた。

 

「~~っ!?」

 

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」

 

「ごめんっ、ごめんハチマン…」

 

飛びつかれ体に激痛を走らせる中でリリとベルは謝罪の言葉を並べていく。

 

「おいっ、リリスケっ、ベルっ!ハチマンが苦しんでるっ!離れろ!」

 

「えっ…?っ!す、すいませんハチマン様っ!」

 

「ご、ごめんっ」

 

「…っいや、?大丈夫、だぞっ?」

 

「そんな脂汗を流しながら胸を押さえてる奴が大丈夫なわけあるかよ…」

 

ヴェルフに指摘されベルとリリは飛び退き、胸を押さえながら痛みに堪える。

 

(何でこんな痛みが…)

 

『精霊の奇跡の使い過ぎだよ』

 

(うおっ)

 

心の中であまりの痛みに疑問を浮かべているとティポがそれに答える。

 

(使いすぎっ…?)

 

『うん。君は精霊になってるとは言え、身に余る力であることに変わりはないんだよ。使いすぎれば器が傷付く。それで今回は使いすぎた。だから君の体は今ボロボロ』

 

(なるほど…)

 

ティポの説明に俺は納得しこの痛みを受け入れる。考えれば簡単な話だ。

体力や魔力を使うとは言え傷を全部治すにしては軽すぎる代償。使いすぎれば何かしらの代償があってもおかしくない。それがこの痛み何だろう。しかも蓄積できるわけでもなくただただ痛いだけ。

 

しかもゴライアスと戦って気付いたのだが発展アビリティ『理性』はあらゆる耐性があるみたいだ。その中に痛覚耐性もあり、痛みに耐えることができるというもの。だから中層を普段と変わりなく駆け回ることができたのだ。と言っても痛いことに変わりはなく体制を超えた痛みは普通に我慢できないっぽい。つまり今我慢できないくらい超痛い。

 

『多分一日くらい安静にしてたら多分治ると思うよ』

 

(了解…)

 

「ハチマン、大丈夫か?」

 

「おう」

 

ティポとの会話を終え一息ついたところで、ヴェルフが声をかけそれに対して答える。その間にもリリとベルは泣き続けており、謝罪の言葉を俺に呟いていた。

ヴェルフに話を聞いていくとベルはなにも出来なかったこと、リリは気絶したことを気にしているらしい。自分達が弱かったせいで、自分が気絶したせいで俺を危険な目に合わせてしまったことと自身を責めていた。そう事情を話しているヴェルフも顔を悔しそうに歪めていた。

それに対して俺は気にするな、と声をかける。

 

「まあ、気にするなって言われても無理だと思うけど本当に気にしなくていい。だって俺が気にしてないしな」

 

「で、でも…」

 

「なら次俺が危なくなったら助けてくれ」

 

「!」

 

「俺は基本的に動きたくないし働きたくない。だからその時は頼むわ」

 

「うんっ!」

 

そう言うとベルは瞳に光を灯し強く頷いた。

心の中でティポが『絶対頼んないし危ないことには出来るだけ巻き込まないくせに』と悪態をついていたが気にしない。

 

「リリもだ」

 

「っ!」

 

声をかけるとリリはビクッと身を震わせ、恐る恐ると視線を上げる。

 

「でもリリはハチマン様の足を引っ張ったんですよっ…?しかもあんな場面で気絶して命を危険に晒してっ…」

 

「だから気にするなって」

 

そう言いリリの頭に手を添える。一瞬やべと声を出しそうになるがなるようになれ、とコマチにやるように頭を撫でる。

 

「足を引っ張ったなんて思ってないしベルにも言ったけど気にしてない。それより一番きついはずなのによくあそこまで弱音を吐かずに耐えて、このパーティーを引っ張ったりすげえよ。Lv1の俺なら弱音吐きまくって諦めてたね、確実に」

 

「…」

 

「だから気にすんなお前は凄いことをした。褒められることはあっても責められるようなことは何もしてねえよ」

 

そう言って頭にのせた手を動かし撫で続ける。

確かに自分を許すことは出来ないだろう。それでもそれを軽減させることは出来る。俺程度にそんな言葉の力があるとは思えないがそれでも無いよりはましだろう。

 

そんな俺の行動や言動にリリは目を細めその瞳から更に涙をこぼす。

 

「泣くなよ。それに目こすったら赤くなるぞ?」

 

俺はリリに近寄ると袖を掌まで上げ、それを目元まで近付け涙を服の袖に吸わせる。汚いかもしれないがハンカチがないのでこれで許してほしい。

 

「…ありがとうございます…」

 

俺にそう言われリリは涙を堪え鼻声になりながらも感謝を述べた。その様子にもう大丈夫だろうと判断し手を放そうとしたところで―——————————————リリにその手を掴まれた。

 

「あの、リリ…さんっ?」

 

「…………………もう少しだけお願い、できませんか…?」

 

消え入りそうな声しかも上目遣いで頼まれ「お、おう」ときょどりながらもまたその手を戻し動かすとリリは気持ちよさそうに身を捩じらせる。

何とも言えない空気が流れヴェルフはにやにやとベルは微笑ましいものを見るかのように笑みを浮かべた。取りあえず決めたことは後でヴェルフを絶対しばく。

 

そしてなんやかんやで引き際を見失っていつやめればいいんだっ?と考えているとこのテントに近付いてくる足音が耳に入る。

 

「大丈夫…むっ」

 

その足音はこのテントの前で止まり影を落とすと入り口を開く。そしてその人物はテントに入ると同時に言葉を投げかけ、何故か俺の方を見て表情をむっとさせた。

それで俺はというとテントに入ってきた人物の姿に目を見開き驚いていた。金色の瞳にその瞳と同じ色で揺れ動く長髪。今は変わっているが人形のようにきれいな表情。そこにはいつぞやの市壁で何度も見たアイズ・ヴァレンシュタインがいた。

 

どうしてここに、と問いを口から出す前に、アイズさんが動き出し唖然としている俺の前に、詳しくはリリの隣に座り込む。その行動に俺だけでなくベルやヴェルフ、リリまでもが疑問符を浮かべ驚く。

 

「?」

 

そしてその行動に固まっていると何故かアイズさんまで疑問符を浮かべた。

 

「撫でてくれないの…?」

 

「??」

 

「????」

 

その発言にベル達はぎょっとし、俺自身もぎょっとした。そして必死に理解しようと思考を巡らせその言葉の真意に気付いた。

要約すると恐らくこんな感じ。

俺がリリを撫でている→俺の前で撫でている→前に言ったら撫でるシステムなのでは?→「?(横に来たのに)撫でてくれないの…?」←NEW

 

要するに撫でられに前に座ったらしい。うん、なんで?

 

「ダメ…?」

 

全く微動だにしなかった俺に対して不安になったのかそう言葉を漏らした。それに対し理解はしたものの理由も意図もさっぱりわからず困惑しながらもなんとか言葉を捻り出す。

 

「別にダメってわけじゃないですけど、ね?」

 

「?」

 

「いやその…なんで?」

 

「?私がしてほしかったから?」

 

「なんで疑問形なんですか…?」

 

それでもなお動こうとしない俺にアイズさんはあからさまにしゅんっと落ち込む表情を見せる。それに焦った俺はちらっと助けを求めるようにヴェルフたちの方を見ると…

 

『頑張れ』

 

『行け』

 

ベルは両の拳を胸まで上げぐっと握りしめ応援し、ヴェルフはこれまで以上にいい笑顔でサムズアップしてきた。前者はともかく後者は面白がってるだろ。本当に殴っていいこの人。

 

「だめ…なの…」

 

「ぐっ…」

 

そこまで言われ覚悟を決めた俺は恐る恐る手を伸ばしアイズさんの頭にのせる。

 

「!」

 

頭に乗った感触に驚いたのかアイズさんは顔を上げ目を見開き俺を見ていた。しかしそれもすぐで俺が手を動かし始めると目を細め気持ちよさそうに表情を崩した。

 

(なんなんだよこれ…後いつまでやればいいんだよ…)

 

結局顔を真っ赤にして頭を撫で続ける少年と、それを気持ちよさそうに受ける少女達、そしてそれを見守る少年達と言う奇妙な光景が繰り広げられ、それはあまりにも遅い伝達役の少女の帰りを訝しんだリヴェリアママ(保護者)が来るまで続けられた。

 

***

 

「本当にすいませんでした」

 

俺は今【ロキ・ファミリア】のテントで土下座を繰り広げていた。そのお相手はというと…

 

「いやいいよ気にしないでくれ」

 

苦笑いを浮かべる【勇者】(ブレイバー)フィン・ディムナ。

 

「聞けばアイズの方からお願いしたらしいじゃないかだから気にする必要はない。それに対してお前は全く…」

 

「他のことに興味を持ってくれることは嬉しいが…」と呟きをこぼし頭を抑える【九魔姫】(ナインヘル)リヴェリア・リヨス・アールヴ。

 

「がははっ、中々面白い奴じゃなこの若造は!」

 

豪快に笑い飛ばす【重傑】(エルガルム)ガレス・ランドロック。

 

「笑い事じゃありませんガレスさん!流石ベル・クラネルと同じファミリアなだけあってよもやアイズさんの頭を撫でようなんて…不潔です!」

 

それに対し、というか俺に対して怒りを見せる【千の妖精】(サウザンド・エルフ)レフィーヤ・ウィリディス。てかベルなにしたの?

 

「まあまあ落ち着きなさいよ」

 

それを宥める【怒蛇】(ヨルムンガンド)ティオネ・ヒリュテ。

 

「そうよレフィーヤ。アイズの方からお願い?したみたいだし」

 

それに同調し一緒に宥める【貴猫】(アルシャー)アナキティ・オータム。

 

「でもすごいよね~っ!中層進出と同時にもうここまで来ちゃってっ!」

 

話を変え称賛の言葉を送ってくれる【大切断】(アマゾン)ティオナ・ヒリュテ。

 

「ほんとっす。しかもゴライアスを単独撃破して、それが自分より年下でLv2になりたてなんてしんじられないっす…」

 

【大切断】(アマゾン)の言葉に同意し、いろんな感情のこもった視線を俺に投げかける【超凡夫】(ハイ・ノービス)ラウル・ノールド。

 

「ごめんなさい…」

 

そして俺の横で一緒に謝っている【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

計九名の【ロキ・ファミリア】の中でも上位に君臨するメンバーの前に俺はいた。

何故俺がここで土下座しているのかというと、どうやらアイズさんは俺が起きたことに気付き呼びに来たらしいのだが、撫でられている内にそれを忘れてしまったらしい。そしてあまりにも遅いアイズさんを心配したリヴェリアさんが俺たちのいるテントまでやってきて入り口をくぐった瞬間———————————固まった。

 

それはそうだ。テントをくぐれば呼びに行ったはずのアイズさんが俺に撫でられているのだから。しかもリリも。

リヴェリアさんは暫く信じられないようなものを見る目でアイズさんのことを眺め、溜息を吐き出した。

 

それによりアイズさんはリヴェリアさんの存在に気付き、目的を思い出したのか顔を一気に青ざめさせていた。そして俺も顔を青ざめさせた。殺られる、と。それに酒場で喧嘩を売った前科もある。

 

なのでテントに入った瞬間土下座をかました訳だ。

 

その後もしばし頭を下げているとディムナさんに頭を上げてくれと言われ頭を上げる。

 

「いいんですか?自分で言うのもあれですけど喧嘩売った人間ですよ?」

 

「喧嘩…?ああ、酒場での一件のことかい?ならなおさら気にしなくていい。悪いのは全面的にこちら側だからね」

 

その後逆にミノタウロスの一件などの謝罪され、俺は気にしてない旨をきょどりながらも伝えた。

 

「それじゃあまず自己紹介でもしようかな?」

 

そこからはお互い自己紹介が始まり全員の名前と呼び方の交換を行う。その結果全員を上の名前で呼ぶことになり、敬語はなしでいいと言われたがそれは流石にまずいと俺は遠慮した。まあ、喧嘩はうっっちゃったんですけどねっ!

 

「君達の概ねの状況はベルや君たちのパーティーにいたヴェルフ・クロッゾやリリルカ・アーデから聞いている。中層進出のその日に十八階層まで進出、なおかつゴライアスの単独討伐、同じ冒険者として感嘆の息を漏らさずにはいられないよ」

 

一瞬出たクロッゾの名前にハイエルフであるリヴェリアさんが反応するがすぐに平静へと戻る。

そして俺はフィンさんのゴライアスの単独討伐と言う言葉に思わず顔を歪めてしまう。

 

「?どうしたんだい?」

 

「いや…」

 

言い淀んでいるとその様子に全員が疑問符を浮かべる。

 

「そうだ、君が倒したゴライアスの魔石は僕たちが保管しているから後にでも…」

 

「いや大丈夫です」

 

「…いらないのかい?」

 

「そういうわけじゃないんですけど…俺はゴライアスに勝ったわけじゃないですから」

 

「え、?でもハチマンの攻撃で死んだんじゃ…」

 

「まあとどめを刺したのも俺だし闘っていたのも俺だけです。それでも俺はあいつに勝ててなんかいないですよ。先に膝をついて倒れたのは俺だし、何よりその前にゴライアスの攻撃をもろに食らって一回気絶してますし、そんな状況で勝っただなんて思えないし思いたくない。だからいらないです」

 

俺のその言葉にガレスさんは「ほお…」と目を細めひげを触りながら感心したように息を零し、それ以外の全員は驚いたようにハチマンを見ていた。

Lv2がLv4のゴライアスを単独で撃破、しかも世界最速でのランクアップまでしている。正直【ロキ・ファミリア】の面々はハチマンが天狗になっていると思っていた。それもしょうがない自分たちなら絶対なっていると。

しかし実際はどうだろうか。天狗になるどころかゴライアスを倒したことで満足せずにさらに上を目指していた。その姿勢に全員がハチマン・ヒキガヤと言う人物を見直した。

とそこでいち早く冷静になっていたフィンがおかしなことに気付く。

 

「…待ってくれ、ゴライアスの攻撃を食らった?」

 

全員が一瞬フィンの方に視線を移し、その言葉の意味を理解した一同は直ぐにばっと首を動かしハチマンへと視線を戻した。

 

「く、食らいましたよ?」

 

「…どんな風に?」

 

「こう、思いっきりぶん殴られました」

 

ハチマンが言ったその言葉に全員は感心を通り越して呆れた。なんでLV2がゴライアスの攻撃をもろに食らって生きているのか、と。

 

「…ガレス、君に彼と同じことができるかい?」

 

「今なら可能じゃろうな。しかしLv2でしかもなって二週間など確実に無理じゃ」

 

「だろうね…よく生きていたねハチマン」

 

「まあ…気合?」

 

ぽかん、と一瞬の間を置き一人が笑い始める。

 

「がっはっはっはっ、確かに間違ってはおらんわいっ!フィン、リヴェリア、やはりこの若造は面白いっ!気に入った!」

 

「ガレス、否定はしないがこの場は内輪だけではないんだ。抑えてくれ」

 

ガレスさんは膝を叩きながら爆笑し、そんなガレスさんに対してリヴェリアさんは片目を閉じ注意を促す。

そんなことは関係ないと言わんばかりに同族に言うようにガレスさんは俺とベルのことを褒めちぎり、それがどうもむず痒くなってしまう。

 

「あれ?でもゴライアスの攻撃食らった割には怪我が少ない気が…」

 

「…あ」

 

「確かにおかしいわね…」

 

「い、いや?そんなことないでしゅよっ?」

 

ティオナさんの発言に姉のティオネさんが訝しみ俺の方をジーっと半目で見つめる。それに対して俺は完璧に誤魔化し、事なきを得ようとした。何故か全員が苦笑いを浮かべてるけど。

 

「ティオネ、あんまりいじめないであげてくれ」

 

「はあい、団長っ!」

 

フィンさんがそういうとは一転、ティオネさんは猫撫で声のようなものをだし追及することをやめた。

 

「君がいらないというなら僕達がもらうけどいいかな?」

 

「ええ、大丈夫です。ここでの宿代だとでも思って…」

 

「そうか…感謝するよ。恥ずかしい話今回の遠征は赤字続きでね正直助かるよ。…それじゃあ色々と気になることはあるけど話を戻そう。僕等の方は見ての通り、ここで休息をとっている。本来なら、『遠征』の帰りとは言え十八階層にはとどまらず、一息に地上へ帰還してしまうんだけど…帰路の途中で、モンスターから厄介な『毒』をもらってね」

 

フィンさんの話によると、途中の階層であるモンスターの群れに強襲され、第一級冒険者を除いた、所謂下っ端の団員の多くが『毒』に侵されてしまったらしい。遠征の帰りで物資を多く消費しており、解毒することができず、事実上行動不能に陥っているのだそうだ。

それで足の速い者に解毒剤の調達を頼み、それを待機しているらしい。

 

「それでここからが本題だ」

 

フィンさんは表情を変え一気に空気が変わる。

 

「どうやらアイズによるとダンジョンに精霊が入り込んだらしい。しかもその精霊は十七階層まで迫っていたらしい。何か知らないかい?」

 

精霊と言う単語が発せられた瞬間全員の顔に緊張が走り、アイズは小さな声であっと声を漏らした。

そういえばその精霊の正体がハチマンだって言ってなかった、と。しかしこの空気で切り出すわけにもいかず、何より自身ですら話せていない秘密をこんな大勢の前で暴露するわけにはいかないとアイズは一人でオロオロしていた。

しかしそんな空気を認識しながらも読まないのがこの男。

 

「ああ、それ多分お—————————————」

 

アイズは言っちゃうのっ…!?と驚き、ばっとその正体を口にしようとした事にその他はぎょっとしながらもその言葉を続きを待ったが————————————。

 

「むぐっ!?」

 

その言葉が続くことはなく止められる。

 

他ならぬハチマンの手で。

 

「「「「「「「「「「「??」」」」」」」」」」」

 

いきなりの俺の奇行に全員が何をやっているんだこいつと言う視線を飛ばし、俺自身も何をやってるんだ俺と疑問符を浮かべる。そしてその奇行の正体にはすぐ気付いた。

 

(なにすんだよティポ)

 

『君こそ何やってるのさっ、こんな大勢の前で秘密をばらそうと馬鹿なのっ!?任せるとは言ったけど人は選んでっ!?』

 

(いやフィンさんだし…)

 

『確かに何かするような人達とは思えないけど、ほぼ初対面だよっ!?』

 

(…酒場で会ってるぞ?)

 

『喧嘩吹っ掛けたのを初対面と呼ぶなっ!!』

 

ティポに心の中で叱られ(はい…)と返事をし、若干項垂れる。

 

「その…ハチマン?」

 

「あ、いやなんでもないです」

 

「?そうか。なら精霊の事なんだけど…話せるかい?」

 

「いや、俺にはちょっと何のことだかわからな…いって訳にはいきませんよね?」

 

叱られた結果何とか誤魔化そうとするとティオネさんが視線で人を殺せそうなほど睨んでくる。その他の人たちも僅かに怪訝な顔をしていた。そりゃそうだ話すと思ったらそれを自分で阻止して話せないなんて言うのだから。なんかこれだけ聞くと頭おかしい奴だな俺。

 

(話しちゃダメか?この人達すごい怖い特にティオネさんが)

 

『…よし、しょうがない。ヴェルフ君を売ろう』

 

(お前な…)

 

「ハチマン」

 

「!は、はい」

 

「どうしても話せないことかい?」

 

「…ヘスティアの意見を聞かないとなんとも」

 

「…そうか」

 

実はヘスティアにもティポがいることをあまり話すなと厳重注意されており、それをとっさの逃げ道として利用する。まあ人選は任せると言われてるんだけど。

 

俺のその台詞にステイタスに関わることか、と全員が納得する。ただ最高幹部の三人は何かに気付いたように目を細め視線を送る。

 

「…なるほど、大体の事情は把握したよ。アイズがなつくわけだ」

 

「は、はあ?」

 

「話せない、と言うなら仕方がない。この話はここで終わろう」

 

フィンさんがそう言うとわずかに空気が弛緩し、肩の力を抜く。

 

「短い間だけど僕達は君達のことを客人としてもてなそう。周りと騒ぎを起こさなければあのテントは自由に使っていい。団員達には僕が伝えておくよ」

 

「…何から何までありがとうございます」

 

言葉にありったけの感謝を乗せ、お礼を告げる。ゴライアスの魔石ももらったしね、と笑いながら言ってくれたフィンさんに、もう一度感謝を述べ、立ち上がろうと膝に手をかけ力を入れる。

 

「あっ、~~~~~~~~~~~~~~ぐっ!?」

 

体中がボロボロなことを忘れ普段通り立ち上がろうとして激痛が体中に走り小さい悲鳴をこぼす。

 

「大丈、夫?」

 

その様子にアイズさんが俺に駆け寄り言葉を投げかけられる。見ると全員が心配そうに俺のことを———————いやレフィーヤさんはなんでか睨んでた。本当に何したのベル。怖いんだけど。

 

「大丈夫ですよっ?超、元気です…!」

 

「「「「「「「「そんだけ脂汗をかいてる人を大丈夫とは言わないよ(言うわけないだろう)(言うわけないじゃろう)(言わないわよ)…」」」」」」」」

 

ヴェルフと同じような突込みをされるがそんなことを気にしてる余裕はない。と言うかアイズさんが怖い。

実はテントの中で立ち上がろうとしてもろくに身動きが取れず、ここまでアイズさんにおんぶして運んでもらっていた。

俺が提案したわけじゃなくアイズさんが「運ぼう」と言い出し無理矢理俺をおんぶしようとした。勿論抵抗はしたがアイズさんが裏切者AとBに声をかけ取り押さえられ抗うことが出来ずにおんぶされることになってしまった。

 

そんなのご褒美だろっ!と言われるかもしれないがいや最初俺も思ったこんな美人にされるならいいんじゃないかと。でもロキファミリアの視線がやばいのだ。特に男性陣とレフィーヤさんの視線が。ものすごい目立つし、あんだけ殺気だった目線を送られるのはもうこりごりだ、とアイズさんの魔の手から逃れようと無理矢理立ち上がる。

 

「また運んで…」

 

「いや、大丈夫ですよっ?ほらっこうやって何の問題もなく立ち上がれましたしっ」

 

大嘘である。問題だらけである。激痛が常に走り、嫌な汗がぶわっと噴き出している。

 

「無理は、ダメ…しっかり、休まないと」

 

休む、という単語が出た瞬間ロキファミリア陣営の表情が変わり目が見開かれる。リヴェリアさんに関しては「あのアイズが…休むという単語を…?」とまで呟きを残していた。

 

「大丈夫ですから、アイズさんの手を煩わせるわけにもいきませんし…」

 

「むっ」

 

「えっ?」

 

どうにか逃れようと言葉を繋げているとアイズさんが何故かまたむっとする。

 

「その喋り方、いやだ」

 

「喋り方?」

 

「うん。呼び捨て、でいい」

 

「いやそれは…」

 

「あの時は呼んで、くれたのに」

 

「あの時、ですか?」

 

「あの、ミノタウロスの時…」

 

「…もしかして呼び捨てにしてました?」

 

「してたよ?『そう言うことだアイズ。退いてくれ』って」

 

そう言われ記憶を探ってみると確かに言った記憶はあった。

 

「いや、あれは余裕がなかったからで…」

 

「余裕がなかったら、呼ぶの?」

 

「えっ?」

 

「そっか。なら、戦おう?」

 

「……えっ?」

 

アイズさんは腰に差しているサーベルに手を添えながらじりじりと近寄り、俺は激痛に耐えながらじりじりと距離をとっていく。ヤバいこの人ガチだ。

 

「くっ…ふふっ…」

 

「…リヴェリアそんな笑ってないで、彼を助けてあげたらどうだい?」

 

「ふっふふ……ふぅ、いやすまないアイズの珍しい姿につい、な」

 

笑っていたリヴェリアは冷静になると「アイズ」と声をかけ手をこまねく。アイズさんもそれに従い、リヴェリアさんのもとに駆け寄り、一発拳骨を食らわせると耳を貸すようリヴェリアさんが指示しこそこそと話を始めた。

 

「?…!」

 

アイズさんは最初こそ怪訝な顔を浮かべていたが、だんだんと表情が変わり納得したように、ぽんと手を叩きリヴェリアさんから離れた。そして何故かリヴェリアさんから離れるとまた俺の方へと歩みを進めてくる。

 

(変なこと教えてませんよね…?)

 

一筋の希望をかけ、恐る恐るリヴェリアさんの方を見ると———―—————滅茶苦茶にやけ顔のリヴェリアさんがいた。その表情を見てあ、だめだこれと察した瞬間アイズさんは俺の横に並び首と膝裏に手をかけ…

 

「うっ!?」

 

首に回された手で下に引っ張られ、膝に回した手は上へと引っ張られる。その力に首の方から倒れこみ、アイズさんはそのまま支えた俺を持ち上げた。つまりお姫様抱っこである。

 

「あ、あの…アイズさん…?」

 

「このまま、テントに戻ろう」

 

「やめてください」

 

「いやだ、?」

 

「いやです」

 

断固とした意志を持ってそう述べた。

お姫様抱っこでかえるだって?そんなの行きより注目されて殺意は数倍になるにきまってる。なにより現段階で恥ずかしいし、レフィーヤさんがやばい。「アイズさんにお姫様抱っこしてもらうなんてっ…!」と本当に殺されるんじゃないかと思うほど殺意をまき散らしていた。若干回り引いてるし。

 

「じゃあ、呼び捨てで呼んで?」

 

「……………アイズ」

 

背に腹は代えられないと呼び捨てで呼ぶと嬉しそうに表情を煌めかせ降ろしてくれた。

 

「もう勘弁してください…」

 

「敬語も、なし」

 

「いやそれは流石に…」

 

「もう一回、やる?」

 

「任せろ敬語なんていらねえもんな」

 

「うん、ありがとう」

 

「アイズにはそうするのかい?なら僕の事も呼び捨てと敬語なしで頼むよ。君とは対等な関係を築きたいからね」

 

「ああ、そうだな。なら私もお願いしよう」

 

その二人の言葉を皮切りに「じゃあ私も~っ!」っと続き、全員がそうするようにお願いしてきた。

 

「ふざけないでくださいよフィンさん…」

 

「アイズにはして僕達にはしてくれないのかい?ならしょうがない————————やれ、アイズ」

 

「わかった」

 

「どうしたフィン、俺達の間に敬語なんて不要だもんなっ!」

 

「分かってくれて何よりだよ」

 

「勿論私たちのことも呼び捨てで呼んでくれるのだろう?」

 

「当たり前だろ?リヴェリアにガレス、ティオネ、ティオナ、ラウル、アキ、レフィーヤ、これで満足かっ?」

 

リヴェリアを呼び捨てにした所レフィーヤからの殺気が増した気がするが気のせいだろう。

ちなみにレフィーヤも呼び捨てした理由は

 

「私は別にいいですっ」

 

「レフィーヤも呼び捨てにしてほしいみたいだ」

 

「リヴェリア様っ!?」

 

という流れになり呼び捨てにしていた。

 

「それじゃあこれからは対等な関係を築いていこう」

 

にこっといい笑顔を浮かべるフィンさん。悪魔だなこの人。

 

「それじゃあ、いこう」

 

「待て、だから一人で…」

 

「またする?」

 

「…おんぶでお願いします」

 

もう何言ってもダメなんだろう、と悟りまだましなおんぶを選択した。そしてそのままアイズさんにおんぶされ、俺達はテントを出た。

 

***

 

 

 

 

 

 

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