「フィン、どう見る?」
アイズとハチマンがテントを出てそれに続くように人が出ていき、最高幹部の三人だけがその場に残っていた。
そんな中リヴェリアはフィンに問う。
「彼の反応を見るにアイズと同じだろうね」
「アイズと同じ、と言うことは精霊の血が流れてるということかの?」
「多分そうなんだろうけど、何か引っかかる」
「また勘か?」
「うん、勘だけどそれだけじゃない気がする」
全員がハチマンに対して思考をめぐらせるが、すぐにそれを打ち切った。
「まあ、いくら考えても仕方ないだろう。確かにお前の勘は無視できないものがあるが今は分からないことが多すぎる」
「そうだね。それに神ヘスティアに許可を取れば知ることは出来るみたいだしね」
フィンはハチマンの言っていた「…ヘスティアの意見を聞かないとなんとも」というセリフを思い出しながらそう呟く。
「地上に帰ったらホームに呼び入れる気か?」
リヴェリアのその質問にフィンは静かに頷き、肯定の意を示した。
あの時若干話をそらされた感じは否めなかったが、その結果ハチマンから言質は取れたので地上に帰ったら彼等をホームに招き入れ話を聞こうと考えていた。
「…いいのか?他の派閥をホームに招き入れる真似などして」
「このテントに招き入れている時点で今更だ。それに僕は彼等を買っているし、君等もそうだろう?」
「がっはっはっ、まあのう。十八階層に行く選択をした判断力、立ち向かう勇気、それをこなす程の実力に度胸、彼奴等をかなり気に入ってしまったわいっ!」
「…否定はしない。あのアイズが興味を持っているし、私自身興味がある」
リヴェリアがそう言うとフィンやガレスでさえも驚きを表情を浮かべ、リヴェリアに視線を送っていた。
「…なんだ?」
「いや、まさか君個人で興味を持っている、なんて言うとは思わなかったから」
「アイズがあそこまで懐き、精霊に何かしら関係していて、Lv2でゴライアスの攻撃を耐えうる耐久に倒す程の力もある。種族エルフとしても、冒険者としても興味を持つな、と言うほうが無理な話だろう」
それを聞き、フィンは「確かに」と苦笑いを浮かべながら同意をした。
「あの娘が自発的に興味持って動いているというのなら…何かしらのきっかけになればと私個人としては願っている。【ファミリア】の団長としてはどうなんだ?買っているとはいえ、明らかにあの二人のことを特別視しているだろう?」
「ンー、僕はアイズが変わるのはいいことだと思っているし、否定できない。どうやら想像以上に彼らのことを気に入ってしまったらしい。彼等がこのファミリアにいれば、なんて考えてしまうほどにね」
「……そこまでか」
今度はガレスとリヴェリアは驚いた。全く冗談とも思えないほど真剣な表情でそう言い放ったフィンに瞠目する。
「…傘下にでもはいってもらうつもりか?」
「それも最初考えたんだけど…彼らの主神とうちの主神の仲が、ね」
「ああ、そういえば彼等の主神は神ヘスティアだったか」
「なるほどのぉ…」
ヘスティアとロキの仲の悪さは天界だけでもなく下界でも有名な話だった。それは勿論リヴェリアやガレスの耳にも届いており、二人は納得したように呟きをこぼした。
「まあ、と言ってもそこまで深くは考えていないよ。いればいいな、くらいの気持ちさ」
暫くは彼等のことを見ておきたいかな、とフィンはハチマンが出ていった幕屋の出入り口を見やった。
***
フィンさん達との面会を終え、俺はアイズに背負われ野営地を歩いていた。
設置された天幕は複数あり、中には毒に侵されたという人が寝込んでいるのか、入り口に団員が一人ずつ立っていた。
「…」
「あ、アイズさんお疲れ様です」
「お疲れ様…」
そんな天幕の位置を把握するように見ていると、周囲を行く団員たちの数人がアイズに挨拶をしていく。
流石【ロキ・ファミリア】の幹部とだけあって色々と注目され、全員が全員羨望やら尊敬やらを含む視線を送っている。
そして俺には逆に歓迎とは程遠い視線が向けられていた。男女問わず胡乱げな視線か厳しい目付きで睨まれる。特に男性陣からはすごい。ほぼ殺気である。やだハチマン人気者。
「十八階層…」
「えっ?」
そんな視線の中で肩身の狭い思いをしていると前を向いたままのアイズが口を開く。
「もう、十八階層まで、しかもゴライアスまで倒しちゃって…」
「まあフィンの前でも言ったけど…ほぼ事故みたいなもんだし、ゴライアスも確かに倒しはしたけど認めたくはないしなあ…」
「それでも、すごいと思うよ?」
「…」
アイズはこちらに視線を送りながら含みのない声音で言葉を投げかける。
確かに世間一般で見たら凄いんだろう。それでも認めたくなかった。できればまた再戦して—————————
「おーいっ!アイズ―!ハチ君ー!」
明るい声が背中をたたく。その大きな歓声にアイズが振り向き俺の視界も反転する。
そして視界に入ったのはティオネ、ティオナがこちらに近付いてくるところだった。
「ティオネ、ティオナ…」
「へへ~っ、追いかけてきちゃった」
「はあ、ほんとにあんたは勝手なんだから…」
ティオナは追いつくと同時にえへへっと表情を緩ませた。そんなティオナにティオネは肩をすくませる。
「それにしてもLv2には上がると思ってたけど、もうここまで来たことと言い、ゴライアスのことと言い、やるじゃないあんた達」
「ねっ!ほんとにすごかったもんねっ!アルゴノゥト君と言い凄いファミリアだよっ!」
二人は褒めながら背負われてる俺の方へと近寄る。
「あっ、顔が赤くなってる可愛いー」
「いやそうな顔もして器用ねえ…」
ゴライアス討伐のことで顔を歪めながらも、露出度の高い二人の褐色の肌が視界に飛び込み頬を染めてしまう。
だってしょうがないじゃん!男の子なんだもん!だからティポさん、ゴミを見るような眼はやめてね!
ハチマンは心の中で呆れているティポさんに弁明を述べる。だってしょうがなくない?
((((————調子に乗るなよ))))
そして心の中で言い訳を述べているとどこからともなく呪詛が聞こえた気がした。と言うか近くにいる妖精は確実に呟いている。竜をも殺さんほどの視線がぐさぐさと突き刺さる。今すぐこの場から逃げ出したかった。
しかし悲しきかな今は身動きが取れず、もし逃げ出したところでアイズに捕まることは目に見えていた。そんな俺にできることはただアイズの背中で大人しくしてることだけだった。
***
うっすらと森の内部が暗くなりつつあった。
沢山の葉に遮られた頭上の奥で、光り輝く水晶の光が薄れていく。ダンジョン内での『昼』が終わり、『夜』が始まろうとしていた。
(疲れたしいてえ…)
夕焼けも残照もはさまない夜空への移り変わり。そんな幻想的な景色の中で俺はテントまでの帰路についていた。
『それは自業自得でしょほんと…』
その呟きにティポが呆れながら言葉を返した。中層からの逃亡劇、ゴライアスとの戦闘、そして【
「あ。ハチマン!おかえり!」
ティポが小言の一つや二つ継ごうとした時テントの入り口で外の様子を窺っていたベルが、帰路についていた俺に気付き声を上げ駆け寄る。
「大丈夫だった?体が治ってないのに…あれ?」
駆け寄ったベルは心配そうに俺をのぞき込んだ。しかしすぐに違和感を覚え固まった。
その反応に俺は怪訝な顔を浮かべた。
「?どうした?」
違和感を覚え考え込むベルに俺は何かついてるのかと顔を触って確認する。しかし触ったところで何か異変があるわけでもなかった。
「いやなんか違和感が…あ!」
腕を組み考え込んで数秒、その違和感の正体に気付いたベルは声を上げた。
声を上げたベルに俺は次の言葉を待ち——————
「いつもより目が腐ってる…?」
「ひどくない?」
普通に泣きそうになった。
ていうかいつもより目腐るって何?
「い、いやごめん…なんかいつもより目がどろっとしてるというか、雰囲気がどろっとしてるというか…」
ベルは俺の言葉にフォローをしようと言葉を続けていくが、言葉を続けるごとにとどめを刺していく。
どんだけドロドロしてんだよ俺。てかどろっとしてるって何?あとティポさん大爆笑するのやめようね。
「うっ…ごめん…」
どんどんと陰鬱になる俺の雰囲気にベルはしゃべるのをやめ申し訳なさそうに謝る。まぁ陰鬱になってってる理由は俺の中で腹抱えて笑ってるこのアホ精霊のせいなんだけど。
本来ならこの程度の悪口(?)気にもならないのだが、ベルは悪意なく素で言ってるので想像以上の攻撃力で俺の心を攻撃していた。
まあ、目の腐りがひどくなっている理由には心当たりがあるから結局気にしてないけど。うん全然気にしてないし別に泣きそうになってないし。
「そ、それじゃあテントに戻ろうか!!みんな待ってるし!」
俺がジト目でベルを見続けていると話題を変えるように俺の手を引っ張りテントへと連れていく。俺は特に抵抗することなく連れられベルと一緒にテントの入り口をくぐった。
「あっベル様ハチマン様おかえりな—————」
「おうハチマンおかえり——————」
テントの入り口をくぐると入ってきた俺たちに気付いたヴェルフとリリが同時に喋り俺の顔を見て固まって
「「いつもより目が腐ってるな(ますね)…」」
俺はまたもとどめをさされた。そしてティポは腹筋にとどめを刺された。ティポに腹筋なんてないけど。
「お前らな…」
「いや悪い…でもその酷いぞ?眼の状態とか雰囲気とか…」
「ええ、相当ひどいですよハチマン様大丈夫ですか…?」
心配そうに俺の顔をのぞき込む二人。見るとベルも心配そうに俺の方を見ていた。
恐らく三人は中層での逃亡劇の怪我が治っておらず無理に外に出たから悪化したと思って心配してくれているんだろう。
この三人は俺がテントに戻りある程度動けるようになった後一人で散歩に行くといった時も猛反対してたしめちゃくちゃ切れられたしなんならついて来ようとしてたし。めちゃくちゃ断ったけど。
そのせいかほら言わんことないと視線に含まれてる気がしないこともないけど。
だからこそ言えない。今、目が腐って疲れ体を痛めている原因は中層の件とは別件のことだということを。すべて自業自得だということを。そして【
となれば俺がこの二人に取れる返答は…
「い、いや何もないし大丈夫でしゅよ?」
「「「…」」」
バレないように完璧に誤魔化し隠し通すこと。そんな俺の完璧な返答に何故か三人は呆れたように半目で俺を睨むと三人で集まりごにょごにょと話を始めた。
「あれで誤魔化せると本当に思ってるんですかね」ゴニョゴニョ
「わかんない…でもすごい自信満々だよ?」ゴニョゴニョ
「まあ確かに…でも問い詰めた方がいんじゃないか?」ゴニョゴニョ
「流石にあんな無茶苦茶した後で無理はしないと思うけど…」ゴニョゴニョ
「わかりませんあの
「「確かに…」」ゴニョゴニョ
リリの言葉に心底納得という風に二人は呟く。
というか全部聞こえてるんですけど。なんかそのハチマン様悪意ない?リリさん?
「なのでやっぱりここは問い詰めた方が…」チラッ
リリが問い詰める姿勢を見せ、ちらっとこちらに視線をよこしそれに釣られ二人もこちらに視線を向ける。
俺はその目線に冷や汗を流しながら視線を逸らす。そんな俺に残り二人もとうとう問い詰める姿勢を見せた所で
「…食事の用意ができたけど、大丈夫?」
外から声がかかり、幕を除けてアイズが入ってくる。
「大丈夫ですウルトラベリー大丈夫ですいやあ、お腹減ったなあ」
「うる…?」
俺はそのアイズの乱入を好機とばかりに乗っかかり素早く立ち上がるとアイズのそばに近寄った。そんな俺の行動に三人は再度半目で俺の方を睨む。そして俺も再度冷や汗を流しながら目を逸らしアイズと目が合う。
「ハチマン…目、腐った?」
「もういいよ…それは…」
アイズがじっと俺を見た後呟いた言葉にげんなりしながら返事をし、テントを後にした。
***
「げっ、あいつ等…」
四人でアイズの後ろに並んで従っていくとすぐに野営地の中心に到着した。
開けた中心地には、たくさんの人が真ん中に数個設置された携帯用の魔石灯を囲うように大きな輪になって座り込んでいた。いわゆるキャンプファイアというやつだろう。
そしてどうやらこの大きな輪には【ロキ・ファミリア】だけでなく【ヘファイストス・ファミリア】の
「し、失礼します」
ベルは他の人達の注目に俺は男性陣(
そんなこんなでゆっくり腰を下ろすと俺の右隣にアイズが、左隣にはベルがそのさらに奥にリリ、ヴェルフという順番で座る。
「皆、聞いてくれ。もう話は回っていると思うけれど、今夜は客人を迎えている。彼らは仲間のために身命をなげうち、この十八階層までたどり着いた勇気ある冒険者たちだ。仲良くしろとまで言うつもりはない。けれど同じ冒険者として、欠片でもいい、敬意をもって接してくれ。……それじゃあ、仕切りなおそう」
森が暗闇に包まれる中、立ち上がったフィンの声が場に通る。それに呼応し魔石灯を大きな輪となって囲む団員達は、一斉に配られた杯を挙げた。
「はあ、上手いもんですねぇ…」
ささやかな宴が開始されあたりが喧騒に包まれる中、揉め事を防ぐため、騒ぎにならないよう配慮しつつ、冒険者の自尊心をに訴えるような彼の向上に、リリが感心したように呟きを零した。
やがて食料が配られる。一人につき二つ、三つの果物だ。
瓢箪の形をした赤い漿果、琥珀色で甘そうな蜜をたっぷり滴らせる綿花に似た果実…地上でお目にかかったことのないこの二つの果物は、この十八階層でとれたものらしい。
俺は後者の、綿を蜂蜜につけたような見た目の雲菓子と呼ばれる果物を、試しに一口食べてみた。
途端、見た目通りの溢れんばかりの濃厚な甘みが口の中に押し寄せ口一杯に広がった。
(美味いな…)
大の甘党好きのハチマンは雲菓子を【ロキ・ファミリア】の女性陣と同じように目を輝かせながら食べた。
しかしハチマンが気に入った雲菓子はベルの口には合わなかったらしく吐きそうな顔を浮かべていた。
「ベル様、ベル様?もしお口に合わないのでしたら、リリがそれを食べましょうか?」
それを目ざとく見つけたリリはわざわざベルの正面まで移動して小鳥のように口を開けた。
それに対してベルはうんと返事を返し、リリのその小さな口に雲菓子を伸ばし——————————ヴェルフがリリの口に到達する前に横からとって、自分の口へと運んだ。
「ああ、ベル任せろ。俺が全部食ってやる……ん、こりゃ確かに甘すぎるな」
そんなヴェルフを顔を真っ赤にして涙目になりながらゲシゲシと蹴るリリ。そんなリリにヴェルフはヴェルフで胸焼けに苦しむように喉を抑えながら、どこ吹く風だった。そんなやりとりを俺の隣に座るアイズはきょとんとしながら聞いていた。
「それにしても、うわさには聞いていたが…不思議な階層だなここは」
胸焼けから回復したヴェルフが辺りを見回しながらそうつぶやく。
それに釣られて全員が目を周りに向ける。
階層の天井には白水晶が光を失い、青水晶だけがほのかに輝き、闇を照らしていた。木々の隙間からは地上の空を模倣した夜空だけが存在していた。
「珍奇な実があって、空もあって…確か街だってあるんだろ?」
「えっ…ま、街!?」
思いもやらなかった単語の出現にベルが驚愕の声を上げ、アイズと俺の方に視線を向ける。その視線を受けた俺とアイズは無言で頷いた。
「…明日、行ってみる」
「ぜ、ぜひっ!」
ベルはアイズのその誘いに興奮しながら何度も首を縦に振った。
「アルゴノゥトくーん!ハチくーん!」
輝きに輝いたベルの顔を見て全員が和んでいるところに俺とアルゴノゥト(笑)の呼ぶ声が響く。そちらに視点を向けると元気よくこちらに向かってきているティオナとその後ろを追従するティオネが目に入る。
そして俺とベルの目の前に立ち止まるや否や、どかっ、と俺とベルの左右に腰を下ろす。
「「え」」
「話、色々聞かせなさいよ。かまわないでしょ?」
「うん、聞きたい聞きたい!」
強引に割り込んできたティオネにリリはぎょっとし、アイズは割って入ったティオナにむっ、と頬を膨らました。
真隣を占領された俺とベルはというと近過ぎる彼女らの体に顔を真っ赤にしていた。
だってしょうがなくない?俺も男の子だよ?だから何回も言うけどジト目やめてティポさん。あとなんで俺をにらむアイズ。てかこのひとたちの距離感がおかしいんだよ!
再度ごみを見るような目を向けるティポに言い訳を並べているとそんなのお構いなしに距離を詰めるアマゾネス姉妹。まあ話するのは一人でいいしベルを売って俺は空気にでも…
「どうやったら能力値オールSにできるの?」
「「ぶっ」」
と、考えていたところでそんなことは許さない思いもよらない質問に思わず反応し俺とベルは吹き出し顔をひきつらせた。
痙攣する笑みを浮かべながら左右に視線を向けると怖い笑みをにっこりと浮かべる褐色の少女たちがいた。
要するにこう言ってるのだ吐くまで逃がさないぞ、と。
その笑みを視界に入れた俺達は冷や汗だーだーで、心臓が同様にひた走って止まらない。
よしどうにか対策を…
走って逃げる←すぐ捕まる
嘘をつく←多分バレル
ストレートに努力ですと伝える←多分信じてもらえない
ここまで考えて俺は気付いた。あれ詰んでね?と。どうにか助けを、と周りに視線を飛ばすと隣にいるアイズは膝を抱え何でもない風に装いながら、耳を俺たちの方に傾けていた。
遠くの方ではフィンとリヴェリアがため息をつきながらもガレスと一緒に俺達のことを面白そうに眺めていた。
ヴェルフは「なんじゃヴェル吉、我々の後を追ってきたのか。フフ、愛々しいやつめ」とどこからともなくやってきた
だって俺ヒキマン・ハチガヤじゃないし…そのせいでヴェルフがかなり本気の悲鳴上げてるけど。
『——————ぐぬああっ!?』
そこに、いきなりだった。
「「!?」」
ここでは聞こえるはずのない聞きなれた声が届いたのは。
反応した俺とベルとリリはばっと顔を見合わせた。全員が全員共通の思考を肯定するように頷き合った。唯一ヴェルフだけはわかっていないが。
「すいません、行かせてください!」
「すいません俺も行きます」
ティオナたちの返事を待たずに俺とベルは立ち上がり駆け出した。それをリリが追いかけて、遅れてヴェルフが立ち上がり追いかける。
声が聞こえた方向へと走り抜けると野営地を抜け、森が切れ切れになった。その視界の先には高くそびえる岩の壁と、大口を開けた洞窟があった。恐らくあれが『嘆きの大壁』へと通ずる連絡路なのだろう。
そして木々の群れが途切れた洞窟の前には声に反応した【ロキ・ファミリア】の見張り番達が集まっていた。その彼等の肩から俺達は顔を覗かせると———————
「いてて…」
「あっははははっ!?ヘスティア派手にこけたな!!」
「笑うなヘルメス!!」
腰を抑えながら近くにいる帽子をかぶった男神にキレるヘスティアの姿があった。
そしてそんなヘスティアの周りには、座り込んで大笑いしている男神様がおり、それ以外にも疲労の色が浮かんでいる冒険者たちがいた。
「…あ」
続々と集まってくる人立ちに気付き、顔を上げたヘスティアの瞳が、驚きで染まった俺達を捉えた。
すると次の瞬間青みがかった双眸がまん丸に変わると、転がるように駆け出した。
「—————ハチマン君!!ベル君!!」
「「おふぅ(ぐぇ)!?」」
人垣が割れ、道が開かれ、一直線に飛びついてきたヘスティアの腕が俺たちの首に直撃する。
驚きで棒立ちになっていた俺達は、ラリアットを喰らい尻もちを搗く。
「ベル君、ハチマン君っ!本物かい!?生きてるかい!?」
「か、かみひゃま……!?」
「ただいま死にかけてるんですけど…」
半ば押し倒された格好で、体中を触り、最後は忙しなく交互に両の頬をぐにぐにと引っ張る。
それに対し好き勝手顔を変形させられていた俺達は、どうにかヘスティアの手を止める。そして上体を起こし「なんでここに」と、言葉を発そうとすると言葉を遮るように、首に片腕を回され、ベルもろとも抱きしめられる。
「「!?」」
顔が赤くなるのを自覚する。密着した体からダイレクトに小さくて柔らかい感触が伝わってくる。
縋りつくように、噛締めるようにヘスティアは顔を俺達の間に顔をうずめる。熱い吐息が肌にかかり、体に熱が走る。思春期男子には強すぎる刺激に硬直していると。
「…よかったぁ」
そのいまにも掻き消えそうな声が、鼓膜を揺らした。ふっと体の力が抜ける。
冷静になり改めて見ると、ヘスティアの小さな体はずっと震えていた。その細い腕で俺達を逃さないように失くさないように引き寄せ、かき抱いてくる。ぐすり、と何かをすする音さえ聞こえた。
聞くまでもなかった。
この天界を代表するほどの善神は、ただ愚直に俺達を心配して、体裁なんて放り投げここまで探しに来てくれたのだ。
そっと、顔のすぐ横にある漆黒の髪を見つめる。そしてその奥にいるベルと目が合う。その瞳に映ったのは困惑と迷い。恐らくどうするべきなのか迷っているんだろう。かくいう俺も困惑し悩んでいた。
そして暫く悩み考えた結果俺とベルはヘスティアを抱きしめようと手を上げ…周囲の視線に気づいた。
随分と前から、という最初から多くの人たちに今の格好を見守られてしまっている。
その事実に再度硬直し、消えかけていた羞恥が復活した。
「いい加減にしてください、ヘスティア様!」
「あ、コラっ、感動の再開に水を差すんじゃない!?は、はなせーっ!?」
リリがヘスティアの襟首をつかむ。じたばたとヘスティアは必死に足搔くが
ヘスティアの抱擁と周囲の視線から解放された俺達は、その光景をリリのその行動に感謝をしつつ見送った。
「クラネルさん、ヒキガヤさん、無事でしたか」
「え…リュ、リューさん!?」
座り込んだままの俺達に、近付いてきた覆面の冒険者が耳元で呟く。
最初はだれかわからなかったが声を聴き、だれなのか即時理解する。
間違いなくいつも早朝に訓練をつけてもらっている彼女だった。
「どうして、リューさんまでここに…?」
「とある神に、
フードの奥の空色の瞳が揺れ、視線をずらす。心なしか僅かに覗いたその瞳には安堵の色が見えた気がした。
「オーケー、状況は分かった」
と、そこで帽子をかぶった男神が周囲を見渡し、ぽんぽんと土を払い立ち上がり集まっていたアイズ達の顔を見て、得心の笑みを浮かべる。そうして男神は俺達の視線にも気付いて笑みを纏ったままこちらに歩み寄ってくる。
「君達が、ベル・クラネルとハチマン・ヒキガヤかい?」
「いえ人違いです」
「え?」
「え?」
「え?」
俺が即否定すると男神、ベル、俺の順で声を漏らした。
それもそうだ。神に嘘を言ったところですぐにばれるのだから、こんなに真正面から嘘をつかれるとは思わなかったんだろう。
「いや、嘘…だよね?」
「はい、嘘です」
「ええ…」
切れ長の橙黄色の目が困ったように細められ、帽子の後ろに手をやる。
恐らく出会ったこともない俺の対応に困ってるんだろう。実際自分自身でもかなり冷たい対応をしている自覚はあった。
それというのも初めて会ったはずなのになんとなくこの男神のことが苦手なのだ。別に陽キャっぽい雰囲気がするとかモテそうだとかそんな理由じゃない。断じてそんな理由じゃない。多分恐らく知らんけど。
ただ何となく俺を、詳しくは俺とベルを見る視線が気持ち悪いのだ。見定めるような確かめるような。悪意ではないただ、純粋な善意でもないそんな感じ。
「まあ…いいか。とにかく会いたかったよベル君。ハチマン君。俺の名はヘルメス。どうかお見知りおきを」
「ヘルメス…」
「ああ、ヘルメスだ。よろしく二人共」
ヘルメス様は困ったように細められた瞳は弓なりに形を戻し、手を差し出した。対して俺達はおずおずとそれに応えた。にこやかに握手してくるヘルメス様は一見柔和で好意的な神様に見えるがどうしても不快感がぬぐい切れなかった。
「へ、ヘルメス様?それで、あの…」
「ああ、見ず知らずのオレが、君達を助けに来た理由かい?」
「は、はい」
「なあに、俺はヘスティアの心友だから協力したまでさ。君達を助けたいといっていた、彼女の望みにね」
リリと言い争っているヘスティアの方に視線を向けながらヘルメス様は笑いかける。その笑みと言葉にベルは目を見張りながら「あ、ありがとうございます」と感謝とともに頭を下げた。
そんなベルとヘルメス様を見ながら俺はやはりおかしい、と感じていた。
言ってることは何もおかしくない。溢れ出る胡散臭さを除けば特におかしい点はなかった。ただダンジョンに危険を冒してまでついてくる理由にまではならないのだ。それも出会ったこともない
つまりこれらからわかることはそんな危険を冒してまで潜る理由がここにあるということ。そしてそれは恐らく俺とベルだろうということ。ただ何を考えて、何をもって、俺達に興味を示しているのかは今ある情報ではわからなかった。それでもいえることはこの神を100%信用するのは危険だろうということだった。
そんなことを考えながらヘルメス様を見ていると俺の視線に気づき、人懐っこそうな笑みを浮かべる。
「そんなにみられると照れちゃうな…。それとベル君、感謝なら俺以外の子達にしてあげてくれ。そこの覆面の冒険者や、彼らのおかげで、ここまでこれたようなものだからね」
ヘルメス様は俺とベルから視線を外し一緒に来ていた冒険者達の方へと視線を向けた。俺とベルはそれに追従するように視線を移し洞窟前にいる冒険者たちと目が合った。
水色の髪と眼鏡をかけた女性冒険者に、配色と様式をそろえた防具と
「…おい、あいつら」
後ろからヴェルフが声を上げるがその前に俺達も気づいた。
その揃えられた防具と
つまり
***
「——————申し訳ありませんでした」
【ロキ・ファミリア】から貸し与えられているテントの中。
あの気まずい空気が流れた後、俺達【ヘスティア・ファミリア】とヴェルフ、リリそして件の三人組は、一度この天幕の中に戻っていた。ちなみにリューさんとヘルメス様その眷属である
そんな俺達の眼前では和の衣装に身を包んだ少女が正座し、手のひらと額を地面につけ謝罪を行っていた。その光景に土下座を得意とするヘスティアとベルは二人並んで「おおっ…!?」と戦慄する。
君達状況わかってますん??俺?俺はもちろん感動してるよ。
「…いくら謝られても、簡単には許せません。リリたちは死にかけたのですから」
「まあ、確かに簡単に割り切れるものじゃないな」
喉を鳴らす馬鹿二人+一を他所に、リリとヴェルフは土下座をしてる少女————ヤマトさんの土下座を前にしても、険のある声音を崩さなかった。少しの動揺は見て取れるけど。
いきなりの土下座をかましたヤマトさんに困り果てていたカシマさんとヒタチさんは顔を上げ、リリたちの視線を真っ向から受け止める。ヤマトさんはそれに反応してか正座状態のまま、土下座を解除した。
「あの、その、本当に…ごめん…なさい…」
「リリ殿達の怒りももっともです。いくらでも糾弾してください」
瞳を前髪で隠しながらおどおどヒタチさんと、その反対に瞳をまっすぐと俺達に向け潔くきっぱりとヤマトさんが謝意を見せた。
モンスターの押しつけは迷宮内ではかなりというか日常茶飯事で起こっていると聞く。それどころか
だからだろうか俺はこの三人組にそれほどというか怒ってはいなかった。勿論なかm…パーティーメンb…知り合いが危険に晒されたという点に関しては怒りはあった。しかし結果的に俺的にはいい経験にもなったし何よりこの三人組は
それにもし同じ岐路に立たされた時、俺は恐らく同じ選択を取っていただろうから。
しかしこの場でそうと割り切れているのは俺とベルとヘスティアだけで、ずっと険悪な空気が流れていた。
「あれは俺が出した指示だ。そして俺は、今でもあの指示が間違っていたとは思っていない」
と、ひどく険悪な空気の中でヤマトさん達より前に出て、カシマさんはそう言い切った。
思わず瞠目する一方で空気がさらに沈む。それもそうだ喧嘩を売っているとしか思えない文言なのだから割り切れていないリリとヴェルフは憤慨するにきまってる。
そんな二人を他所に俺とベルは感心をしていた。こんだけ恨みつらみを向けられても受け止める覚悟と信念、仲間を思う心と非情になれる冷静さに。
そして今も仲間にヘイトがいかないようにやるなら俺をやれ、と言わんばかりに言ってのけたことに。
「…それをよく俺等の前で口にできるな、大男?」
口を吊り上げたヴェルフがカシマさんと対峙する。一見笑ったように聞こえるが目が全然笑ってない。何なら睨んでる。怖い。
「やあ、帰ったよ。【ロキ・ファミリア】には話をつけてきたよ」
そんな極悪空気の中フィン達に滞在を許可を取りに行っていたヘルメス様とアンドロメダさんが帰ってきた。
「おっと…これはどういう状況だい、ヘスティア?」
「んーここそれそれ、というわけさ」
ヘスティアが簡潔に説明すると、ヘルメス様は大げさに明るく一笑した。
「そんな堅苦しく考えないでいいじゃないか!ベル君達はこれで命ちゃん達に大きな借りができたと思えばいい。命ちゃん達も、罪滅ぼしをするつもりがあるんだろう?」
「それは、勿論…」
「こう言ってるんだ、リリちゃん。いざという時は馬車馬のように働いてもらおうぜ?」
「…」
その言い回しに俺はうまいと感じると同時にさすがは神だと思った。リリは損得勘定ががめついほどしっかりしており、今回のこの提案は明らかに損よりも得が先行していた。つまりそんな提案をリリが無碍にするわけもなく、そこにヘルメス様は一瞬でリリの性格を見抜き問いかけたのだ。
これなら丸く収まるだろう、と成り行きを見守っていると—————
「ハチマン様が許すというのであれば許します」
予想外の言葉に俺はまたしても瞠目する。みればヘルメス様も少し驚いているように見えた。
「ああ、そうだな。ハチマンがいいっていうなら俺も割り切ろう。納得はしないがな」
「うん、ぼくもそうする」
いきなりのリリの提案に固まっていた俺を他所にヴェルフとベルが同意する。
え、何この流れ俺は静観するつもりだったんですけど。というかベルお前はもう割り切ってるだろ。
「理由を聞かせてもらってもいいかな?」
ヘルメス様は心底不思議そうに尋ねた。それもそうだ。許す許さないは本人の裁量だ。ましてや他人が決めることじゃない。それなのにその判断は俺に任せると一人だけでなく三人ともが言っているのだ。不思議に思うのも仕方がないだろう。
「今回リリたちは死にかけましたが今生きているのは、半分以上というかほとんどがベル様とハチマン様のおかげです。しかも一番負担を受けていたのはハチマン様です。だからリリはハチマン様に委ねます」
「リリ助の言うとおりだ。俺達があの中層から逃げ出せたのもゴライアスから逃げ切れたのも全部八幡のおかげだからなっ」
「「「「「「ゴライアス…?」」」」」」
リリが説明し、ヴェルフが継いで声を上げた時救出部隊の面々が疑問の声を上げた。
それもそうだろうこの救出隊が通った時はゴライアスなんていなかったのだから。
しかし焦ることなかれ。ここには【ロキ・ファミリア】がいるのだからふつうは彼等が討伐したと考えるだろう。その証拠に疑問にゆがめられていた顔はすぐに納得の色で染められていた。
よしこのまま流して話を丸く—————
「でも凄いよね。ハチマン一人でゴライアスを討伐しちゃうなんて」
「「「「え?」」」」
「「は?」」
「「あ」」
肝心のベルはというと周りの反応を見てやらかしたと顔を強張らせ、恐る恐る顔の向きを変え睨んでいる俺と目が合い固まった。
「ご、ごめん…」
消え入りそうなこえで謝るベルとそれを睨む俺。構図的にはペットの兎をいじめているように見えるがそんなことは気にしない。
「ちょ、ちょっと待ってください。【ブラック・ルーキー】が一人でゴライアスを討伐したっ?」
そんな構図が続いて数秒いち早く硬直から復活したアンドロメダさんがそこに割って入る。その声に全員が硬直を解除させ俺もしくはパーティーを組んでいる面々へと視線をむけた。あらやだそんなに見ないでほんと。
「まあ、ほんとですね」
俺が答えあぐねていると代わりにリリが諦めろと言わんばかりに俺の方に視線を向け答えた。そしてそれを聞いたアンドロメダさんはばっ、と神様達の方を見た。神は人の嘘が分かる。だからもし今の発言が嘘ならばわかるのだが—————
「今の発言に何の嘘もなかったよアスフィ」
思っていた答えを違ったアンドロメダさんは信じられないと俺を見た。ほかの面々も似たような視線を俺に向ける。
そりゃそうだろう。ゴライアスの推定Lvは4。そして俺のLvは2。この世界でのLv差は圧倒的なものを意味し、それこそ勝てばとんでもない偉業として認識され【ランクアップ】することができる。俺とベルがミノタウロスを倒したように。
しかも今回のLv差は二つ。それは絶望的な差を意味し、普通なら覆すことはできない。しかしそれを【ランクアップ】したての冒険者なりたての俺がしたというのだから疑いの目線を向けるのも納得だろう。それどころか尊敬すら視線に含まれているように思う。
だから嫌だったのだ。目立つこともそうだがこうなることが。何回も言うが別に俺はゴライアスに勝ったわけではない。いろんな要素と運が重なって討伐できたに過ぎない。そんな視線で見られる資格は俺にはないのだから。
「確かに討伐は、した。でもたまたまだ。あと俺は気にしてないから許すも何もないぞ」
言葉と反応に困った俺は取り合えず簡潔に要点だけ伝え、口を閉じた。そのたまたまという言葉に全員再度神様達に目を向けるが、二人は肩を竦め、嘘はないことを伝えた。
ハチマン自身本当にたまたまだと思っているから嘘がないのは当たり前だろう。まあ、それでもたまたまだろうと何だろうとゴライアスに勝つこと自体はおかしいだろと全員が思っていたが。
「はい、それじゃあ、衝撃の事実があったけど、丸く収まったことだし今後の予定について話し合おう!」
なんともむず痒い空気の中ヘルメス様は、これ以上喋る気はないという俺の空気を感じ取ったのかパンッと手を鳴らし話題を変えた。そんなヘルメス様に遺憾ながらも感謝をしながらも、ベルが暴露した瞬間本当に嬉しそうに笑っていたのを俺は見逃さなかった。
読んでいただきありがとうございました!皆さんのコメントがいつもモチベになっています、なのでよければ些細なことでもコメントお待ちしています。これからは構想が固まったのでできるだけ投稿できるようにしていきます!ではまた次回お会いしましょう!
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