「さあ!今日からここが君たちのホームだ!」
そう満面の笑みで俺たちに告げるヘスティア様とは反対に顔が引きつる俺とベル。俺たちは顔を見合わせもう一度ホームと呼ばれた場所を見る。そこには廃墟と言っても過言ではないほどぼろぼろの教会があった。
「さあ行こう!」
そう言いヘスティア様は扉のない玄関口をくぐって教会(?)に入っていった。俺達は仕方ないと割り切りヘスティア様についていく。
屋内は外見に負けず劣らずの半壊模様。割れた床のタイルからは雑草が繁茂し、頭上の天井は大部分が崩れ落ちてごっそり無くなっている。ちょっと触れば壊れてしまいそうなその教会の中を進んでいくと、半壊した天井から降り注ぐ暖かな日差しがかろうじて原形のある祭壇を照らしていた。ヘスティア様はその祭壇の先の部屋へと足を進める。部屋には書物の収まってない本棚が連なっており、一番奥の棚の裏には階段があった。そのあまり深くない階段を下るとドアが見えその中に入っていく。
「さあさあ歓迎するよ。ベル君!ハチマン君!」
中に入ったヘスティア様は、部屋の真ん中でくるっと振り返ると微笑んだ。
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「それで?君たちはこれからどうするんだい?」
俺たちは部屋に入ってすぐにある紫のソファーにこしかける。
「俺はすぐ冒険者登録に行く気ですけど…」
俺はベルに視線を送るとベルは頷く。それを確認するとヘスティア様の方に向き直る。
「それなら二人とも行ってくるといいよ。僕もバイトに行かなきゃいけないからね」
「神様もバイトやんのかよ…」
「そりゃ神と言っても下界では人と変わらないからね。だから敬語も様もなしでいいよ」
「ええ!?神様にそんなこと…」
ベルは恐れ多いのか胸の前で両手をすごいぶん回す。てか手の速さすごいなおいどうなってんだよ。そして俺は白髭のじじ…神様に普段からいじられていたため、からかってみることにした。半分くらい八つ当たりである。因みに白髭のじじいにいじられすぎて捻くれてしまったのは別の話。俺はヘスティアの方を向く。
「まあ分かりました。善処します女神様」
「君それ絶対分かってないだろ!それにさっきより仰々しいじゃないか!」
「何言ってるんですか女神様そんなことないですよ」
「ぬああああああああああああああああああああ!!」
ヘスティアは叫び始めツインテールをぶんぶん回し始める。流石にやりすぎたかと焦る。
「じょ、冗談ですよそんな暴れないでください」
「ぐぬぬ…神をからかった罰だ!絶対敬語と様付けをなくすこと良いね!?」
そう言うと扉をバンッとしめて出ていってしまった。
「ハチマン神様をいじめちゃ駄目だよ」
「心に刻みます」
ちょっと罪悪感を感じた俺は反省をしギルドに向かった。
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「あのすいません」
「はい、今日はどんなご用件でしょうか」
ギルドについた俺たちは中に入りカウンターに向かうと眼鏡をかけた所謂エルフの方に声を掛ける。ベルが。
「冒険者登録をしたいんですけど…」
「はいではこちらの用紙に記入をお願いします」
「分かりました」
用紙に書き込み提出をする。
「ベル・クラネルさん、ハチマン・ヒキガヤさん【ヘスティア・ファミリア】として冒険者登録完了しました。二人の担当は私、エイナ・チュールがします。何か困ったことがあれば私に申し付けください」
どうやら登録が終わったらしく支給品のナイフなどが渡される。それらを受け取ると俺らは受付を離れ椅子に座る。
「ベルどうする?」
ギルドに来てからうずうずしていた俺は思わず主語を抜きにして問いかける。
「え?」
「帰ってもヘスティアはいないし、冒険者登録は澄んだし手元には武器がある」
「!」
それを聞いたベルは俺の言わんとしていることに気づき少し不安そうな顔をするが目を輝かせる。
「ちょっと行ってみないか?」
俺たちは冒険者としてダンジョンに足を踏み入れた。
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ほんのりと明るい地下空間をゆっくり歩く。すると壁に亀裂がはしり小さい人型のモンスター…『コボルト』が生まれ落ちる。
「ベル」
「うん」
俺はベルに呼びかけると短剣を構える。初めての戦闘に緊張するがそれでもうずうずして仕方ない。別に戦闘狂なわけではない。
(これから強くなるこっから俺は…)
そして俺はベルを見る。ベルは緊張からか顔が強張っている。
(強くなって全部守る)
そして視線に気づいたのかベルは俺の方を向き、目が合うと頷く。それと同時に俺たちは『コボルト』に向かって走り出す。生まれ落ちたのは六匹。
(まずは…!)
一番近くにいた『コボルト』に向かって駆け出す。すると向かってくる俺に気付いた『コボルト』は爪を縦に振り下ろす。俺はその攻撃を避けると短剣を横に振り『コボルト』の首を飛ばす。『コボルト』の眼の光が失われたのを確認すると周りを把握する。
(ベルは…一匹倒してるな。他の『コボルト』…!?)
俺はすぐその場から離れる。するとさっきまで俺がいた場所に爪が振り下ろされる。
(連携を…?外のモンスターはそんなことしなかったけど…流石はダンジョン産のモンスターか…)
実はゼウスの家の周りに居た『コボルト』をベルと一緒に討伐したり本を読んで知識を蓄えたりしていた。モンスターを見てもそんなに取り乱さず直ぐに戦闘に移れたのも目を合わせるだけで連携が取れたのもこれが理由だったりする。ダンジョンにすぐに入っても一階層くらいなら大丈夫だと考えたのもこれが理由である。三割くらいは。
(残りは四匹。微妙に包囲網も敷かれてるし。でも…関係ない)
そんなのお構いなしに『コボルト』に突っ込む。俺が突っ込むことに気づいていたベルも俺の後に続き突っ込む。そして『コボルト』が二匹、先頭にいた俺に飛び掛かってくる。そんな『コボルト』に対し一匹を後ろに蹴飛ばす。普通なら背後を取られるためそんなことはしないのだが後ろにはベルがいる。だからその一匹は任せ、飛び掛かってきたもう一匹を処理する。
(あいつらに向けて…ふっとべ)
俺は蹴りを放ち今度は前にいる『コボルト』に向かって蹴り飛ばす。普通ステータスを授かったとはいえもらって直ぐの為蹴り飛ばすなんてできないはずだがスキルの効果でそれを可能とする。
(なんでだ…力があふれる。これもステータスの恩恵か…?)
しかし本人は自分のステータスを見忘れていたため気づいていない。蹴り飛ばした『コボルト』はハチマンの思惑通り飛んでいき残っていた二匹の『コボルト』を吹き飛ばす。その隙を逃さずハチマンとハチマンに文字通り丸投げされた『コボルト』を斬り捨てたベルがそれぞれ斬り刺し三匹を殺す。
「ハチマン…」
「ベル…」
モンスターを倒したのは初めてではないがダンジョンのモンスターを倒し俺たちはダンジョンに通用したという事実にお互い目を合わせる。それはあくまで普通の場所でならの話でだがここはダンジョン、どんなイレギュラーが起こるかわからない場所しかし当の本人達は完全に調子に乗りどんどん階層下って行った。
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「ハチマン通用してる…僕たち通用してるよ!」
今現在いる場所は五階層。本来ステータスをもらったばかりでここまで下りるのは難しいのだがハチマンのスキルとこれまでゼウスの家で少なからず戦闘の経験もありそれを可能としていた。そしてそのことに大興奮のベルとは反対にハチマンはどんどん冷静になっていた。自分よりテンション高いやつを見ると冷静になるあれだ。
(流石に五階層は調子に乗りすぎた。なんでかは分からないがとんとん拍子にこれたのは奇跡に近い。ここいらで引き返さないと…)
「おいベルここいらで…」
イレギュラーを危惧した俺はベルに話しかけようとすると…。
『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
明らかにイレギュラーの声。この声に聞き覚えはないし姿もまだ見てない。それでも異質をはらんだその声の方向を錆びたロボットみたいな動きで見る。すると人型で牛頭のモンスターが雄叫びを上げながら目をぎらつかせこちらに走ってきていた。
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『ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』
「「ほ(ぬ)ああああああああああああああああああっ!!」」
間抜けな声を上げながら五階層内を全力疾走する。
「調子に乗ったとは言えなんであんな化け物がいんだよ…!」
俺は悪態をつきながら、俺達を追いかけてきている牛頭人型のモンスターーー『ミノタウロス』を睨む。『ミノタウロス』にはLv.1の俺達じゃ逆立ちしたって勝てないどころか傷一つ付けられない。その理由は本来『ミノタウロス』は十二階層までの【上層】ではなく、十三階層から二十四階層までの【中層】に出現するLv.2のモンスターだからである。蓄えた知識を脳内から引っ張り出しながら頭をフル回転させる。
(このままじゃ二人ともやられる…なら)
「おいベル逃げろ」
「え!?それじゃハチマンは…」
俺はそれだけ告げるとベルの言葉を無視して『ミノタウロス』の方を向く。するとちょうど『ミノタウロス』は蹄を上げ踏み抜こうとしているところだった。
『ヴゥムゥンッ!!』
「っ!?」
その蹄をギリギリでかわすが、その蹄は土の地面を砕き、俺の足場も巻き込む。足を取られた俺は地面をゴロゴロ転がりまわる。
『フゥー、フゥーッ……!』
地面を転がりまわった俺はすぐに体勢をなおす。そして改めて『ミノタウロス』を見る。筋骨隆々の体に殺意と敵意に満ちたぎった瞳。本能が全力で警鐘を鳴らしている。
「ハチマン!」
ベルが俺を心配そうな声で呼ぶ。どうやら助けに入ろうとしているらしくそれを目で制する。
(来るなベル。任せろ)
(!)
(あの時から全部守るって決めたんだ…だから)
『ミノタウロス』を睨みつける。背中が熱くなっていく気がする。するとその瞬間『ミノタウロス』の胴体に一線が走る。
「「へ(え)?」」
『ヴォ?』
死闘を決意した俺とベルと『ミノタウロス』の間抜けな声。走り抜けた線は胴だけにとどまらず、厚い胸板、蹄を振りかぶった上腕、大腿部、下肢、肩口、そして首と連続して刻み込まれる。銀の光が最後だけ見えた。やがて、『ミノタウロス』は肉塊に成り下がる。
『グブゥ!?ヴゥ、ヴゥモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーーーー!?』
断末魔が響き渡る。刻まれた線に沿って『ミノタウロス』の体がずれ落ちていき、血飛沫、赤黒い液体を噴出して一気に崩れ落ちた。大量に血を浴びた俺とベルは呆然と時を止める。
「……大丈夫ですか?」
牛の怪物に代わって現れたのは、金髪の美少女だった。思わず見惚れてしまう。
(しかもこの人強い…)
「あの……大丈夫、ですか?」
喋らない俺たちを不審に思ってか更に問いかける。正気に戻った俺は答えようとすると…
「ぅ…」
「「う?」」
「うわあああああああああああああっ!」
ベルが叫び信じられないくらいのスピードで走り出した。
「「…」」
そして信じられないくらい気まずくなる。
(あいつ…覚えとけ…)
ハーレムに憧れているベルは突然の美少女の登場に混乱して逃げ出してしまう。しかしそういってる俺も女性に耐性がなく困っていた。ヘスティア様?ヘスティア様は人じゃないしな。神だしな大丈夫だ。
「あの…」
「あ…いえ大丈夫です。助けていただきありがとうございました。あとうちの連れがすいません。では俺はこれで」
「あ…」
俺は告げることだけ告げその場を後にする。だってあいつ血まみれで走ってったし、あんな殺人犯みたいなやつ放置できん。
(あの時凄い気迫だった…)
Lvが上であるはずの自分が気圧された事に疑問を抱きながら少女はいつまでもその背中を見つめていた。
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「エイナさああああああああああああああああああああああああああんっ!」
「ん?」
ダンジョンを運営管理する『ギルド』の窓口受付嬢、エイナ・チュールは片手に持った小冊子から顔を上げた。
(確かこの声は…)
エイナは直ぐに今日冒険者登録しに来た白髪に紅い瞳の子の少年を思い浮かべる。流石はギルド職員と言わざるをえない。そしてエイナは声を上げたであろう人物を見ると…。
「いや、誰ッ!?」
全身どす黒い血色でに染め切った少年の姿が視界に入り、クールがうりのエイナも思わず叫びをあげる。更にその後ろから。
「おいベル待てって…おい、人の話を聞けよ。」
声は白髪の子の隣にいた子だと助けを求めるように見ると…。
「だから、誰なのよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
その日一番の絶叫が鳴り響いた。
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「君達ねえ返り血浴びたならシャワーくらい浴びてきなさいよ…」
「「すいません…」」
俺たちはエイナさんの言葉に返す言葉がなく項垂れる。体を洗ってさっぱりした俺達は、ギルド本部のロビーに設けられた一室にテーブルをはさみエイナさんと向かい合っていた。
「き、君たち冒険者登録したばっかだよね?なんでもう血塗れに…」
「それは…」
ベルがあの後すぐにダンジョンに潜ったこと、五階層まで行ったこと、そこで『ミノタウロス』に追いかけられたことを語った。なんか話していくうちにどんどん顔が引き攣るエイナさん。
「冒険者登録して初日で五階層?しかも『ミノタウロス』に追いかけられた?」
引き攣っていた顔は怒っているような顔にかわりって言うか確実に怒ってる。だってこええもんなんなら『ミノタウロス』よりこええもん。そしてエイナさんは椅子から立ち上がり、俺たちに詰め寄る。
「ハチマン君にベル君!!ダンジョンの下層にしかもなり立てで行っちゃダメ!いい!?冒険者は冒険しちゃいけないの!!わかった!?」
「「き、肝に銘じておきます」」
俺たちのその言葉を聞くとエイナさんは溜息を吐き椅子に座りなおす。俺たちのために本気で心配してくれていることからもこの人がいい人なのが分かる。怖いけど。
「それで?ヴァレンシュタイン氏の事を教えてほしいんだっけ?」
「はい!えっと、ハチマンあってるよね?」
「ああ、金髪金眼であの強さって言ったら一人しか思いつかない」
「本名アイズ・ヴァレンシュタイン【ロキ・ファミリア】所属、二つ名は【剣姫】巷では『戦姫』なんて呼ぶ人もいるみたい。そしてLv.は…5」
大体オラリオのことは学習済みのハチマンは知っていたが、ベルは目を輝かせ話を聞いていた。
(あれがオラリオでもトップクラスの冒険者か…)
(凄かった。まるで英雄のようで憧れた…それに…)
ベルは自らを逃がすために体を張った自分のもう一人『憧憬』に目を向ける。そんな視線に気づかない憧憬はまた背中が熱くなるのを感じながら拳を握るとベルやエイナさんと一緒に一室を後にする。
「換金はしたの?」
「まだしてないですね。それどころじゃなかったんで」
「じゃあ換金所に行こう。私も付いていくから」
それからエイナさんにギルド本部内にある換金所に案内され換金を済ますとエイナさんにお礼を告げるとそのまま帰路についた。
質問等あればコメントをしてくださるとありがたいです。ではまた次回お会いしましょう。