「神様、帰ってきましたー!ただいまー!「お帰りー!ベル君!ハチマン君!」ぐふっ!?」
ベルがドアを開けて声を張り上げて足を踏み入れると、ヘスティアがベルの腹に目掛けて特攻する。その特攻によりベルが悶絶しているので注意して差し上げる。
「ヘスティア…ベルが悶絶してるから離してやれ」
「え?…べ、ベル君!大丈夫かい!?」
(いや、あんたのせいだよ…)
「だ、大丈夫ですよ神様。そ、それより神様バイトはどうしたんですか?」
「ああそれなら今日ははやく上がれてね。君たちの方は冒険者登録済んだのかい?それにしては時間かかってたみたいだけど…」
「まあ少しダンジョンに潜ってまして」
「ちょっと死にかけちゃいましたけど…」
「おいおい、大丈夫かい?君たちに死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しんでしまうかもしれない」
小さい両手を忙しなくパタパタと俺たちの体に触れ回って、怪我はないか確かめてくる。その様子にどうも気恥ずかしくなる。
「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから」
「まあ俺も死ぬ気はないんで大丈夫だ」
「あっ、言ったな!?なら大船に乗ったつもりでいるから、覚悟しておいてくれよ?」
「なんか変な言い方ですね…」
「どの立場の発言なんだよ…」
俺たちはそんなことを言い合いながら、奥の部屋へと進んだ。部屋の中は正方形と長方形をくっつけた、ちょうど「P」の字のような形。正方形の部分にあたる出入口前で、置いてある二つのソファーに俺とベルとヘスティアはそれぞれ座る。
「じゃあ【ステイタス】を更新しようか!」
「はい!」
「うっす」
「それじゃあ服を脱いで転がって~。あとハチマン君二回目だけどその目止めようかわかっててやってるだろ君」
「バレたか」
「そらはやく転がった転がった~」
「はい(へい)」
部屋の奥にあるベッドへ向かい、服を脱ぎベッドに体を沈める。うつ伏せでいると神様はぴょんっとベルのお尻あたりに飛び乗った。
「そういえば死にかけたって言ってたけど、いったい何があったんだい?」
「ちょっと長くなるんですけど…」
ベルが今日あったことを話している間にヘスティアは針を取り出しそれを自らの指にさすと滲み出る血を、そっとベルの背中に落とす。
「調子に乗って下層に降りるって…君は冷静なキャラだと思ってたんだけどなハチマン君」
「まあ若気の至りってやつですよ」
「それを自分で言うのかい…」
「はは…」
談笑を交わしているだけでも作業を刻々を進める。そして作業が終わったのか紙に【ステイタス】を書き写していく。
「ほら、君の新しい【ステイタス】だよ」
そう言いベルに紙を渡す。ベルはどうも、と受け取ると用紙に視線を落とす。
「さて次は君の番だ」
そして先程と同じように血を落とし作業を進め、紙に書き写す。
「ほいハチマン君の分」
俺も用紙を受け取り、視線を落とす。
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.
力:I 0~32
耐久:I 0~17
器用:I 0~30
敏捷:I 0~27
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
(少ししか潜ってなかったけど結構伸びてるな…ん?)
「神様、このスキルのスロットはどうしたんですか?何か消した跡があるような…」
「ああ、俺もあるな」
「……ん、ああ、ちょっと手元が狂ってね。安心して」
「ですよねー…」
「まあそうだよな…」
分かっていても少しがっかりしてしまう。
「神様、夕飯の支度しましょうか?」
「うんそれじゃあベル君に任せるよ」
「じゃあ俺も手伝うわ」
「強くなること以外は動きたくないあのハチマンが!?」
「ひどい言われようだなおい…否定できないけど」
ヘスティアは談笑を交わしながらキッチンへ向かう二人を見送り、静かに溜息をつく。
(もしかしたらとんでもない子達と出会ったのかもしれないね…)
ヘスティアはもう一度二人の背中を…正確には【ステイタス】を見る。
_____________________________
ベル・クラネル
Lv.1
力:I 0~5
耐久:I 0
器用:I 0~3
敏捷:I 0~24
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【憧憬一途】
・早熟する
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
_____________________________
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.1
力:I 0~32
耐久:I 0~17
器用:I 0~30
敏捷:I 0~27
魔力:I 0
守護:2
《魔法》
【】
《スキル》
【強者願望】
・早熟する
・強者になりたいが続く限り効果持続。
・強者になりたいの丈により効果上昇。
・全ステイタス上限突破しなければランクアップ不可。
【守護者】
・守りたいものの為に行動するときステータスの高補正。
・守りたいものの人数により効果上昇。
【孤軍奮闘】
・少数対多数の時の高補正。
・パーティーの人数により効果上昇。
・相対人数又は強さにより効果上昇。
_____________________________
(【強者願望】と【憧憬一途】…か。このスキルも見たことないけど問題は殊更異質なハチマン君の二つのスキル…理不尽に抗う力そして守るための力)
ヘスティアはさらに溜息をつく。そしてハチマンの横顔をちらっと見る。
(一体何があったのか…)
眷属になってくれた二人にヘスティアは思いを馳せていた。
__________________________
「「……ん(あ)」」
朝早くから畑仕事に駆り出される習慣が染みついた俺たちは朝五時ぴったりに起きれるあまり自慢できない能力が開発されてしまっているのだ。
「…おはよう、ハチマン」
「おう、おはよう。ところでベル何でヘスティアは俺達の腕にしがみついてるんだ?」
「さ、さあ?」
俺は腕に暴力的な感触を感じ理性をゴリゴリ削られながらヘスティアを起こさないようにすっと手を抜く。そしていそいそと準備を進め、俺たちはささーっと部屋を後にした。
***
(あの人思春期男子を殺す気かよ…)
少し肌寒い朝の空気に思わずため息を溶かす。
「あ~、朝ごはん食べてないや…」
「そいや忘れてたな…どっかで腹ごしらえでも…!?」
俺とベルはばっ、と振り返った。
「…ベルもか?」
「う、うん。なんか凄い見られてる感じがして…」
「あの…」
「「!」」
後ろからの声に、すぐさま反転し距離を取り身構える。そして相手を見ると声をかけてきたのはヒューマンの少女だった。
「ご、ごめんなさいっ!ちょっとびっくりしちゃって……!」
「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって…」
「な、何か僕に?」
「あ…はい。これ、落としましたよ」
「?『魔石』?確か昨日全部換金したはずだが…」
「す、すいません。ありがとうございます」
「いえ、お気になさらないでください」
不審に思いながらもベルがそれを受け取る。
「こんな朝早くから、ダンジョンへ行かれるんですか?」
「はい、ちょっと軽く行ってみ『グゥ』よう…かな…なんて…」
「ふっベルお腹なっ『グゥ』……。」
「…」
「…」
「…」
きょとんと眼を丸くする店員に赤面する男二人。
「うふふっ。お腹空いてらっしゃるんですか?」
「「…はい」」
「もしかして、朝食をとられていないとか?」
「「…」」
「ふふっ。図星ですかちょっと待っててください」
そう言い残すと店内へと消え、ほどなくして戻ってくる。
「これをよかったら…。まだお店がやってなくて、賄いじゃあないんですけど…」
「ええっ!?そんな、悪いですよ!それにこれって、貴女の朝ごはんじゃあっ…?」
「このまま見過ごしてしまうと、私の良心が傷んでしまいそうです。まあその代わりと言っては何ですが今日の夜、私の働くあの酒場で夜ご飯を召し上がっていただければな…なんて」
「ず、ずっるぅ…」
「うふふ、ささっ、もらってください。私の今日のお給金は、高くなること間違いなしですから」
すっごい商売根性だなこの子。
「でもよく二つも用意…」
「あれ!?ミャーの朝ご飯がないにゃ!?」
「「…」」
「……てへっ」
「無許可なのかよ…」
「まあそれも今日の夜来てくれれば解決しますから」
「……じゃあ今日の夜に伺わせてもらえますっ」
「はい。お待ちしています」
「ではこれで…」
俺たちは背を向けダンジョンに向かおうとすると
「あ、私シル・フローヴァと言います。貴方方のお名前を聞いてもいいですか?」
「僕はベル・クラネルって言います」
「俺はハチマン・ヒキガヤです」
「ハチマンさんにベルさんですね。ではまた夜にお会いしましょう」
俺たちは名前を交わしあい、その場を後にした。
________________
「ハチマン、今日は何階層まで行くの?」
「今日は一階層までのつもりだけど様子を見てって感じだな。まぁ出来るだけ下に行く気だけど行くとしても三階層までだな」
「三階層まで?」
「あぁ。昨日五階層まで行けたのはほぼマグレだからな」
俺たちはそんな会話を交わしモンスターを倒しつつ、一階層を徘徊していた。
「!いるぞ」
前方で『ゴブリン』が二匹生まれ落ちる。まだこちらに気付いていないのか見向きもせず、通路の真ん中に突っ立っていた。
「「ふっ(はっ)!」」
そのゴブリンに俺たちは飛び蹴りをかまし、クリーンヒットする。小太りした体はくの字に曲がって飛んでいき壁にぶつかり灰と化す。その灰に近寄り『魔石』を回収する。
「?お、これは…」
積もった灰の中に牙のようなものを見つけ手に取る。
「ベルドロップアイテムが出たぞほら」
「ほんとだ。確か『魔石』よりも高く売れるんだよね」
「あぁ、まぁその分出る確率は低いけどな」
魔石と一緒にドロップアイテムをバックパックにしまう。
バキ
「「!」」
ビキビキッビキビキ
「…数多そうだね」
「ビビってんのか?」
「まさか!ハチマンこそビビってるんじゃない?」
「まさか」
ベルは支給品の短剣を構え、俺は剣を構える。
「剣に変えたからな、いい練習台だ」
『『『『『グギャアアアアっ!』』』』』
「行くぞ」
「うん!」
_____________________
ベル・クラネル
力:I 5~82
耐久:I 0~58
器用:I 3~46
敏捷:I 24~96
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.1
力:H 32~107
耐久:I 17~57
器用:I 30~64
敏捷:I 27~70
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
「…」
夕刻。ダンジョン探索を終え、家に帰ってきて【ステイタス】更新をして用紙を眺めていたヘスティアは絶句していた。
(これがスキルの効果…?)
明らかにおかしい【ステイタス】の伸びに眩暈を覚えつつ先程から出かける準備をしている二人に声をかける。
「君たちはおかしいと思わないのかい?」
「ん?何がだ?」
「…いや何でもないよ」
「「?」」
ヘスティアは溜息をつきソファーに身を沈める。
「それより神様ほんとにいかないんですか?」
「うん、ボクは疲れたから二人で楽しんできてくれよ」
「そうですか…残念ですけど行ってきますね神様」
「行ってらっしゃい」
「「行ってきます」」
***
「「「いらっしゃいませ!」」」
「「…」」
俺たちはシルさんが働いている酒場にやってきた。やってきたのだが…
「…ベルおれもう帰りたいんだけど」
「だ、駄目だよ朝シルさんと約束したし…」
俺とベルはずっとそわそわしてた。その理由は従業員が全員女性で店の中もこじゃれた感じで場違い感が凄いのだ。
「ベルさん、ハチマンさんっ」
「……やってきました」
「はい、いらっしゃいませ。ではこちらにどうぞ」
「は、はい……」
案内されたカウンター席に恐る恐る腰かけると女将さんに話しかけられる。
「あんたらがシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせにかわいい顔してるね!そっちの坊主はおかしな目だね!」
ほっとけデフォルトだとは口に出せずぐっと抑える。
「何でもあたし達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってくれよお!」
「「!?」」
ばっと背後に控えてるシルさんの方を振り返ると、そっと目をそらした。はかったなこの野郎。
「ちょっと、僕達いつから大食漢になったんですか!?僕自身初耳ですよ!?」
「……えへへ」
「へへ、じゃねー!?」
「…まあベルはよく食うもんな。ベルは」
「ハチマン!?」
「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさんふるまってあげて、と伝えたら…尾鰭がついてあんな話になってしまって」
「絶対に故意じゃないですか!?」
「私、応援してますからっ」
「ベル俺も応援してるぞ」
「まずは誤解を解いてよ!?ていうか何でハチマンはそっち側なの!?」
「ばれたか…」
「そりゃバレるよ!?」
「…お腹が空いて力が出ないー…朝ご飯を食べられなかったせいだー…ねえアーニャ」
「そうだにゃー…お腹が空いて力がでないにゃー…」
「やめてくださいよ棒読み!?ていうか、汚いですよ!?それにあなた誰ですか!?」
いつの間にかそばにきていたキャットピープルが棒読みで喋りだす。
(多分朝叫んでた人だな…)
「ふふ、冗談です。ちょっと奮発してくれるだけでいいんで、ごゆっくりしていってください」
「……ちょっと、ね」
「…これちょっとで済むのかな?」
「済まないな絶対確実に」
溜息をつきながらカウンターに向き直りメニューを手に取る。
(多めに稼いどいてよかった…)
取り敢えず俺とベルはパスタを頼む。「酒は?」と女将さんに尋ねられ、遠慮しますと答えると酒をカウンターにたたきつけられる。人の話聞いてますん?
「楽しんでますか?」
「…圧倒されてます」
「てかいじめられてます」
パスタを半分くらい食べたところで、シルさんがやってきた。彼女はエプロンを外すと、丸椅子を持って俺たちの隣に陣取る。
「お仕事、いいんですか?」
「キッチンは忙しいですけど、給仕の方は十分間に合ってますので。今は余裕もありますし」
いいですよね?と視線で女将さんに尋ねる。女将さんも口を吊り上げながらくいっと顎を上げて許しを出した。
「ええと、とりあえず、今朝はありがとうございます。パン美味しかったです」
「いえいえ。頑張って渡した甲斐がありました」
「…頑張って売り込んだの間違いじゃ…ナンデモナイデス」
なんかすっごくいい笑顔で見られたから言うのをやめた。別にビビったわけではない。取り敢えず食べることに専念すると急に店内が騒がしくなる。疑問に思い振り返るとどっと十数人規模の団体が酒場に入店してきていた。
(あれは…)
その中でひと際目立つ金髪の少女を見つける。
(アイズ・ヴァレンシュタインさん…てことはあの団体は現在最強の一角【ロキ・ファミリア】か…)
強さを求めているためどうしても目が吸い寄せられる。
「そうだ、アイズ!お前のあの話を聞かせてやれよ!」
「あの話…?」
「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!」
「「…」」
「最後の一匹、お前が五階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、あん時いた二人のトマト野郎の!」
「ミノタウロスって、十七階層で襲い掛かってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げだしていった?」
「それそれ!奇跡見てえにどんどん上層に上がって行きやがってよっ、俺たちが泡食って追いかけて行ったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~。それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しって言うようなひょろくせえ冒険者が!」
「俺たちのことだな」
「ハチマンさん…」
「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!もう片方はミノタウロスに向かっていこうとするしよ!身の程知らずにもほどがあるってんだ!」
弱いことなんて分かってる。昔から、あの時から。だから強くなりたいと願った。全部守りたいと身の丈に余る傲慢な思いも抱いた。
「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」
「…」
「それでそいつ、くっせー牛の血を浴びて…真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹いてえ…!」
「べ、ベルさんっ……?」
「それに、それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ…ぶくくっ!うちのお姫様、助けた相手に逃げられて止んのおっ!」
「…くっ」
「アハハハハッ!そりゃ傑作やぁー!冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」
「ふ、ふふっ…ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない…!」
「いい加減その口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのはこちらの不手際だ。酒の肴にする権利などない。恥を知れ」
「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもそんなのただの自己満足だろ?ごみをごみと言って何が悪い」
「これやめえ。酒がまずくなる」
弱者は理不尽に奪われ虐げられ笑われる。なにも抵抗できないから。抵抗されないと分かり切ってるから。
「アイズはどう思うよ?自分の前で震え上がるだけの情けないやつを。あれが同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」
「…あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」
「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。…自分より弱くて、軟弱で、救えない雑魚野郎をなんで庇うんだ?」
「…」
「それはお前があいつらを弱者と認めてるからだろうがよ。結局はお前も雑魚だと見下してんだよ!」
そうベートが言った瞬間、ベルが椅子を蹴飛ばし店を出ていく。
「ベルさん!?」
呼び止めるがそれも虚しくベルは遠くへと消え去ってしまう。
「ミアさん」
「ん?」
「これベルと俺の分です。受け取ってください」
「…あいよ」
俺はミアさんにお金を渡すと立ち上がりあるテーブルに向かう。
「おい」
「ああん?誰だお前」
「お前がさっき言ってたトマト野郎だよ」
ハチマンのその言葉にアイズ以外の【ロキ・ファミリア】のメンバーが目を見開く。しかしそんな中でもベートは態度をかえず、俺を鼻で笑う。
「は、わざわざそんなことを言うためだけにきたのか?」
「まさかただ自分のミスにすら気づけずに自らの醜態を広める哀れな犬がいたから気になって話しかけに来ただけだ」
「…てめえ喧嘩売ってんのか?」
「別に誰とは言ってない。まあ自覚があるなら改めた方がいいかもな?」
ベートの額に青筋が浮かび上がる。
「!?ベートっ、何を!?」
リヴェリアがそう言った時にはもうベートは拳を放っていた。ベート自身も軽い脅しのつもりでやっていた。しかしその拳はハチマンによって手首をつかまれ止められる。
「!?」
今度は酒場にいた全員が目を見開く。先程の話から考えるにLv.1のはずのハチマンがLv.5の拳を止めたと言う事実に。そしてハチマンは俯きながらしゃべり始める。
(背中が熱いまるで燃えてるみたいに)
「別に怒ってきたんじゃない。むしろ強くなりたい思いを改めて思い出させてくれて感謝してるぐらいだ」
そう言いながらもベートの手を持つ方にどんどん力が入る。
「俺は一つ言いに来ただけだ」
(こいつっ!?)
だんだんとベートの腕が悲鳴を上げ始める。
「お前らが馬鹿にした、お前らが笑った俺とベルは」
俯かせていた顔をあげ、ベートを、【ロキ・ファミリア】を意思を込めて睨む。
「お前らより強くなってお前ら全員を必ず倒す覚えておけ」
「「「「「!?」」」」」
俺はベートの手を振りはらい、直ぐにベルの後を追った。
***
「くそっ!何なんだよっ、なんなんだよあいつは!?ほんとにLv.1なのか!?っ…」
「…確かに彼が本当にLv.1かは信じがたいね。ベートの拳を止めたこともそうだが最後の彼の威圧感…」
「ああ、わしも飲まれそうになったぞい。あやつなにものじゃ」
「ベートはこれに懲りたら反省をしろ。……おい、ベート少し手を見せてみろ」
「っ。別にどうってことねえよ」
「いいから見せろ」
リヴェリアは強引にベートを引き寄せ手を診る。
「!これは…ヒビが入っているな…」
「ははっ。これは本当にすぐ抜かされてしまうかもしれないね」
そう軽く言いつつも戦慄を隠せない【ロキ・ファミリア】の面々であった。