やはり俺が強くなることは間違っているだろうか   作:149

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#4 飛躍

(確かこっちに…)

 

俺は『豊饒の女主人』を飛び出し、ある場所へ向かってずっと走っていた。

 

(ベルのことはとっくに見失ってる。けどどこに行ったかはわかる)

 

あいつはあの犬男の言葉を肯定してしまったのだろう。ほかならぬ自分自身が。それが悔しいのだろうたまらなく、だったら行く場所は一つだ。

そこまで考えた俺は、摩天楼施設の正確にはその地下を目指した。

 

***

 

「邪魔だ」

 

『ィィアッ!?』

 

すれ違いざまにモンスターを一閃する。現在の階層は六。それでも未だにベルの姿が見当たらない。見つかるのは回収されることなく不自然に落ちている『魔石』だけ。すると戦闘音が耳に入る。

 

(!こっちか!)

 

目の前の角を曲がると肩で息をするベルの姿が見える。ここまでがむしゃらに来たのか体中ボロボロになり短剣は赤に染まっている。

 

「…ベル」

 

「ハチマン…」

 

ビキリ

 

「「!」」

 

ダンジョンの壁に亀裂が入り始める。

 

「…ハチマン僕強くなりたい。アイズさんにも負けないくらい強くなりたい」

 

「…」

 

俺は剣を構えつつもベルの言葉に耳を傾ける。その間にも亀裂は広がり破片を散らす。

 

「高みを目指したい。ハチマンとアイズさん(あこがれ)に並びたいそして」

 

紅の瞳に確固たる意思がこもる。

 

「そして僕は英雄になりたい」

 

遂に破砕音をならし、モンスターが生れ落ちる。それは影の形をしたモンスター『ウォーシャドウ』。そのモンスターは六階層の中でも随一の戦闘力を持っている。

 

「俺もだ俺も強くなりたい」

 

生れ落ちた二匹は俺達を見据える。その二匹を見ながらも口を止めない。

 

「誰よりも強くなりたい」

 

俺とベルは姿勢を低くし二匹を睨む。

 

「「いこう」」

 

互いにそして自らに言うように呟くと無謀な戦いに身を投じた。

 

***

 

時間を刻む音が部屋の中に響く。ヘスティアはホームの中をぐるぐると歩き回っていた。

 

「いくら何でも遅すぎる……!」

 

腕を組み眉間にしわを寄せ焦りを顔に浮かべる。

 

(酒場に行くとは言っていたけど…朝帰り…まさか店員と朝まで…そんなふしだらな!)

 

ふしだらな事を考えるが、直ぐに頭を振る。

 

(あの奥手の塊のような二人に限ってそんなことはないか…でもそうなると…)

 

何か事件に巻き込まれたか。頭に最悪がよぎり、ぶわっと嫌な汗が噴き出す。居てもたってもいられなくなったヘスティアは、ハチマン達を探しに行こうと扉に駆け寄りドアノブに手をかけようとー

 

「ーぶぎゅ!?」

 

したところで扉が開きヘスティアは顔面を強打し、声にならない呻き声をあげ蹲る。

 

「お、おうヘスティアすまん」

 

声の主に気づいたヘスティアは、すぐに立ち上がる。

 

「ハチマンく…っ!?」

 

涙ぐんだ瞳でハチマンを見るがすぐに言葉を失う。一目でわかるほどに満身創痍な体。そして背中にはベルがおぶわれているが、ベルも似たような状態だったからだ。目をつぶっているが所々息遣いが聞こえるから生きていることは分かる。

 

「どうしたんだい、その怪我は!?まさか誰かに襲われたんじゃあ!?」

 

「いや、まあ違うけど…」

 

「じゃあ、一体どうして!?」

 

「…えっと、そのダンジョンに…」

 

ぽつりと呟かれたその言葉に、怒りを忘れ唖然とする。

 

「ば、馬鹿っ!馬鹿なのか君たちは!?何を考えてるんだよ!?冒険者になり立てしかもそんな恰好で一晩中!?」

 

「す、すいません」

 

「…どうしてそんな無茶をしたんだい?」

 

「いや少しやんちゃをしたくなって…」

 

「君は本当に馬鹿なのかい?」

 

怒りを通り越して呆れた視線を送る。

 

「まあいい、言いたくないならこれ以上聞かないよ」

 

「いやだからやんちゃを…なんでもないですすいませんでした」

 

「そんなこと言ってないではやくシャワーあびておいで。血はもう止まってるみたいだけど、傷の汚れを落とさないと。その後すぐに治療をしよう」

 

「……ありがとうございます」

 

案外大丈夫そうに喋っていたが、やはり傷が痛むのか歩き方がぎこちない。自分の非力さを恨みながらもベルを担ごうとする。

 

「いや大丈夫だ。てかそろそろこいつ起こすつもりだったし…おいベル起きろ」

 

「…んん、こ…こは……?」

 

「ホームださっさとシャワー浴びて治療するぞ」

 

「…ありがとうハチマン運んでくれたんだね」

 

「気にすんな。まあ流石にダンジョンで気絶してたら放置してたけど」

 

「ははっ…」

 

「君たち案外余裕だね?」

 

多少ベルの体を支えながら呆れる。そこでふと思い出したように口を開いた。

 

「ベル君、ハチマン君、君達はベッドに寝ること。いいね?」

 

「いや別に大丈夫…」

 

「何を言ってるんだい。ここで君達をソファーに放り出すほど、ボクは性根を腐らせてなんかないぜ?」

 

この怪我人に必要なのは休息だ。少しでもいい環境を提供する為にヘスティアは自分の寝床を提供する。

 

「いや女性をソファーで寝かせるわけには…」

 

ヘスティアはその言葉にある悪戯を思い付きニヤリと笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、ボクも同じベッドで寝させてもらおうかな?」

 

「ああ…それなら解決だな。じゃあ、一緒に寝るか」

 

「そうだね。神様一緒に寝ましょう」

 

「なぬっ!?」

 

冗談のつもりで言った言葉をスルーされ、挙句強烈なカウンターを叩き込まれクリーンヒットしたヘスティアは絶句した。

 

(そんなキャラじゃないだろう君達は!?)

 

天界の三大処女神と言われるヘスティアは顔を紅潮させる。あまりの疲労に二人とも思考能力が落ちている事は分かっているが、それでも赤くしてしまう。

 

「「神様(ヘスティア)」」

 

「……!にゃ、にゃんだいっ?」

 

ぽつりと呟かれた言葉に声を裏返させてしまう。

 

「「…僕、強くなりたいです(俺は強くなる)」」

 

「!」

 

はっと、二人を顔を見る。

 

「…うん」

 

ヘスティアは二人の言葉を真摯に受け止めるのだった。

 

_______________________

 

 

ベル・クラネル

 

Lv.1

 

力:G 82~226

 

耐久:H 58~102

 

器用:H 46~152

 

敏捷:G 96~294

 

魔力:I 0

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

【憧憬一途】

 

・早熟する

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・懸想の丈により効果向上。

_____________________________

 

ハチマン・ヒキガヤ

 

Lv.1

 

力:G 107~270

 

耐久:H 57~172

 

器用:I 64~182

 

敏捷:I 70~247

 

魔力:I 0

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

【強者願望】

 

・早熟する

 

強者になりたい(思い)が続く限り効果持続。

 

強者になりたい(思い)の丈により効果上昇。

 

・全ステイタス上限突破しなければランクアップ不可。

 

【守護者】(ガーディアン)

 

・守りたいものの為に行動するときステータスの高補正。

 

・守りたいものの人数により効果上昇。

 

【孤軍奮闘】

 

・少数対多数の時の高補正。

 

・パーティーの人数により効果上昇。

 

・相対人数又は強さにより効果上昇。

 

___________________________

 

「……」

 

二人の【ステイタス】を記した紙を見て顔を引き攣らせた。

 

二人が帰ってきて一夜が明けた。極度の疲労から昨日丸一日を睡眠に費やしーベルとハチマンはヘスティアが一緒に寝ている事に気付いた瞬間絶叫したー早い時間帯に起きた三人は現在、取り敢えずということで【ステイタス】の更新を行っている。

 

(早すぎる…)

 

ヘスティアが『神の恩恵』を授けるのは二人が初めてだがある程度の知識はもっていた。だから子供達に刻まれる【ステイタス】が、こんなものではないと知っていた。

 

(でもこの二人は気づいてないんだろうな……)

 

『神の恩恵』を授かったのが初めての二人は初めから成長速度がいかれていたためその異常に気付いていなかった。

 

(しかし…こうまでいっぺんに成長した原因は……やっぱり一昨日何かがあったんだそして二人の中で思いが膨れ上がった)

 

ヘスティアは【ステイタス】更新を終え、各々くつろいでる二人を見る。

 

(強く…か。…よしっ)

 

ヘスティアはテテテ、と規則性のない歪なフローリングの上を駆け、引き出しの前に行き中を漁り、目当てのものを見つける。

 

『ガネーシャ主催 神の宴』と書かれた招待状。開催日は…本日の夜。

 

(ヘファイストスも来るよね…?)

 

この隠し部屋を恵んでくれた友人の顔を思い浮かべる。

 

「ベル君、ハチマン君、ボクは今日の夜…いや何日か部屋を留守にするするよっ。構わないかなっ?」

 

「えっ?あ、わかりました」

 

「バイトか?」

 

「いや、行く気はなかったんだけど、友人の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね。久しぶりに皆の顔を見たくなったんだ」

 

「なるほど。だったら俺達に遠慮せず行ってきてくれ」

 

嫌な顔をせず送り出してくれる二人に勝手で悪いと思いながらも頷いて、クローゼットを物色する。その中から必要なものをバッグに詰めドアに手をかけ、もう一度ベルとハチマンの方を向く。

 

「君達、もしかして、今日もダンジョンに行くのかい?」

 

「そのつもりなんですけど…やっぱりダメですか?」

 

「ううん、いいよ、行ってきな。ただし引き際は考えるんだよ?君達はまだ怪我をしてるんだからね」

 

「…善処する」

 

「君の善処するほど信用ならないものはないんだけど…まあ行ってくるよ」

 

二人に見送られながら、ヘスティアは部屋を後にした。

 

______________________

 

「…気まずいなぁ…」

 

ベルが『Closed』と札のかかっているドアの前で頭をかく。そしてちょっと悩むそぶりを見せると『豊饒の女主人』へ足を踏み入れる。

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中です。時間を改めてお越しになっていただけないでしょうか?」

 

「まだミャー達のお店はやってニャい…ん?…あぁー!おミャーらあん時の白髪頭に【ロキ・ファミリア】に喧嘩売ってた腐り目小僧!」

 

「え!?」

 

「シルとミアお母さんを呼んできましょうか?」

 

「…お願いします」

 

恐らく喧嘩を売ったことに驚いているであろうベルを無視してエルフの方にお願いする。

 

「ベルさんにハチマンさん!?」

 

エルフの方が奥に消えてしばらくすると店の奥からシルさんが現れる。

 

「一昨日は、すいませんでした。お金も払わずに、勝手に…」

 

「…?その事ならハチマンさんがちゃんと二人分払っていきましたけど…」

 

「え?は、ハチマン?」

 

俺はすっと目をそらす。

 

「言うの忘れてた」

 

「ハチマン?なんで笑ってるの?」

 

「気のせいだろ」

 

「なら僕と目を合わせてほしいんだけど」

 

「いやちょっとお前と目を合わせると死ぬ病が…」

 

「そんな病気ないでしょ!?ていうか絶対ここに来るまでの僕の反応楽しんでたよね!?」

 

「ソンナコトナイヨ?」

 

「じゃあなんで片言なの!?」

 

「ごめんって忘れてたのはほんとだよ。途中で気付いたけど」

 

「そ、そうなの?…待って最後なんて言った?」

 

「坊主達が来てるって?」

 

ぬうっとカウンターバーの内側にあるドアから女将さんが出てくる。俺は変な顔で見てくるベルを無視してミアさんのもとへ行く。

 

「ミアさん」

 

「ん?」

 

「あの日酒場の空気を悪くしてすいません」

 

「わざわざそれを言いに来たのかい?それなら気にしなくていい。いいもん見せてもらったしね。まあアンタ等二人が無言で去ってって塞ぎ込んだシルを見て、あのエルフのリュー真剣もって出ていきそうになったから止めるのに苦労したけどね」

 

「「…」」

 

がっはっはとミアさんは豪快に笑うがこの酒場で働く人はただものではないと気づいていたので全く笑えない。

 

「…坊主」

 

「「?」」

 

「冒険者なんてかっこつけてるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってればいい。背伸びしてみたってろくなことは起きないんだからね」

 

それを聞きベルが目を見開く。

 

「最後まで二本足で立ってたやつが一番なのさ。みじめだろうが何だろうがね。すりゃあ、帰ってきたソイツにアタシが盛大に酒を振る舞ってやるさ。ほら、勝ち組だろ?それにそこの腐り目」

 

「!」

 

「あんたのその度胸気にいったよ。あの宣言を嘘にしてアタシを失望させないでおくれよ」

 

ミアお母さん…。

 

「気持ち悪い顔してるんじゃないよ。そら、アンタらはもう店の準備の邪魔だ、行った行った」

 

くるりと回転させられドンっと背中を押された。その威力に呼吸が半分止まる。

 

(なんちゅう威力…)

 

「坊主達、アタシにここまで言わせたんだ、くたばったら許さないからねえ」

 

「はい!」

 

「うっす」

 

勢いよく駆け出して店を出る際、思わず二人して「行ってきます」と言ってしまい顔を赤くさせるのだった。

 

***

 

「ん~?あの腐り目ほんとに同一人物かニャ?」

 

「…まあ確かに信じがたいですね」

 

「どうしたの?」

 

「いえ、あの方が【ロキ・ファミリア】に宣言した時Lvが格上であるはずの私達も圧倒されたのですが…」

 

「今日の腐り目全くその面影がなかったのにゃ。昨日のが嘘みたいニャ」

 

「ふふっ、もしかしたらとんでもない人と知り合ったのかもね?」

 

そう言いながら、先程二人が出て行った扉を見つめるのだった。

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