やはり俺が強くなることは間違っているだろうか   作:149

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まず投稿が遅れてしまい申し訳ありません。理由として現在自分は就活中で忙しく中々書くことができませんでした。就活がひと段落付いたらまたどんどん投稿していこうと思ってます。何卒ご理解よろしくお願いします


#5 何か

【ガネーシャ・ファミリア】の本拠地、『アイアム・ガネーシャ』で『神の宴』が開かれていた。『神の宴』とは、下界に降りた神たちが顔を合わせるために設けた会合であり今日も神たちにより喧騒に包まれていた。そんなざわめきが絶えない会場の一角

 

「むっ!給仕君、踏み台を持ってきてくれ、早く!」

 

「は、はい!」

 

ヘスティアは【ガネーシャ・ファミリア】の構成員が務めるウェイターを使い、多種多様の料理と格闘していた。

 

「(さっ!さっ!さっ!)」

 

「…」

 

持参したタッパーに日持ちしそうな料理を次々と詰め込んでいくヘスティア。それを見せられている給仕の青年は何とも言えない顔をする。しかしヘスティアはそんな視線も気にせずに作業を続けていく。

 

「何やってんのよ、あんた……」

 

「むぐ?むっ!」

 

脱力したような声がヘスティアの側から投げかけられる。声に反応したヘスティアが振り向くと紅い髪に深紅のドレスで右目に大きな眼帯をした麗人が、呆れを含んだ表情でヘスティアを見下ろしていた。

 

「ヘファイストス!」

 

「ええ、久しぶりヘスティア。元気そうで何よりよ。……もっとましな姿を見せてくれたら、私はもっと嬉しかったんだけど」

 

「いやあよかった、やっぱり来たんだね。ここにきて正解だったよ」

 

「何よ、言っとくけどお金はもう一ヴァリスも貸さないからね」

 

「し、失敬な!ボクがそんな事をする神に見えるかい!そりゃあヘファイストスには何度も手を貸してもらったけど、今はおかげで何とかやっていけてる!今はボクが親友の懐を食い漁る真似なんかするもんかっ!」

 

「たった今、普通にただ飯を食い漁ってたじゃない」

 

「うっ……いや、これは、どうせ残るんだし…粗末に捨てるくらいならボクが有効活用してあげようかなー、なんて…」

 

「ほーほー、立派じゃない、そのけち臭い精神。わたしゃあ、あんたのそんな姿に感動して涙が止まらないわよ」

 

「ぐぬう……!」

 

はんと鼻を鳴らすヘファイストスにヘスティアは悔しそうに唸る。そんな中コツコツと靴を鳴らす音がヘファイストスの後ろから近づいてくる。

 

「ふふ…相変わらず仲がいいのね」

 

「え…フ、フレイヤっ?」

 

ヘスティアの視界に現れたのは容姿の優れている神の中でも群を抜いて美しい美に魅入られた神――フレイヤが立っていた。

 

「な、なんで君がここに…」

 

「ああ、すぐそこで会ったのよ。久しぶりーって話していたら、じゃあ一緒に会場回りましょうかって流れに」

 

「か、軽いよ、ヘファイストス…」

 

「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」

 

「そんなことないけど…ボクは君のこと、苦手なんだ」

 

「うふふ、貴方のそういうところ、私は好きよ?」

 

「やめてくれよ」

 

ヘスティアは手を振る。

 

「おーい!ファイたーん、フレイヤ―、ドチビ!!」

 

「…もっとも、君なんかよりずっと大っ嫌いな奴が、ボクにはいるんだけどねっ」

 

「あら、それは穏やかじゃないわね」

 

「あっ、ロキ」

 

「何しに来たんだよ君は…!」

 

「なんや、理由がなきゃ来ちゃあかんのか?『今宵は宴じゃー!』っていうノリやろ?むしろ理由を探す方が無粋っちゅうもんや。はあ、マジで空気読めてへんよ、このドチビ」

 

「…!…!!」

 

「凄い顔になってるわよ、ヘスティア」

 

ロキに馬鹿にされたヘスティアは顔を引き攣らせる。そこからヘスティアを除く三名が談笑の談笑が進んだ。途中ロキとヘスティアがつかみ合いの喧嘩をし、ロキがヘスティアの揺れる何かを見て動揺し帰りその後フレイヤも帰り、ヘファイストスと二人っきりになっていた。

 

「ヘスティア、もし残るんだったら、どう?久しぶりに飲みにでも行かない?」

 

「う、うん、えーとっ…」

 

「?」

 

「そのぉ…ヘファイストスに頼みたいことがあるんだけど…」

 

「…」

 

すっ、と紅い左眼が細まる。

 

「この期に及んで、また頼み事ですって?あんた、さっき自分が口にしていたことをよーく思い出してみなさい?」

 

「え、えと、何だっけっ…?」

 

「私の懐は食い荒らさないって、そう言ってなかったかしら?」

 

「いやぁ…あはは…」

 

「…一応聞いておいてあげるわ。な・に・を、私に頼みたいですって?」

 

ヘスティアは大きな声で自分の望みを放った。

 

「ベル君とハチマン君にっ…僕の【ファミリア】の子に、武器を作ってほしいんだ!」

_____________________

 

『ブォア!』

 

「ふっ!」

 

向かってくる爪を大きく避けゴブリンの首を飛ばす。そこにすかさず別のゴブリンが背中から襲い掛かるが横に飛び体を一閃する。

 

『…グゥ』

 

斬ったゴブリンが絶命し灰になったのを確認するとベルの方を向く。するとちょうどヤモリ型のモンスター『ダンジョン・リザード』を倒し、こちらに歩み寄っているところだった。

 

「ハチマンそっちはどう?」

 

「ああちょうど終わったぞ」

 

そう言うと『魔石』の回収作業に入る。

 

「…そういえばハチマン、【ロキ・ファミリア】に喧嘩売ったって…」

 

「あー…売ったと言うかなんというか…」

 

「?」

 

「まあ…きにすんな」

 

実はあの時のことを後々冷静に考えてベッドの上で悶絶したりしてるハチマン的にはあまりほり返したくはない出来事だった。

 

(それに謝らないとなぁ…怖いな…)

 

そんなことを考え、頭を振り話題を変える。

 

「それよりもまた弁当もらったんだな」

 

「うん遠慮したんだけどそのさし上げたいってことじゃダメですか?って言われて…」

 

「くそがこれだからベルは…滅べよ…」

 

「そういえばハチマンの分ももらったよ」

 

「失礼なことを言ってすいませんでした」

 

速攻で謝りベルから弁当を受け取る。

 

「それじゃ荷物も増えてきたし一回上に上がるか」

 

「うん!」

 

それから現在いる四階層から一階層まで移動する。

 

(…ん?)

 

「ハチマンあれ…」

 

地上までの階段を上っている最中車輪が取り付けられている物資運搬用の収納ボックスが目に入る。そのカーゴを見ていると箱が揺れる。

 

「いっ!?」

 

一人でに動いたカーゴにベルが素っ頓狂な声を上げる。

 

「は、ハチマンあれもしかして…」

 

「ああ、多分モンスターが閉じ込められてんだろう」

 

「でもなんでモンスターを…」

 

「さあ?なんでだろうな」

 

大して興味もなく直ぐにその場を後にし、その日は潜っては出てを繰り返し帰路についた。

________________

 

「…あんた、いつまでそうやってるつもりよ」

 

「…」

 

とある店の屋内で、紅眼紅髪の女神ヘファイストスが、呆れたような疲れたような声音をこぼしていた。そしてその目の前には床に跪いてこれでもかと頭を下げている親友、もとい幼女神ことヘスティアである。

 

「私これでも忙しいんだけど?」

 

「……」

 

「騒いでなくても、そこで虫みたいに丸まってもらってると、気が削がれて仕事の効率落ちるの。わかる?」

 

「……」

 

「ちょっと、ヘスティア?」

 

「……」

 

「……はあ」

 

押し黙りずっと同じ態勢のままでいる小さな親友に、ヘファイストスは溜息をつく。

【ガネーシャ・ファミリア】のホーム『アイアム・ガネーシャ』で下界に降り立った神達が顔を合わせるために設けられた会合、『神の宴』が行われていた日、ヘスティアに【ファミリア】の構成員に武器を作ってほしいと懇願され、ヘファイストスはバッサリと切って捨てた。【ヘファイストス・ファミリア】の上級鍛冶師が作った作品はオラリオの中でもトップクラスの品質を誇っている。その相場は誰であれ、おいそれと手を出せない域にある。だから容赦なくヘスティアを突っぱねた。しかし申し出を断られたヘスティアは諦めることなく今の状況に陥り、丸一日その状態が続いていた。

 

「…ヘスティア、教えて頂戴。どうしてあんたがそうまでするのか」

 

あまりの根気の強さにまっすぐに問う。

 

「…あの子達の、力になりたいんだ!」

 

ヘスティアは全てをぶつけるように吐き出す。

 

「まだ出会って間もないけどあの子達が大切なんだ!そしてその大事な子達が高く険しい道のりを走り出そうとしてる!危険な道だ、だからほしい!あの子達を手助けしてやれる力が!あの子達の道を切り開ける、武器が!」

 

本音をさらけ出し自らをぶつける。

 

「ボクはあの子達に何もしてあげられないっ!あの子達は高みへと行こうとしてるのに、その主神であるボクが神らしいことは何一つだってしてやれてない!」

 

最後は絞り出すようにして、ぐっと体を強張らせる。

 

「…見てるだけじゃ、嫌なんだよ…」

 

消え入りそうな弱々しい言葉が紡がれる。しかし神を動かすには事足りた。

 

「…わかったわ。作ってあげる、あんたの子達にね」

 

ばっと瞠目した顔を振り上げたヘスティアに、ヘファイストスは肩をすくめて見せる。

 

「私が頷かなきゃ、あんた梃子でも動かないでしょうが」

 

「……うんっ、ありがとう、ヘファイストス!」

 

ヘファイストスは長時間の正座でふらふらな親友を見て溜息をこぼしつつもくすりと微笑む。

 

「ーで、言っておくけど、ちゃんと代価は払うのよ。何十年何百年かかっても、絶対にこのツケは返済しなさい」

 

「わ、わかってるさっ、ボクだってやるときはやるんだっ」

 

「はいはい楽しみに待ってるわ。それであんたの子らが使う得物は?」

 

「え……ナ、ナイフにロングナイフだけど?」

 

そう、と一言だけ呟くとヘファイストスは紅緋色の鎚をとる。

 

「へ、ヘファイストス。もしかして、君が武器を打つのかい?」

 

「そうよ、当たり前でしょう。これは完璧にあんたとのプライベートなんだから。私の事情に【ファミリア】の団員を巻き込むわけにはいかないわ」

 

何か文句ある?と言わんばかりに眼帯をしていない左眼でジロリと一睨みする。

 

「文句なんてあるわけないじゃないか!天界でも神匠と謳われた君に作ってもらうんだ、むしろ大歓迎だよ!」

 

「あんた、忘れてない?ここは天界じゃないのよ、私は一切『力』を使えないんですからね」

 

「構うもんか!ボクは君に武器を打ってもらうのが一番嬉しいんだから!」

 

「…」

 

ヘファイストスの腕を疑っていないのか無条件で己を受け入れてるヘスティアに、ヘファイストスは思わず眉を顰めるが悔しいことに悪い気はしなかった。

 

「…これからやる作業、あんたも手伝いなさい。今からしっかり働いてもらうから」

 

「ああ、任せておくれよ!」

 

(さて…)

 

記憶から武器の使い手となる人物情報を引き出す。

 

(使い手は駆け出しも駆け出し、そんな冒険者に持たせる一級品…)

 

はっきりいって、無理難題である。

 

(どうするか…)

 

我が神友ながら厄介な依頼をしてくると心の中で呟くヘファイストスだった。

 

____________________________

 

ヘスティアが出かけてから三日目の朝。まだヘスティアは帰ってきていなかった。

 

がらんとした教会の中で俺とベルはダンジョンに潜る準備を進める。

 

「だけどこれほんとにもらってよかったのかなぁ…」

 

「まあ断っても押し付けてきたからな…よかったんじゃないか?」

 

そう言いながら手元のポーションに視線を落とす。これはヘスティアの神友と名乗る青髪の男神――ミアハ様にもらったものだ。昨日帰路についている所ミアハ様に声を掛けられお近づきのしるしと言われ渡されたのだ。

 

「ハチマン怪我の調子はどう?」

 

「俺は大丈夫だなそっちは?」

 

「僕も大丈夫だよ。…どうする?今日こそ…」

 

俺はベルの言わんとすることを理解し頷く。するとベルはうきうきしたような顔に変わる。実は昨日四階層までに留まっていたのは俺とベルの傷が完治していないため安全を優先していたからだ。

 

((今日こそ、五階層から下に…))

 

本日の予定を組み立てつつ俺達は地下室を出発する。こなれた動きでダンジョンまでの道を進む。

 

「おーいっ、待つにゃアホ毛頭!白髪頭!」

 

アホ毛頭と言う単語に反応し、思わず足をとめる。声のした方を振り向くと『豊饒の女主人』の店先で、猫耳と細いしっぽを生やしたキャットピープルの少女が、ぶんぶんと大きく手を振っていた。

 

(あの人は確か…弁当盗まれた人か…)

 

シルさんに弁当を容赦なくとられていたのでよく覚えていた。一度辺りを見やると白髪頭に反応したであろうベルが「僕ですか?」という風に自らに指をさし確認するとこくこくと頷かれ、俺とベルは駆け寄る。

 

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて、悪かったニャ」

 

「あ、いえ、おはようございます」

 

「おはようございます。…それで俺達に何か?」

 

「ちょっと面倒ニャことを頼みたいニャ。はい、これ」

 

「「へっ(え)?」」

 

「白髪頭とアホ毛頭はシルのマブダチニャ。だからコレをあのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ」

 

そう言い財布らしきものを渡される。てかアホ毛って。

 

「あの…全く話が見えてこないんですけど…あとそのアホ毛頭ってやめてほしいんですけど…」

 

「じゃあ腐り目ニャ」

 

「アホ毛頭でお願いします」

 

「アーニャ。それでヒキガヤさんに失礼ですそれに説明不足だ。クラネルさんたちも困っています」

 

色々困っていると今度はエルフの店員さんが現れた。

 

「リューはアホニャー。店番さぼって祭り見に行ったシルに、忘れていった財布を届けてほしいニャンて、そんにゃ事話さずともわかることニャ。ニャア、アホ毛頭と白髪頭」

 

分かるか。

 

「というわけです。言葉足らずで申し訳ありませんでした」

 

「あ、いえ、よくわかりました。そう言うことだったんですね」

 

「ええ。それでどうか頼まれてもらえないでしょうか?私やアーニャ、ほかのスタッフ達も店の準備で手が離せないのです。これからダンジョンに向かう貴方達には悪いとは思うのですが…」

 

「別に構いませんけど…」

 

「僕も大丈夫ですけど、シルさんが店をサボちゃったってほんとなんですか?」

 

確かに。あの商売根性の塊みたいな人がさぼるなんて意外だ。まあ気持ちはわかるけど。

 

「さぼる、という言い方には語弊があります。ここに住まわせてもらっている私達とシルとでは、環境が違うので」

 

どうやらちゃんと休みを取って休んでいるらしい。それで何でも『お祭り』にいったらしく…。

 

「…怪物祭?」

 

「はい。シルは今日開かれるあの催しを見に行きました」

 

「…あー、あのカーゴはそういう…」

 

ここに来る前に蓄えた知識を思い出しながら昨日のカーゴの件について納得する。

 

「ハチマン知ってるの?」

 

「ああ、ここに来る前に知識として覚えてるくらいだけど」

 

「よかったら教えてくれない?」

 

「ああいいぞ。怪物祭は、年に一回ある催しでダンジョンからモンスターを引っ張ってきて民衆の前で調教する祭り…であってますよね?」

 

「ええあっています」

 

「なるほど…」

 

「ミャー達だって本当は見に行きたいニャ、でも母ちゃんが許してくれねーニャ。シルはお土産を買ってくるとか言って、笑顔で敬礼なんてしていったけど…財布を店に忘れていくというこの体たらくニャ。シルはうっかり娘ニャ」

 

「アーニャ、貴方が言えた事ではないと思いますが」

 

「はは…」

 

まあ、大体の事情は分かった。普段の恩もありベルと話して引き受けることにした。

 

「シルはさっき出かけたばっかだから、今から行けば追いつけるはずニャ」

 

「「わかりました」」

 

俺達はシルさんの財布を受け取り、怪物祭が行われている場所へ向かった。

 

***

 

わいわいと、今にも踊り出しそうな声々が大通りには溢れていた。そんな大通りに面する喫茶店、その二階。内装は木目調で温かい雰囲気がある店内で、彼女は通りを一望できる窓際の席に美の神―フレイヤはいた。

 

「…」

 

通りを埋め尽くすのは沢山の下界のもの……多くの子供達。フレイヤがその顔を一つ一つ確認するかのように彼等を眺めていると、ギシリと。木張りの床がきしむ音と共にこちらに近づいてくる気配が複数あった。フレイヤは俯瞰するのをやめ、待ち人を瞳に映す。

 

「よおー、待たせたか?」

 

「いえ、少し前に来たばかり」

 

片手をあげ気軽に声をかけてきた神物に、フレイヤはフードの下で浅く笑う。

 

「なあ、うちまだ朝飯食ってないんや、ここで頼んでもええ?」

 

「お好きなように」

 

椅子を引きながらずけずけとそんなことを言うロキに、フレイヤは微笑を浮かべたまま気にしたそぶりも見せない。

 

「宴の後、ずいぶんと寝込んでいたそうじゃない。一人で自棄酒して、酔いつぶれて、ふふ、ヘスティアもやるわね?」

 

「おい、腐れおっぱい。お前はそういうことどっから聞きつけてくるんや」

 

「貴方の可愛い団員たちが騒いでいたそうよ?誰かさんを話の種にして、盛り上がって」

 

「かーっ、あのヤンチャどもめ、やってくれるわぁ」

 

「ところで、いつになったらその子を紹介してくれるのかしら?」

 

「なんや紹介がいるんか」

 

「一応、彼女と私は初対面よ」

 

この場にいるのはフレイヤとロキを除けば一人。

 

「んじゃ、うちのアイズや。これで十分やろ?アイズ、こんなやつでも神やから、挨拶だけはしときぃ」

 

「…初めまして」

 

「可愛いわね。それに…ええ、ロキがこの子に惚れ込む理由、よくわかった」

 

アイズはフレイヤと目が合うとぺこりと丁寧にお辞儀をした。

 

「どうしてここに【剣姫】を連れてきたのかきいても?」

 

「ぬふふっ……!そらお前、せっかくのフィリア祭や、この後しっかりきっちりアイズたんとラブラブデートを堪能するんじゃあ!」

 

下卑た笑みを浮かべ吠えるロキ。

 

「……ま、それに、『遠征』も終わってやっと帰ってきたと思って放っておくと、まーたすぐダンジョンに潜ろうとするからなあ、このお姫様は」

 

「…」

 

「誰かが気を抜いてやらんと一生休みもせん」とロキは隣に手を伸ばし、少女の頭をぽんぽん叩く。

 

「それじゃあ、こんなところに呼び出した理由をそろそろ教えてくれない?」

 

「ん、ちょい久々に駄弁ろうと思ってなあ」

 

「嘘ばっかり」

 

フードの作る暗がりの中から薄く笑うフレイヤに、ロキも態度をかえニッと不敵に笑う。それまであった両者の空気ががらっと一変する。

 

「率直に聞く。何をやらかす気や」

 

「何を言っているのかしら、ロキ?」

 

「とぼけんな、あほぉ」

 

ロキはその細い眼を猛禽類のように鋭く構える。

 

「最近動きすぎやろう、自分。興味ないとかほざいておった『宴』に急に顔を出すわ、さっきの口振りからして情報収集に余念がないわ……今度は何を企んどる」

 

「企むだなんて、そんな人聞きの悪いこと言わないで?」

 

「じゃかあしい」

 

『お前が妙な真似すると碌なことが起きない』ロキは言外にそう告げる。こちらに面倒が及ぶようなら叩き潰すぞと。視線の応酬が続く。アイズが見守る中、永劫に続くやり取りかと思われたがおもむろにロキが脱力する。

 

「男か」

 

「…」

 

フレイヤは答えない。しかしロキはそれを肯定とみなし呆れたようなため息をつく。

 

「はあ…つまりどこぞの【ファミリア】の子供を気に入ったちゅう、そういうわけか」

 

フレイヤの多情…いわゆる男癖の悪さは、神々の中でも周知の事実だった。気に入った異性を見つければすぐにでもアプローチを行い、その類ない『美』を用いて自分のものにする。

 

「ったく、この色ボケ女神が。年がら年中盛りおって、誰だろうとお構いなしか」

 

「あら、心外ね。分別くらいあるわ」

 

「抜かせ、男神どもも誑かしとるくせに」

 

「彼等と繋がっておけば色々便利だもの。何かと融通が利くわ」

 

かっ、とロキは喉を鳴らす。

 

「で?」

 

「…?」

 

「どんな奴や、今度自分の目にとまったっていう子供ってのは?いつ見つけた?」

 

教えろ、とロキは口端を吊り上げる。

 

「…」

 

「そっちのせいでうちは余計な気を使わされたんや、聞く権利くらいあるやろ」

 

「…強くは、ないわ。貴方や私の【ファミリア】の子と比べても、今はまだとても頼りない。少しのことで傷付いてしまい、簡単に泣いてしまう…そして諸刃の剣のような心…そんな子達」

 

でも、と細い唇が震える。

 

「綺麗だった。透き通っていた。濁っていてもその中は透き通っていた。あの子達は私が今まで見たことのない色をしていたわ」

 

ほんの僅かな熱を乗せ声のトーンが上がる。

 

「見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入っただけ」

 

その相手との出会いを再現するかのように、窓の外の光景を見下ろした。

 

「あの時も、こんな風に…」

 

西のメインストリートに視線を移した瞬間フレイヤの動きが止まる。その銀の視線が、冒険者の防具を纏った『白い髪の少年』と『黒い髪の少年』に釘付けとなった。徐々に遠のいていくその背中を見つめるフレイヤは、ゆっくりと、蠱惑な笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさい、急用ができたわ」

 

「はあっ?」

 

「又今度会いましょう」

 

ぽかんとするロキを置いてフレイヤは席を立った。

 

「何やあいつ。いきなり立ち上がって」

 

怪訝そうな顔を浮かべ、ロキはフレイヤが消えた階段を見つめる。と、そこで「ん?」とロキは小首をかしげる。

 

「アイズ、どうした?何かあったん?」

 

「…いえ」

 

そうは言いながらも視線は外を向いていた。見覚えのある二人の姿を追いながら。

 

***

 

「はい、これ」

 

「おおぉ…!?」

 

作業着を着たヘファイストスから手渡された小型のケースに、ヘスティアは感嘆の声を漏らす。

 

「ご要望には応えられたかしら?」

 

「うんうんっ、十分十分っ!文句なんてあるわけないない!」

 

ぱかっとふたを開けてヘスティアは箱の中身を見る。漆黒の鞘に納められた、漆黒の柄を持つ短刀と純白の鞘に純白の柄をもつ剣。

 

「あっ、そうだ、この武器の名前なんてつけるんだいヘファイストス!?」

 

「そうね…これらは神の武器としか形容しようがないし…『神のナイフ』(ヘスティアナイフ)…それに『神のソード』(ヘスティアソード)ってところかしら」

 

それを聞き終始ご満悦なヘスティアは頭に手をやってにやける。頭の両サイドで結われた長いツインテールが、彼女のご機嫌を示すように波打っていた。

 

「言っておくけど、借金、踏み倒すんじゃないわよ」

 

「わかってるわかってる!」

 

浮かれてるヘスティアは笑顔で頷き早速この場から出ていく準備を始める。

 

「もう行くの?」

 

「ああ、悪いけど!」

 

居てもたってもいられないという風にヘスティアは素早く動き、部屋の扉へと直行した。

 

「ヘスティア、あんた少しは休みなさいよー!」

 

声を背中でききながら、ヘファイストスの店を後にする。

 

(ああ、早くコレをあの子達に渡してあげたいなあ!)

 

二人の反応を考え幸せな気分になる。プレゼントを一刻も早く渡してやりたいヘスティアはベルたちのことを思案する。

 

(この時間…あの二人ならダンジョンに潜ってるかな…ん?)

 

店頭に張り出されていた紙チラシがヘスティアの目にはいる。チラシには今日開催される『怪物祭』の日程とプログラムが記載されている。

 

(もしかしたら足を運んでるかも…)

 

すなわち自らも出向けば、ばったり出くわすかもしれない。そう考えたヘスティアは祭りへと赴くことに決めた。

 

「へーい、タクシー!」

 

小柄な体と小さな手を一杯に伸ばして、通りを進んでいた流しの馬車を呼び止める。

 

「東のメインストリートまでお願いするよ!」

 

「へへっ、承りました。やっぱりお目当ては怪物祭ですか?女神様?」

 

「ああ、まあね!」

 

パチン、と軽い鞭の音が鳴り馬車は動き出す。

 

「なるべく早く向かいたいんだ。今日はどこも賑わってるけど、急げるかい?」

 

「なあに、女神様のお願いを断れるわけないですよ、っと!」

 

ヘスティアの注文に青年は快く応え、素早く、器用に馬車を操った。ベル達と五つも離れていないであろうヒューマンの青年と陽気に会話を続けながら、ヘスティアは祭りの雰囲気によって活気づく街並みに目を楽しませる。

 

「あちゃあ~。すいません女神様、ここからはもう進めないみたいです」

 

「あらら」

 

順調に進んでいた馬車が人の密度が増したことで動きを止める。頭を押さえる青年の背後で、ここまでくれば大丈夫かとヘスティアは考え、馬車を降りる準備をする。

 

「いいよ運転手君、十分さ。ここからは歩いていくよ」

 

「本当にすいません。ちょっと暗いけど、そこの裏道を使えばメインストリートには楽にたどり着けると思うんで」

 

「ありがとう。で、お代はいくらだい?」

 

「九〇ヴァリスになります」

 

「ふふん、お釣りはいらないぜ。残りは君へのチップだ!」

 

「いえ、あの、お代ピッタリなんですけど……」

 

青年の言葉を聞く前に機嫌よく駆け出したヘスティアは裏道へと入る。もの悲しそうな視線が己の後頭部を見つめているとは露にも思わず、その場を後にした。そして裏道に自分以外の人影が現れる。

 

「あれ、もしかして、フレイヤかい?」

 

「…ヘスティア?」

 

「君も怪物祭を見に来たのかい?こんな道を通るなんて、随分と急いでいるようじゃないか」

 

「……ええ。人通りが激しいところは堂々と歩けないから、こうして人目を忍びながら先を急いでるの」

 

「あー、『美の神』も大変だねえ」

 

美の化身が表通りを闊歩すればそれだけで周囲は大混乱だ。自分のように馬車も使えなくては、こうしてこそこそ隠れるような真似をして目的地を目指すしか方法はないのだろう。

 

「あっ、そうだ。フレイヤ、ボクの【ファミリア】の子を見なかったかい?今探してるところなんだ」

 

「…」

 

「一人は白い髪に赤色の目をしててもう一人は腐った目にアホ毛で…そうそう、こう、兎とゾンビっぽい!」

 

手を振りながら嬉々として二人のことを説明するヘスティアに対して、フレイヤは一時の間笑みを消し黙る。だがすぐに再び微笑みを浮かべ、自分の辿ってきた道を示した。

 

「そういえば見かけたような気がするわ。この先の東の大通りで」

 

「本当かい!?」

 

「ええ。真っすぐ闘技場を目指していたようだから、この道を左に曲がれば、上手く先回りできるんじゃないかしら」

 

満面気色になるヘスティアは笑顔で「ありがとう!」と伝え、彼女の言葉を鵜呑みにする。そこからヘスティアは裏道の出口を一気に駆け抜け、東のメインストリートに飛び出した。そんな彼女を待っていたのは、枚挙に暇がない人の群れと人波のなか、何とか前に進もうと四苦八苦する、ベルと辟易とした表情を浮かべるハチマンの姿だった。

 

「おーいっ、ベールくーんっ!ハチマンくーんっ!」

 

***

 

「「え(ん)?」」

 

耳を叩いた自分達の名前に振り向くと、俺達は目を丸くした。所在のわからなかったヘスティアが、人込みをかき分けてこちらに駆け寄っていたからだ。

 

「神様!?どうしてここに!?」

 

「おいおい、馬鹿言うなよ、君達に会いたかったからに決まっているじゃないか!」

 

目の前で立ち止まったヘスティアは何か誇らしげに凶器を張ってそんなことをのたまう。目のやり場に困るから非常にありがとうございます。

 

「てか今日までどこに…」

 

「いやあー、それにしても素晴らしいね!会おうと思ったら本当に出くわしちゃうなんて!やっぱり僕達はただらない絆で結ばれているんじゃないかなー、ふふふっ」

 

(駄目だこの女神まるで話を聞いてねえ)

 

「か、神様?凄いご機嫌みたいですけど、本当に何があったんですか?」

 

「へへっ…知りたいかい?ボクが舞い上がってる理由を」

 

「は、はい」

 

さっきから顔をだらしなく崩しているヘスティアは、手を後ろに回し、何かをごそごそと弄りだす。

 

「実はね…」

 

と、そう言いかけたところで動きを止める。祭りで賑わっている周りを軽く見渡した後、何事かを考える素振りを見せる。

 

「…うん、せっかくだ。やっぱり今は、教えなーい」

 

「ええっ!?」

 

「楽しみは後でとっておくことにしよう」

 

まさかのお預けに不満げな顔を浮かべるとヘスティアは俺たちの手を取って歩き出した。

 

「デートしようぜ、ベル君、ハチマン君」

 

そしてこちらを振り向いて、神様は微笑みながらそう言った。そんなヘスティアに俺は即答する。

 

「パスで」

 

「あれっ!?」

 

「だってこの人ごみですし…」

 

(それに神様とは言え女性とデートは俺が死ぬ)

 

「もしかしてボクとのデートは…嫌かい?」

 

不安そうな顔でハチマンに問いかける。

 

「いや別にそういうわけでは…」

 

「なら行こう!」

 

そう言うとすぐに表情を変え顔を赤らめているベルと俺の手を取り、雑踏の中へと引っ張る。すると正気の戻ったベルが声を上げる。

 

「ま、まってっ、待ってください神様!?僕達、実はお使いを頼まれているんです!」

 

「ん、そうなのかい?」

 

「はいっ、だから今ある人を探している最中で…!」

 

「よし、じゃあデートしながら人探しをしようじゃないか。楽しみながら仕事もこなせて一石二鳥だ。あ、おじさーん、そのクレープ三つくださーい」

 

「神様ぁー!?」

 

俺らの言い分をガン無視してデート(?)に乗り出すヘスティアに俺とベルは困り果てる。

 

(見つけたらすぐにダンジョンに行く気だったけど…たまにはいいか…それに昨日の夜の疲れも抜けてないし…)

 

「ベル君、ハチマン君」

 

「ん?」

 

「何ですか?」

 

「あーん」

 

「「…え(へあっ!?)」」

 

ヘスティアはさっき買ったクレープを受け取ると俺らの前に差し出す。

 

「神様一体何を!?」

 

「何をって、あーん、だよ。あーん。一度でいいからやってみたかったんだ」

 

「一度でいいならベルが受けてくれますよ。それじゃあ俺は普通に…」

 

差し出されたクレープを取ろうとするとひょいと避けられる。

 

「何を言ってるんだいハチマン君。もしかして僕のあーんは嫌かい?」

 

「ぐっ…」

 

この神ずるいものすごくずるい。

 

「それじゃあ、あーん」

 

「…」

 

俺は無言で差し出されたクレープを食べるとヘスティアは満足そうな顔を浮かべ微笑む。

 

「ほら、ベル君もあーん」

 

「…あ、あーん」

 

さっきまで狼狽えていたベルだったが俺がするのを見て大人しく受ける。それをみてヘスティアは更に表情を崩す。

 

「よし、二人共、次だ。今度はじゃが丸君を食べようぜ」

 

「まだ行くのかよ…」

 

「当たり前さ。三人で羽目を外す機会なんて中々ないじゃないか!」

 

再び俺たちの手を引き寄せる。

 

(たまにはこんなのもいいな)

 

俺達は望んで上機嫌なヘスティアに振り回され続けた。

 

***

 

「始まった…」

 

会場の盛況っぷりにエイナはぽつりとつぶやいた。闘技場の外に待機していた彼女は、内部からびりびりと伝わってくる音と振動を感じながら後ろの建物へ視線を向ける。

 

「ここにもいない…」

 

「やっぱりもう闘技場に入ってるんじゃないか?」

 

「もう始まってるみたいだしね…」

 

(ん?)

 

エイナの視界に見知った人物が入り込む。ベルとハチマンだ。エイナは背後の職員に軽く一瞥した後、自分の担当冒険者である少年たちのもとへと駆け寄った。

 

「ベル君、ハチマン君」

 

「あれ、エイナさん?」

 

「…どもっす」

 

「だれだいベル君、このハーフエルフ君は?」

 

「わたくし、ベル・クラネル氏とハチマン・ヒキガヤ氏の迷宮探索アドバイザーを務めさせてもらっているギルド事務部所属、エイナ・チュールです。初めまして、神ヘスティア」

 

「ああ、そういうことか。いつもベル君達が世話になってるね」

 

エイナが恐縮ですと頭を下げると、頃合いを見てベルが質問する。

 

「あのエイナさん、こう…お金に困ってそうなヒューマンの女の子、見ませんでしたか?」

 

「うーん、ちょっとわからないなあ」

 

あげられた変な具体例にエイナさんが苦笑いを浮かべる。

 

「あほそれでわかるわけないだろ…」

 

若干あきれながら突っ込みを入れ、エイナさんに事情を説明する。

 

「なるほど…それならこの中にいる可能性は低いと思うよ。ここに入るなら多少の入場料がいるから」

 

「それなら『豊饒の女主人』に帰ったかもな…」

 

「そうだね…でも行き違いにならないようにもうちょっとあたりを回ってみよう」

 

「そうだな…それじゃあエイナさんありがとうございました」

 

「どういたしまして。もし見かけたらここで待ってるように呼び止めておくから、見つからなかったらまたおいで」

 

「「はい」」

 

そういうと三人はその場から離れる。そしてエイナも同僚のもとへと帰る。

 

「ったく、何やってんだ、あいつら」

 

「愚痴は後でいい、早く人を回すぞ」

 

「…?」

 

職員たちのざわめき先ほどまではなかった空気にエイナは訝しげな顔をする。

 

「すいません、何かあったんですか?」

 

「ああ、西ゲートに待機している職員が、何人かぶっ倒れたらしい」

 

「えっ…」

 

「あーいやっ、意識はあるんだ。ただそいつら、腰を抜かしたみたいにへたり込んでるらしくて…まあ、昨日酒でも飲んで羽目を外しすぎたんだろう。使い物にならないみたいだから、こっちから代わりを出す」

 

エイナはその話を聞いて、妙な胸騒ぎに襲われた。嫌な緊張感が背筋を這いあがってくる。

 

(私が神経質になりすぎてる…だけ?)

 

 

***

 

光源が心もとない暗く湿ったとある一室。一人の女神と二匹のモンスターが向かい合っていた。

 

(…ああ、駄目ね。しばらくはあの子の成長を見守るつもりだったのに…)

 

女神の目にはある少年たちが『飛躍』していることを知っていた。

 

(…ちょっかいを出したくなってしまった)

 

『『フッ、フーッ…!?』』

 

激しい息遣いが響く中、慈しむようにシルバーバックとオークの頬を撫でると少し近寄り

 

「小さな私を追いかけてそれとあなたは黒髪で腐り目の子を襲って?」

 

そう呟くと二つの咆哮が轟いた。

 

 

***

 

「「――?」」

 

「…どうしたんだい?」

 

前触れもなく足を止めた俺達にヘスティアは不思議そうに振りかえる。俺達はそんなヘスティアへの返答を忘れて、周りを見渡した。

 

(何かが、聞こえた)

 

祭りの雰囲気には似合わない鋭い声が。

 

「「…悲鳴(か)?」」

 

その呟きが俺達からこぼれた瞬間、大音声が響き渡る。

 

「モ、モンスターだあああああああああああっ!?」

 

「「!?」」

 

その声に反応し振り返ると二つの巨大な何かが視界に移る。

 

(シルバーバックにオーク…!?)

 

共に10階層以降に出てくるモンスター。頭にため込んだ知識を引っ張りながら二匹のモンスターを見る。するとそいつらは理性のかけらもない瞳をぎょろりと俺たちの方へと向けた。

 

(俺達を見てるっ…?)

 

その視線が交錯した直後。

 

『ギァ…!』

 

シルバーバックとオークが動く。膝を浅く折り曲げ、俺たちの方に一歩近寄り一挙に飛び掛かってくる。

 

「「っっ!?」」

 

固まっていた俺とベルはヘスティアを抱え横っ飛びし敵の体当たりを回避する。二転三転と回って俺達はがばっと顔を上げ地面に片膝を立てる。ヘスティアは背中に隠し体勢を立て直す。

 

『『ウゥッ……!』』

 

突撃を交わされたシルバーバックとオークは、俺達の方へと向き直る。

 

「ベル!ヘスティアを連れて逃げろ!!」

 

「で、でも」

 

「この騒ぎだ直ぐに応援も来る。だから大丈夫だほら行った行った」

 

「…ごめん」

 

「その前にハチマン君これを!」

 

ヘスティアはつつみに入っているものを俺に投げ俺はそれを受け取る。

 

(これは…?)

 

俺は受け取ったものを見るとすぐに何か理解しモンスターの方へと向き直る。しかしその瞬間俺の真横をシルバーバックが横切る。

 

「なっ!?」

 

迷いなく俺を無視し横を通り過ぎたシルバーバックに目を剥く。

 

(なんで俺を無視して…!?しかもそっちはベル達の方…!?)

 

シルバーバックの奇行に目を向いていると背中に寒気が走る。

 

(まずっ…!?)

 

『ブゴオオオオオオオオオオッ!!』

 

シルバーバックに気を取られている隙に距離を詰めてきていたオークがその太い腕を俺に向けて薙ぐ。それにギリギリ反応した俺は腕を前でクロスし防御態勢を取りながら後ろに飛ぶ。

 

「がっ…!」

 

しかし自分より格上の化け物の力を正面から喰らい威力を殺しきれずに吹き飛ばされ壁に激突する。

 

(くそっ…一瞬でもよそ見しちまった…それにベル達は…いやあいつを信じよう)

 

手を握ったり開いたりを繰り返し体の調子を確認しながら自らに悪態をつく。

 

(頭から血が流れてるけどそこまで深くない…手も痛みがあるけど大丈夫そうだ…これのおかげだろうけど…)

 

俺は手元にあるロングナイフに目を落とす。どこまでも透き通るような白い刀身に柄。刀身には複雑な刻印が施され光沢を放っている。武器に疎い俺でも一発で業物と分かるほどの存在感。俺はオークの攻撃を受ける際にこのロングナイフでもガードしていた。

 

(さてと…)

 

自分の体の調子を確認した俺はオークを視界に納める。

 

(時間を稼げばこの騒ぎだ誰か駆けつけて—―)

 

『本当に?』

 

(――)

 

何かの声が俺の頭に響く。主語も何もない単純な一言。しかし言わんとしていることを理解する。

 

(まあ…いいわけねえよな)

 

『ならどうするの?』

 

(強くなるためにオラリオ(ここ)に来たんだ。ならやることは決まってる。あいつは俺が倒す)

 

『そっか、じゃあ行ってらっしゃい』

 

(おう)

 

俺は突然聞こえてきたその声を怪しむことなく返事をするとオークのいる方へと駆け出した。

 

 

 

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