【???】
「行ってらっしゃい」
『おう』
少年の声と決意を感じながら何かは微笑む。
「そろそろかな…」
少年との出会いを思い出しながら誰に言うでもなくそっと呟いた。
***
正体のわからない何かとの対話(?)を終えた俺は決意しオークへと駆け出した。
(俺より格上の敵を打ち破るには…弱点を突けばいい)
この世界での常識どんなモンスターでもそこをつかれればたった一撃で倒せてしまう絶対的な弱点。狙うはその一点のみ。
(攻撃は避けられないほどの速さじゃない…だから…)
ハチマンはそのまま足に力を籠め真正面からオークにつっこむ。突っ込んでくるハチマンに気付いたオークは腕を再度横に薙ぐ。ぐんぐんと迫るその腕をハチマンは姿勢を低くし避けハチマンの頭上を腕が通り過ぎる。
『ッ!?』
太い腕に隠れ視界からハチマンが消えたことに驚き硬直するオーク。ハチマンは其の隙を見逃さず素早く背後に回り込みその背の中心—―魔石がある場所へと突貫する。
「ああああああああああああああああああっっ!!!」
『ブゴォッッ!!』
白銀の刃が背の中心に刺さる。分厚い肉を裂く感触と共に何かを砕く感触が伝わる。その感触を確認するとともにハチマンは《ヘスティア・ソード》を手にオークの背を蹴りその場から飛びのき着地するとオークの方を確認する。目を見開き正面から倒れこむオーク。微動だにしないオークを警戒しながら眺めていると体の一部が崩れだし、灰に代わり風にさらわれその巨体は跡形もなく消え失せる。
『オオオオオオオオオオォォッッ!!!!!!』
歓喜の声がハチマンを包み込む。
「!?」
ハチマンとオークの戦いを見守っていた怪物祭に来ていた人達が興奮を爆発させる。自身を称えるその喝采にハチマンはと言うと
(……帰りたい)
少しげんなりしていた。そんなことを考えながら周囲を見渡していると――瞼を閉じたヘスティアを抱え顔面蒼白になりながら走っているベルが目に入る。
(まさか…!?)
それに気づいた俺は歓声を背にベルを追いかけた。
***
「ヘスティアには悪いことをしたけれど…もう、妬けちゃうわね」
とある人家の屋上でフレイヤは呟いた。銀瞳の視線の先には、ヘスティアを大事に抱えているベルとその後ろを走るハチマンの姿があった。青空に囲まれながらどこかすねたように言葉を落とすがすぐに笑みを浮かべる。
「おめでとう。まだ少し情けなかったけれど…ふふっ、かっこよかったわ」
脇目も振らずに走り抜けていく二人を熱く見ながら、フレイヤは目を細める。日の光を反射する銀の髪を翻し、彼女はその場を後にした。
「また遊びましょう—―ベル、ハチマン」
***
パタン、と扉を閉める音が鳴る。部屋から出てきたシルに、ベルとハチマンは慌てて走り寄った。
「シ、シルさん、神様は…!?」
「大丈夫です。ただの過労みたいですから」
「か、過労ですか…えっと、それじゃあ?」
「はい、命に別状はありません」
シルさんの言葉を聞き俺はほっと胸をなでおろす。現在ヘスティアを部屋に寝かせ、ハチマン達は西日に照らされる木張りの廊下でシルと向き合っていた。
「良かった…急に倒れちゃったから、心配で心配で」
「ふふ、お疲れ様です、ベルさんハチマンさん」
脱力する俺達に微笑んだシルさんは、やがておずおずと声をかける。
「今日はすいませんでした。私がお財布を忘れたせいで、災難に巻き込まれてしまって…」
「い、いえっ、そんなっ。シルさんのせいじゃないですよ!」
「そうですよ。悪いのはモンスターを逃がした【ガネーシャ・ファミリア】が悪い。つまりシルさんは悪くない」
俺がそう言うとシルさんは少し驚いた顔を浮かべすぐに微笑む。
「ふふっ、そんなことを言ってはダメですよ?なんでも警備をしていた人は魔女にあったんだとか…」
「そうなんですか?なら魔女が悪いですね」
「あはは…」
シルさんは暫く申し訳なさそうにしていたが、俺の言葉を聞き口元を緩ませる。ベルやハチマンもそんな彼女の顔を見て安堵する。やっぱかわいいんだよなこの人…。
「でも、今回の騒ぎで街の皆さんは口々に言われていました。あの冒険者は、ベルさんとハチマンさんは勇敢だったって」
「え…」
「うえ…」
「私もそう思います。実は私、御二方の戦うところを一度だけ目にしたんですけど…」
「そ、そんな勇敢だなんてっ。僕、逃げ回ってただけですしっ、それにモンスターにも全然歯が立たなくて……」
狼狽しながら言葉を連ねたかと思えば、ベルは恐縮そうに肩を縮めだす。ベルはこう言ってるがどうやらシルバーバックを単体で倒したらしい。
「それでもかっこよかったですよ?」
「えっ?」
「…不謹慎ですけど、あの時モンスターに立ち向かっていたベルさんとハチマンさんに…私、見惚れちゃってました」
そっと近付き、手で壁を作りながら、そっと耳元で呟かれる言葉。ベルは目を見張る。そして俺はすっと避ける。
「何で避けるんですか?」
なんだか目が怖い気がするのは気のせいだろうか。
「い、いえ何となくでしゅ」
噛んだ。
「そうですか。それではお店の方を手伝えと言われてしまったんで、失礼させてもらいますね」
「え、あ、はい…」
「ベッドは使っていて大丈夫ですから。それじゃあベルさんハチマンさん、また今度。今度は避けないでくださいよ?」
ぱたぱたと廊下から姿を消すシルを見送った後、ベルは何とも言えない顔で頭をかいた。
「からかわれたのかな…」
どこか悪戯っぽい表情と、そして夕日のせいかやけに熱っぽかった顔。完全に翻弄されて顔が真っ赤になっているベルはヘスティアの部屋の前に移動する。すると部屋の中でドゴンッ、と何かが倒れる鈍い音が鳴り響く。
「!?」
その音に驚き部屋に突入すると、視界に入ってきたのは、ベッドから転がり落ちたと思われるヘスティアの姿だった。
「か、神様っ、神様!?どうしたんですか、一体何があったんですか!?」
「ああ、ベル君、ハチマン君…いや、起き上がろうとしたら、力が入らなくてね…」
「一体いない間に何してたんだよ…」
ふっ、と小さな女神は遠い眼をする。
「土下座だよ」
「ど、どげざっ?」
「首を縦に振ろうとしない頑固女神の前で、土下座を三十時間続けるという耐久レースを…」
「さっ、三十時間……!?ご、拷問なんですか、どげざって!?」
「いや、奥義さ。土下座は最終奥義なんだよ…」
「三十時間も続く奥義があってたまるか…」
うわごとのように最終奥義と呟くヘスティアにべるはなんのこっちゃと汗を流し俺は突っ込みを入れる。
「でもなんでそんなことをしたんだ?確かパーティーに行ったはずじゃ…」
「…これ」
「えっ?」
たどたどしい動きでヘスティアの手が俺とベルの腰に回され、そこに差さっていた漆黒のナイフと白銀のソードを取り出す。その行動にベルはあっ、と声を上げ俺はげっ、と声を出す。それはあることに気付いたからだ。そこには武器に疎い俺でもわかる神聖文字に酷似した刻印—―オラリオ最大の武器ファミリア【ヘファイストス・ファミリア】のロゴがほってあった。
「へ、ヘスティア…これって…」
前に少し見たとき値段がとてつもなく高かったことは覚えていた。そして使って分かる通りかなりの業物だ。つまり貧乏ファミリアの俺達には買えるはずのないもの…それが今俺たちの手元にしかも二振りあることに震えながらヘスティアに尋ねる。
「ごめんね、心配かけて。…でも、ボク、見ているだけは嫌だったんだ。君たちの力になりたかったんだ…」
俺たちの手を取りヘスティアはゆっくりと鞘を抜き取った。初めて見る漆黒の刀身と白銀の刀身。
「そんな、でも、だってっ…ヘファイストスの武器はすごく高価でっ…お、お金はっ…!?」
「大丈夫、ちゃんと話はつけてきたから」
ベルの声も瞳も震えだす。そんなベルにヘスティアは疲労の濃い顔で、けれど穏やかな笑みを向けた。
「強くなりたいんだろ?」
「「!」」
「言ったじゃないか、手を貸すって。これくらいのお節介はさせてくれよ」
「ひっ…ひぐぅっ…」
「誰よりも何よりも、ボクは君たちの力になりたいんだよ。…だってボクは、君たちの主神なんだから」
「…!」
ぽろろっ、とベルの瞳からとうとう涙滴が溢れ出す。ヘスティアは頬を桜色に染め、満面の笑みを湛える。
「いつだって頼ってくれよ。大丈夫、なんていったって、ボクはこう見えても神様なんだぜ?」
ベルは限界を迎え、流れ出る涙そのままに、くしゃあっと顔をゆがめてヘスティアを抱きしめる。
「神様ぁーっ!!」
ベルは子供のように、その小さな体に縋りついた。俺はそんな二人を見つめヘスティアに感謝を伝え部屋を後にする。
(ヘスティアには感謝してもしきれないな…)
腰にある『ヘスティア・ソード』に手を当てながら心の中で呟く。
(しかし…あの声は一体…?)
あの声とはオークに吹き飛ばされたときに聞こえてきた声のことだ。その声が聞こえてきたときは不思議と受け入れていたが今になって考えてみればおかしなことだ。
(でもなんだか懐かしかった…?)
いくら考えても答えは出ず疑惑が深まるばかりだった。
お久しぶりです。ある程度落ち着いたのでまた投稿を再開します。これからもどうかよろしくお願いします。