どうも149です。今回は少し聞きたいんですけど毎度の如くヒロインが決まってないんです。そこで聞きたいことが二つあるんですがヒロインは誰がいいと思いますか?それとハーレムがいいと思いますか?このことをぜひコメント欄に書いていただけるとありがたいです。また些細な事でもコメントしてくださると嬉しいです。ではどうぞ。
***
じり、じり、と土の音が鳴り響く。天井からの光が四方八方薄緑色の壁に囲まれた一帯を照らし出す。『ルーム』と呼ばれるダンジョン内で正方向に開けた空間。そこで俺とベルは武器をそいつに向ける。
四本の足に二本の細い腕、大きな双眸。その見た目は蟻を彷彿とさせる。しかしその体は俺達と大差ないほどに大きい。
『キラーアント』
七階層になって初めて現れるモンスター。そいつは別名『新米殺し』とも呼ばれている。その所以は身に纏った頑丈な硬殻、低級のモンスターとは比べ物にならないほどの攻撃力。体の表面は鎧のように硬く、半端な攻撃は弾かれるため五階層の敵に慣れた冒険者たちは大抵こいつの餌食となる。
『ギギッ』
キチキチキチッ、とキラーアントが口をもごもごと動かし歯を鳴らしている。実はこいつらが『新米殺し』と呼ばれているもう一つ理由があり、こいつらはピンチになると特有のフェロモンを出し仲間を呼ぶのだ。倒すなら速攻で。これが常識なのだが硬殻が邪魔し直ぐに倒せないのである。ほんとに厄介極まりない。蓄えた知識を引っ張り出しながらキラーアントと睨みあう。
「―ふっ!」
先手必勝。俺と同じく睨みあっていたベルが先に仕掛ける。俺と睨みあっていたキラーアントは少しベルの方に視線を向ける。俺はその隙を逃さずにベルとは反対方向から詰め寄る。隙をついた俺は一撃必殺を狙い首を一閃する。本来キラーアントの首はそう簡単に斬ることはできないのだが大した抵抗もなく刃が滑り込み、キラーアントの首が宙を舞う。
「…うん、いい!」
同じく腕と首を飛ばしキラーアントを倒したベルがそのてにもつナイフを見ながら呟く。
「ああ、硬いと言われるキラーアントの殻をこうもあっさり…」
実際に戦ったことはないが、こうもあっさり斬れるものではないことは分かる。それもこれもこの《神様のソード》のおかげだ。ヘスティアが俺達のために贈ってくれたもの。
「♪」
ベルは新しい玩具を買ってもらった子供のように浮かれ上機嫌になっている。かくいう俺もテンションが上がっているのを自覚している。俺は腰に差した鞘に武器をしまい、七階層の探索を続けた。
***
「ななぁかぁいそぉ~?」
「は、はひっ!?」
「…」
ベルは悲鳴を上げ、俺は悲鳴は上げなかったが少しビビっていた。胡散気な声とは裏腹に、眉毛はぴくぴくと動きエイナさんが怒っていることが伝わるからだ。本日七階層の探索を終えた俺達は、ギルド本部へと凱旋した。戦利品の換金後にエイナさんにつかまり、最近の調子を聞かれ七階層まで行ったことを話すと個室につれてかれたのだ。
「キイミイタァチィはっ!私の言ったこと全然わかってないじゃない!!初日に五階層まで下りた上にもう七階層!?迂闊にもほどがあるよ!」
「ご、ごめんなさい…」
ダンっ!とエイナは机に両手をたたきつける。正直その迫力はモンスターより怖い。口に出したら火に油だから絶対に言わないけど。
「一週間とちょっと前に、ミノタウロスに殺されかけたのは一体誰だったかな!?」
「ぼ、僕達ですっ!?」
「じゃあ何で君達は下層に降りる真似してるの!痛い目にあってもわからないのかな、君達は!」
「す、すいませぇん…!」
とベルは涙目になる。俺はと言うと完璧に気配を消していた。べつにエイナさんにビビってるとかじゃなくて非は俺達にあるのだから静かに聞いておくことが大事だからな。別にビビってるとかじゃないけどね。
まあすまんベル、俺はこのまま気配を消して「聞いてるのハチマン君っ!?」あれ。
「き、きいてますよ」
「ともかくキミたちには危機感が足りない!絶対に足りない!今日はその心構えの矯正に加えて、徹底的にダンジョンの恐ろしさを叩き込んであげる!!」
ひいっ、とベルは情けない声を出す。
「ま、待ってくださいっ!?そのっ、僕っ、あれから結構成長したんですよエイナさあん!?」
「アビリティ評価Hがやっとのくせに、成長だなんて言うのはどこの口かな…!」
「ほ、本当です!僕もハチマンも、アビリティがいくつかEまで上がったんです!?」
「…E?」
ぴたりとエイナは動きを止め、きょとんと眼を丸くさせる。ベルの発言をすぐには理解できず、理解したところで訝しげな表情を浮かべる。
「そ、そんな出まかせ言ったって、騙されるわけ…」
「ほんとですほんとなんです!」
「……ほんとに?」
エイナさんは視線を俺に向け聞いてくる。
「まあほんとですね」
俺がそう答えるとエイナさんは戸惑った顔をした。本来冒険者登録して一週間で七階層到達と言う事自体異常なのだ。それなのにアビリティ評価もEになっているというのは信じろという方が無理な話なのである。
「…本当に、E?」
「は、はい」
エイナは何回もベルとハチマンのかおをみるが到底うそをついているとは思えない。しかしどう考えてもあり得ない。元来冒険者が半月で到達できるのは良くてG普通でもH程度なのだ。一週間と言うならHに行くかすら怪しいのに目の前の二人は何とEに達していると言っている。
「むむむっ」
と難しい顔を継続するエイナは人差し指をその細い顎に当て考え込む。
「…ねえ、二人共」
「君の背中に刻まれている【ステイタス】、私にも見せてくれないかな?」
「えっ…!?」
「!?」
至って真面目に問いかけるエイナさんに驚く俺達。
「あっ、君たちの言ってることを信じてないわけじゃないんだよ?ただ…」
エイナさんは慌てながら両手を振って誤解を解く。
ただヘスティアが偽の情報を与えているのではないかとエイナは考えていた。
「でも確かそれってタブーなんじゃ…」
「今から見る物を私は誰にも話さないと約束する。もしベル君たちの【ステイタス】が明るみになることがあれば、私は相応の責任を負うから。キミたちに絶対服従を誓うよ」
「別にそこまでしなくても」
確かに【ステイタス】がバレれば能力が筒抜けになり弱点がバレたり対策を立てられたりするだろう。戦いにおいてそれは圧倒的不利を意味する。でも俺は知っている。この世界は不平等で理不尽なのだ。今更そんな理不尽どうでもいい。理不尽に抗うためそんな理不尽から誰かを守るために強くなると決めたのだ。だから対して気にしない。それにこの人はそんなことはしない人だと普段の態度からわかる。
俺はベルと顔を見合わせると頷き、服に手をかける。
「えっと、じゃあ…脱ぎますよ?」
「顔を赤くするくらいなら一々確認しないっ!私の方も恥ずかしくなっちゃうよ!」
やめろよ二人して顔を赤くしないでくれよ…俺まで恥ずかしくなってくるだろ…。そんな悪態をつきながら上に来ている服を脱ぐ。エイナは意外に鍛えられている上半身に少しの間見とれてしまったが、直ぐにはッとして顔を左右に振る。ほっそりと尖った耳を赤くしながら、じっと【神聖文字】の解読に入った。
ベル・クラネル
Lv.1
力:E 406
耐久:G 201
器用:E 416
敏捷:D 526
魔力:I 0
ハチマン・ヒキガヤ
Lv.1
力:D 525
耐久:G 267
器用:D 502
敏捷:E 457
魔力:I 0
(うっそ…)
半ばその可能性を受け入れてはいたが、いざこうして突きつけられると茫然としてしまう。『魔力』を除いたとしても七階層のモンスターにひけをとらない能力内容。防御を重視するエイナからすると二人の『耐久』の低さには小言をはさみたくなるが、それでもベルの戦闘スタイルは攪乱回避の一撃離脱、ハチマンはバランスがよく一撃必殺型、許容範囲だろう。またどちらもDへと突入している能力があるのを見て思わず吹き出しそうになる。
(信じられない…)
エイナは静かにのどを鳴らした。自らの、いやオラリオでの常識が二人によって壊されていくような音が耳の奥で響く。二人の成長は、あまりにも度を越えている。
――スキル?
一瞬脳裏をよぎったその可能性。
(ちょっとだけなら)
背中の中頃から続いている【神聖文字】に目が奪われる。その先にあるのは、『魔法』と『スキル』の欄だ。ここまで来てしまうとこの衝動に抗うのは不可能に近かった。好奇心が疼き、エイナはちらりとその下の欄を確認する。
(…あ、駄目だ)
高度な【神聖文字】の羅列によりエイナには読むことができなかった。
「あのー、エイナさん…まだですか?」
「そろそろ寒いんですけど…」
「あ…もういいよ!」
ベルの恥ずかしそうな声とハチマンの嫌そうな声に、エイナは耳をビクッと揺らして我に返る。少し顔を赤くしている二人に心の中でごめんねと呟く。しかし本当だったのかと唸る。この能力値なら、七階層進出を許可しないわけにはいかない。絶対とはいかなくてもソロでも通用するレベルだ。――だがそうなると別の懸念が巻き起こる。
「…」
「ど、どうしました?」
着替えを終えたベル達を全身くまなく観察するエイナに声を上擦らせながら問うがその返答はない。別に彼女は舐めるように見ていたわけではない。エイナが見ていたのは身に着けている装備…貧相な、防具だ。
「君達」
「「は、はい?」」
「明日予定あいてるかな?」
「…へっ?」
「…えっ?」
***
あれから一日たった。俺とベルはオラリオの北部で大通りと面するように設けられた半円形の広場に二人で立っていた。エイナさんと待ち合わせをしているからだ。さっきから緊張しているのかベルの様子がおかしい。ずっともじもじしている。
「おーい、ベルくーん、ハチマンくーん!」
とそんなベルを見ているとエイナさんが小走りで駆け寄ってくる。
「おはよう、来るの早いね。なあに、そんなに新しい防具を買うのが楽しみだったの?」
「あっ、いや、僕は…!」
ベルは普段と違うエイナさんを意識しているのか落ち着きのない表情で視線を左右に揺らしている。
「まあ、実は私も楽しみにしてたんだよね。ベル君たちの買い物なんだけどさ、ちょっとワクワクしちゃってっ」
実際エイナさんの服装はおしゃれでいつもつけている眼鏡も外している。いつものギルドの制服姿の大人びた雰囲気とはガラッと変わってまぶしく見える。これがジジイの言ったギャップ萌えか…。
「装備品なんて物騒なものを買いに行くのにワクワクするなんて、私おかしいかな。
「そ、そんなことないですっ!」
ギルド職員の中で人気が一、二を争うのもうなずけてしまう。まあこの人顔いいうえに性格もいいときた。村にいたときの俺なら勘違いしてコックって振られちゃうな。振られちゃうのかよ。
「こほん。それで、二人とも?」
「「?」」
「私の私服姿を見て、何か言うことはないのかな?」
俺はそのDEAD or DEADのような質問に思わず絶句してしまう。変なことを言ってもきもがられるし素直にいえば俺の心が死ぬ。どうすれ(そんなもの褒めに褒めまくっていい雰囲気にしてお持ち帰りを)黙れくそジジイ!
頭の中で変なじじいが出しゃばってきたがどうするか真剣に考える。取り敢えず無難なセリフを言うことにした。
「…そ、その、すっごく…いつもより、若々しく見えます」
「そうですね。とても似合ってますよ?」
「こら!私はまだ十九だぞぉー!」
「あいたたたたたたたたたたたっ!?」
「い、いたい、痛いですよエイナさん!?」
エイナさんが細い腕を首の付け根あたりに巻き付けヘッドロックを決める。そして俺の頬に男の希望が…ありがとうございます!
***
「誰かとこんな風に買い物行くなんて、久しぶりだなあ」
「そう、なんですか?エイナさんならだれも放っておかないと思うんですけど。…その、男の人だったら、特に」
「ふふ、上手だね、ベル君。でも本当だよ。ギルドに入ってからはずっと仕事一筋だったから」
空は快晴だった。時間帯もあって大通りは賑やかで人通りが激しかった。そんな人どおりにげんなりしながらエイナさんに気になっていたことを聞いた。
「あの、エイナさんこれどこに向かってるんですか?」
「ん~、着いてからのお楽しみ、だと流石に意地悪かな?うん、じゃあ、教えてあげる。今日行くところは…ダンジョンだよ」
「ええっ!?」
「正確にはダンジョンの上にある、あの摩天楼だね」
『バベル』はダンジョンの蓋の役割を果たす超高層の塔、つまり摩天楼施設だ。蓋と表現したのは、バベルはダンジョンの監視と管理という役割がある。
「バベルって…冒険者用のシャワールームとか、公共施設があるだけじゃないんですか?」
「お前…来る前に一緒に調べてただろ…」
「あははっ…」
若干あきれながらベルにバベルのことについていろいろと説明をする。ベルは説明を聞きながら納得したような顔をするが君一緒に俺と勉強してたよね?そんなことを言いながらバベルへと足を進める。
「凄いねハチマン君。ちゃんと勉強してきたんだね」
「まあそれなりにはそれでバベルに行くのは分かったんですけど行くとなるとやっぱり【ヘファイストス・ファミリア】のテナントですか?」
「へ、【ヘファイストス・ファミリア】?」
【ヘファイストス・ファミリア】の名前を出すとベルは腰元のナイフを見ながら顔を引き攣らせた。
「うん正解だよ」
「え、ええぇ~~~~っ!?」
今日一番の絶叫を上げるベルにエイナさんは悪戯に成功したようなあくどい笑みを浮かべた。…なるほど。そういえば【ヘファイストス・ファミリア】のテナントであることしか説明してなかったな…てことはこいつ分かってないな。その事に気付いた俺はエイナさんと似たような表情を浮かべる。どういうことですか、と慌てて詰め寄ろうとするベルをひょいッとかわしながら、一気に開けた視界の中へ足を踏み入れる。
「つ、着いちゃった…」
バベルをぐるっと取り囲む中央広場に到着する。
「ど、どういうことなんですか!?僕達、【ヘファイストス・ファミリア】で買い物できるような大金もってないですよ!?ハチマンも知ってるよね!?」
「まあまあ、それは着いてからのお楽しみってことで」
「僕はずっとはらはらしっぱなしですよお!?」
「安心しろベル腹をくくればいいだけだ」
「それ全く安心できないよ!?」
泣き叫ぶベルを見たエイナさんはベルの手を握り引っ張っていく。そしてなぜか俺の手も握られる。行き成り女性に手を握られた俺はきょどりそうになるが周りの冒険者たちの殺気むんむんの視線で冷静になる。
「あ、あのエイナさん手を放していただけるとありがたいんですけど…」
「オラリオでも一流の鍛冶の【ファミリア】にいくんだから、鍛冶師についてもちょっと知っておこうか。二人とも『発展アビリティ』って知ってる?」
どうやら俺の話は聞きとってもらえなかったらしい。見るとベルも顔を真っ赤にしながら青ざめたような表情と言う器用な顔をしていた。てか割と死活問題なんですけどエイナさん…。
俺はあきらめて、質問に答えることにした。
「確かLvが上がると任意で発現することができるアビリティのことですよね」
「正解それでその人の【経験値】の傾向で発現できるアビリティの選択肢は決まってくるだけど、その中に『鍛冶』って言う発展アビリティがあるんだ」
そこからエイナさんによる『鍛冶』アビリティ講座が開始された。ベルは真面目に聞いて驚いたりしてるが俺は大体知っていたので半分くらい聞き流していた。そんな話をしているうちにバベルの門までやってくる。
「ここからは…」
「上だね。バベルが場所を提供しているのは四階からだから」
そういっていくつも存在してる円形の台座の一つに乗り、備え付けの装置みたいなのを操作すると台座は地面から離れて浮遊しそのまま昇り始めた。
「「!?」」
「あはは、私も最初そんな感じだったよ」
ほどなくしてバベルの四回に到着する。
「お目当ての店はまだ上の階なんだけど、せっかくだから寄っていこうか?ベル君達もちょっと見たいでしょ?」
ざっと見ただけでも武器防具で視界が埋められている。この《ヘスティア・ソード》を使ってから武器に興味が出ていた俺は頷き、ベルも少し興奮しながら頷いた。
(うえ…三千万ヴァリス…)
一番近くにあった紅の件の値段を確認するとその高さに思わず顔を歪めてしまう。横のベルも値段を見たのか渋い顔になっている。そんな俺達にエイナさんが苦笑しているのがわかる。
「いらっしゃいませー!今日は何の御用でしょ…う…か…」
陳列窓の商品を凝視していると、店員さんの明るく声を掛けられた。その女の子は身長は低いけど、容姿は整っており、身長には似合わない大きな胸が盛り上がっており、とてもいい営業スマイルを浮かべていたが
俺たちの姿を見て絶句していた。
「…」
「…何をやってるんですか、神様」
「…」
そして俺は絶句し、ベルは困惑しながら問いかけた。ひくっ、とヘスティアの営業スマイルが引き攣る。暫く見つめあうと俺はその主神に似ている店員さんに近寄り店のドアより奥へと押し
「間違いでした」
「何がっ!?」
そう言いドアを閉めた。なんかヘスティア(幻覚)が言っていた気がするがガン無視した。確かヘスティアはオラリオ名物『じゃが丸くん』の販売バイトをしていたはず、だからこんなとこにいるはずがない。しかもあんなミニスカートに胸が強調されるような服装で。
「ハ、ハチマン?あれって神様なんじゃ…」
「いいかベル俺達は疲れてるんだ。あれは幻影だ気にするな」
「あのハチマン君あの人ってこの前お会いした…」
「すいません今鼓膜が破れたんで何も聞こえません。多分ここから離れれば治るのでさあ早く行きましょう」
「さっきまで普通に話してたよねっ!?」
ベルが突っ込んでる気がするが俺は鼓膜が破れてるから聞こえない。そして足早に去ろうとすると
「誰が幻影だっ!?」
恐らくフリーズしてたであろうヘスティアが正気に戻ったのかドアを勢いよく開けて叫ぶ。
「ハチマン君っ、酷いじゃないか!何だい間違いでしたって!!」
「そうだぞベル何でそんなこと言ったんだ」
「いったのハチマンだよね!?何で僕のせいにされてるの!?それと神様何でこんな処にいるんですか!」
「うっ…いいかいベル君、ハチマン君今あったことは全部忘れて、目と耳を塞いで大人しく帰るんだ……!ここは君が来るにはまだ早い!」
適当にベルに擦り付けてその場を脱却した俺とあーだこうだ言い合いを始めるベルとヘスティア。今の姿を見られたことが恥ずかしいのか俺達を帰らせようとしている。そしてしばらく言い合いをしていると店の方からヘスティアを呼ぶ怒号が聞こえ小さな背中が店の奥へと消えていく。
「かみさまぁ~…」
「……あ、相変わらず、変わった神だね?この親にしてこの子ありって言うか…」
情けない声を出すベルに、エイナさんは対応に困ったような笑みを浮かべる。
「お見苦しいところをみせてすいません…」
「大丈夫だよ。じゃあ、上に行こうか?」
頷く俺達とエイナさんは目的地、バベルの八階へと移動を始める。今度もあの装置に乗り上階へと昇った。
「はい、到着」
「しちゃいましたね…」
静止した昇降機のドアを開けると、四回と似たような光景が俺たちを迎えた。
「【ヘファイストス・ファミリア】みたいな高級ブランド、自分には縁がないものだとベルくん思ってるでしょ?」
居心地悪そうにしてるベルにエイナさんは問いかけ、ベルは肯定する。エイナさんはそれを見て、ここぞとばかりに鼻高々に笑ってみせた。
「実はそうでもないんだなぁ。まぁ、百聞は一見にしかず!ちょっとついてきて」
エイナさんは俺たちを連れて最寄りの店に入って行く。店内へと進むと窓際に設置された槍棚の前で足を止める。ベルは恐る恐ると言う感じでゆっくり目を開けると
「あ、あれ…?」
「ふふ、驚いた?」
「は、はい。でも、どうして?」
呆気に取られたベルにエイナさんは上機嫌に答える。
「【ヘファイストス・ファミリア】がほかの鍛冶師の【ファミリア】と違うところは、末端にあたる職人にもどんどん作品を作らせて、それをお店に並べちゃうところなの」
「えっ…いいんですか?だってそれ、一流の人達と比べたら全然…」
そこからもエイナさんの説明が始まりそれを聞く。そして説明が終わり、二手に分かれた方がいいものが見つかると言うエイナさんの言葉を受け、いったん彼女とは別れることにし俺とベルは一緒に店内を回ることになった。
店の中に入ると、鎧の森と言ってもいい程圧巻の一言だった。
(すっげえ…)
純白のトルソーが様々な鎧をまとった形でおかれている。他にも等身大の人形などもあり装備した自分の姿をイメージさせるものもあった。
(こんだけあると迷うな…)
ベルと二人で歩みを進めていると防具の各パーツを山積みにしたボックスが目に入る。ベルも気になったのかそのボックスに近寄る。
「あ、やっぱり売り物だ…」
ボックスの下に値札がかかっており、見た限りどれも安価になっている。値段で言えばお手頃である。あまり防具などに執着がない俺はこの中で選ぼうと決め適当に漁る。
(ん…?)
色々と漁っているとある防具が目にとまる。それを手に取りよく見ると、それは黒のライトアーマーだった。膝あてや小柄のブレストプレート、ほかにも肘、小手、腰部など最低限の箇所のみ保護する仕組みだが、不思議とそれでもこの装備なら問題ないとそんな気がした。そしてプレートの重さはほかに比べると少し重いが恐らく動きに支障は出ない程度の重さだ。さらにサイズもぴったり。
「…」
俺はこれにすることを決めベルの方を見ると似たような防具を手に取り目を輝かせていた。見た目は俺のとほぼ一緒だが色が全く違う。あっちのは純白で何となく俺のよりも軽そうだ。俺は視線を手元に戻すとくるっと裏返すと
(あった。製作者は…ヴェルフ・クロッゾか…)
「おーい、ベル君!ハチマン君!私いいの見つけちゃったよ!プロテクターと革鎧!ちょっと高いけど、どっちか一つは買っといた方がっ…あれ、ベル君も何か見つけたの?」
戻ってきたエイナさんは俺たちの持っている防具を見るとムムッという顔をした。
「…それに決めちゃった?」
「はい。僕、これにします」
「俺もこれにします」
「はぁ…君たち本当に軽装が好きなんだね。せっかく選りすぐってきたのになぁ…」
「す、すいません」
「ご、ごめんなさい」
申し訳なくなって肩を狭める俺たちにエイナさんは「いいよ気にしてない」と苦笑した。
「君たちが使うんだもんね。私としては身の守りのことも考えてほしいけど…君がこれ、って決めたんなら、それでいいと思う」
「「…ありがとうございます」」
お礼を告げた俺たちは立ち上がりボックスを抱えカウンターへと向かい支払いを済ませる。
「あれ…?」
「どうしたベル?」
「いやエイナさんの姿が…」
そういわれあたりを見回すとニコニコしながら俺たちの後ろに立っていた。
「2人とも。はい、これ」
「…へっ?」
「…えっ?」
おもむろに渡されたのは、細長いプロテクターだった。付属の籠手に取り付ける形で手首から肘くらいまでの長さ。色はベルに向けられているのが緑玉色、俺に向けられているのが紅玉色。
「こ、これって…」
「私からのプレゼント。ちゃんと使ってあげてね?」
「ええ!?い、いいですっ、いらないです!か、返しますっ!」
「なぁに?女の人からのプレゼントはもらえないって言うの?ほらハチマン君も受け取って」
「いやでも…」
「いいから受け取る!」
そういい強引に俺たちに渡す。
「私はもらってほしいの。私のためじゃなくて、キミ自身のために」
「「…」」
「ほんとにさ、冒険者はいつ死んじゃうかわかんないんだ。どんなに強いと思っていた人も、神の気まぐれみたいに亡くなっちゃう。私は、戻ってこなかった冒険者をたくさん見てきた」
「「…」」
「…いなくならないでほしいんだ二人には。あはは、これじゃやっぱり私のためかな?」
笑っておどけて見せるエイナさんは、その間も僕のことをずっと見つめていた。
「だめ?」
「…そんなこと言われたら受け取らないわけにはいかないじゃないですか」
「ふふっ、ずるかったかな?」
「いえ、そんなことないですよ。まぁいつかこの恩は返します」
「いいよ気にしなくてこれは私のわがままだから」
「ならこれも俺のわがままです」
そう言うとエイナさんは少し目を見開き、頰を染めながら微笑む。改めてこの人は本当に容姿が整っているのだと再確認させられる。そんな人に見られていることに気恥ずかしくなり目線をそらす。すると顔を真っ赤にして俯いているベルの姿が目に入る。暫くするとがばっと顔を上げ
「ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
手元にある紅玉色の防具が、なんとなく熱を持った気がした。