「遅くなったな…」
「そうだね…」
茜色になっている空を眺めながらそっと呟いた。俺の独り言にベルも同調する。買い物を終えた俺達はエイナさんを家に送ってから帰路についていた。
(あの人ほんとずるいよな…)
さっきのエイナさんの言っていた言葉を思い出す。表情と言い言葉と言いとても勘違いしそうになる。村にいたときやジジイの教えがなかったら恐らく勘違いしていただろう。
「「…足音?」」
立ち止まり路地裏の奥から、俺たち以外の足音が鳴り響く。リズム的に走って言るのだろう。人数は一人…いや二人か。子供くらいのものと大人のもの靴音の大小がはっきりしており察することができた。
「どこだ…?」
来た道を振り返ればまだ路地裏に入ったばっかで大通りの人の行き来がはっきり見える。てことは足音は前方から聞こえるわけだが、分かれ道が多くどこからなっているのかわからない。そんなことを考えていると隣のベルが動き出す。不安そうな表情を浮かべながら俺たちがいつも通る道を覗き込もうとする。
「あうっ!」
「えっ?」
覗き込んだベルの前を小さな影が勢いよく転がる。どうやらベルの足に引っかかったらしい。声音的には女性。体格的には子供もしくは…。
「追いついたぞ、この糞パルゥムがっ!!」
その答え合わせにするように怒声をまき散らしながら一人のヒューマンが現れる。
「もう逃がさねえからな…ッ!」
息を切らす男は目をぎらつかせて悪鬼のごとき表情をしている。すると何を思ったのかベルがその男の前に立つ。
「…ああ?ガキ、邪魔だそこをどきやがれ」
男は少女の事しか目がなかったのか今俺達に気付いたようだ。
「あ、あの…今からこの子に、何をするんですか…?」
「うるせえぞガキっ!!今すぐ消え失せねえと、後ろのそいつごとたたっきるぞ!」
その男の前に立ったくせにベルは涙目で震えている。お世辞にも助けに来た王子様には見えなかった。
(はあ…しょうがねえな…)
心の中でそんなことを呟くと俺もベルの隣に立つ。
「あんまり怒ってるとしわが増えるぞ?……ってベルが言ってたぞ」
「言ってないよっ!?」
「がき…!マジで殺されてえのか…!?」
「ほらベル怒っちゃってるじゃないか」
「ハチマンのせいだよね!?」
「おい無視してんじゃねえよ何なんだよテメエらは!?そのチビの仲間なのかっ!」
「初対面ですね」
「じゃあ何でそいつをかばってんだ!?」
これに関してはベルが出たからとしか言いようがないが当の本人は…
「…お、女の子だからっ?」
「何言ってんだよテメエっ…!」
本当に何を言ってるんだろうこいつ。
「いい、まずはてめえからぶっ殺す…!」
「がんばれベル」
「助けに来てくれたんじゃないのっ!?」
案外余裕だなこいつ。それでも緊張がとけたのかちゃんと相手を見据えている。その証拠に男が手を後ろにやり剣を抜いても即座に反応し同じくナイフを抜いて構えている。はっ、っと息をのむ音。見ればパルゥムの少女が目を向いてナイフを見ている。そして次の瞬間、男が一気に飛び掛かってくる。
「やめなさい」
芯のこもった鋭い声が、場に割って入る。その聞き覚えのある声の方向を向くとそこに立っていたのは、大きな袋を抱えたエルフの少女だった。
(確か『豊饒の女主人』にいた…)
(次から次へと…!?今度は何だぁ!?」
「貴方が危害を加えようとしているその人達は…彼らは、私のかけがえのない同僚の伴侶となる可能性のある人たちです。手を出すのは許しません」
この人何を言っているんだろう。
「どいつもこいつも、訳の分からねえことを…!ぶっ殺されてえのかあっ、ああ!?」
「吠えるな」
大声を散らしていた男が言葉を飲み込んだ。これまで感じた事のないほどの威圧感。思わず俺も息をのむ。
「…っ、…!?」
「手荒なことはしたくありません。わたしはいつもやりすぎてしまう」
恐らく、というか確実に本当の事なんだろう。そう思わせるだけのオーラが彼女から伝わってくる。
「く、くそがあ!?」
男は顔色を青く染め退散していった。
「…」
「大丈夫でしたか?」
戦わずして冒険者を追っ払ってしまった目の前のエルフの少女にある興味を抱いてしまう。この人は確実に俺より格上で強者だ。なら今の俺が…どこまで通用するのか。そんな無謀にも近い疑問が胸の中で渦巻いた。
「あ、ありがとうございます、助かりました…」
「いえ、こちらこそ差し出がましい真似を。貴方達ならきっと何とかしてしまったでしょう」
「いえ、そんなことはあ…」
そう謙遜しているが実際は俺やベル一人で何とか出来たと思う。ただベルは本心からそう言ってるのか頬をかいて視線を横にそらす。
「リュ、リューさんはどうしてここに?」
「夜の営業に向けて買い出しをしていました。昼間とは異なり冒険者が店に押し寄せますから、準備をしておかないと大変なことになるので。その途中であなた方を見かけてしまい、つい」
なるほど。確かに前行った時も繁盛していた記憶がある。てかこの人リューさんって言うのか…覚えておこう。
「貴方方はここで何を?」
「ん?そういえば忘れてたな…あれどこ行った?」
「ほんとだ…あれ?」
周囲を見渡してみたがあのパルゥムの少女は忽然と姿を消していた。
「誰かいたのですか?」
「まあ…いたんですけど…」
「そうですか…そろそろミア母さんに叱られてしまうのでこれで」
「はい、本当に、ありがとうございました」
やがてお互いにその場でお辞儀を交わしあい、その場で別れた。
***
「よし…」
新調した装備を身に着け自分の姿を鏡で確認する。
「それじゃあベルそろそろ行くか」
「うんそうだね。いこっか」
「じゃあヘスティア行ってくる」
「神様行ってきますね!」
「う~ん、いってらっしゃ~い…」
疲労がたまってるのかベッドに沈んでいる主神からの返事を確認し出入口へと向かい教会の隠し部屋を出発する。裏道を経由してメインストリート、そして中央広場。冒険者の波にもまれながらバベルまでやってくる。
「お兄さん、お兄さん。白髪とアホ毛のお兄さん」
明らかに俺とベルのことを呼ぶ声が聞こえる。
「えっ?」
ベルはその呼ぶ声に反応し、俺とベルは振り返る。
「お兄さん、下、下ですよ」
その少女の声に従い下を向くと、いた。身長はおよそ100c。その身長には似つかない一回りも二回りも大きなバックパックを持った少女がそこにはいた。きいたことのある声に昨日の路地裏での記憶が呼び覚まされる。
「き、君はっ…」
「初めまして、お兄さん。突然ですが、サポーターなんか探していたりしていませんか?」
ベルの声を遮って、少女はその小さな指で俺達のバックパックを向けた。ソロもしくは少数パーティーの冒険者がバックパックを装備している光景を見れば誰であっても心中を察するのは容易だ。しかしそれにしても…何個か違和感を覚えた俺は様子を見ることにした。
「え…ええっ!?」
「混乱しているんですか?でも今の状況は簡単ですよ?冒険者さんのおこぼれにあずかりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来てるんです」
目を丸くするベルを横に、少女は満面の笑みを浮かべる。嘘は言っていないしかし恐らく本当の事も言っていない。その仮面にまみれた笑顔にさらに違和感を覚える。
「そ、そうじゃなくて…君、昨日の…?」
「…?お兄さん、リリとお会いしたことがありましたか?リリは覚えていないのですが」
少女は首を可愛らしくかしげる。うまい。恐らく仮面にまみれた笑顔を見なければ騙されていただろう。俺でそうなのだからベルは…。
「あれえ?」
見事に騙されていた。
「それでお兄さん方、どうですか、サポーターはいりませんか?」
「ええっと…で、できるなら、欲しいかな…?ハチマンは…?」
ベルは俺に問いかける。それに伴い少女の視線も俺に向けられる。正直断りたいが…目に見えないところで何かされるよりはましか…。結論を出した俺は返事を返す。
「ああ、俺も欲しいと思ってたしいいぞ」
「本当ですかっ!なら、リリを連れて行ってくれませんか!」
少女は無邪気にはじゃぎ、そしてフードと前髪の奥に隠れている瞳が露になる。その大きな目はベルの腰にささってるナイフに釘付けになっている。
「いや、それはいいんだけど、うーん…?」
「あっ、名前ですか?失敬、リリは自己紹介もしていませんでした」
少女は一歩後ろに下がり、朗らかな表情を浮かべる。
「リリの名前はリリルカ・アーデです。お兄さん方の名前は何というんですか?」
俺達のことを見上げる少女の瞳に、怪しげな光が浮かんでいた。
***
「じゃあ、君は無所属のフリーターじゃなくて…」
「そうですよ、リリはちゃんと【ファミリア】に入っています」
バベル二階の簡易食堂。アーデが持ち掛けてきた話を吟味するためにここにやってきていた。
「【ファミリア】名は?」
「【ソーマ・ファミリア】ですよ。お兄さん。割と有名な派閥だとリリは思っています」
アーデの話を聞くと最近まで組んでいたパーティーに契約を解消されたらしい。それで困っている所で俺達を見つけ出したのだという。俺はこの時点でアーデの目的を見抜いていた。ベルも見抜くとまではいかなくとも違和感を持っていたのか疑っている。
「どうして違う【ファミリア】のボクに?別々の【ファミリア】の構成員がつながりを持つことはあまり良いことじゃないのに…君の【ファミリア】の仲間とはパーティーを組まないの?」
「えへへ、リリはこんなに小さいですし、腕っぷしもからっきしなので。何をやっても鈍臭いリリに、【ファミリア】の方々は愛想をつかして邪魔者扱いにしているんです。頼んでも仲間に入れてくれないんですよ」
(っ…)
アーデのその言葉に昔を思い出す。ただ奪われるだけで弱く醜い自分を。だから俺は強くなろうと決めた。思わず拳に力が入る。
「…チマン!ハチマン!」
「ん…ど、どうしたんだ?」
考え込みすぎていたのかベルへの反応が遅れる。まずい全然話を聞いていなかった。
「ハチマン話聞いてた?」
「いやまあ、聞いてたぞ?一割くらいは」
「それ全然聞いてないじゃん…。えっとリリルカさんと一日だけダンジョンに行くことになったんだけど…」
「あー…わかった俺もそれで賛成だ」
「ほんとですか!?それなら…」
そこから三人で色々と話し込んだ。
***
「ふっっ!」
『ギシャアアッ!?』
「ハチマンっ!」
「おう」
現在七階層。俺達は間断なく押し寄せてくるモンスターの群れと戦っていた。
『ジギギギギギギギギギギッ!』
「よっ、と!」
「ふっ!」
『ビュギ!?』
『ギギッ!』
ベルは上空から降下してきた『パープル・モス』を往なし、羽を断つ。片翼を失った巨大蛾はバランスを失いそこにとどめを刺す。俺はキラーアント二匹に突っ込み、片方の胴体を串刺しにする。目の光が消えたのを確認し、もう一匹のキラーアントの対処をしようとするが――剣が抜けない。
「やっべ…」
割れた硬殻ががっちり剣の柄に引っかかっている。俺は動きを止めてしまった。その間に、同胞を殺されて
怒り狂うモンスターは大きく回り込み、その鋭い爪を俺目掛け振り下ろす。俺は咄嗟にプロテクターを付けた腕を掲げた。
『ギッ!?』
「ハチマン!」
ガキンッ!と鉤爪をはじき大きくのけぞったモンスターにベルがとどめを刺す。
「さんきゅ」
俺はベルに感謝の意を伝えると剣を回収し、直ぐに残存しているモンスターの群れへ休むことなく駆け出す。
「ベル様、ハチマン様お強い~!」
俺達がモンスターを蹴散らす光景をわきに、リリは俺達が屠った死骸を一点にまとめていた。手慣れた動きだ。俺達の邪魔にならない範囲で動き尚且つ邪魔になりそうな死骸は回収する。
「シッ!」
『キュッ!?』
「はあっ!」
『ギャァッ!?』
リリの働きにより足場が自由になった俺達は自由に駆け回り俺は厄介なキラーアントを最優先でつぶしベルは残りを狩りまわる。広いルーム内での戦闘は、完全に俺達が手綱を握っていた。
『―グシュ…ッ!シャアアアア!!』
「わああっ!ま、また産まれましたぁー!?」
ダンジョンの壁面を破ってキラーアントが生まれる。
「ベルっ!」
「任せて!」
脚の速いベルにそいつを任せベルの敵を俺が引き受ける。
「せぇー、のッッ!!」
『グヴ!?』
ベルの飛び蹴りが炸裂する。ズンッと鈍い音が響き渡り、モンスターの首が折れ曲がり絶命する。
「あ~ぁ…どうするんですか、ベル様?このキラーアント、壁に埋まっちゃってますよ?」
「ど、どうしようかっ?」
「ベル様はお強いのに、どこか変わっています。あはははっ!」
「…笑わないでよぉ」
「まあ、ベルは変だからなしょうがない」
「ハチマンにいわれたくないよっ!」
そんなやり取りを交わしているとベルがゆっくりと苦笑する。その後ようやくルームに静寂が訪れひと段落を迎え、魔石の回収作業に入る。といってもリリ以外は襲撃を警戒するくらいしかやることはないけど。
「しかし上手いな」
「リリはこれくらいしか取り柄はありませんから。このモンスター達を倒してしまったハチマン様達の方がずーっとすごいですよ」
「…あのさ、そのベル様っていうのは流石にやめてほしいんだけど…」
「すいません、そういうわけにもいかないんです。仮契約とは言え、上と下の立場ははっきりつけなければいけません。冒険者様には、サポーターはへりくだらないといけないんです」
「ど、どうして呼び方くらいでそんな…」
「…サポーターなんて聞こえはいいですが、蓋を開けてみればリリたちはただの荷物持ちです。命をかけて直接モンスターと戦っている冒険者様からしてみれば、リリたちは安全な場所に逃げ込んで傍観するだけの臆病者で、何もしてないくせに甘い蜜を吸おうとする寄生虫なんです。リリたちが冒険者様と同格であろうとすることは傲慢です。冒険者様も許しません。もしそんなことをしてしまえば、冒険者様は怒ってリリ達に分け前など恵んでくれないでしょう」
恐らくこれが古くからあるしきたりで冒険者やサポーターの中での共通認識何だろう。だからアーデもそれを肯定し歪んだ。俺はそれを聞き理解したうえで一言呟く。
「くだらねえ」
「「ハチマン(様)?」」
多少怒気がこもっていたのだろうか。リリは少しおびえた表情でベルは驚いたような顔で俺のことを見ている。
「何が同格じゃねえだ。何で命を懸けてないみたいな言い方をするんだ。ダンジョンに潜ってる時点で安全な場所なんてないし全員が命を懸けてるんじゃないのかよ」
「確かにダンジョンは危険ですけれど冒険者様達とは明らかに危険度は違います。それなのにリリ達ができることは死骸を端っこに寄せるくらいで…」
「それのおかげで助かってる事実があるのにか?」
「…」
「今日のアーデの働きで俺達は動きやすかった。それに今魔石を取る時間も明らかに普段より短縮されてる。十分すぎるほどにありがたいことをしてもらってるのに冒険者は同格として扱うことを許さない?本当に下らねえ」
「…ハチマン様達がお優しいことは、分かりました。それでもリリはけじめをつけなければいけません。もしリリがお二人を敬わなければ生意気なサポーターだと言う風評が流れてしまったら、お二人以外の冒険者様とダンジョンに潜ろうとするとき、リリは全く相手にされなくなってしまいます。精々ただ働きがいいところでしょう」
「あるだろここに」
「えっ?」
「確か同格であることは冒険者が許さないんだっけか。なら冒険者の俺が許す。これで今ここに生意気でも相手するってパーティーができたわけだが?」
「そ…れでもお二人が体調を壊したりしたら…」
「その時は俺かベルとアーデの二人で潜ればいい。この七階層くらい今の俺達のステータスならソロでも潜れる。そこにアーデが加わるならソロよりも稼げるだろ。それにもし俺たち二人が体調を崩していけなくなったりしたらその次の日の報酬を増やせばいい。それが何日も続くようなら契約の中にその場合はお金を払うってことにすればいい」
「ハチマンそんなことしたら…うち貧乏なんだし…」
「よく考えろ二人して何日もぶっ倒れてるなんて稀だ。それにそれが続いたって今のこのペースを見る限り長期的に考えて明らかにプラスの方が多い。得はあれど損はないはずだ。それでアーデどうだ?」
アーデの方に視線を送ると目を大きく開けて信じられないと言ったような表情で俺のことを見ていた。がすぐに表情を切り替え
「…考えさせてください」
とだけ呟き魔石の回収作業に戻った。俺はそれを確認するとベルの方に近寄り話しかける。
「すまんベル勝手に雇うみたいな流れ作って」
「い、いやいいよ僕も同じこと考えてたし…」
それ以降は特に会話することなく周りの警戒に戻る。暫くするとアーデがベルに話しかける。
「ベル様」
「あ、終わった?」
「いえまだ…あの壁に挟まったキラーアントの魔石も取りたいんですが…」
「ああ、そうだね。でもどうやろっか?」
「あの細い胴体を切っちゃえばいいと思います。魔石は胸の中にあるんですし。あとはリリがやっちゃいます」
「なるほど。じゃあ…」
「はい、ベル様」
「え…あ、うん」
アーデは自分が持っているナイフをベルへとわたし、それを受け取ったベルはキラーアントに歩みよる。アーデはちらちらとこっちの様子を伺っていた。それがわかっている俺はわざとそっちを向かずずっと明後日の方向を向いていた。
「っ?」
「終わりましたか?」
そろそろ頃合いだろうそう判断した俺は振り返るとアーデがちょうどベルの隣に並んで、ぐっと背伸びをしてモンスターを見上げようとしていた。目を丸くさせたベルは苦笑し、ちょっと待ってと手を動かす。すぐに切断されたキラーアントは、リリによってあっという間に魔石を摘出された。
「それでは今日はこれくらいにしましょう」
「えっ、もう?僕はまだ余裕あるけど」
「いえいえ、それは油断です。ベル様が今日沢山倒したパープル・モスは毒鱗粉をまき散らすモンスターです。即効性こそありませんが、何度も浴びれば『毒』の症状が発生します」
目的を終え早く撤収したいのかアーデがそう提案してくる。しかしそんなの常識である。もちろんベルは解毒薬を…。
「うっ、嘘!?」
……………。
「『毒』ってどうなるんだろうな…うわあ、症状が出るまで時間はないのかな?帰り道のモンスターは全力で倒しに行かないと…」
…あの俺の横で勉強してた白髪の子は誰なんだろうなあ…。おかしいなあ…。そうこう言ってるうちにかえることが決まったらしくアーデの指示に従いなら帰り、バベルに到着する。そこで明日の集合場所や分け前の話をし、解散と言う流れになった。
「それじゃあ、ハチマン治療しに行こうか」
「いやいらねえよ。ほれこれ」
「えっ?」
俺はベルにそう言うと解毒薬を投げ渡す。
「ええ!?ハチマンもってたの!?」
「そりゃな。パープル・モスが毒鱗粉まき散らしてるのは知ってたし一緒に勉強したはずなんだけどな?」
「あははっ…ごめんなさい」
「今度また勉強しとけよ?」
「はい……ていうかハチマンもってたならなんであの時言わなかったの?」
「呆れてたんだよ誰かさんにな。そしたらいうタイミング逃した」
俺が冷ややかな視線を送るとベルは気まずそうに眼をそらす。まあ言わなかったのは意図的なんですけど。
「反省したなら魔石の換金とかやっといてくれ俺ちょっと寄るとこあるからそれじゃ」
「はい…」
ベルにそれだけ告げると俺はアーデを追いかけた。
***
「…ここか」
屋根の上でハチマンはそっと呟いた。ベルと別れた後すぐにリリが行った方へ走り見つけるとずっとその後を追っていた。理由はアーデの家と売るための手段を知るため。今現在アーデが看板を掲げている店っぽいところに入数分滞在している。おそらくここでモノを売っているのだろう。
(ベルのナイフはベルが持たないとただのなまくらだ。てことは売られることはないはず。売られたとしてもなまくらの値段なんてたかが知れてる…だけどなあ)
当初考えていたことよりも大分リスキーになったことに歯噛みする。
元々ハチマンはリリの目的を全部見抜きリリを現行犯で捕まえるつもりだった。しかしリリの話を聞き自らの過去を想起させ、その身長と仕草からいつの間にか妹であるコマチの姿をリリに重ねるようになっていた。そして見てしまった。ナイフを盗った時のあの悲しげな表情を。
(くそ…)
心の中で悪態をついていると一人ドアを乱暴に開け出てくる。その手元にはベルのナイフがあることを確認する。
(やっぱ売らなかったか…まあ売ってたら買うかなんかしてたんですけど)
暫く売れなかったことにイラついているのか乱暴な足取りのアーデを追っていると進行方向に二つの人影が見える。買い物をしていたのか二人とも紙袋を抱えている。
(てかあれシルさんとリューさんじゃん…)
アーデがその二人の横を通り過ぎようとするがその足が止まる。
(話してる…?何で…?)
話して数秒その場が軋む。
(!?)
その威圧に当てられたアーデが逃げようと地を蹴るがリューさんは手元にあったリンゴを投げアーデの手に当てる。当たったリンゴはそのまま砕け散った。
(何ちゅう膂力…!ていうかやべえ!)
俺が動こうとしたときにはリューさんはすでに間髪を入れずに詰めアーデを蹴り飛ばしていた。蹴り飛ばされたアーデはそのままの勢いで大通りまで倒れこみそこでなぜかその先にベルがいた。
(どういうタイミングで来てんだあいつ…てかあの慌てようあれナイフないの気付いてるよな…ベルには悪いことしたな…)
ベルに今度お詫びすることを決め、俺はその場を後にした。