Atelier lirica~アースランドの錬金術士~ 作:ねり金術師
「え、エエェェエエエエルザ!?どうしてここに!?」
「バカどもの回収がてら一応様子を見にな。-いやまさか、リリカがこんなところにいるとは思わなかったぞ?」
突然の来客にテンパり始めるジェシカ/リリカ。
たいしてエルザは特に驚いた様子もなく、やや演技臭い所作で偶然だと言い張る。
何かしらの作為を感じたものの、ジェシカはそれどころじゃなかった。
「ところでリリカ。一つきいていいか?」
「あ、あのっわたしはリリカじゃなくてジェし」
「ひとつ、聞かせてくれ。」
「は、はぃぃ」
年齢的にも、実力的にも格上なエルザに真っ向から楯突けるわけもなく、ジェシカはただうなずくことしか出来ない。
もはや死刑宣告を待つばかりである。
「話はルーシィとハッピーからあらかた聞いた。しかし怖がりだったお前がそんなことを望むなぞ大抵信じられん。…本当は何が目的なんだ?」
エルザは理解に苦しむように顔を歪めている。
家族の一人が、こんな凶行に走ろうとしているのだから当然の反応だった。
対するジェシカは、悪事が親にばれたようないたたまれなさを感じながらも、毅然とした態度をとった。
「そう、だね。本当は欲しいものを頂いたら、そのまま逃げるつもりだったんだ。」
「そうか、ならこのあたりで茶番は終わりにするべきだ。もし逃げられないと言うなら私が-」
「でもね。」
ジェシカはエルザの説得を途中で遮る。
その瞳は先ほどの怯えたものではない、覚悟の灯火が宿っていた。
「リオンの『師匠を越えたいって』って言う気持ちも理解できる。それに可能性があるなら錬金術士として試す前から諦めるわけにはいかないんだ!」
「よくいいましたわ!」
粋のいい啖呵に呼応するように躍り出たのは、シェリーだ。
村を襲撃することがなくなった彼女は来るべき激闘に備えデリオラの近くで待機していたのだ。
元々は侵入者の迎撃件余計な真似をさせないために監視していたというのもあった。
ともかくこれで2対1、超然な実力者たるエルザ相手に届かせるにはまだ不足はあるものの数的有利
「シェリー、エルザはすごく強いよ。アレ使わないと勝負にもならないと思う。」
「そこまでですの?アレはあの悪魔のための取って置きでしたのに。」
「色々とまだ不可解だがまずは不良娘の折檻からだな。」
◇
少女達は互いににらみ合う。
ジェシカ達は格上の相手に、エルザも勝手知ったる錬金術士の厄介さと初見の魔導士の対応に慎重にならざるを得ない。
長らく続くかと思われていた均衡は、外部からの圧力により崩される。
盛大にぶち壊したような音ともに、遺跡全体が大きく傾いたのだ。
突如の事態に全員が体勢を崩す、エルザも例外ではない。
それを好機とみたシェリーは足をもつれさせながらも、とっさに懐から何かを取り出し床へと放り投げた。
トプンッと音がなる。
攻撃を警戒するエルザだが、一歩遅かった。
「おいでなさい、私のかわいいしもべ【
魔法の宣言と共に、大地から泥が隆起して人の形をなす。
目算でも大人の体長の二倍はあろう巨体がエルザを蹴散らさんと襲いかかった!
「…操作系の魔法か。確かにこれはなかなかの驚異だ、が。」
エルザは恐れることなく、淡々と換装魔法を行使する。
選んだのは風神の鎧&風神の剣、泥砂を風で全て押し流す算段だ。
泥の人形は一瞬崩れかけただけですぐに元の形を取り戻す。
そして健在する泥人形と共にジェシカ達の攻勢が始まる。
「再生が異様に早い…。この早さとなると何処かに
余裕をもって回避しながら、エルザはつぶさに分析を始める。
この手の魔導士は傀儡を無視して速攻で術士本体を倒すのがセオリーだ。
しかし思いの外傀儡の動きが機敏であることに加え、ジェシカの存在がエルザをこの場に留めさせていた。
身内が敵だから十全に力を出せないというわけではない。
様々なアイテムを使いこなし、エルザの行動を阻害しているのだ。
グレイの時と同じ、お互いがある程度の動きを理解していることも要因の一つである。
さらに本来ならば、慎重な立ち回りが必要になる後衛・補助職が前衛巻き込み上等といわんばかりに絨毯爆撃をするので守りに入らざるを得なかったのだ。
投下されるアイテムは威力の低い、補助効果に特化したものばかり。
眠り、麻痺、スタン等々生物の動きを阻害するものだ。
何かしら当たれば昏倒してしまう状態以上の嵐に、
エルザは状態異常を無効化・軽減する装備へと換装せざるを得なくなり、事実上の縛りプレイを余儀なくされた。
一方、大立回りを演じる泥人形は無機物のゴーレムの近似値。
上記にあげた三種の状態異常にはかからないという抜け穴のお陰でジェシカは心置きなく絨毯爆撃しているというわけだ。
錬金術士パーティの戦闘における、一つの完成形である。
しかしこの程度で値をあげるエルザではない。
もとから前衛型魔法剣士として修練と実戦経験を積んできたのもあり、ある程度の継続戦闘は可能だ。
苛烈な戦闘の最中にもある程度の状況分析は途切れることなく続いている。
目の前の泥人形をどうにかするか、もしくはジェシカの弾切れを狙うかの二択。
今エルザが装備している防具でも完全に防げているわけではない。
クリーンヒットしてしまえば軽減はまだしも無効化は難しい。
それほどまでにジェシカの造ったアイテムは凄まじかった。
いつまで続くかわからない持久戦だと、先に疲れで凡ミスをする可能性が高くなる。
「ならば、障害を全て切り伏せるしかないなっ!」
目の前の泥人形を粉微塵にする勢いで、剣舞を見舞う。
ジェシカのアイテムを全て見きり躱しながら、最適化された剣閃は確かに泥人形へと叩き込まれていく。
しかし傀儡は何事もなかったかのように、繋ぎ合わさり元の形へと戻っていくばかり。
よほど核が小さいのか、それとも剣閃を避けるように移動するのか。
いや小さければ馬力はでないし、この戦闘のなかで高度な操作を要求するのは現実的ではない。
ふと、エルザはある一点に目を向けた。
今まで攻撃を当てたことなく、なおかつギリギリ傀儡判定にはいるような場所。
まだ状況証拠は足りない、しかしエルザはある種の確信を持っていた。
武器のみを換装、両手持ちのある長物へと持ちかえる。
多少の被弾を覚悟でタイミングを合わせ、勢いよく突き刺した!
-地面へと。
正確に言うなら、泥人形が涌き出ている地面の付け根に、である。
わざわざ長物-スコップに換えただけあって、まるでプリンを掬うように用意に地面へと刺さる。
そして-
「どっせい!!」
掛け声と共に、エルザは泥人形の付け根ごと地面をシェリーに向けて掘り返した。
すると、掘り起こされた地面から可愛らしい小動物の悲鳴が聞こえてくるではないか。
同時に今まで猛威を振るっていた泥人形が崩れ落ちていく。
シェリーが核として使役していた小動物を無力化した証であった。
「あぁっ!?アンジェリカマークII!!」
((アンジェリカマークII?))
小動物の安否に気を取られたシェリーに掘り起こされた土砂が雪崩れ込む。
怪我をするほどの量ではないが、覆い被さって来る土砂にエルザの姿を数秒見失う。
その機を逃さず土砂を目眩ましとしエルザはシェリーに接近、無慈悲に意識を刈り取っていく。
「これでもうお前だけだぞ、リリカ。」
後は肩で息をしながら睨み付けるエルザと
絶体絶命の錬金術士だけが残った。
あれは嘘だ(土下座)
おそらくあと一話でガルナ島編終わります。
不定期投稿です!!!(確固たる意志)
今回もオリジナル設定が出たので捕捉
シェリーの魔法
《泥人形(マッド・ドール)》
原作には登場してない(はずの)創作魔法。
地面から泥砂を隆起させて上半身のみ人形に象り操る魔法。
流動する泥砂で出来ているので、斬っても殴っても潰してもすぐに元に戻る不死身に見える泥人形。
実際物理攻撃に極端に強く、後述の理由で吹き飛ばしや属性攻撃にも即座に対応可能。
対処方法についても後述。
《アンジェリカマークII》
エルザに掘り起こされてしまったかわいそうな小動物、もといシェリーに使役された泥人形の本体。
鳴き声は『むきゅー』
アンジェリカマークⅡは個体名でシェリー命名。
種族名は水土竜、ジェシカ(リリカ)命名
まるで水の中を泳ぐように地面を移動し、地面の中にいる間は衝撃を周りに衝撃(攻撃)を受け流す特異な体質を持つ
ジェシカ(リリカ)謹製の錬金生物である。
弱点は、水土竜自体が貧弱で土の中に潜っていないと上記の特性がすべて発揮されえない。
そのため本編でエルザがしたように掘り起こすか、超威力の攻撃で地面の表層をたたき割り無理やり顔を出させる必要がある。
《エルザのスコップ》
昔、採取依頼のためにリリカが手作り(錬金)した魔法のスコップ。
どんな地質だろうともプリンをすくうように掘り起こしてしまう。
柄の部分にかわいらしく『えるざ』と印字されているぞ!!