Atelier lirica~アースランドの錬金術士~   作:ねり金術師

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今日も元気に不定期更新!
ここから少しずつ不穏さを醸し出していきたい


鉄の森~悪魔の島
大望と策謀と共謀


◇【港町ハルジオン】

 あの人攫い未遂港町半壊事件から二日。

 ようやく混乱から回復し始め街の復興が始まろうとする中

 町に残ったジェシカと名乗っていた少女は軍から事情聴取を受けていた。

 

「君になんの罪もないのは明らかなんだけど念のため身分の証明ができるもの見せてくれないかい?」

「その…ごめんなさい。諸事情で故郷のようなところを着の身着のままで出ていったのでそういうのはちょっと…」

「こっちも仕事だからちょっとっていわれてもむしろ困るのだが―」

 

 ジェシカの身元を証明できるものが一切ないため逆に怪しまれていた。

 

 と、そこで第三者の介入が挟まれる。

 評議員所属の坊主刈り頭の検束魔導士だった。

 

「そこの君、事情聴取ご苦労だった。ここからはオレが相手がするから次の任務にうつってくれ」

「いやしかし」

「しかしもかかしもねぇよ。ここからは評議員の本分だ。さっさとどいたどいた」

「…わかりました、後は任せます」

 

 引き継ぎに多少ごたついたものの、軍の調査官は敬礼をして取調室から去って行った。

 それを見送り完全に姿が見えなくなったのを確認すると検束魔導士は大きくため息を吐くのだった。

 

「アハハ、お疲れ様です、そしてありがとうございます。ドランバルトさん」

「どういたしまして。このやり取りも何度目だっけかね、えっと今は―」

「ジェシカです。それで通してます」

 

 ジェシカと検束魔導士ードランバルトはそれぞれ気負うことなく自然体で会話していた。

 

 彼らの関係はそこそこ長く

 ジェシカが旅を始めて間もないころから続いている。

 その時も旅先でトラブルに見舞われその解決に奔走していたところを検束魔導士としてなりたてのドランバルトに見られたことから始まった。

 

 ドランバルトは評議員で成り上がるため、また当時13歳だった少女を心配したことも重なり旅の補助をしつつジェシカの存在を出世に利用したり

 またジェシカは口が悪くもどこかで見たような顔をしていたドランバルトに親近感を抱き、利用されていると気づきながら特に問題はないだろうと援助を受けていた。

 

 要は持ちつ持たれつの関係だったのである。

 おかげでドランバルトは評議員からの熱い信頼を勝ち得ることに成功し、特殊諜報部隊への内定がほぼ決定しているし

 ジェシカも今まで無事に旅を続けられてるし、何より()()()()に欲しい情報が比較的容易く手に入るようになったのだ。

 

 いつの間にかジェシカはいつにもまして真剣な表情をしていた。

 

「それで、『月が落とす涙』はガルナ島で間違いないんですね?」

「ああ、古文書やら過去の事件やら探すのに苦労したが正確な情報だとみていい。しかもちょうどそれを用いた儀式もしてるって話だ。」

「お願いすれば少し分けてもらえないかなぁ」

「その儀式自体がグレーなものらしいからおそらくならず者の集まりだぞ」

「あ。無理そう…。最悪こっそりいただく方針でいきます」

「あんまり無理すんなよまだやってもらいたいことがあるんだからな」

 

 一先ずの方針が決まりジェシカはこれからの算段をたてはじめる。

 まずは島に渡るための舟を用意して、荒事になるかもしれないからそれ用の道具も調達。そして特殊な素材を補完するための容器の用意などやることはそれなりにありそうだった。

 急ぐ必要はないが、進展の兆しが見えたことにより浮足立ちながら席を立とうとする。

 

「待て、行く前に一つ、依頼したいことがある」

「?なんですか?」

「それは―」

 

 

 

 

【クローバーの街】

 

「どうしてわたし、ここにいるんだろう…………」

 

 憂鬱な顔をしながら少女ジェシカは牛車の手綱を引いていた。

 荷車のなかには大量のパイやら茶葉やらの菓子類が積み込まれていた。

 これらの荷物は、ここへ来る前にドランバルトに頼まれた依頼に必要なものだった。

 

 その依頼とは―この町で行われるギルドマスターの定例会に潜入、そして出来れば真新しい情報のひとつでも入手してほしい、というものだった。

 その際に『議会の軽食を用意する業者』としての身分をドランバルトが偽造―用意したのである。

 

 幸いというか間が悪いことにというか、最近は薬を重点的に売りさばいていたため、菓子類の在庫をもて余していた。

 それらを処分するには申し分ない機会だったとも言える。

 

 ―この議会が『ギルドマスター』の定例会でもなければ、の話だ。

 

「おじ…………マカロフさんも来てるよね。よくも悪くも有名なギルドだし。こっそりいっておいてくればばれないかな?」

 

 できなくはなさそうな希望的観測を考えているうちに件の定例会場についた。

 各地の治安や商業活動を支える上役たちが一同に介することもあり、警備が厳重で身元が保証されていても部外者が入るには色々と手続きが必要であった。

 

 …………まぁそもそも各々荒くれものやアクの強い魔導士たちをまとめている長だ。

 実力、人格が伴ってなければかれらを御しきれないだろう。

 生半可な襲撃ではむしろ犯人がかわいそうなことになりそうである。

 

「はい、身元の証明が確認できました。『一人菓子工房』のジェシカさんですね。通っていいですよ。」

「お疲れ様です。

 あ、これ新作菓子の『アイスシュー』なんですけどよければ同僚のかたと一緒にどうぞ」

 

 おすそわけと言わんばかりに試作品の在庫を押し付け荷物を運びいれる

 

 荷ほどきを始めてすぐに、懐かしい誰かが近づく気配を感じ振り向くとそこには―

 

「久しぶりじゃのう、リリカや。」

「おじ…………マカロフさん。」

 

 

 

 それと同時刻。

 クローバーの町外れでは既に死闘が繰り広げられていた。 




末尾の解説コーナー
《ジェシカの旅の支援》
ジェシカが事件に巻き込まれた(起こした)ときやほしい情報があったときに
時には評議院という立場で、時には魔法を使って秘密裏に『後処理』や情報を抜き取ったりしている。

《ドランバルト出世のための支援》
ジェシカは解決した事件の中で無難なものを『検束魔導士ドランバルトの民間協力者』という体で手柄を譲っていた
(実際後処理含めると協力して解決したとも言える)
また自ら囮として捜査にも協力している

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