発達障害彼女~スーパーヒロイン育成計画~   作:D1198

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女神選抜大会〈アージプリムティア〉3

「ポーラ! 見せてみろ! 半年の成果を!」

 

 応えるかの様に、ポーラの体がピクリと動いた。

 

『厳密な論理世界と曖昧な現実世界を混同させている、結論ありきのイジワル問題です!』

 

◆◆

 

 何かを証明しようとする場合は、大きく二ケース考えられる。

 一つは、”~である”を証明するケース。

 もう一つは、”~でない”を証明するケース。

 悪魔の証明は、後者の”~でない”に該当する。

 

 

 これの説明は後回しにして、先に前者の”~である”から。

 この”~である”を証明するのは、後者”~でない”に比べて証明が簡単だ。

 例えば。

 交通手段はB電車のみのA遊園地がある、と仮定する。

 とある日に、A遊園地に行ったという証明は”電車切符の領収書一枚”で済む。

 ところが、遊園地に行っていない事を証明するには、”とある日のB電車の利用者全て”を調べなくてはならない。

 この様に、”~である”の証明は適切な痕跡を一つ示すだけで済むのに対し、”~でない”の証明は”しらみつぶし”にしなくてはならず困難を伴う。

 説明の為のシンプルなこの例えでさえ大変なのだから、それが現実問題ともなれば事実上不可能となる。

 

 

 プリンを食べていない証明をしろ。

 指紋が付いていない・拭き取っていない・拭き取る道具を持っていない……エトセトラ・エトセトラ

 要するに。

 ”~してない証明をしろ!”

 これは一見、論理的に見えるがただの難癖に過ぎないのだ。

 

◆◆

 

 判定は、ポーラの防御が成功だ。

 

『な、なんじゃと!? これを防いだと言うのか!?』

 

 のじゃロリは驚いている。

 俺も驚いた。

 そしてポーラの反撃。

 

『今度はこちらの番です! ツバス・ハマチ・メジロ・ブリ・イワシ、仲間はずれはどれ!』

『え、えと、え、なんじゃそれは!』

 

 ポーラの攻撃判定……成功。

 のじゃロリは、光の中へ消えていった。

 

『魚は嫌いなのじゃぁぁぁぁぁ……』

 

 本来なら蚊に刺された程度の威力だが、のじゃロリは動揺していた様で、クリティカルになったのだ。

 好き嫌いは良くないという教訓だろう、きっとそうだろう。

 

「料理長、お願いします」

「答えはイワシだ」

 

 成長段階で呼び名が変わる魚を出世魚と言う。

 イワシ以外の名前は、全て同じ魚の名前なのだ。

 料理長は満足した様に何度も頷いていた。

 

「若い娘にしては感心だ」

「ポーラは最近料理を習い始めたらしいです」

 

「ほーぅ、良い嫁さんになりそうだな」

「ええ、相手が羨ましいです」

 

「ただ苦労はしそうだな」

「相手次第でしょう」

 

「だから、だ」

「はぁ」

 

 

「ぅえええええん! ケッコンするのじゃーーーっ!」

 

 選手の控え室で、のじゃロリは泣いていた。

 子供に泣かれると、ぶっちゃけ困る。

 

「まーくん。ハッキリ言うべきです」

「そうですわ。この子の為にも成りません」

 

 ポーラとタマラは手厳しい。

 と言うか、責められている様な気になるのは、何故だろうか。

 

「一つ聞きたい。どうして結婚したいんだ」

「レディとは殿方を踏みつけてナンボと聞いたのじゃ」

 

 どこの誰だ。

 そんなアホな事を言ったのは。

 

「歴史シリーズ”世界の悪女”」

「んな本は読むな。つーか、読んだなら”世界の聖女”も読め」

「読んだぞ。裸が載っておったが」

「その性じゃない」

 

 タマラは顔が真っ赤だ。

 意外と純情だね。

 ポーラは意外と普通だった。

 えーと、つまり?

 

「私だって分りませんよ! ええ、まったく!」

「聞いてねぇよ」

 

 原因は分った。

 ならばするべき事は一つだ。

 

「スカーレット=ヨハン=ファンタズマよ。俺の門下生となれ」

「ほ、ほんとうか? ホントウに良いのか?」

「門は開けておくから、いつでも来るが良い」

 

「まーくん?」

「この子は偏った知識に振り回されてるだけなんだよ。訓練すれば自然と分別を心得る」

 

「マスター」

「教える立場と言うのも得るものが多い。二人にとってもこれは良い事だ……なんだよ。言いたいことはハッキリ言いなさい」

 

「そういう風に言われるとなにも言えなくなりますー」

「見事な手管ですわー」

 

 そうだろう、そうだろう。

 

「スカーレット=ヨハン=ファンタズマよ! しっかりと訓練に励むのだ!」

「わらわの主さま~~~」

 

 抱きつかれた。

 はっはっは、マセた童〈わらべ〉よ。

 そうしたら頬にチューもされた。

 はっはっは、よせやい照れるぜ。

 そうしたら二人が、

 

「「……」」

 

◆◆

 

 決勝戦の日がやって来た。

 観客で埋め尽くされる巨大な闘技場〈コロッセウム〉が緊張感を帯びているのは、控えている二選手のプレッシャーを受けているからだろう。

 とうとうポーラとタマラが雌雄を決するのだ。

 屈強な料理長も少なからず影響を受けているかの様だ。

 

「実際の所、どうなんだ」

 

 ウォーミングアップしている二人を捉える双眸は、狩人の様に光っていた。

 

「素直に考えてポーラの分が、悪いです。才能有る者が舐めプレイをするのは、漫画〈フィクション〉だけですから。現実に居る彼らは研鑽を怠らない」

「敵〈タマラ〉に塩を送りすぎたのではないのか?」

「確かに統計確率〈ロストテクノロジー〉は完全予想外でした。ただ……」

 

 どんな偉人も、人間である以上間違える。

 頭の良さと判断力ってのは、近似だがイコールではないのだ。

 つまり、ポーラが勝利をタマラからぶん獲れるかどうかは、ポーラ次第と言う事になる。

 相手〈タマラ〉は努力する天才だ。

 ポーラ、お前はどう攻める?

 

「得てして、現実ってのは分が悪いもんですから」

「獅子は我が子を千尋の谷に落とす、か。師匠も辛いところだなと言いたいが、よく分らんな」

 

「何がです?」

「お前がただの一般人だというのがだ。勇者・王とは言わんが、もっと名が知れ渡っていても良さそうなもんだが。今まで何をしていた」

 

「気づくのが遅すぎたんです。俺は」

「そうか」

『最終試合! 開始!』

 

 タマラは煌びやかな片手剣を、ポーラは身の丈ほどもある盾を、顕現させた。

 構える。

 そうしたら突然、ざわついていた闘技場が、静まりかえった。

 対峙する二人の気迫に黙らされたのだ。

 

――シン――

 

 耳が痛いほどの静けさだ。

 だが、この拮抗は何時までも続かない。

 なにせ、タマラはもちろんポーラも実は、せっかちだ。

 先手はポーラだった。

 

『割り算の種類は幾つある!?』

 

 高速回転する盾が、鎖をのたうちさせながらタマラに向かう。

 

『余りが出る割り算と小数を出す割り算!』

 

 タマラの防御が成功した。

 〈注:一般的には等分除・包含除を指すそうですが、ここではこうします〉

 タマラのターンだ。

 

『ゼロは偶数か!? それとも奇数か!?』

 

 打ち抜かれた剣風が、石床を破壊しながらポーラに向かう。

 

『どちらでもありません!』

 

 ポーラの防御が成功した。

 〈注意:その筋では派閥がある様で、偶数派が多数的のご様子。個人的見解ですが、正の整数と負の整数を向きを持つベクトルとして考えるとスカラーになるので、ここでは偶数でも奇数でもないを正解とします〉

 

 二人はバックステップすると、大きく構えた。

 小手調べ〈あいさつ〉は、終了だ

 タマラが僅かに早かった。

 

『同様に確からしい!』

 

 これは、タマラの主力である統計確率〈ロストテクノロジー〉の用語だ。

 教科書をひもとくと『一つの試行において,根元事象のどれが起こることも同じ程度に期待できるとき,これらの事象は同様に確からしいという』とある。

 イミフ。

 ひっじょぉぉぉに大雑把に言うと、『サイコロは全ての面を同じ程度・割合で出す。これを”同様に確からしい”と定義する』と言う意味だ。

 正しくあろうとするあまり、日常からかけ離れた言葉になってしまっていて、理解して貰おう感が全く感じられない残念事例である。

 もちろん理解してやる感は前提だ。

 

 切っ先を掲げていたタマラの姿がかき消えたかと思うと、次の瞬間にはポーラに肉薄していた。

 瞬間移動〈インスタント・ゼロ〉だ

 タマラの防ぎようの無い筈の攻撃は、耳障りな金属音と共にポーラの盾で止まってしまっていた。

 ポーラが防いだのだった。

 俺がその意味を理解する前に、ポーラは攻撃を繰り出した。

 

『試行と事象!』

 

 は? ポーラがロステクを使った?

 高速回転しすぎたポーラの盾は、巨大な竜巻を生み出した。

 頑丈な城壁さえ破壊してしまいそうな大気の渦が、タマラを襲う。

 為す術も無く飲み込まれたタマラは……渦を切り裂き姿を再び現した。

 タマラは防いだが、僅かに動揺してしまったらしい。

 その証に、美しい金色の髪を乱し、その手を小刻みに震わせていた。

 

『ポーラさん……貴女、』

『統計確率〈ロストテクノロジー〉が、生徒会長だけの専売特許だと思ったら大間違いです!』

 

 流石の料理長も呆けていた。

 

「ポーラ嬢ちゃんにも教えたのか……随分嬉しそうではないか。マスターよ」

 

 家に置きっ放しのノートを見るなとは、俺は一言も言っていない。

 つまり、必要だと判断したのだろう。

 俺のお咎め覚悟で。

 

「こりゃー卒業も近いな」

 

 統計確率〈ロストテクノロジー〉を持つ者同士なら、それは決定打にはならない。

 ならば候補生等の常套手段である論理学〈ハイエンシェント〉だ。

 ポーラが仕掛けた。

 具現化した光体顕現〈Augoeides:アウゴエイデス〉は、巨大な古竜〈エンシェントドラゴン〉!

 

『この機は逃しません! 二人の門番!』

 

 天国と地獄に通じる二つの扉があり、それぞれには門番が一人ずつ居る。

 扉の秘密を知っている二人の門番は、どちらかが必ず正直に答え、どちらかが必ず嘘をつく。

 だが、どちらが正直か嘘つきかは分らない。

 質問は一回限り。

 天国に行きたい貴方は、何と聞く?

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