発達障害彼女~スーパーヒロイン育成計画~   作:D1198

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御柱の御許で1

『『『雄々々々々々々々々!!!』』』

 

 兵達の勇ましい声が山々に木霊する。

 見下ろす広大な平原には、大隊が陣を張っていた。

 大将は、スカーレットことエイダ=ガードレだ。

 大きな馬に乗り、鉄扇を揮っていた。

 本人は政治家型だと言っていたが、ナナさんは煽動型だと言っていた。

 なるほど、指揮を執るのにうってつけだ。

 スカーレット=ヨハン=ファンタズマであったのも、この布石だったのだろう。

 アクマっ娘の本領発揮である。

 その平原の遙か向こうに、一つ抜き出た峰から塔がそびえていた。

 俺らが目指すアーヤの塔だ。

 その麓の神殿に魔王が居る。

 

 

 アクセルさんが馬を止めたので、俺も手綱を引いて止めた。

 手綱を握る手に力がこもる。

 平原の敵陣地側には、遠近感を狂わす人影が多数在ったのだ。

 鋼鉄のゴーレムだ。

 全長は五~十メートルに及び、その数は見えるだけでも三〇体は居る。

 アクセルさんの声には力が無い。

 

「一週間でよくもこれだけそろえた、と言いたいが。あの連中相手では、良くて時間稼にしかならん」

「神狼フィルアリアは、来ませんでしたね」

「言うでない」

 

 創世記によると、フィルアリアは主神アーヤによって蘇った存在であり、ナナさん・エイダと異なる唯一の真たるガーディアンだ。

 だが、アーヤが居なくなったのは人間のせいだと今でも恨んでいる。

 そして、ポーラも未だ現れない。

 

 

 アクセルさんが馬を進めたので、俺も慌てて続いた。

 ガラリと馬が道を踏み外しかける。

 俺が急いで取った冒険者スキルの一つである騎乗は、レベル1だ。

 無いよりは遙かにマシだが、踏み外せば真っ逆さまの断崖絶壁が至る所にあれば、正直心許ない。

 意外なのはアクセルさんだ。

 冒険者としても戦士としても一流のこの人が、口数少なく大人しいのである。

 

「意外か? ワシが消沈するのは」

「はい」

 

 しまった。

 疲れで失言してしまった。

 ところが、アクセルさんは自嘲気味に小さく笑っていたのである。

 

「ワシにそう言うのはマスター位の物よ」

 

 そして、背負っていた剣を引き抜いた。

 シャランと鈴の様な音がする。

 それは日本刀によく似ていた。

 素人目にも分る程の、力を持った刀だった。

 

「知りませんでした。アックスやスピアなど大型の武器を好んで使う物とばかり」

「“天叢雲剣〈あめのむらくものつるぎ〉”という。友から譲り受けた名刀でな。そうそう使えなかった」

「友?」

「ガーディアン=アージプリムティア、最強の剣士だ。主神アーヤの友であり、ワシの友でもあり、そして三〇〇年前の戦いで喪った」

 

 アクセルさんよりも強い……想像が出来ない。

 

「共に闘った大勢の頼もしい仲間も、今はもうエイダとナナのみよ。正直に言おう……勝てる気がせん」

 

 俺は、タマラから借りた祭器〈ブロードソード〉を振るって見せた。

 

「現実ってのは、本当に厳しいですね。分の悪い賭けが、避けられない賭けだなんて」

 

 両手剣スキルも冒険者スキルもレベル1だ。

 これ以上は時間が足りなかった。

 

「でも誰しもそうです。それは人生ってヤツです」

 

 祭器は、持ち主の意思に応じて、宝石・アクセサリー・武器、この三つに形態を変える。

 実戦用祭器〈ナンバーズ〉の金牛宮〈タウルス〉が、ブロードソード形態を維持しているのは、持ち主がタマラのままだからだ。

 つまり、俺にとっては丈夫なただの剣に過ぎない。

 

「だったら、全力勝負ですよ。決まっていない結果〈みらい〉は、その時に考えましょう」

 

 だからこそ、これが切り札の一つとなる。

 ハッタリがもう一度通用する魔王ではないのだ。

 剣身に刻まれた文字が、応える様に虹色に光っていた。

 

(頼むぜ――)

 

 ラッパの音を皮切りに、行進曲が鳴り響く。

 エイダの率いる魔王討伐軍が、動き始めたのだ。

 作戦開始だ。

 

「アクセルさん。俺らも――」

 

 バシンとは、俺の顔ほどもある大きな手が、俺の背中を叩いた音である。

 なんと言う事だろうか。

 レザー製とは言え鎧越しだというのに、とても痛い。

 バシンと背中をまた叩かれた。

 だから、痛い。

 

「ガハハ!」

 

 アクセルさんの笑い声は、腹に響く。

 耳にも響く。

 

「マスターの言う通りよ! ワシとしたことが弱気になったモノよ!」

 

 バシンバシンとは、アクセルさんが照れを隠す音である。

 バシンバシンバシンバ――死ぬから、魔王と闘う前に死んでまうから。

 

「マスター、アクセル、時間です」

 

 ナナさんも完全装備だ。

 

「じゃ、いきましょうか」

 

 

 昼間でも目立つ閃光が視界の端に見えたかと思うと、僅かに遅れて爆音が聞こえた。

 エイダの率いる討伐軍と魔王のゴーレム大隊が、戦闘を始めたのだ。

 歩兵・騎兵・弓兵・魔法兵・竜騎兵・人間・エルフ・ドワーフ、この世界の全ての人たちが闘っていた。

 そうしたら、主戦場とは離れた山腹で、激しい爆発が起り始めた。

 エイダは平原の本隊を囮にして、遊撃部隊を展開していたらしい。

 森林はエイダ等にとって身を隠す場所となり、ゴーレムにとっては動きを抑える障害物となる。

 遊撃隊が、崖の上から落とす岩・巨木や樹木を介したロープで足を止め、その隙に本隊が大魔法で止めを刺す。

 健闘はしているが、それでも戦力差は覆せない。

 俺らは黙って馬を走らせた。

 彼らの決意は、一秒たりとも無駄には出来ないのだ。

 

「マスター! そこに一体居ます!」

 

 ナナさんの鋭い警告でそれに気がついた。

 切り立った岩の影から、一匹のコボルドが飛び出したのである。

 粗雑な武具を装備したワーウルフだ。

 強いモンスターではないが、仲間を呼ぶのが厄介だ。

 ならば、一撃で仕留めるのが適当である。

 チーターの様な狩猟種のスピードで、それが迫り来る。

 3、2、1……間合い・移動力・地形・装備・そしてリズム、全てから導かれた解は?

 

「はっ!」

 

 俺の意思に応じる様に、タマラの祭器〈ブロードソード〉が風音を鳴らす。

 コボルドの剣が、俺の頭を掠めていった。

 

「GRYYYYYYY!!!!!」

 

 クリティカル成立でコボルドは為す術も無く倒れた。

 ナナさんとアクセルさんの闘いを参考に、演習済みなのだ。

 

「良し……次!」

 

 ゴチンとはアクセルさんに頭を殴られた音である。

 

「……何するんですか!」

「たわけ! 駆け出し冒険者が、クリティカル狙いなど一〇年早いわ!」

「心配無用です! ちゃんと根拠が――」

「しかしもかかしも無い! マスターは引っ込んでおれ!」

 

 ”しかし”なんて一言も言っていないが、話が通じる気配では無い。

 なので助けを求めてナナさんを見た。

 

「クリティカル狙いはハイリスク過ぎます。私どもに任せて下がっていて下さい」

「時間が惜しいんです。一撃で倒せるなら――」

「……」

「分りました。大人しくしています」

 

 泣かれると何も言えなくなる。

 

◆◆

 

 目の前で、アクセルさんとナナさんが、モンスターをバッサバッサと倒している。

 二人にはダメージにもならない雑魚モンスターだが、その数が多すぎて遅々として進まない。

 

「……あの魔王、なにか企んでるな」

 

 そう思った矢先だった。

 森に住む鳥たちが、バサバサと逃げる様に羽ばたいたのである。

 替わりに現れたのは、ガーゴイルの怒濤の様な群れだ。

 その数は空を埋め尽くさんとする程だった。

 

「いかん!」

「マスター!」

 

 二人との距離は絶妙だ。

 単純故に対処しづらい作戦だった。

 流石魔王と言わざるを得ない。

 

「破魔の白刃〈アウラ〉!」

 

 スピードタイプであるナナさんの範囲攻撃を免れた十数体が、俺に迫り来る。

 この数では防御も殲滅も不可能だ。

 ならば。

 先頭の攻撃をタマラのブレードで敢えて受け、その威力を利用して大きく後方に飛んだ。

 

「ぐっ!」

 

 間合いを稼げたが、樹木に叩き付けられた。

 痛みは、無視だ。

 取り出したのは、マジックアイテム”ウィンドスクロール”だ。

 一定範囲のモンスターをカマイタチで斬り刻むのである。

 

「「「GRYYYYYYY!!!!!」」」

 

 一難去ってまた一難。

 大盛りお待ち! と言わんばかりに、ガーゴイルの大群が更に迫り来る。

 

「ひつほい〈しつこい〉!」

 

 咥えていたポーションを放り捨て、新たなスクロールを用意する。

 

「この間合い……勝負だ!」

 

 ヒュルヒュル・ジャラジャラ、鎖に繋がれた回転体が、目前のガーゴイル達をなぎ倒していく。

 黒くて長い髪が、フワリと舞っていた。

 

「あまり、無茶をしないで下さいね」

「ポーラ!」

「はい。お待たせです♪」

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