発達障害彼女~スーパーヒロイン育成計画~   作:D1198

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御柱の御許で2

 目の前に立つポーラは、色々違っていた。

 まず盾の形が違う。

 円形のラウンドシールドから、長細い五角形とでも言うカイトシールドになっていた。

 意味ありげなギミックも在れば、翼を格納したステルス戦闘機の様にも見える。

 何より、そのポーラだ。

 見た目は何も変わらないというのに、その存在感の強さは別モノだ。

 自信満々の微笑み ――いや、確固たる微笑みとでも言おうか。

 その印象はそれこそ女神だ。

 最後の訓練はどうだったのだと、問い質すのも憚〈はばか〉れる。

 だからこう聞いた。

 

「お前、どうやって追いついた?」

「狼さんに居場所を教えて貰いました」

「狼に?居場所を聞いた?」

 

 その意味を聞こうとした時である。

 

『Wooooo!』

 

 大地を震わす程の咆哮が在った。

 まだ太陽が出ていると言うのに、二つの星が瞬いていた。

 それは、空と大地の境界線に立つ蒼い獣のモノだった。

 空高く跳躍したそれは、鋼鉄のゴーレムに襲いかかった。

 砕けた大地と土煙が、フレアの様に巻き上がる。

 倒したゴーレムの上に立つのは、巨大な狼だった。

 

『Woooooooooo!!!』

 

 大地を蹴ったそれは、蒼銀の毛並みを靡かせながら、鋼鉄ゴーレム大隊に突入していった。

 エイダが率いる万の大軍が手も足も出なかった鋼鉄のゴーレムを、衝撃波をまき散らしながら根こそぎ砕いて行った。

 突進する姿はまるで彗星だ。

 

「これが、神狼フィルアリア?」

 

 討伐軍は押し返し始めた。

 エイダも無事の様だ。

 

「わはは! 神狼が動いたか!」

 

 いつもの様に、アクセルさんが大声を上げて笑っていた。

 

「このアクセルも存分に働いてみせるわ!」

 

 ミノタウルスの群れを一撃でなぎ払った。

 

 

◆◆

 

 丘を越えて、崖を降りた。

 山を越えて、谷を下った。

 それを繰り返す事……数えるのは途中で止めたが答えは分っている。

 それは、ゼィゼィと切れる俺の呼吸である。

 

「まーくん。大丈夫ですか?」

「なっとらんな」

「ゼィゼィ」

 

 ポーラとアクセルさんに答えようと思うが、出るのは切れた息のみだ。

 冒険者レベルは四に上がっていたが、強行軍の無理が祟った様だ。

 

「私がおぶります。祭器で重力を遮断出来ますから」

「不要。エイダ達だって頑張っているというのにへたっていられるか」

「でも足も痛いんじゃ」

「痛いと思うから痛いんだ。足りない分は気合いでカバーだ」

 

 少女に背負われるのも様に成らない。

 

「わはは! それでこそマスターよ!」

 

 バシンバシンとアクセルさんに背中を叩かれた。

 訂正、痛いモノはやはり痛い。

 

「戻りました」

 

 それは偵察に出ていたナナさんの声だ。

 俺が「どうでした?」と聞くと、ナナさんは「山道は通れません」と答えた。

 アクセルさんが「崩れたのか?」と聞いたらナナさんは「無くなっています。三〇〇年も前の道ですから」と答えた。

 

「ですので廃墟を通ります」

 

 ナナさんによると、大破壊の前に存在した都の名残が在るらしい。

 神話の遺跡 ――なにかヒントが得られるかもしれない。

 ポーラは少し不安がっていた。

 

「シスターナナ。伝説の都に行くと呪われるって聞きました」

「それはただの言い伝えです」

「そうなんですか?」

「私たちユニサーヴィヴァル教団が流しましたから」

 

 おい。

 

 

 古代文明の遺跡というので古代ローマの様なモノを想像していたら、随分違っていた。

 俺にとっては随分見慣れたと言うより懐かしいモノが、ポーラにとって目新しいのは当然である。

 

「シスターナナ。これは何ですか?」

「それは鉄の怪鳥です。雲よりも高い空を飛び、何百人も運んだと言われています」

 

 俺にはジェット旅客機の残骸に見えた。

 

「シスターナナ。これは?」

「天空の城です。石と鉄で作られたそれは、雲に届く程の高さだったなのだとか」

 

 鉄筋コンクリート製ビルの残骸以外見ようが無い。

 

「この黒いロープは?」

「魔力を町の隅々に送るモノだと聞いています」

 

 どう見ても電線だ。

 

「どうしてこんなに凄い文明が、滅んでしまったんですか?」

「それは私にも分りません。ただ創世記にはそう言うモノだと記されています」

 

 大破壊以前の世界……なるほど。

 

『それは、滅びこそが真理だからだ』

「「「魔王!」」」

 

 朽ちて剥き出しになった高層ビルのとあるフロアに、狂った兄弟弟子が立っていた。

 姿は何一つ変わっていないが、憐れに見えるのは、魔王を知ってしまったからだろう。

 だから俺は、臨戦態勢の皆を制止した。

 

「まーくん?」

「ここは俺に任せろ」

「しかし、」

「魔王には話すべき事がある」

「マスターよ。危険と判断したら介入するでな」

「はい」

 

 ポーラ・ナナさん・アクセルさん、三人の前に出て、俺は魔王を見上げた。

 黒いフードの影に在るのは、哀しい程に理性的な瞳だった。

 

『滅びこそが唯一……そうは思わないか? マスターよ』

「あぁ、思わない」

『……やはりな。マスターよ、お前は肝心なところを間違えている。ではなぜ、先史文明は滅んだのだ? 主神アーヤですら、死・悲哀を克服出来なかったのだぞ? ならば無こそが真理だ』

「魔王……いや、兄弟子よ。存在と無は仏陀すら従う法の一つ、人の理知で推し量れるものでは無い。仏陀の教えを今一度改めよ」

 

『では何故お前は存在している。死が定められていながら何故お前は生きる』

「死とは”行〈おこない〉” が満ちれば自然と至る境地だ。求めるものでも問うものでもない」

『არ არსებობს〈無が在る〉』

 

 俺らの間に在った自動車やコンピューターの残骸が、消滅した。

 幾何学的に抉られたその穴は、光すら届かない暗闇に繋がっている様に思われた。

 

『ではこの力はなんとするのだ? 幻とでも言うか?』

「そうだ。貴方は生れ持った力で見誤っている ――ありのままに全てを見よ」

『ありのまま見ていないのはお前の方だ。未熟者め。未熟者のお前なら、その教え子も最早相手ではない』

「仏陀の法に背けば破滅するのみだぞ!」

『ならば我は仏法を越えよう!』

 

 アクセルの目配せに、ナナは首を横に振った。

 ポーラは、小さく頷いた。

 

『この廃墟は、お前の墓標となろう。さらばだ、兄弟弟子よ』

 

 

 魔王と入れ替わる様に、ゾンビの群れがワラワラと現れた。

 ゾンビぐらい訳は無いと思ったが、ソード・ハンマー・アックスと個性豊かに装備を調えていた。

 このゾンビ達はまさか ――ポーラの警告は、俺の予想が正解という意味である。

 

「まーくん下がっていて下さい! 結構強いです!」

 

 アクセルさんの警告は嘆きの様だ。

 

「このゾンビ達は、かつて我らと共に魔王に挑んだ仲間達だ!」

 

 それらをなぎ払うナナさんの表情に苦渋が滲む。

 

「おのれ魔王!」

 

 かつての仲間に刃を向ける、その苦悩は如何ほどか。

 

「この場を離脱する! ナナとアクセルは道をこじ開けろ! ポーラは殿〈しんがり〉を!」

 

 ナナとアクセルはゾンビで埋まる山道を”こじ開け”始めた。

 ”斬り開く”より手間が掛かるが、ポーラの固い守りのお陰で、俺の警護をする必要がなくなった分、進みは速くなった。

 顔を上げれば、聳える塔が間近に見える。

 

「この勢いに乗るぞ! 全員死ぬ気で走れ!」

 

 アクセルはこの修羅場に笑っていた。

 

「様になってきたではないかマスターよ!」

「無駄口叩いてる暇は無い!」

 

 突っ切ったと思った矢先、突然蒼白い光が天に向かって放たれた。

 天を貫くそれの威力は、その余波で大地を焼く程だ。

 とても美しい光だというのに、とても恐ろしいモノに見えた。

 俺を嘲笑うかの様でもあった。

 発射地点であろう平原は、魔王討伐軍がいる所だ。

 エイダ達に因るモノなのだろうか?

 いや、ゴーレム大隊を相手にこの力を出し惜しみする理由は無い。

 ならば ――敵?!

 

「全員伏せよーーーーーっ!」

 

 アクセルの警告と上空の落下物に陰られた事は、ほぼ同時だった。

 立っていられない程の衝撃に襲われた。

 木々がなぎ倒され、岩は崩れ落ちる。

 立ち籠める土煙の隙間にあったのは、神狼フィルアリアだった。

 どれ程の力に襲われたのか、美しい蒼銀の毛並みが血で染まっていた。

 神狼は、息絶えていた。

 その信じがたい光景に、声が掠れる。

 

「あの、光がやったのか?」

 

 ゴーレム大隊を壊滅させた神狼フィルアリアを、一撃で倒す敵が魔王以外にも居ると言う事になる。

 魔王の切り札に間違いない。

 事実、ナナさんが震えていた。

 

「……剣帝技”ショック バスター タイフーン”……」

「あれ、が?」

 

 討伐軍が居た平原は、クレーターの様に抉られていた。

 その威力は、ナナさんがかつて見せた物とは比較にならなかった。

 つまり、三〇〇年前に居たという最後の使い手に因る剣帝技〈オリジナル〉以外ありえない。

 

「ナナよ! 二人を連れて急ぎここを離れよ! ワシは足止めをする!」

 

 アクセルの警告は、悲鳴に聞こえた。

 それは、最悪の予想が事実と言う意味だ。

 

「しかし!」

「忘れたか! アレを撃つ者は唯一無二! 最強と言われたあの男だ!」

 

 雷の音がしたと思うと、俺らの頭上にあった暗黒球から、ポトリと何かが落ちてきた。

 それがユラリと立ち上がる。

 店でも買える両手剣を手にするソレは、他と同じ死んだモノだったが色々違っていた。

 その装備は、ファンタジーと言うよりはSWATに見える。

 身長は高かったが、体つきに未成熟さを感じた。

 強いて例えるなら体育会系の高校生が適当だ。

 色あせていたが髪は黒く、血の気は無いが、かつての張りを感じさせる頬。

 そして生気の抜けた瞳――

 

「Ahhhhhhhhh……AHAAAAAAAAAAA!!!!!」

 

 この腐った死体がアクセルのかつての友?

 

「急げ! こやつが、このゾンビがあのガーディアンなら、ワシでも長くは持たん!」

 

 大地を揺るがす衝撃が突然あった。

 いや、至近距離の雷鳴と言った方が良いかもしれない。

 感覚が麻痺する中、辛うじて目を凝らせば、小石がパラパラと雨の様に降っていた。

 一体何が起ったのだろう。

 

「シスターナナ!」

 

 ポーラの悲鳴で事態に気づく。

 ナナが立っていた場所に、そのゾンビが立っていた。

 そのナナは、大岩に打ち込まれたままピクリともしなかった。

 あのナナが、一発で一瞬で・為す術も無く・いつの間にか、倒されていた ――信じがたい事だが、このゾンビにはソレが出来るらしい。

 

「母よ! 我の創造者たるガーディアン=コントラクトよ! 貴女は自分の夫を死霊傀儡にしたと言うのか! そこまで堕ちたのか!」

 

 正体を確信したアクセルの絶叫は、聞き届け入れられる事無く、空に消えた。

 

「ポーラ行くぞ!」

「……料理長さん! ナナさん! どうか無事で!」

 

 ナナが返事をする事は二度と無い。

 そして、アクセルも直に出来なくなる。

 それを承知した上で、俺はポーラの手を握ったままその場を後にした ……クソったれ!

 

◆◆◆

 

 アクセルとその死霊傀儡〈アンデッド〉の対峙時間は、意外な事に一瞬では無かった。

 その理由を知る者は、二人……正確にはアクセルのみであろう。

 

「Ahhhhhhhhh……」

「ふぅぅぅぅぅ……」

 

 アクセルは、手にする名刀の耐久力と自身の体重筋力に物を言わせて敢えて初手を受け、次手に全てを賭けるつもりであった。

 

「……AHAAAAAAAAAAA!!!!!」

「……雄々々々々々々々々っ!」

 

 その判断は適切だった。

 アクセルとて三〇〇年を無為に過ごしてきた訳では無い。

 だが死霊傀儡〈アンデッド〉は、理知を引き替えに身体能力の制限を外されていたのであった。

 ギィン、二人の鍔迫り合いは一秒に満たなかった。

 力負けしたアクセルは弾かれ、二メートルを超すその巨体を、強固な大地に散々打ち付け続けるのみだ。

 

「ぐはっ!」

 

 蓄えられた髭が、吐血で染まる。

 打ち抜いた死霊傀儡〈アンデッド〉は、折れた左腕を構う事無く、ユラリと立ち上がった。

 そして一歩一歩アクセルに近づき始めた。

 その手にある剣に入った亀裂は、二人の全てを予言しているかの様だ。

 

「Ahhhhhhhhh……」

 

 アクセルは、刀を杖替わりに体をを支えるのがやっとの状態だ。

 

「流石よの、シンノジ。この太刀筋、いささかも衰えが無い……」

 

 だが、アクセルは立ち上がった。

 

「だが退けぬ、退く訳にはいかぬ。それがお主と共有した夢。それが、お主から継いだ誓い」

 

 再び雷鳴が大地を走った。

 瞬きすら叶わぬ時の狭間に、死霊傀儡〈アンデッド〉は、その剣でアクセルの胸を貫いたのだった。

 彼の鮮血は、彼のみならず、かつての友をも濡らした。

 

「Ahhhhhhhhh……?」

 

 死霊傀儡〈アンデッド〉が動けないのは当然だ。

 アクセルが手にする刀は、かつて友を貫いていたのである。

 

「……覚えておるか? お主の今際の際に譲り受けた刀よ」

 

 それは“天叢雲剣〈あめのむらくものつるぎ〉”だ。

 主神アーヤによる創世記より更に前、今とは異なる法体系が支配していた世界から継がれた遺物だ。

 その効果は、異なる法体系の再現だ。

 事実、ただ貫かれたのみだと言うのに、死霊傀儡〈アンデッド〉の体は、急速に崩壊し始めた。

 

「Ahhhhhhhhh……?」

 

 アクセルの狙いどころか事態すら理解出来ない死霊傀儡〈アンデッド〉は、戒めを逃れようと愚直に身動ぎするのみだ。

 その刀の異なる法体系の影響で、ボトリと落ちた足は塵と成って消えた。

 

「共に逝こう古き友よ……タイタニックブラスト!」

 

 友の形見とアクセルの技は、二人を救ったのである。

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