発達障害彼女~スーパーヒロイン育成計画~   作:D1198

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基礎訓練その2)最凶の敵 三日坊主

 継続は力なり。

 昔から在るこの教訓は、大原則であり鉄則だ。

 一つの神経細胞が持つ能力は反復による記憶のみだから、当然と言えば当然なのだが、言うは易し・行うは難しと言う様に、昔の俺もこの難題にぶち当たった。

 

 そこで、最初は継続そのモノを訓練目標とした。

 ポイントは三つ。

 一つ目。

 訓練に明確なゴールを設けた。

 部分点などの曖昧判定ではなく、訓練をしたか・しないかの○×判定が可能なゴールにするのである。

 二つ目。

 その○×の履歴が、意識しなくても分るようにした。

 俺は机に向かう事が多かったから、表計算シートで作ったカレンダーに記録した。

 三つ目。

 その難易度は、とても簡単なモノにした。

 

 活動時間が極端に短いタイプだったNEET時代の俺にとって、今となっては俺自身信じられないのだが、机に向かうルールすら難物だった。

 そこで、比較的興味のあった歴史の本を手に届く場所に一冊置き、手にとってパラパラとめくり、それ事が出来ればカレンダーにチェックを入れる、これを繰り返した。

 そうしたら、カレンダーの”歯抜け”が気になり、ポツリポツリと言う状態から、最後には毎日続く様になった。

 つまり毎日できる様になった。

 

 その結果がNEETからの脱出だ。

 これの元ネタは、SNSの”いいねボタン”で有名な、行動科学とか承認欲求とかである。

 批判される事もあるコレだが、自分自身に使えば己を律すると言えよう。

 道具は使い様と言う事だ。

 と言うか、最初の敵が三日坊主と言う最凶の敵なのだから、人生は厳しいモンである。

 

◆

 

「にへ、」

 

 ポーラは口元を緩めながらカレンダーに○を付けた。

 

「見てください! マスターさん!」

 

 カレンダーの○印は達成の印だ。

 初め虫食いだったが、最近は続いている。

 俺に見せる必要は無いから正直に書けと言ったのだが……嬉しいんだろうな、やっぱり。

 

「偉い偉い」

「えへへ♪」

 

 訓練初期では関係ない話だが、訓練成果を意識する訓練中期では、停滞に必ずぶち当たるので、継続を強引に出来るようにしておく必要があるのだ。

 

「それじゃ出かけるぞ」

「どこにですか?」

「女神育成校近くの本屋」

「……ア、ハイ」

 

「分った。その気になったらでいい」

「いえ。大丈夫でしゅぅぅぅーーー」

「だから良いと言っているだろ。えいえいえい」

「でゅえもぉーーー行かないとぉーーーマスターさんにぃーーー失礼ぃーーー」

 

「まだ言うか。もう言わないか。えいえいえい」

「いいましぇんーーー」

「俺の意向など気にせず素直に訓練してるんだぞ。分ったか。えいえいえい」

「ふぁいぃーーー」

 

「ポーラはずっと誰かに言われるままやって来た。違うか?」

「……はい」

「その結末が身投げだったのなら、人の顔色伺って決めるのはもうお終いだ。コレ大事」

「私にも出来ますか?」

 

「訓練を続けていくと、そうするべき時が体感として分る時が来る。言うほど簡単な話じゃ無いけれど、俺に任せとけ。あははのはー」

「……」

「(アレ? 滑った?)」

「いってらっしゃい。気をつけてくださいね」

 

「へ、あ、あぁ。行ってきます」

 

 俺が戸惑ったのは、ポーラの変化である。

 僅かだが大きな変化……やりとりの何かが、何かの切っ掛けになったのかもしれない、そんな事を考えた。

 

 

◆◆

 

 

「いらっしゃいませー」

 

 やって来たのは町の本屋である。

 正確には道具屋の本コーナーだ。

 意外な事に、結構な量の本があった。

 美術関係が多いのは、この世界で信奉されている宗教 ――ユニサーヴィヴァル教と言うのだが―― その主神が芸術の神でもあるからだ。

 だもので、芸術が推奨され税金も免除されている。

 神にそんなキャラ付けされてるって事は、元々は多神教だったに違いない。

 

「えーと、」

 

 モンスター図鑑・地図・料理……そして美術。

 モンスター図鑑・地図・料理……そして美術。

 モンスター図鑑・地図・料理……そして美術。

 学術書がない。

 

「なぜ?」

 

 なので、カウンターで頬杖している店長らしきおじさんに聞いてみた。

 

「教科書?」

「学術的な事が書いてある本です」

「そりゃぁ、教会さね」

「きょうかい?」

「その類いは教会が仕切ってるんさ。ガラス製造や農業などの技術も教会さね」

 

◆

 

『ユニサーヴィヴァル教会』

 

 そう門に刻まれるこの場所は、町で一番大きな教会だ。

 と言うか、由緒ある発祥の地らしい。

 門をくぐって暫く歩き、礼拝堂にやって来た。

 

「ごめんくださーい」

 

 出迎えてくれたのはデデーンと屹立する三体の女神像だ。

 

「あれ? 神様が三人?」

「この三柱は、主神に従う女神達です」

 

 現れたシスターさんは、街角で見たシスターと異なる格好をしていた。

 背は高めで、フードを深めに降ろし、白色の仮面を被っていた。

 態度に出ていたのだろう、そのシスターは俺が問う前に答えてくれた。

 

「この地区ではなく、この都をまとめる立場にあります」

「シスター長みたいな?」

「はい」

「だから仮面? 教えに在るの?」

「私は主神に身を捧げる身ですので、自主的にです」

 

 この御仁の名はシスターナナ。

 颯爽とした身の熟し・凜とした声・そのイメージはイケメン。

 ここだけの話、俺の住む長屋にもファンが多いクールビューティーさんである。

 

「あれをご覧下さい」

 

 礼拝堂の高い場所に窓があって、そこから塔を覗く事が出来た。

 

「あれがご神像?」

「そうです。我らが主神、AYA〈アーヤ〉です」

「へーーー」

 

 その塔は高かった。

 高いなんてもんじゃなかった。

 雲に遮られて見えないが、どれだけ高いんだろう。

 まさか宇宙に到達してるんだろうか。

 宇宙があれば、だけれども。

 

「それで、ご用件は?」

 

 っと、用件を忘れるところだった。

 

「教科書が欲しいのです」

「教科書?」

「ええ。学術書です」

 

 うっわ、あからさまに排他的な態度に変わったぞ。

 

「懺悔するなら、あちらです」

「違います。教科書が欲しいのです」

「売っていません」

「タダでなんて思っていません。お幾らでしょうか」

 

「有りません。お引き取りを」

「(嘘つけ)売っていないって事は在るんでしょう?(聖職者が嘘をつくなんてイクナイ)」

「異教徒に売れるモノなど、有りません」

「(アンタじゃ話にならない)どうか責任者を(出せ)」

 

「ここは敬虔な信者の為の場所です。早々に立ち去りなさい」

「むか(それでは失礼いたします)」

「何か?」

 

 昔のヨーロッパでは、教会が神という権威を聖なる書と言う知識で独占していたのだ。

 免罪符とかあの頃の話である。

 まったく、ファンタジー世界のクセしやがって生々しいぜ。

 

「ちょっとアンタ」

「しかし困った。問題を思い出すにも限りが……はい?」

 

 

◆◆

 

 

 威厳を感じさせる重厚な宗教建築物。

 息吹を感じさせる緑鮮やかな植物群。

 格式を感じさせる緻密細工な舗装歩道。

 神社仏閣さを感じさせる場所に、少々俗っぽい雰囲気の者達が居た。

 

「アンタだろ。一般人のくせに勉強しようって身の程知らずは」

 

 それは、ミッション系学校でよく見る黒と白の制服に身を包んだ少女達だった。

 ひとり、ふたり……全部で五人。

 中心に居るのがボスだろうと思われる。

 そのボスは金髪で耳も目尻もツンと尖っていて……エルフだ。

 

「その身の程知らずに何かご用?」

「へぇ、良い度胸してるジャン。身の程を知らない出来損ないのクセに」

 

 追伸、性格もツンツンだった。

 

「私らはさ、努力すらせず権利ばかり要求する無能共が、大っ嫌いなんだよね」

 

 あー、これは発展途上によるあるパターンだ。

 人間ってのは比較でのみ物事を判断できる。

 なので、初めて得た体感的な何かを過大評価しやすいのだ。

 初めての挫折とか初めての恋とか、経験者から見ると大げさなと思ってしまうモノなのである。

 この娘達の場合は、会得した何かを過大評価して自分は凄いと勘違いしているに違いない。

 俺も昔は若かったから、ちょっとだけ若かったから、ここは先達として大目に見なければなるまい。

 

「あー、ゴメンゴメン。悪気はないんだ。直ぐに退散するよ。はっはっは」

「……みんな、行くよ。こんなバカを相手にしてたら時間が勿体ない」

 

 過去の自分に悶えるのも一つの訓練なるからな。

 それはもう凄いのだ。

 ”うわぁぁぁっ”って感じで。

 どうした事か、立ち去ろうとしていたツンツンエルフは、ピタリと足を止めた。

 

「ねぇ。コイツ、あのポンコツに似てない?」

「「「そういえばなんか似てるーーー♪!」」」

「ポンコツ?」

「前にも居たんだよ。女神育成校に居ながら怠けてた奴が。追い出したんだけどさ」

 

 追い出した? どこかで聞いた様な……。

 

「何をやっても駄目なポーラ、負け犬ポーラってさ。無才能同士お似合いかもね」

 

 才能、ねぇ。

 

「もうダメポーって!」

「「「キャハハ!」」」

 

 むーーーーーーーーーーーーーーーーー。

 

◆

 

議長『ではこれより審議を始める! 双方は演壇へ!』

穏健派『ここは穏便に済ますべきです! 育成校で問題を起せば、ポーラの復学にも支障がでかねない!』

強硬派『ここは強行に行くべきだ! ポーラのトレーナーが一般生徒以下だと知れ渡ればそれこそ復学に支障が出る!』

穏健派『穏便!』

強硬派『強行!』

 

議長『ええい! 少し落ち着け! これでは堂々巡りでは無いか!』

第三派『ぎちょー』

議長『なんだね』

第三派『これって教え子を馬鹿にされてるって事?』

穏便派・強硬派『『あ』』

 

第三派『教えてる立場の人間が、それを認めるの?』

穏便派・強硬派『『第三派の案を承認!』』

議長『では議決を行う!』

全員『『『有罪〈ギルティ!〉』』』

 

◆

 

 再び立ち去ろうとしたツンツンエフルの足を止めたのは、俺だ。

 

「ちょっと待った」

「何? 謝る気になったとか?」

「その娘の名前を出された以上、こちとら退けなくてね」

「ハァ?」

「俺はポーラ=ノーザンスターのトレーナーだ」

「……へぇ」

 

 やって来たのは、実技試験やらで使われる闘技場だ。

 円形のフィールドを囲む様に階段構造の客席が設けられていて、そのイメージは古代ローマのコロッセウムだ。

 そして手にあるのが、マジックアイテムである。

 この片手で持てる小ぶりの杖が、精神を具現化するシロモノで、祭器と言うらしい。

 流石ファンタジー、こう来ないと落っことされた甲斐が無い。

 

「お手柔らかにな」

「ま、いいよ。凡人相手に本気出すのも大人げないし」

 

 ルールは簡単で、具現化したモノで攻撃したり防御したりする。

 またその威力も、精神に比例する。

 

「手加減はしてあげる。けれど、痛い目にはあってもらう。躾には痛みが一番だから」

「こっちの準備は済んだ。カモン」

 

 魔法系職業が使う魔法発動体〈アイテム〉と同種だが、あちらはオートマでこちらはマニュアルとなる。

 融通は利くが使いこなすのが難しいという意味だ。

 

「……謝るなら、今のうちだけど?」

「かまーん」

 

 未経験者の俺が勝てるのか?

 当然……というか勝たないとまずい。

 でなきゃポーラに合わせる顔がない。

 

「前言撤回。この祭器が訓練用だって事を感謝しな!」

 

 相手であるツンツンエルフの女の子は、指揮者の様だった。

 振りかぶり、その手にある祭器をビシリと振り下ろした。

 

「9+7は!?」

 

 そうしたら小さい火の玉が襲ってきた。

 へー、そうやるのか。

 なので俺もワンドを向けて、こう答えた。

 

「16」

 

 空間に発生した四角い揺らぎが、火の玉を防いだ。

 シールド展開で防御成功。

 顕現した力同士の衝突で、青白い火の粉が舞う。

 随分と綺麗だった。

 そしてまた、ツンツンエルフの綺麗な顔にも余裕があった。

 

「まぁ、一般人でも足し算ぐらいは出来るか。なら……3x7を答えよ!!?」

 

 並の火の玉が襲ってきたので、答えた。

 

「21」

「コイツかけ算も出来る?! これならどう! 3+5×6は!?」

 

 大きい火の玉が、以下略。

 

「33」

「な、」

 

 倒せる自信が有ったのだろう、三撃目を防がれたツンツンエルフは言葉を失っている。

 実際に、その大きい火の玉の威力は凄かった。

 防御に成功したとは言え、スッポリ覆われるほどの火焔に包まれるのは、生きた心地がしない。

 

「今度はこっちの番な。75x3は?」

「二桁のかけ算?! え、えーーーと!」

 

 黒球が現れたと思うと、それから稲妻が迸った。

 そして、指折り数える相手に襲いかかり……霧散した。

 防御されたらしい。

 防がれた場合、こちらが答えられないと、逆ダメージとなる。

 

「答えは225だな。お見事」

「な、なによ、こいつ!」

 

 計算は非常に楽になる場合がある。

 今回の場合は100の四分の一である”25”に着目するのが素直だろう。

 まず75を、50と25に分ける。

 それぞれを3倍すると150と75になる。

 足してしまえば計算終了だ。

 

「そっちの番だぞ」

「……くっ! 15÷5は?!」

「答えは3。398x4は?」

「っ!?」

 

 398とは(400-2)の事である。

 4倍したそれぞれを、引けば良い。

 1600-8=1592で計算終了だ。

 

 祭器から放出された青白い粒子が、寄り集まり形を作り始めた。

 

「光体顕現〈Augoeides:アウゴエイデス〉!?」

 

 ツンツンエルフの驚き様から察するに、結構凄いらしい。

 

「教師だって出来るのは僅かなのに!」

「なにそれ」

「精神の実体化の事だ! このバカ!」

「そりゃ、凄い」

 

 形成終了。

 現れたのは……ガ○ダムだった。

 ちょっと待て。

 女子校でガン○ムはヤバいだろ。

 せめてオ○ティマスにしとけよ、俺。

 恐る恐るツンツンエルフを見てみたら、腰を抜かしていた。

 

「こ、こここっ! 鋼鉄のゴーレム?!」

「……なるほど」

 

 ビームライフルのノズルから粒子が吹き出し始めた。

 ビーム攻撃、直前である。

 

「あ、アンタ、一体何者よ!」

 

 そうだなー。

 

「ポーラの専属訓練トレーナー兼料理補助」

「こんなバカな奴にぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ」

 

 ツンツンエルフは荷電粒子の中に、消えていった。

 

   ◆

   ◆

   ◆

   ◆

   ◆

 

「おぼえてろーーーっ!」

 

 ツンツンエルフは、お供と共に逃げ去った。

 訓練用祭器なので、ダメージを受けても多少疲れる程度である。

 なので。

 

「一昨日きやがれーーー」

 

 こう言い返した。

 あ、転んだ。

 大丈夫かよ。

 そしたら直ぐに立ち直った。

 

「ばかーーーっ!」

 

 あの調子なら問題なかろう。

 なので追撃を行う事にした。

 声量は適当だ。

 

「あーっはっはっはっ! はーっはっはっ! はー、はっは、はぁぁ~~~~」

 

 俺は、虚脱感に襲われてしまった。

 喜怒哀楽、どれも過剰は問題なのだ。

 

 喜びすぎれば周りが見えなくなる。

 楽しすぎれば中毒になる。

 怒りと哀しみは言わずもがな。

 何事も程々が肝要だ。

 これ仏陀の教え。

 

 俺は、感情的に成りすぎてはいなかっただろうか。

 

「……帰ったら反省座禅だな。くそう」

「1から9までの和を求めよ!」

 

 襲い来るのは、白銀の鎧と真白い翼を持つ武装天使〈バルキリー〉だった。

 この問題は有名な1から10までの和を求める問題の亜流だが、式の構造を読み解けば応用は簡単である。

 

 1と9は10

 2と8も10

 3と7で10

 4と6で10

 残った5を仲間にいれてあげましょう。

 

「45!」

 

 突進する武装天使のスピアを、ガンダムがシールドで防いだ。

 結像していた二光体が、霧散する。

 入れ替わる様に現れたのは、さっきのシスターナナだった。

 祭器を手にする彼女は、大樹の様にドッシリと立っていた。

 これは勿論例えである。

 俺より小さいし俺より華奢だし、当然だろうが俺より軽いだろう。

 見た印象が、大樹だって事だ。

 相当な武術の使い手だろうとは何となく分かる。

 

「背後からの奇襲とは、聖職者らしからぬ振る舞いですね。それとも、異教徒には相応しいですか?」

「その能力をどこで体得しましたか」

「ひ・み・つ」

 

 知恵とは体で覚える知識の事だ。

 体得と言う辺り、このナナさんは、ただ者じゃなかろう。

 

「こちらです」

「こちら?」

「学術書の件で、司祭様がお会いになります」

 

 どういう風の吹き回しだろうか。

 

「もう一つ。あの生徒達の振る舞いは、女神候補生には、あるまじきモノです。ここに謝罪しましょう」

 

 立場抜きにすればいい人かも、そんな事を考えた。

 

 

◆◆

 

 

 坂を登る。

 さらに登ってまだ登る。

 だいぶ登ったが、家はまだ見えない。

 風景の一部であった町を何気なく見下ろすと、教会と隣接する女神育成学校が見えた。

 キルセドニア=シアトリー学園というらしい。

 思い返されるのは、磨りガラスに写る司祭様の御影である。

 

《育成校は脱落させる為の場所では無い》

 

 学術書の閲覧許可が得られたし、ポーラの復学試験も確約がとれたし、入校許可証も得られたし、今の訓練も認められたのだが……なんつーか、とんとん拍子しすぎて逆に引っかかる。

 

「まぁ良いか。ポーラも喜ぶしなー。前向き前向き」

 

 噂をすれば影。

 そのポーラが……家の外に出てる?

 近所の人に挨拶をしている?

 マジで?

 

「おー。よきかな、よきかな。小さくとも大きな一歩……んあ?」

『初めまして。ポーラ=ノーザンスターと申します。実は私、先日からマスターさん宅でお世話になっておりまして。未熟ですが、幸せな生活を築いて参りたいと思っております。ご交誼ご指導の程よろしくお願い申し上げます』

『まぁ、これはどうもご親切に。これから大変だろうけれど、二人三脚でがんばっていくのよ。でも初々しくていいわねぇ♪ あの人との事を思い出すわぁ♪』

 

「……おい。なにやってん〈意:ポーラさん。貴女は何をしているのですか〉」

「あ、お帰りなさい」

「ただいま。で、なにしてん〈意:ただいま戻りました。だから何をしているのですか〉」

「近所へのご挨拶です」

 

「その自己紹介のどこに、弟子とか訓練生とか師弟関係を表す単語がはいってるん〈意:挑戦は確かに大事ですが、それは準備に準備を重ねた上での話ですよ〉」

「えっと、」

「新婚だとおもいっきり勘違いされてるだろうが!〈意:だって、まだ力加減が分らないでしょう?〉」

「ふえええええっ!?」

 

 三日坊主に対する武器は、二つ在る。

 それは、”強引に継続できるカレンダー”と”前向きさ”だ。

 立てた計画が、順調に行く事は希なのだから、前向きで相殺するのだ。

 

「誤解を解いて回るのに一晩を要したけどな!」

〈意:手がかかる訓練生ほどかわいいモノだ〉

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