発達障害彼女~スーパーヒロイン育成計画~   作:D1198

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ライバルの意味

 恐らくはユーリさんの抑圧が無くなったからだろう。

 ポーラの訓練は怖いぐらい順調に進み始めた。

 なので、訓練も次の段階に進むのである。

 

「どうですか。マスターさん」

「おー」

 

 ティーンズモデルよろしく、パーティッションから現れたポーラは学生服姿だ。

 黒を基調にし、襟と袖を白であしらっていた。

 一見地味だが、細かい細工がさりげなく成されて、けっこうオシャレな制服である。

 ミッション系と言えば分りやすいかも知れない。

 

「似合ってる、似合ってる」

「えへへへ……じゃなくて!」

 

「じゃ、出かけるぞー」

「んもぅ! もうちょっとそれっぽく言っても良いじゃないですか!」

 

「それっぽく?」

「なんでもありません!」

 

 俺らの前にデデーンとそびえるのは教立図書館だ。

 学舎とは離れているのだが同じ敷地内ではあるので、ポーラは人目を気にするかもと心配したが《行きます!》こんな感じだった。

 大変結構。

 

「マスターさん。お仕事は?」

「問題ない。料理長から許可を貰っている」

「あの、嬉しいんですが……大丈夫なんですか? 無職とか」

「言う様になったな。このやろー」

 

 重そうな石を気が遠くなりそうな程に積み上げて作られた図書館。

 そこに納められている本はやはり同じ様に、気が遠くなりそうな数で重そうだった。

 暗いし・静かだし。

 本というお宝を求めて、あちらに行ったり・こちらに行ったりすれば、最早迷宮探険気分である。

 

「こんなにデカくて複雑だと、迷った生徒がそのまま幽霊に……とか、ありそうだな」

 

 俺はゲンナリしてきたが、ポーラは意外と楽しそうだった。

 

「どうして知ってるんですか? その実話」

 

 マジかよ。

 

「ところでマスターさん。どんな本を探すんですか?」

「国語算数理科社会。全部と言いたいんだが、先だっては算数 ――数学だ」

「すうがく?」

「順だった考え方を身につける為・素直な理論展開能力を得る為 ――つまり、ええと。頭の精霊さんが偏っている人に特有である”理論の飛躍”を矯正するのが目的だ」

 

「数学でそれが出来るんですか?」

「ポーラ。お前は小さい頃から変わってるって言われて来ただろ」

「ドキ」

 

 ”一本の定規を使って線を引く”、これを”考える”に例えてみる。

 書き始め点を原因・書き終わり点を結果と考えれば、左から右へ線を引く事は”根拠だって考える”になる。

 二点を結ぶ直線は”無理の無い・素直な理論展開”を意味し、普通の人は直線になる。

 だが。

 

「小さい頃から変わっていると言われる人ってのはな、その線が曲がっているんだ」

「それってダメなんですか?」

「考え方が曲がるのは問題だ」

 

 ”曲がりの何が問題なのか”、これが不幸の始まりなのだが、普通の人では教えられない。

 逆に何故そんな質問をするのだと怒り出す。

 飽きられたり、笑われたりもする。

 すると、その内考えるのを止めて、”こう言う状況はこうする”と都度覚える様に成る。

 俗に言うパターン化だ。

 子供の頃はそれで良かった。

 子供の世界は単純だから、覚えることも難しくない。

 

 ところが、社会に出たらそうは行かなくなった。

 社会は複雑すぎたのだ。

 全てを覚える事は出来ず、失敗を繰り返す。

 ”自分が出来るのは失敗のみ”、これを学習してしまえば、全てに嫌気が差して絶望する。

 

「こうして、俺らは社会から脱落した」

「……」

「その原因は、定規の歪みにある」

 

 見当違いな考えをするのも当然だ。

 変わっていると言われるのも当然だ。

 親ですら治せないのは当たり前だ。

 だって、その定規は頭の中にある

 本人にすら見えない曲がった定規、これが元凶。

 それを矯正する方法が数学だ。

 

「おすすめは証明問題だ」

 

 証明問題は順だった考え方の塊で、そして社会ででくわす問題よりずっとシンプルだから、矯正にもってこいなのだ。

 問題はなんでも良いが、中等数学レベルまでが適当だ。

 ”√2が無理数である事を、背理法を使って、証明せよ” こんなやつ。

 

「いいか?

 発達障害ってのは、特定の分野で驚異的な集中力を発揮する。

 それは好きって事だ。

 好きってのはそれに合致するニューロネットワークを持っていること。

 その最小単位である神経細胞の能力とは、反復による記憶のみだ。

 

 戻っても良い。

 道を逸れてもいい。

 間を開けても良い。

 分らないなら分るまで繰り返す。

 続けるのが、なによりも重要なんだ」

 

 一気に説明してしまったから、どうかとポーラを見れば、自信げだ。

 

「ここでカレンダーの訓練が活きるんですね」

「おー」

「証明問題はとても難しそうですが、ここで分解の訓練が活きる。難しい事はシンプルなモノの組み合わせ」

「おーーー。パパさんの一件が効いたかー?」

 

「それもありますけれど、一人じゃ無いって分りましたから」

「ひとり?」

「マスターさんは、”俺ら”って言いましたよ。《証明は出来ないけれど根拠と証拠はある》。出会った時にマスターさんが言ったこの”証拠”って、こう言う事だったんですね」

 

 決まりが悪いので、誤魔化す様に頭を掻く。

 

「オウチ」

 

 今までは予備加熱のようなモノで、ここからが本番というかハードなモノになる。

 これは自分の中にイチから新しいネットワーク構築する事と同じだ。

 或いは、自分を部分的に壊す事とも言うから、そりゃぁ大事になる。

 だが。

 社会的問題の解を仮定する帰納法・その仮定から解を導き出す演繹法、そしてそのサイクル。

 これは複雑怪奇な社会において強力な武器となるのだ。

 

「スーパーポーラまでもう少しだぞ」

「はいっ!」

 

 

◆◆◆

 

 

 図書館は広いので二手に分かれる事にした。

 ポーラには性に合うテキスト探す様に言っておいた。

 俺は社会のテキストを探すのだ。

 数学の次に大事なのが、コミュに必須の国語と社会である。

 とりわけ社会は、この世の中の成り立ちを知るのに必須なのだ。

 それを知ると、自分の立ち位置がわかって人生設計の指針となる。

 戦略って言うと格好良い。

 なのだが、未来を知る術が無い以上、過去から推測するしか無い。

 

「つまり歴史が大事~~~国語、算数、理科、しゃ、しゃ、しゃしゃ……あれ? 社会が無い」

 

 正確に言うと歴史が無い。

 なぜに。

 なので偶々見かけた生徒に声を掛ける事にした。

 綺麗な金髪が目立ったからでは無い。

 けっして無い。

 

「ちょっといいかな」

「私〈わたくし〉?」

 

 うっわ。

 お嬢様風な美人さんである。

 

「ひょっとして図書委員だったりする?」

「いいえ。でも本をお探しなら案内しても宜しくてよ」

 

 あらま。

 タカビーなツンツンキャラかと思えば、随分とマトモだ。

 ちょっと残念。

 

「実は……かくかくしかじかまるまる」

「れきし?」

「そう。社会の出来事を書き連ねた本」

「それは聖本つまり神学の範疇ですわ」

「……は?」

 

 実際にはつらつらと色々書かれているが、概略はこうである。

 

『昔、罪を犯した人間に神は罰を下した。それ以来社会は一変し、人々は神の教えを忠実に守ってきた。おしまい』

 

 はーてな。

 この手の話は矛盾が在ったり・毒吐き的な要素が在ったり、するモンだがそれが一切無い。

 優等生的というかアン○ンマンみたく勧善懲悪な子供向けの絵本みたいだ。

 ホントウかよ。

 ファンタジー世界ならオカシくはないんだが、教会に宗教的権力があるってのに……胡散臭せー。

 

「知りたいことは分りまして?」

 

 読書に耽ってしまった様で、後ろに立っているさっきの娘に気づかなかった。

 うぅむ……にしても綺麗な子だ。

 ポーラは素朴感が強いが、この娘はゴージャスである。

 それでいて嫌みが無いのは、ファッションに振り回されていないからだろう。

 

「役に立たないことは分った」

「役に立たない?」

 

 しまった。

 教会内で教会批判はヤバい。

 

(そう言うことは、控えなさい。教会に知られたら事ですわ)

 

 おぉ、話が分るし小声とは気も効く。

 でもなんで庇ってくれるんだろうか。

 

「実は、貴方のことは知っていますの」

「話が早くて助かる……知ってる? 何処かで会った?」

「あら。候補生を破った一般人で持ちきりですわよ?」

 

 そんなにスゴいのかね、アレ。

 

「如何かしら。是非お話を伺いたいですわ」

「話?」

「ええ。どの様にしてその知力を得たのか……興味が尽きませんの」

 

 そう言うことか。

 異世界云々いう訳にもいかないし、困ったね。

 

「お茶を用意しますわ。是非いらし……あら?」

 

 背後にポーラが立っていたのだった。

 

「……どした?」

 

 なんかドヨドヨしていた。

 今にも落雷しそうなヤツだ。

 小春日和の様な穏やかなポーラはどこへ?

 

「コンニチワ」

「ええ、ポーラさんも。息災のようで何よりですわ。失踪したと聞いて心配していましたのよ」

「ご覧の通りです。ご心配をおかけしました」

「その様ですわね。ではマスターさま、また改めて。それではごきげんよう」

「んぁ? あぁ」

 

「マスターさん……何時知り合ったんですか」

「たった今。知り合いか? つか怖いぞ」

「生徒会長です。私は普通です」

「へー、頭が良いんだな。とてもそうは見えないけれど」

 

「学年トップです。歴代でも希に見る才女とか。私はい・つ・も通りです」

「ほへー、スーパーポーラへの道に立ちはだかる強敵〈ライバル〉だな。お、おう」

「ええ、お邪魔虫〈ライバル〉登場です。まったく油断も隙もありません」

 

 んあ? 競い合う相手〈ライバル〉?

 

 

 あっという間に時間は流れ、試験となった。

 試験と言っても、測定するのみである。

 ぶっちゃければ、INT値が幾らあるかどうか。

 戦闘能力……いちまんごせん!? みたいな奴。

 ベ○ータと始めた闘った時の悟○って、幾らだっけか。

 

「つーか、なんだ、この騒ぎは。売り子までいるじゃないか」

 

 体育館によく似た屋内訓練場には、俺ら以外のギャラリーでごった返しだ。

 見えない・どきなさいよ・ポップコーン要らんかね?

 もはやお祭りである。

 

「マスターさんが候補生を負かしちゃったからですよ」

 

 学園から追い出された生徒を訓練しているとなれば、そりゃー注目も浴びるか。

 とか言っていたら試験を告げる鐘が鳴った。

 

「ポーラ。緊張するな、とは言わん。今まで積み立てたモノを思い出せ」

「はいっ」

 

 評価には精神状態も含まれる。

 不安・興奮・喜怒哀楽、感情が過度に働いていると、それは減点となる。

 復学試験監督員は、あのシスターナナだった。

 

「ポーラ=ノーザンスター。前へ」

「はいっ!」

 

 ウェストでキュっと絞ったスカートをゆったりと揺らしながら、試験道具である祭器へ向かった。

 エクスカリバーよろしく、ポーラは、岩に突き刺さっているワンドに触れた。

 光が迸ると、数字に相当する記号が宙に浮かんだ。

 

『10・20・30……』

 

 一般人で80~90・学園生徒で90~120・生徒会長で200となる。

 入学時点のポーラは90だったそうだ。

 さて。

 

「「「ザワ」」」

 

 んあ?

 

「「「ザワザワ」」」

 

 ギャラリーのどよめきに何事かと思えば、130を越えてる?。

 つーか、まだ上がってるぞ、おい。

 

『140、150、160、』

 

 おいおいおい。

 

『170、180、190、』

 

 ちょ、おま。

 

『測定終了……199!』

 

 生徒会長と1ポイント差?

 マジデ?

 ギャラリーはどよめきを通り越してドン引きだ。

 

「あ、あの、マスターさん。どうしましょうか」

 

 ポーラも戸惑っている。

 

「んーーーーーとりあえずだ」

「は、はい」

「喜ぶか」

「はい?」

 

 俺はポーラの脇を掴んで持ち上げると、くるくるまわした。

 

「へ、は、ふ、ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

「よぉぉぉぉぉおぉくやった! 喜べポーラ!」

「え、あ、あのっ! どういう事なんですか! これ!?」

「訓練が実を結んだって事だ!」

「あ」

 

 「うわはははは」と笑ってみた。

 すると「あははは」とポーラも笑い出した。

 

「ポーラ=ノーザンスター!」

 

 凜とした声が響いた。

 モーゼよろしく人混みを割って現れたのは、あの生徒会長だった。

 なんと存在感の大きな娘だろう。

 

「この短期間でよくぞここまで成長しました! 勝負は三ヶ月後の女神選抜試験で付けますわよ! 貴女をライバルと認めます! 全身全霊を籠めて、貴女を打ち倒しますわ!」

「はいっ!」

 

 ダメだの無能だの言われ続けたポーラが、一躍主役候補に躍り出た。

 嬉しくもあり・寂しくもあり・羨ましくもある。

 いや、ここは眩しいにしておくか。

 

 

「ポーラ。訓練も佳境だ。今までの訓練は、体感と概念を結びつける事に真意がある」

「はい」

 

 石と枝の訓練は触覚による頭への刺激とし、キューブズで頭と身体を結びつける。

 つまり今までの訓練は基礎にあたる。

 

「今後は応用だ。応用とは新しい複数の視点を身につける事」

「はい」

「簡単に言えば幅広い知識のことだ」

 

 人間というのは比較でモノを判断する。

 言い換えれば、えり好みしていたら、判断が偏ってしまう。

 何より。

 好きにならずとも嫌いな何かを理解する事が、頭的に最も負荷が高いのである。

 

「幅広い知識ってどうするんですか?」

「対だ」

 

 理論の対は感性。

 座学の反対は運動。

 冒険モノの対は恋愛モノ。

 一人の反対は誰か。

 引きこもりの対は外出。

 

「こういう対照的に知る事・やってみる事を意味する。対の置き方は個人の判断だが、インドア派にいきなりアウトドア派になれなんて無理がある。だから段階的に進める。例えば、アウトドアの本を読むとか」

「はい」

「俺は昔、毎日背表紙を見る所から始めたこともある」

「なるほど……」

 

「この対こそ、仏陀の説く中道へ至る道だ」

「”ぶっだ”って誰ですか?」

「俺の師匠」

「マスターさんの?」

 

「会ったことは無いけどね」

「???」

 

 

「言っておくが自分の価値観外を知る事だから、かなりハードだぞ」

「はいっ! がんばります!」

 

 価値観外とは、得てして辛い状況・嫌いな相手の事だ。

 これのハードさは敢えて言うまい。

 

「ふっふっふ。その内分る。ふっふっふ。いやでもな。ふっふっふ」

「マスターさんはなんかイジワルです……」

 

「だもんで、ポーラ。俺は、生徒会長つまりタマラお嬢様のコーチに就く」

「やっぱりイジワル……ふぇ?」

 

「だからタマラ=クシャマのコーチになる」

「それってどういう事ですか! っていうか、なに堂々と言ってるんです!?」

「その時が来た、と言う事だ」

 

 俺の後を追っていては、スーパーヒロインになれない。

 それはユーリさんに、ただ従っていた事と同じだ。

 だから。

 

「自分の道を探れ。いや、自分自身を探れ。そして俺をあっと言わせて見せろ」

「分りました。まーくんを越えて見せます!」

「よく言った! それでこそ俺の教え子!」

 

 まーくんってなんぞ?

 そう言おうと思ったら、ポーラは既に走り去った後だった。

 

「話は付いたぞ。つか、良い所のお嬢様が盗み聞きなんてイクナイ」

「妬けますこと。私のトレーナーを申し出たのは、ポーラさんの為ですのね。勝つと確信しているのでしょう?」

 

「まさか。希望的判断は忌むべきモノだ。素直に考えれば、良い勝負は出来る。でも、それは勝利じゃない」

「では何故?」

 

「だからだよ。俺をあっと言わせろって、そう言う意味」

「やはり妬けますわ。そこまで想われる彼女が」

「そう言う言い方はヤメレ。恥ずかしいから」

 

 

◆◆◆

 

前編終了

 

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