発達障害彼女~スーパーヒロイン育成計画~   作:D1198

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演習編
女神選抜大会〈アージプリムティア〉1


 タマラのコーチに道具が必要なので、一度家に帰る事にした。

 その間、ポーラは俺の家で一人で暮らす事になるが、長屋〈ロングハウス〉の人たちに頼んであるから、問題はない。

 そう、何の問題もない、そうに決まっている。

 責任者の責任遺棄にならないし、監督不行き届きにならない。

 俺の仮の住まいも、女子寮ではない

 そもそも、タマラとの関係は臨時なのだ。

 

「間違えた。タマラとの師弟関係は臨時だ」

 

 我が家の煙突からは煙が出ているのは、ポーラが家にいる証だ。

 自分の家の玄関をじっと見れば、手に汗が滲む。

 なぜ俺は、入るのにためらうのだろう。

 そうしたら、垣根の影から複数の声が。

 

『妻を恐れる朝帰りの旦那みたいだな』

『みたいだなー』

 

『タマラ=クシャマって凄い美人らしいぞー』

『らしいぞー』

 

『父親に挨拶までしたのにー』

『したのにー』

 

 長屋の人たちは親切だが、厄介だ。

 ああやって直ぐ、からかう。

 なので。

 

「やかましい!」

『『『わー。怒ったー』』』

 

 まったく、年の差を考えろと……そうだ、その通りだ。

 やましいことは何も無い。

 

「あっはっは。考えすぎ、考えすぎ」

 

 俺はどうして呼び鈴をカランコロンと鳴らしたのだろう。

 

『はーい。どちらさまー』

「マスターです」

 

 俺は何故かしこまっているのだ。

 ガバッと扉が開いた。

 目が合った。

 

「「……」」

 

 沈黙が気まずい。

 

「あ、あのだな」

「どうぞ」

「お、おう」

 

 ここって誰の家だっけ?

 

 

「どうぞ」

「どうも」

 

 ずずりとコーヒーをすする。

 向かい合うポーラは澄まし顔だが、妙な威圧感がある。

 むぅ。

 いくら訓練の為とはいえ、突然すぎたのだろうか。

 

「実はだな、」

「ええ、分ってます」

「……なにが?」

「やっぱり、一緒に居て安らぐ相手が一番だと思うんです」

 

 テーブル脇のソファーには、『結婚する前に読む本』が置いてあった。

 突然何を言い出すかと思えば、そう言う事か。

 年頃だしな。

 ここは気を遣ってやらねば。

 

「タマラさんは凄い美人ですけれど、綺麗な奥さんはなにかと大変です。浮気とか不貞とか」

「ポーラも方向性が違うだけで結構なもんだと思う」

 

「お金もありすぎると大変ですから。お金は魔物っていいますし」

「ポーラだって豪商の令嬢じゃないか。王にお金を貸す程の」

 

「付き合うのと結婚するのとじゃ違いますよね。やっぱり派手すぎる女の子は苦労しますよね」

「そう卑下するのは良くない。自信を持った方が良いぞ」

 

「……」

「なん?」

 

「大丈夫です。まーくんがそれを分ってくれたなら、帰ってきてくれたなら、ポーラは何も言いません」

「タマラの教材を取りに来ただけなんだが」

 

 ポーラの笑顔が怖かったので、俺は自室にそそくさと入った。

 逃げたとは言わない。

 けっして言わない。

 

 

 棚から本を取り出した。

 

「これは要る」

 

 鞄に放り込むと、もう一冊取り出した。

 

「これは、要らない」

 

 またまた違う一冊を手に取る。

 

「……はっ! つい読みふけってしまった!」

 

 違う本棚へ手を伸ばす。

 最初は一番上の段。

 

「えーと。あの本はと、あった。あれ? 本棚にしまったっけ? まぁいいか」

 

 次は一つ下の段。

 

「あのノートは、と……あれ? こんな風に整理整頓されてたっけ? まぁいいか」

 

 最後は一番下の段。

 

「このノートはまぁ要らないだろう。これで良し……っといけないけない。運命の指輪〈エターナルリカーレンス〉だ。あんな危険物は放置出来ないから持って行こう。なにせ、」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

【特典】運命の指輪〈エターナル リカーレンス〉

 あらゆる世界に一つのみ存在する。一度装着すると、盗まれても無くしても、持ち主の所へ戻る。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「クサレとはいえ神が創った呪いのアイテムだからな」

 

 押し入れの奥に手を突っ込み、暫くガサゴソすれば木箱が現れた。

 パカリと開ける。

 指輪は木箱の中で光っていた。

 

「あれ? こんな風に敷物に置いたっけ?」

 

 適当に転がしておいた筈だ。

 何故だろうか。

 とても不安になった。

 パーティッションを越えると、ダイニングキッチンの隅で鍋をかき回すポーラが居た。

 

「ポーラ。あのさ」

「……」

「ポーラってば」

「……」

「おーい」

 

 カラン、カラン、カラリ。

 鍋をかき回す音だけがあった。

 怖い。

 鍋の中を見るのが怖い。

 空だったらどうしよう。

 

「あのぅ、ポーラさん。木箱の中身なんですけれど、」

「指輪なんてタマラさんにあげれば喜びますよ!」

「んへ?」

「まーくんのばかーーーーーっ!」

 

 突然ですがここで問題です。

 玄関前の石畳に突っ伏すとどうなるか、答えよ。

 

「答え、かなり痛い」

 

 しかし、なにか気に掛かる。

 バタンと扉が閉ったのは、ポーラがお冠だからだ。

 いやいや、待て。

 それより重要な……それと同じ位重要な問題がある。

 木箱の中身は誰にも言っていないのだ。

 ならポーラは何故指輪だと知っていたのだろうか。

 

「だとしたら……」

 

 垣根の影から複数の声が。

 

『夫婦喧嘩だ』

『夫婦喧嘩だ』

 

『浮気だ』

『浮気だ』

 

『修羅場だ』

『修羅場だ』

 

『『ドロドロー』』

「やっかましい!」

 

 残念な事に、俺はその気に掛かる事を忘れてしまった。

 

◆◆

 

『宣誓! 我々候補生一同は~!』

 

 早いものでもう半年が過ぎた。

 今日から女神選抜大会〈アージプリムティア〉が開催され、ここ古都プレセンティアは、これでもかと言うぐらいに賑わっている。

 人間以外にも、エルフやホビットなど盛りだくさんだ。

 四年に一回行われるこの大会は二週間も開かれ、ポーラやタマラが所属するキルセドニア=シアトリー学園生徒はもちろんのこと、世界中から候補生が参加する。

 

『かち割り氷要らんかねー!』

 

 賑わう闘技場を案内してくれているのはシスターナナだ。

 本名ナナ=ガードレ。

 教科書を求めて教会にやって来た時に、ツッケンドンに対応してくれたあのシスターだ。

 フードに隠れているが、恐らくは結構な美人さんである。

 身長といいスタイルといい、勿体ない。

 

「塔の麓にある神殿で儀式を執り行い、優勝者は正式な女神となります」

 

 俺はアーヤの塔を見た。

 この町の北東部にそびえるその塔は見えない程高く、宇宙に……この異世界に在ればだが、宇宙に届いているのでは無いかと思われる程に高い。

 学園を設立した天才錬金術師がかつて頂上を目指したが失敗した、という曰く付きだ。

 

「優勝者は神殿に住む事になるんですか?」

「はい。任期は四年です」

 

 あんな山奥に四年か。

 ちょっと気の毒に思ったりもした。

 

「こちらです」

「どうも」

 

 案内されたのは特等席だ。

 二人揃って腰掛ける。

 用意された飲み物と軽食……どう見てもコーラとポップコーンに見えるが、偶々だろう。

 そうに決まってる。

 

「えーと。なになに? 前回の優勝者は……事件?」

 

 大会パンフレットにには、その時の新聞が掲載されていたのだった。

 前の大会の優勝者はなんでも亡くなったらしい。

 

「女神とは我らが主神アーヤの預言者にして代行者。司祭様は大空位時代とお嘆きです。闇の者達の勢力は年々増すばかり」

 

 ここに来て急にファンタジーっぽくなった。

 

「ミスターマスター」

「俺のこと?」

「名をマスターと伺っていますが?」

 

 ”彼さん”だと思えば、まぁ。

 

「神狼フィルアリアの加護がもっとも強くなる年でもある記念すべき大会に、我らが主神アーヤのの御名を戴く女神が誕生します。貴方様には感謝の言葉もありません。類い希なる才を持つ二人の候補生を育て上げた事に……顔が赤い様です。風邪ですか?」

「こっぱづかしいわ!」

 

 

『第一試合開始!』

 

 闘技場の中央では二人の候補生が競い合っていた。

 トーナメント方式で、ポーラもタマラもシード扱いだ。

 

「ポーラの初戦は……次、か」

 

 俺はパンフレットを膝の上に置いた。

 

「そうだ。シスターナナ」

「ナナとお呼び下さい」

 

 顔は見えないけれど穏やかな雰囲気に、耳をくすぐるしっとりとした声。

 そして体温を感じるほどに近い距離。

 一回打ち解けると警戒が薄くなるタイプらしい。

 動揺をコーラと一緒に飲み込んだ。

 

「神狼フィルアリアってのは?」

 

 図太い声が聞こえた。

 

「バースベイルの森の主でな。神話に記される大破壊において主神アーヤと共に闘った神獣だ」

 

 現れたのは二メートルを越えるマッチョメン、料理長だ。

 

「よぅ。隣、いいか?」

「どうぞ」

 

 料理長が俺の横に腰掛ければ、椅子三人ぶんを使っている。

 料理長の顔は、立派な髭と牙に遮られよく見えないが、機嫌は良さそうだ。

 

「ひょっとして生きてるんですか? そのフィルアリアというのは」

「そうだ。実在する伝説ってヤツだ」

 

 んあ?

 図書館で読んだ聖本にそんな記載は在ったっけか?

 

「その辺にしておくべきです。料理長」

 

 シスターナナは立ち上がるとそのまま立ち去った

 料理長を睨むナナさんの視線が気になった。

 なんと言うか、気の知れた感がある。

 料理長は四〇〇歳だった筈……料理長が顎を撫でる様は、軽率を反省するかの様だ。

 

「ちーと昔話が過ぎたか」

 

 なんか、いろいろ、ひっかかる。

 

「マスターよ。女の歳を詮索するのは野暮ってもんだぜ?」

 

 これ以上聞くなと言っている様なので、止めた。

 

『第五試合を行います。競技者はステージに向かって下さい』

 

 そうこう言っている内に、ポーラの出番だ。

 

 

◆◆

 

 

『『展開!』』

 

 かけ声と共に、二人の候補生が持つ宝石が、光を放って形を変える。

 対戦相手は弓で、ポーラは身の丈より大きい盾だった。

 祭器と呼ばれるマジックアイテムにもランクがあり、訓練生が使うのは杖〈ワンド〉型だが、候補生が使うのは上位の宝石型だ。

 性能もさる事ながら、担い手の特性に応じて剣・槍などへと様々に形を変えるのが特長だ。

 だが、盾だから防御一辺倒という訳では無いし、弓だから接近戦が出来ないという訳では無い。

 大雑把に言ってしまえば、装備デザインと攻撃エフェクトが違うだけ、なのだそうだ。

 なんというか、ゲーム臭いのは何故だろう。

 コーラといいポップコーンといい、元の世界を連想するのに事欠かない。

 そうこうしていたら、二人が大きく動いた。

 先手はポーラだ。

 

『五八〇円のお魚が二割引で売っていました! 幾らでしょうか!?』

『え、えっと』

 

 対戦相手は指折り数えるが、時間のカウントダウンが焦燥を生むのである。

 

『え、え、え、ちょいまってーーーーー!』

 

 タイムオーバー。

 ポーラの攻撃が成立して、対戦相手は悪態をつきながら光の中へ消えていった。

 

『暗算でできるかーーーーーっ!』

 

 もちろん580x0.8なんてする必要は無い。

 580の10%は58だ。

 58は60-2となる。

 それぞれを八倍すると480-16となる。

 最後に引くのみである。

 464。

 

『くやしーーーーっ!』

 

 対戦相手はステージの外で地団駄を踏んでいる。

 一回の攻撃でHPを全て失えば、というか何もすること無く負ければそりゃー暴れたくもなるだろう。

 

「ほーぅ。驚くところは暗算力じゃねぇな」

「はい。ポーラは焦りを完全に押さえ込んでます」

 

 計算自体は簡単だが、制限時間の中でやろうと思うと焦りが生じてしまうのだ。

 

「これは、タマラお嬢ちゃんも中々厳しい状況になったな」

 

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